平成14年度 修士論文発表会 ライダーとサンフォトメーターによる都市大気 エアロゾルの光学的特性に関する研究

Slides:



Advertisements
Similar presentations
偏光ライダーとラジオゾンデに よる大気境界層に関する研究 交通電子機械工学専攻 99317 中島 大輔 平成12年度 修士論文発表会.
Advertisements

ラマンライダーによる 対流圏エアロゾルの 光学的性質の系統的解析 交通電子機械工学専攻 和田 勝也.
Determining Optical Flow. はじめに オプティカルフローとは画像内の明る さのパターンの動きの見かけの速さの 分布 オプティカルフローは物体の動きの よって変化するため、オプティカルフ ローより速度に関する情報を得ること ができる.
No.2 実用部材の疲労強度           に関する研究 鹿島 巌 酒井 徹.
データ解析
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
太陽多波長フレアデータ解析研究会 NSRO-CDAW10 ピーク時のループトップ電波源(2周波)の高さ (統計解析)
Optical Particle Counterによる
多変量解析 -重回帰分析- 発表者:時田 陽一 発表日:11月20日.
数値気象モデルCReSSの計算結果と 観測結果の比較および検討
シーロメーターによる 海洋上低層雲、混合層の観測
較正用軟X線発生装置のX線強度変化とスペクトル変化
       光の種類 理工学部物理科学科 07232034 平方 章弘.
スカイラジオメーターによる東京及び小笠原に おける対流圏エアロゾルの光学的特性 に関する研究
「高強度領域」 100 MW 〜 1 GW 50 Pcr 〜 500 Pcr 高強度レーザーパルスは、媒質中で自己収束 光Kerr効果
美濃和 陽典 (国立天文台すばるプロジェクト研究員)
成層圏突然昇温の 再現実験に向けて 佐伯 拓郎 神戸大学 理学部 地球惑星科学科 4 回生 地球および惑星大気科学研究室.
Non-Spherical Mass Models for Dwarf Satellites
スパッタ製膜における 膜厚分布の圧力依存性
半導体励起レーザーを用いた 小型ライダーの開発
電磁気学C Electromagnetics C 7/13講義分 電磁波の電気双極子放射 山田 博仁.
屋外における温冷感指標を作成する 既存の体感指標SET*,PMVなど 室内の環境を評価対象 放射←周りからの赤外線放射のみ
流体のラグランジアンカオスとカオス混合 1.ラグランジアンカオス 定常流や時間周期流のような層流の下での流体の微小部分のカオス的運動
量子ビーム基礎 石川顕一 6月 7日 レーザーとは・レーザーの原理 6月21日 レーザー光と物質の相互作用
生物機能工学基礎実験 2.ナイロン66の合成・糖の性質 から 木村 悟隆
通信情報システム専攻 津田研究室 M1 佐藤陽介
2.伝送線路の基礎 2.1 分布定数線路 2.1.1 伝送線路と分布定数線路 集中定数回路:fが低い場合に適用
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
5.3 接地アンテナ 素子の1つを接地して使用する線状アンテナ 5.3.1 映像アンテナと電流分布
Visual Basicによる 大気環境計測機器の制御プログラムの開発
黒体輻射とプランクの輻射式 1. プランクの輻射式  2. エネルギー量子 プランクの定数(作用量子)h 3. 光量子 4. 固体の比熱.
第8回(山本晴彦) 光学的計測法による植物の生育診断
トリガー用プラスチックシンチレータ、観測用シンチレータ、光学系、IITとCCDカメラからなる装置である。(図1) プラスチックシンチレータ
2.温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 温暖化 - 雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
位相カメラの進捗状況 京都大学修士1回 横山 洋海.
太陽放射と地球放射の エネルギー収支 温室効果.
中性子干渉実験 2008/3/10 A4SB2068 鈴木 善明.
YT2003 論文紹介 荻原弘尭.
黒体輻射 1. 黒体輻射 2. StefanのT4法則、 Wienの変位測 3. Rayleigh-Jeansの式
生物情報計測学 第7回 植物の生育・水分状態の計測.
メンバー 梶川知宏 加藤直人 ロッケンバッハ怜 指導教員 藤田俊明
電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
測距技術 ー 2波長干渉計による歪計測 ー 寺田聡一 産業技術総合研究所.
プラズマ発光分光による銅スパッタプロセス中の原子密度評価
~系外短周期スーパー地球シリケイト大気に関する研究~
電気回路学Ⅱ コミュニケーションネットワークコース 5セメ 山田 博仁.
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
高エネルギー陽子ビームのための高時間分解能 チェレンコフビームカウンターの開発
電磁気学C Electromagnetics C 6/17講義分 電磁波の偏り 山田 博仁.
宇宙線ミューオンによる チェレンコフ輻射の検出
レーザーシーロメーターによる 大気境界層エアロゾル及び 低層雲の動態に関する研究
明大理工,通総研A 木下基、福田京也A、長谷川敦司A、細川瑞彦A、立川真樹
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/11講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
産総研・計測標準 寺田聡一 東大地震研 新谷昌人、高森昭光
偏光X線の発生過程と その検出法 2004年7月28日 コロキウム 小野健一.
X線CCD新イベント抽出法の 「すざく」データへの適用
X線CCD新イベント抽出法の 「すざく」データへの適用
第3章 線形回帰モデル 修士1年 山田 孝太郎.
落下水膜の振動特性に関する実験的研究 3m 理工学研究科   中村 亮.
メスバウアー効果で探る鉄水酸化物の結晶粒の大きさ
2006 年 11 月 24 日 構造形成学特論Ⅱ (核形成ゼミ) 小高正嗣
Pb添加された[Ca2CoO3]0.62CoO2の結晶構造と熱電特性
MOAデータベースを使った セファイド変光星の周期光度関係と 距離測定
400MHz帯ウィンドプロファイラとCOBRAで観測された台風0418号の鉛直構造
My thesis work     5/12 植木             卒論題目 楕円偏光照射による不斉合成の ためのHiSOR-BL4の光源性能評価.
◎小堀 智弘,菊池 浩明(東海大学大学院) 寺田 真敏(日立製作所)
地上分光観測による金星下層大気におけるH2Oの半球分布の導出
パターン認識特論 カーネル主成分分析 和田俊和.
電解質を添加したときの溶解度モデル – モル分率とモル濃度
固体→液体 液体→固体 ヒント P131  クラペイロンの式 左辺の微分式を有限値で近似すると?
Presentation transcript:

平成14年度 修士論文発表会 ライダーとサンフォトメーターによる都市大気 エアロゾルの光学的特性に関する研究 平成14年度 修士論文発表会 ライダーとサンフォトメーターによる都市大気 エアロゾルの光学的特性に関する研究 交通電子機械工学専攻  99308 崎田茂和

発表内容 1.はじめに 2.ライダーの解析方法 3.サンフォトメーターとスカイラジオメーターに よる観測と解析 4.ライダー比の算出   よる観測と解析 4.ライダー比の算出 5.観測結果 6.まとめ

はじめに エアロゾル(大気中微粒子)は散乱・吸収を通して放射収支に大きな影響を与える。 ライダーはエアロゾルの鉛直分布を高分解能で与えうる唯一の装置である。 エアロゾルによる消散係数を導くのにある一定の後方散乱係数と消散係数の比(ライダー比)を仮定してライダー方程式を解く。 実際には空間的にも時間的にも非一様である。 今回はライダーとサンフォトメーターの同時観測により空間平均のライダー比を求めることを試みた。

ライダー比はエアロゾルの粒径分布、屈折率、形状に依存する重要なエアロゾル光学的性質である。 本研究では、1999年8月と12月、2000年8月のJCAP(Japan Clean Air Program)集中観測時のデータを対象とした。

ライダーの原理 ライダー(LIDAR)とはLight Detection and Rangingの頭文字をとったものである。 レーザーを光源とするレーダーで遠方の大気や物体にレーザー光を照射して、その物理的な特性を遠隔測定する装置である。 パルスレーザー光を大気中に発射し、大気中のエアロゾルや大気分子による後方散乱光をフィルターで分光し測定する。 散乱光は時間の関数として測定されるが、レーザーを送出した時刻から信号を受信するまでの時間の遅れから距離が求まり、受信強度からのレーザー光路にそった散乱係数の分布が得られる。

ライダー方程式 距離Rからの光受信信号強度P(R)は ここで C:装置定数 β(R):体積後方散乱係数 Y(R):幾何学的効率 T(R):大気の透過率 PB:背景光強度   消散係数を用いて大気の透過率を表わすと ・・・・・・(1)

東京商船大学のライダー R1:近距離用 パルスエネルギー 20mJ R2:遠距離用 波長532nm 通常の観測では10Hzで4094shot積算(約7分間)している。距離分解能は6mまたは7.5m

ライダープロファイルの例(2000年8月1日)

Fernaldによるライダー方程式の解法 大気分子とエアロゾルの2成分を考慮し距離2乗補正したライダー方程式は次式のように表わせる。 ・・・・・(2) ここで σ1:エアロゾルによる消散係数 σ2:大気分子による消散係数 β1:エアロゾルによる後方散乱係数  β2:大気分子による後方散乱係数

と表わせる。大気上層のほとんどエアロゾルがない高度から下層に向かって漸化式的に解く。 ・・・・・・(3.a) ・・・・・・(3.b) S1:エアロゾルによる消散係数と後方散乱係数との比 (ライダー比ともいう) S2:大気分子による消散係数と後方散乱係数の比 (=8π/3;レーリー散乱理論より) この仮定のもとでライダー方程式を解くと Rc:境界条件 ・・・・・・(4) と表わせる。大気上層のほとんどエアロゾルがない高度から下層に向かって漸化式的に解く。

大気分子によるレーリー散乱の寄与について 波長λの光に対するU.S.標準大気(1976)の海面レベルでの大気分子による波長λ[nm]での後方レーリー散乱係数は ・・・・・・(5) 我々のライダーは波長が532nmのレーザーを用いているので ・・・・・・(6)

U.S.標準大気モデルとラジオゾンデによる 大気密度分布 大気を理想気体と考えると大気数密度は次式で表わせる。 ・・・・・・(7) R:気体定数 従ってU.S.標準大気の海面レベル(1013.25hP、288.15K)における大気数密度を とすれば任意の高度hにおける気温をT[K]気圧をP[hP]として大気密度ρ(h)は ・・・・・・(8) と表わせる。

任意の高度における後方散乱係数は として求まる。 ・・・・・・(9) として求まる。 U.S.標準大気モデル(1976)とつくば市舘野(36.05°N、140.13°E)のラジオゾンデデータからの算出した大気密度分布の比較した例を次に示す。

冬季に比べ夏季の方がU.S.標準大気モデルとの差が大きいことがわかる。ここではラジオゾンデから求めた大気密度のプロファイルを用いる。

サンフォトメーターについて 英弘精機、ポータブルサンフォトメーターMS-120を使用した。 サンフォトメーターを手動にて太陽を追尾して測定を行う。368、500、675、778[nm]の4波長であり、回転するフィルターホルダーに載せた干渉フィルターにより、各波長の光強度を観測できる。

サンフォトメーターによる光学的厚さ 波長λにおける光学的厚さはサンフォトメーターの観測から で表わせる。 ここで E0(λ):検定定数 ・・・・・・(10) で表わせる。 ここで E0(λ):検定定数 E(λ):観測値 S:太陽-地球間距離補正値 m:エアマス TR(λ):波長λにおけるレーリー散乱の光学的厚さ To3(λ):波長λにおけるオゾンによる光学的厚さ である。

オングストロームの経験式 エアロゾルの光学的厚さは経験的に知られているオングストロームの実験式から次式のように与えられる。 ・・・・・・(11) ・・・・・・(12) αは微小粒子が多いときに大きくなり、粗大粒子が多いときには小さくなる。

サンフォトメーターの光学的厚さ(AOD)(2000年8月)

サンフォトメーターによるAOD (1999年8月)

サンフォトメーターによるAOD (1999年12月)

サンフォトメーターによるAOD (2000年8月)

スカイラジオメーターについて 本スカイラジオメーターは(株)プリード社製のPOM-01型である。 本学のスカイラジオメーターは7つの波長帯をもち、315nmはオゾン吸収帯、940nmは水蒸気の吸収帯、400,500,670,870,1040nmはエアロゾル観測用の波長である。 スカイラジオメーターはサンセンサーにより、太陽方向に鏡筒が向くようにを自動的に追尾される。 解析には東京大学気候システム研究センター・中島映至教授によって作成されたスカイラジオメーター解析用プログラムパッケージskyrad.pack ver.2を用いた。

新2号館屋上のスカイラジオメーター

スカイラジオメーターの500nmにおける光学的厚さと全天日射量(1999年8月)

スカイラジオメーターの500nmにおける光学的厚さと全天日射量(1999年12月)

スカイラジオメーターの500nmにおける光学的厚さと全天日射量(2000年8月)

500nmにおけるAODと オングストローム指数の相関(1999年8月)

500nmにおけるAODと オングストローム指数の相関(1999年12月)

500nmにおけるAODと オングストローム指数の相関(2000年8月)

レーザーの波長532nmにおける光学的厚さはサンフォトメーターの500nm、675nmの2波長での光学的厚さから経験式から求めたαを用い ・・・・・(13) から求めた

サンフォトメーターとスカイラジオメーターから 光学的厚さ(532nm)の同時刻観測値の比較 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 sunphoto sky 1999年8月 1999年12月 2000年8月 1999年8月の近似 1999年12月の近似 2000年8月の近似

空間平均のライダー比の算出方法 あるライダー比を仮定する 新しいライダー比 を仮定する 後方散乱係数と消散係数を計算する 後方散乱係数の積分とサンフォトメーターから 求まる光学的厚さの比で新しいライダー比を 計算する no 新しいライダー比と古いライダー比の比較 σ<0.01% yes ライダー比の決定と誤差を求める

ライダー比の解析結果(1999年8月)

ライダー比の解析結果(1999年12月)

ライダー比の解析結果(2000年8月)

ライダー比とオングストローム指数(1999年8月)

ライダー比とオングストローム指数(1999年12月)

ライダー比とオングストローム指数(2000年8月)

ライダー比と光学的厚さ(532nm) (1999年8月)

ライダー比と光学的厚さ(532nm) (1999年12月)

ライダー比と光学的厚さ(532nm) (2000年8月)

ライダー比のヒストグラム

1999年8月2日の消散係数の鉛直分布

1999年8月3日の消散係数の鉛直分布

1999年8月4日の消散係数の鉛直分布

1999年12月8日の消散係数の鉛直分布

1999年12月9日の消散係数の鉛直分布

1999年12月10日の消散係数の鉛直分布

2000年8月1日の消散係数の鉛直分布

2000年8月2日の消散係数の鉛直分布

2000年8月3日の消散係数の鉛直分布

まとめ ライダープロファイルを用いて求めたライダー比はヒストグラムからもわかるように夏が小さく、冬が大きい傾向が見られた。 ライダー比は1999年の8月の平均値は55.76±14.19(標準偏差)、12月の平均値は68.78±15.58、2000年8月の平均値は50.29±6.96といった値が見られ、冬季のほうが夏季よりもライダー比が少し高く見られる傾向が見られた。 その原因としては炭素成分による吸収による寄与が考えられる。 オングストローム指数αが冬のほうが大きい。