がんの治療−その2 がん化学療法.

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がんの治療−その2 がん化学療法

がんの治療の種類 がんの三大治療法    1)外科手術 局所療法    2)放射線治療 局所療法    3)化学療法 全身療法

抗がん剤開発の歴史 −抗がん剤は毒−

01/18/09 がん化学療法の歴史 がん化学療法の原点 がん化学療法の黎明期 白血病などの治療 がん化学療法の転換点 固形癌治療への明星

図80.抗がん剤の開発方法 がん細胞の 細胞死誘導 活性の判定 サイクロフォスファマイド ナイトロジェンマスタード メルファラン O P H N CH2CH2Cl がん細胞の 細胞死誘導 活性の判定 CH2CH2Cl N サイクロフォスファマイド CH3 CH2 C HOC O NH2 H CH2CH2Cl N ナイトロジェンマスタード メルファラン 基本となる化学物質の骨格を元に一部を変換して新しい化合物を合成する。次いで合成化合物のがん細胞に対する細胞死誘導活性を測定する。

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

がん細胞と正常細胞、どちらが早く増殖? 正常細胞(造血細胞や粘膜細胞など)では早ければ1日で細胞周期が一回転する。 がん細胞では、3−10日かかる。

抗がん剤の特性

図81.抗がん剤の特性‐副作用が多い‐ 一般薬 抗がん剤 作用% 作用% 治 療 域 治 療 域 効果 副作用 効果 副作用 用量 用量 一般薬では、効果が出る最小投与量が低く、副作用が出る最小投与量と大きな差があり、この幅が治療域となるため、治療域が広い。 抗がん剤では、効果が最大に出る最大耐用量で使用される。この最大耐用量と副作用が出る最小投与量とに差があまりないため、治療域が狭い。

主な抗がん剤の作用機序

図82.5-FUの構造 ウラシル 5-フルオロウラシル 5-フルオロウラシルは、ウラシルの5番目の水素原子がフッ素に置き換わっている。

5-FUの特徴 1.RNAに組み込まれてRNA合成を阻害・・・細胞周期に関係なく抗腫瘍効果 2.FdUMPに変換されてチミジル酸合成酵素を阻害してDNA豪勢阻害・・細胞周期依存性の効果 3.チミジル酸合成酵素阻害に還元型葉酸が必要・・・ロイコボリンの併用が効果を増強する。

Pt2+ 図83.シスプラチンの構造と作用機序 H3N Cl- 立体的に同じ側に結合=シス G A Pt2+ H3N Cl- 立体的に同じ側に結合=シス シスプラチンは白金に2つの塩素、2つのアンモニアがそれぞれ立体構造上同じ側に結合した極めて簡単な分子。 シスプラチンはDNAの2重らせん上のグアニン(G)とアデニン(A)に架橋するように結合して、2重らせんがほどけるのを阻害する。

CDDPの特徴 シス位にある塩素イオンの部位を介してDNAのグアニン(G)もしくはアデニン(A)と結合して、DNAの解離を不可能にする。 その結果、がん細胞はアポトーシスする。 Pt2+ H3N Cl- 立体的に同じ側に結合=シス

がん化学療法が効くメカニズム (白血病に対して)

(Skipperモデル) がん細胞は増殖速度が変わらない。 抗がん剤を投与すると、増殖速度の傾きと同じ下向きの傾きでがん細胞は死亡する。 103 1012 106 109 細胞数 時間 抗がん剤投与 がん細胞は増殖速度が変わらない。 抗がん剤を投与すると、増殖速度の傾きと同じ下向きの傾きでがん細胞は死亡する。 がん細胞に比べて、正常細胞の回復が早く、次の治療時には、がん細胞は回復していない。

がん細胞数が増加しても、増殖速度は変わらない。 正常細胞が早く回復して次の治療が始まる際に、がん細胞数は回復していない。 この2点が化学療法が可能な理由。

固形がんに対するがん化学療法 (Gomperzモデル) 細胞数 時間 1012 109 106 103 抗がん剤投与 進行期・末期の固形がんの化学療法のモデル 細胞数 1012 109 抗がん剤投与 106 術後補助化学療法のモデル 103 時間

固形がんの場合、臨床的に検出できる頃には増殖速度が遅くなっている。 血流の関係で、抗がん剤のがん細胞への到達が悪い。 特に一番目のために、化学療法のみで治癒を目指すことは困難。 術後の微小転移を相手とすれば、治癒も可能。

がん化学療法が治癒に結びつく理論的条件 ・がん細胞に殺細胞効果のある薬剤(確実なlog killを示す薬剤)がある場合。  る薬用量)を使用する。 ・小さくて分裂速度の速い段階での治療開始(log   kill量が大きく、耐性細胞が少ない) ・適切な投与密度(log kill後の再増殖期間の短  縮)での治療 ・多薬の併用療法(耐性細胞出現の阻止)

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

術後補助化学療法の理論的根拠 1)治癒切除例であっても,進行癌においては約半数の症例で再発が 認められること。  認められること。 (2)術前にすでに骨髄などの遠隔臓器で癌細胞が検出できる症例が   あること。 (3)手術操作によって癌細胞が血中や腹腔内に散布される可能性が (4)原発巣を外科的に切除することで微小転移巣が急激に増大するこ   とがあること。 (5)手術侵襲により種々のサイトカインの血中濃度の上昇が認められ,   これらのサイトカインが遺残癌細胞の増殖・進展を促進する可能   性があること。 (6)一般に腫瘍が小さいほど腫瘍内の耐性細胞は少なく,また薬剤到   達性が良好であるため抗腫瘍効果が高いと考えられること。

図86.非小細胞肺がんの術後化学療法 T1a(<2cm)N0M0 経過観察 IA期 T1b(>2-3cm)N0M0 術後化学療法 病理病期 IB期 IIA期 IIB期 IIIIA期 T1a(<2cm)N0M0 T1b(>2-3cm)N0M0 経過観察 術後化学療法 テガフール・ウラシル配合錠 シスプラチン併用化学療法 肺癌診療ガイドライン、日本肺癌学会、2013.7.9更新

図87.大腸がんに対する術後化学療法の効果 日本で実施された6個の大規模臨床試験のメタアナリシスの結果。 DFS: disease free survival   坂本純一、松井隆則、大腸癌の化学療法(1)術後化学療法、Cancer Therapy .jpより引用

術後補助化学療法の効果 1977年から2001年にUFT内服群と手術単独群を比較する第III相試験が行われた。治療群,および手術単独群の4年生存率はそれぞれ86.3%対73.6%(p=0.0176),4年無再発生存率も84.5%対68.1%(p=0.0040)と統計学的に有意差を認め,UFTによる術後補助化学療法の有用性が示唆された。 Proc ASCO.2005;#4021.より引用

術前化学療法の可能性 根治手術不可能と判断されるステージIV期の固形がんに対して、術前化学療法にて、根治手術を可能にするConversion therapy に期待が持たれている。

化学療法 1.がん化学療法の基礎 2.術後補助化学療法 3.外来がん化学療法  4.がん化学療法の副作用 5.抗がん剤耐性

化学療法の副作用 1.消化器症状 1)悪心・嘔吐 2)口内炎 3)下痢 4)消化管穿孔 5)イレウス 2.骨髄抑制 11/04/08 化学療法の副作用 1.消化器症状   1)悪心・嘔吐   2)口内炎   3)下痢   4)消化管穿孔   5)イレウス 2.骨髄抑制 3.皮膚症状、脱毛、粘膜障害 4.神経症状 5.浮腫 6.間質性肺炎 7.心毒性 8.肝障害と腎障害

図88.悪心・嘔吐の刺激伝達経路 悪心・嘔吐 中枢 末梢 頭頸部、咽頭、心臓 腹膜、骨盤臓器 消化管 肝 CTZ 前庭器 VC 大脳皮質 前庭系の異常 薬物 薬物 誘発物質 運動の異常(低下・亢進) 薬物 中枢 末梢 頭頸部、咽頭、心臓 腹膜、骨盤臓器 消化管 肝 NK1 5HT3 自律神経系 化学的刺激 CTZ D2 前庭器 NK1 5HT3 Achm 血液を介した 化学的刺激 H1 VC NK1 5HT3 Achm H1 D2 自律神経系 機械的刺激 大脳皮質 頭蓋内圧亢進 心理的原因 悪心・嘔吐

表27.顆粒球減少時の感染リスクと対策 顆粒球数 1500-1000/ml 1000-500/ml 500/ml以下 100/ml以下 軽度のリスク 中等度のリスク 重度のリスク(重症感染症が増加) 致命的感染症(敗血症)のリスク 行動範囲 病室内 病室外ではマスク 病室内環境 清掃の徹底、ネブライザー、加湿器の管理、手指消毒、生け花とぬいぐるみの禁止 医療スタッフと面会者はマスク 面会者制限 ガウンテクニック コンパクトクリーン 皮膚の清潔 シャワー浴毎日、負荷の時は全身清拭~座浴 排泄時ごとにビデ使用 創傷部位の消毒 口腔内の清潔 ブラッシング1日4回 ポピヨンヨード含嗽1日6-8回 [シリーズ]が んの化学療法と看護 No.4 がん化学療法と症状管理① 骨髄抑制 清水美津江(埼玉県立がんセンター看護部)より改変

図.なぜ白血球は白いのか? 白血球 血球の走査電顕像 血小板 赤血球

図89.神経細胞の障害 核 樹状突起 軸索突起 微小管 (レール) シナプス終末 タンパク等の生体物質を輸送 シナプス小胞 小胞体 神経細胞の興奮は軸索を介して伝わっており、微小管は、細胞内のタンパク輸送を担当するモーターたんぱく質が動くレールとして働いている。微小管を介して運ばれる生体物質は、神経細胞の生存には不可欠な分子であり、微小管の障害は神経細胞の障害をもたらす。

図90.間質性肺炎 胸部X線 胸部CT 胸部X線、胸部CTともに肺野全体にすりガラス状陰影が認められる。

表28.心毒性のある抗がん剤 薬剤 症状 アントラサイクリン系薬剤 心筋障害(心不全) パクリタキセル 不整脈 シクロフスファマイド 心不全 薬剤 症状 アントラサイクリン系薬剤 心筋障害(心不全) パクリタキセル 不整脈 シクロフスファマイド 心不全 5-FU (冠攣縮性)狭心症 トラスツマブ 収縮機能低下 ベバシズマブ 収縮機能低下 スニチニブ 収縮機能低下

表29.薬剤性肝障害を起こしやすい抗がん剤 高頻度に肝障害を起こしやすい抗がん剤 L-アスパラギナーゼ インターフェロン(高用量)  インターフェロン(高用量)  メトトレキサート  ストレプトゾシン 高用量で、高頻度に肝障害を起こす抗がん剤  ブスルファン  シクロフォスファミド  シタラビン  マイトマイシン 不可逆的な肝障害を起こす抗がん剤  ダカルバジン 散発性に肝障害を起こす抗がん剤  ダカルバジン  ヒドロキシウレア  インターフェロン(低用量)  6−メルカプトプリン  ペントスタチン  ビンクリスチン Veno-occulusive disease を起こす抗がん剤  シクロフォスファミド  ブスルファン  アザチオプリン

図91.免疫抑制・化学療法によって発症するB型肝炎対策ガイドライン スクリーニング(全例) HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体 HBs抗原(+) HBs抗原(ー) HBe抗原、HBe抗体、 HBV DNA 定量 HBc抗原and/or HBs抗体(+) HBc抗体(ー)and HBs抗体(ー) 通常の対応 検出感度以上 検出感度以下 モニタリングHBV DNA 核酸アナログ投与 検出感度以上 検出感度以下 厚生労働省/難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班、肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究班

図91.MDR発現増強による抗がん剤耐性 薬物 ABC 輸送体 ADP+Pi ATP 細胞外 膜 細胞内 MDR1などのABCトランスポーターは、細胞膜に発現し、ATP加水分解のエネルギー依存的に種々の抗がん剤を細胞外に排出する。その結果、細胞内の抗がん剤濃度が低下してしまう。

図92.がんに対する免疫応答はあるのか? 一度放射線照射したがん細胞で免疫すると、同じがん細胞を拒絶するが、別のがん細胞は生着する。 腫瘍細胞を皮下に注射 同じ腫瘍細胞を皮下に注射 別の腫瘍細胞を皮下に注射 皮下腫瘤の形成なし 皮下腫瘤の形成あり

図93.医薬品としての抗体の進化 マウス抗体 キメラ抗体 ヒト化抗体 ヒト抗体 可変領域 相補性決定領域 定常領域 すべてマウス由来の抗体 可変領域のみマウス由来で、他はヒト由来の抗体 相補性決定領域のみマウス由来で、他はヒト由来の抗体 すべてヒト由来の抗体

図94.ゲフィチニブの作用機序 EGF ATP ATP ATP ATP ゲフィチニブ Mutated EGFR ゲフィチニブ Normal EGFR 増強されたシグナル X X 細胞増殖 細胞増殖 EGFレセプターであるErb familyタンパクに変異がない場合と比べて、タンパクに変異がある場合には、シグナルがより増強され、細胞増殖が増強する。また、ゲフィチニブに対する感受性も増大する。

表29.承認された分子標的治療薬 一般名 対象となるがん 一般名 対象となるがん トラスツマブ 乳がん ボルテゾミブ 再発・難治性MM 一般名  対象となるがん  一般名 対象となるがん トラスツマブ  乳がん  ボルテゾミブ  再発・難治性MM  リツキシマブ  悪性リンパ腫  テムシロリムス 腎がん  イブリツモマブ  悪性リンパ腫  エルロチニブ 再発・進行非小細胞肺がん ゲムツズマブ  難治性骨髄性白血病  サリドマイド 多発性骨髄腫 セツキシマブ  再発・進行大腸がん  レナリドマイド 多発性骨髄腫 ベバシズマブ  再発・進行大腸がん  クリゾチニブ 進行・再発肺がん パニツムマブ  再発・進行大腸がん (ALK融合遺伝子陽性)  (KRAS変異のない)  アキシニブ 転移性腎がん  オファツムマブ  慢性リンパ性白血病    エベロリスム 転移性腎がん デノスマブ     多発性骨髄腫  ソラフェニブ  進行腎がん、肝がん イットリウムイブリツモマブ  悪性リンパ腫  レゴラフェニブ 再発・進行大腸がん   ゲフィチニブ  再発・進行非小細胞肺癌  アザシチジン 骨髄異型性症候群 イマニチブ  慢性骨髄性白血病  ルキソリチニブ 骨髄線維症       ダサチニブ  慢性骨髄性白血病 ニロチニブ  慢性骨髄性白血病   スニチニブ  GIST ラパチニブ  再発・手術不能乳がん 2013年8月15日時点での承認薬

表30.イマチニブのCMLに対する効果 治療薬 18ヶ月後の細胞遺伝学的完全寛解率 イマチニブ 400mg/day 71.6% 治療薬 18ヶ月後の細胞遺伝学的完全寛解率 イマチニブ 400mg/day 71.6% ダサチニブ 100mg/day 79.1% 二ロチニブ 600mg/day 83.1% 二ロチニブ 800mg/day 77.9% IFN-a+Cytarabine 14.5% J Blood Med. 2012; 3: 51–76.より作成

表31.ラパニチブの効果 ラパニチブ+カペシタビン カペシタビン単独 (N=163) (N=161) 無再発生存期間(月) 8.4 4.4   ラパニチブ+カペシタビン カペシタビン単独 (N=163) (N=161) 無再発生存期間(月) 8.4 4.4 奏功率(%) 22 14 完全寛解(number) 1 0 部分寛解(number) 35 35 N Engl J Med. 2006 355:2733-43. より作成