平成14年度 修士論文発表会 ライダーとサンフォトメーターによる都市大気 エアロゾルの光学的特性に関する研究 平成14年度 修士論文発表会 ライダーとサンフォトメーターによる都市大気 エアロゾルの光学的特性に関する研究 交通電子機械工学専攻 99308 崎田茂和
発表内容 1.はじめに 2.ライダーの解析方法 3.サンフォトメーターとスカイラジオメーターに よる観測と解析 4.ライダー比の算出 よる観測と解析 4.ライダー比の算出 5.観測結果 6.まとめ
はじめに エアロゾル(大気中微粒子)は散乱・吸収を通して放射収支に大きな影響を与える。 ライダーはエアロゾルの鉛直分布を高分解能で与えうる唯一の装置である。 エアロゾルによる消散係数を導くのにある一定の後方散乱係数と消散係数の比(ライダー比)を仮定してライダー方程式を解く。 実際には空間的にも時間的にも非一様である。 今回はライダーとサンフォトメーターの同時観測により空間平均のライダー比を求めることを試みた。
ライダー比はエアロゾルの粒径分布、屈折率、形状に依存する重要なエアロゾル光学的性質である。 本研究では、1999年8月と12月、2000年8月のJCAP(Japan Clean Air Program)集中観測時のデータを対象とした。
ライダーの原理 ライダー(LIDAR)とはLight Detection and Rangingの頭文字をとったものである。 レーザーを光源とするレーダーで遠方の大気や物体にレーザー光を照射して、その物理的な特性を遠隔測定する装置である。 パルスレーザー光を大気中に発射し、大気中のエアロゾルや大気分子による後方散乱光をフィルターで分光し測定する。 散乱光は時間の関数として測定されるが、レーザーを送出した時刻から信号を受信するまでの時間の遅れから距離が求まり、受信強度からのレーザー光路にそった散乱係数の分布が得られる。
ライダー方程式 距離Rからの光受信信号強度P(R)は ここで C:装置定数 β(R):体積後方散乱係数 Y(R):幾何学的効率 T(R):大気の透過率 PB:背景光強度 消散係数を用いて大気の透過率を表わすと ・・・・・・(1)
東京商船大学のライダー R1:近距離用 パルスエネルギー 20mJ R2:遠距離用 波長532nm 通常の観測では10Hzで4094shot積算(約7分間)している。距離分解能は6mまたは7.5m
ライダープロファイルの例(2000年8月1日)
Fernaldによるライダー方程式の解法 大気分子とエアロゾルの2成分を考慮し距離2乗補正したライダー方程式は次式のように表わせる。 ・・・・・(2) ここで σ1:エアロゾルによる消散係数 σ2:大気分子による消散係数 β1:エアロゾルによる後方散乱係数 β2:大気分子による後方散乱係数
と表わせる。大気上層のほとんどエアロゾルがない高度から下層に向かって漸化式的に解く。 ・・・・・・(3.a) ・・・・・・(3.b) S1:エアロゾルによる消散係数と後方散乱係数との比 (ライダー比ともいう) S2:大気分子による消散係数と後方散乱係数の比 (=8π/3;レーリー散乱理論より) この仮定のもとでライダー方程式を解くと Rc:境界条件 ・・・・・・(4) と表わせる。大気上層のほとんどエアロゾルがない高度から下層に向かって漸化式的に解く。
大気分子によるレーリー散乱の寄与について 波長λの光に対するU.S.標準大気(1976)の海面レベルでの大気分子による波長λ[nm]での後方レーリー散乱係数は ・・・・・・(5) 我々のライダーは波長が532nmのレーザーを用いているので ・・・・・・(6)
U.S.標準大気モデルとラジオゾンデによる 大気密度分布 大気を理想気体と考えると大気数密度は次式で表わせる。 ・・・・・・(7) R:気体定数 従ってU.S.標準大気の海面レベル(1013.25hP、288.15K)における大気数密度を とすれば任意の高度hにおける気温をT[K]気圧をP[hP]として大気密度ρ(h)は ・・・・・・(8) と表わせる。
任意の高度における後方散乱係数は として求まる。 ・・・・・・(9) として求まる。 U.S.標準大気モデル(1976)とつくば市舘野(36.05°N、140.13°E)のラジオゾンデデータからの算出した大気密度分布の比較した例を次に示す。
冬季に比べ夏季の方がU.S.標準大気モデルとの差が大きいことがわかる。ここではラジオゾンデから求めた大気密度のプロファイルを用いる。
サンフォトメーターについて 英弘精機、ポータブルサンフォトメーターMS-120を使用した。 サンフォトメーターを手動にて太陽を追尾して測定を行う。368、500、675、778[nm]の4波長であり、回転するフィルターホルダーに載せた干渉フィルターにより、各波長の光強度を観測できる。
サンフォトメーターによる光学的厚さ 波長λにおける光学的厚さはサンフォトメーターの観測から で表わせる。 ここで E0(λ):検定定数 ・・・・・・(10) で表わせる。 ここで E0(λ):検定定数 E(λ):観測値 S:太陽-地球間距離補正値 m:エアマス TR(λ):波長λにおけるレーリー散乱の光学的厚さ To3(λ):波長λにおけるオゾンによる光学的厚さ である。
オングストロームの経験式 エアロゾルの光学的厚さは経験的に知られているオングストロームの実験式から次式のように与えられる。 ・・・・・・(11) ・・・・・・(12) αは微小粒子が多いときに大きくなり、粗大粒子が多いときには小さくなる。
サンフォトメーターの光学的厚さ(AOD)(2000年8月)
サンフォトメーターによるAOD (1999年8月)
サンフォトメーターによるAOD (1999年12月)
サンフォトメーターによるAOD (2000年8月)
スカイラジオメーターについて 本スカイラジオメーターは(株)プリード社製のPOM-01型である。 本学のスカイラジオメーターは7つの波長帯をもち、315nmはオゾン吸収帯、940nmは水蒸気の吸収帯、400,500,670,870,1040nmはエアロゾル観測用の波長である。 スカイラジオメーターはサンセンサーにより、太陽方向に鏡筒が向くようにを自動的に追尾される。 解析には東京大学気候システム研究センター・中島映至教授によって作成されたスカイラジオメーター解析用プログラムパッケージskyrad.pack ver.2を用いた。
新2号館屋上のスカイラジオメーター
スカイラジオメーターの500nmにおける光学的厚さと全天日射量(1999年8月)
スカイラジオメーターの500nmにおける光学的厚さと全天日射量(1999年12月)
スカイラジオメーターの500nmにおける光学的厚さと全天日射量(2000年8月)
500nmにおけるAODと オングストローム指数の相関(1999年8月)
500nmにおけるAODと オングストローム指数の相関(1999年12月)
500nmにおけるAODと オングストローム指数の相関(2000年8月)
レーザーの波長532nmにおける光学的厚さはサンフォトメーターの500nm、675nmの2波長での光学的厚さから経験式から求めたαを用い ・・・・・(13) から求めた
サンフォトメーターとスカイラジオメーターから 光学的厚さ(532nm)の同時刻観測値の比較 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 sunphoto sky 1999年8月 1999年12月 2000年8月 1999年8月の近似 1999年12月の近似 2000年8月の近似
空間平均のライダー比の算出方法 あるライダー比を仮定する 新しいライダー比 を仮定する 後方散乱係数と消散係数を計算する 後方散乱係数の積分とサンフォトメーターから 求まる光学的厚さの比で新しいライダー比を 計算する no 新しいライダー比と古いライダー比の比較 σ<0.01% yes ライダー比の決定と誤差を求める
ライダー比の解析結果(1999年8月)
ライダー比の解析結果(1999年12月)
ライダー比の解析結果(2000年8月)
ライダー比とオングストローム指数(1999年8月)
ライダー比とオングストローム指数(1999年12月)
ライダー比とオングストローム指数(2000年8月)
ライダー比と光学的厚さ(532nm) (1999年8月)
ライダー比と光学的厚さ(532nm) (1999年12月)
ライダー比と光学的厚さ(532nm) (2000年8月)
ライダー比のヒストグラム
1999年8月2日の消散係数の鉛直分布
1999年8月3日の消散係数の鉛直分布
1999年8月4日の消散係数の鉛直分布
1999年12月8日の消散係数の鉛直分布
1999年12月9日の消散係数の鉛直分布
1999年12月10日の消散係数の鉛直分布
2000年8月1日の消散係数の鉛直分布
2000年8月2日の消散係数の鉛直分布
2000年8月3日の消散係数の鉛直分布
まとめ ライダープロファイルを用いて求めたライダー比はヒストグラムからもわかるように夏が小さく、冬が大きい傾向が見られた。 ライダー比は1999年の8月の平均値は55.76±14.19(標準偏差)、12月の平均値は68.78±15.58、2000年8月の平均値は50.29±6.96といった値が見られ、冬季のほうが夏季よりもライダー比が少し高く見られる傾向が見られた。 その原因としては炭素成分による吸収による寄与が考えられる。 オングストローム指数αが冬のほうが大きい。