貧困から窮乏・福祉へ ベヴァリッジ理念とケインズ経済学

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貧困から窮乏・福祉へ ベヴァリッジ理念とケインズ経済学 龍谷大学 小峯 敦 経済学史学会・第72回全国大会 2008年5月25日、愛媛大学

I 考察範囲 1942年の貧困と福祉の概念とは? 2つの工夫 貧困の本質、原因、対策、社会通念 1900s-1930sの経済思想を3つに分類 ケインズ等の経済思想と対照

II 福祉の経済思想(1) 20世紀初頭の特徴 この時代の経済思想を類型化 貧困観の旋回→社会貧→社会権の立法化 社会と経済をめぐる拮抗-包含関係 社会…市場以外の機能を含む人間集団の場

II 福祉の経済思想(2) (a)若手による厚生経済学の発展 Pigou, Robbins, Hicks, Kaldor 「科学性」という信念 理想の状態を語れる分析用具 技巧artと科学scienceの峻別 専門的経済学者の出現…professionalization 社会問題(価値観)の切り離し…皮肉

II 福祉の経済思想(3) (b)有力・老練な現実主義 →居心地の悪い併存 Pigou, Chapman, Clay, Cannan 現実性…政官財と関係し、影響力 一方で、最低賃金法(規制)などを当然視 他方で、長期清算というノルムも信奉 →居心地の悪い併存

II 福祉の経済思想(4) (c)異端派・非正統派 →経済体系と社会規範の対立、後者の優位 Hobson…human welfare、仕事=生き甲斐≠苦痛 Tawney…Functional Society、社会的義務、人格完成 Cole…Guild Socialism、needs、社会的配当分 Polanyi…社会からの自己防衛、大転換 →経済体系と社会規範の対立、後者の優位

II 福祉の経済思想(5) この時期の発展による帰結 貧困問題を経済学で扱う準備が整う 残された問題 社会貧から社会状況…不規則な雇用、公正な賃金 問題の限定とスライド…理論的に扱いやすい 残された問題 社会的権利・慣習と経済的合理性、水と油 両者を調停・統合する論理がない、求めない

III 貧困から窮乏・福祉へ(1) Beveridge(1942)の問題設定 貧困から窮乏wantへ、限定・スライド 窮乏の原因 「家族や個人が健康的な生存最低限の手段を欠く 状態healthy subsistence」(para. 11) 窮乏の原因 低賃金…小さな重要性、大家族…別途に対策 収入の中断、稼得力の喪失、特別支出

 III 貧困から窮乏・福祉へ(2) Rowntree (1901: 120) & Rowntree (1941: 110)

III 貧困から窮乏・福祉へ(3) ベヴァリッジの普遍性・特殊性 (1)非価格介入…低賃金を除くから (2)新しい道徳観…国家と個人に義務  特に、労働市場で (2)新しい道徳観…国家と個人に義務  誘因両立的、怠け・騙しを許さず (3)貧困=少数派、窮乏=大多数  全員に起こるリスク管理、水平的人間関係

IV ケインズとの親和性 理念への共鳴と、実現への助言 (1)価値観に共鳴 (2)経済分析と合致 (3)正統派経済学からの脱却  社会保障、制度設計、水平的分配 (2)経済分析と合致  マクロ的把握、社会保障予算 (3)正統派経済学からの脱却  社会保障とリンク、複数の短期均衡→長期へ

V おわりに ベヴァリッジの側 ケインズの側 社会保障体制を軸に、ケインズを受容 新しい経済学を軸に、社会保障を受容 →福祉国家の合意へ。 普遍性(福祉)と特殊性(多くの前提)