聖マリアンナ医科大学 救命救急医学教室 高井彰

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聖マリアンナ医科大学 救命救急医学教室 高井彰 Effectiveness and Safety of the Awakening and Breathing Coordination, Delirium Monitoring/Management, and Early Exercise/Mobility (ABCDE) Bundle 聖マリアンナ医科大学 救命救急医学教室 高井彰 よろしくお願いします。

背景 ICUでのせん妄や神経筋障害(ICU-acquired weakness)は重症患者の死亡率増加、人工呼吸器装着期間延長、ICU滞在期間延長、鎮静剤の持続投与や身体制限の増加につながる大きな問題である ABCDEバンドル:Awakening and Breathing Coordination, Delirium monitoring/management, and Early exercise/mobilityは2010年に提唱されICUのせん妄などの精神障害や神経筋障害予防のための有効な戦略とみなされつつあり2013年のPADガイドライン(pain, agitation, delirium)の基ともなっている

背景:ABCDEバンドルとは A 毎日の鎮静覚醒トライアル B 毎日の人工呼吸離脱トライアル(自発呼吸テスト、spontaneous breathing trials: SBTs) C AとBの調整および鎮静剤の選択 D せん妄管理 E 早期離床、早期リハビリのプログラム まずはABCDEバンドルについて簡単に説明させていただきます。

ABCDE バンドル ABCDEバンドルのおおまかな流れを説明します。ICU入室中のPtに対して行われます。鎮静、せん妄の評価を行い、SAT SBTを順々に進めていきます。SAT SBT などを不成功だった場合は鎮静薬を半分に減量し、その後鎮静具合によって調整する。成功した場合は抜管を検討するなど、ステップを進んでいく。 これはICUチームが一体となって施行することで効果が得られるものです。

背景:これまでの研究 ABCDEバンドルの個々の項目の遵守によりICU患者のせん妄や神経筋障害が予防されるだけでなく、医原性の合併症の減少、人工呼吸器装着期間の短縮、入院期間の短縮といった予後改善につながることが報告されている 対象がICUの重症患者、とくに人工呼吸管理を受けている患者に限られていた これまでの研究は、ABCDEバンドルの個々の項目の遵守によりICU患者のせん妄や神経筋障害が予防されるだけでなく、医原性の合併症の減少、人工呼吸器装着期間の短縮、入院期間の短縮といった予後改善につながることが報告されている。しかし、対象がICUの重症患者、とくに人工呼吸管理を受けている患者に限られていました。

目的 あらゆる種類の重症患者にとってABCDEバンドルが有効かつ安全かを調べる ポイント 毎日行う 人工呼吸管理を受けていない患者も含む ピットフォール(問題点)は 目的は人口呼吸管理の患者やそうでないかなど、あらゆる種類の重症患者にとってこのバンドルが有効でえあるか、また安全であるかを調べる。

方法 期間:2010年11月から2012年5月の18ヶ月間 研究デザイン:前向き前後比較研究 対象:624床の3次医療センター1施設の5つの成人ICU、1つのステップダウンユニット、血液腫瘍病棟に入院した連続する19歳以上の患者296人 除外基準:48時間以内に法的代理人による了承が得られない場合 介入:ABCDEバンドル ABCDEバンドルの介入前(通常ケア)と導入後を比較 ABCDEバンドルについてトレーニングを受けたスタッフが施行 アウトカム 一次アウトカム:人工呼吸管理患者の研究開始から28日目までのVFDs (ventilator-free days) 二次アウトカム:すべての患者のICUでのせん妄、昏睡の期間

A:Awakening トレーニングを受けた看護師が評価 SAT(spontaneous awakening trial:覚醒トライアル)を開始可能か毎日スクリーニング SAT開始可能→持続鎮静薬を中止 SAT成功(呼びかけに開眼し、失敗に該当する項目がない) →SBTへ SAT不成功→鎮静薬を半量~漸減して24時間後に再評価 SAT開始不可能→同量で鎮静薬を継続し24時間後に再評価 それぞれの研究方法の詳細です。ABCDE バンドルのまずはAから説明します。 RN: registered nurse

SAT:spontaneous awakening trial けいれん RASS>2が5分以上 アルコール離脱 SpO2<88%が5分以上 神経筋遮断薬の使用 RR>35/分が2分以上 頭蓋内圧(ICP)のコントロールが必要 不整脈の出現 ICP>20mmHg ECMO中 以下の2項目以上の存在:HR増加≧20bpm、HR<55bpm、呼吸補助筋の使用、奇異呼吸(abdominal paradox、吸気時に上腹部がへこむ)、発汗、呼吸苦 24時間以内の心筋梗塞発症 RASS>2 SAT開始可能かどうかのスクリーニングと、SAT成功、不成功の判断基準です。SATを開始しない基準は、一つでもあれば開始しないものであり、SAT失敗の判断基準は一つでもあればSBTへ進まないというものになります。

B: Breathing 呼吸療法士が評価 SBT(spontaneous breathing trial:自発呼吸トライアル)を開始してよいか毎日スクリーニング SBT開始可能→SBTを2時間施行 SBT成功(失敗の基準に当てはまらない)→抜管 SBT失敗→鎮静剤を半量で再開し元の呼吸器設定に戻し24時間後に再評価 SBT開始不可能→同量で鎮静薬を継続し24時間後に再評価 SAT が問題なければ、SBTを行う。SBTは呼吸療法士によって行われる。 RT:respiratory therapist

SBT:spontaneous breathing trial 慢性的に人口呼吸器管理 RR>35 RR/分 ≧5分 酸素化が88% 以下 RR<8 FiO2 >50% 酸素化 88% が5分以上 PEEP> 7 ICP>20mmHg 精神状態の変化 ICPコントロール目的に人口呼吸器管理となっている 新たな不整脈の出現 24時間以内の心筋梗塞発症 以下の2項目以上の存在: 呼吸補助の使用、奇異呼吸、発汗、呼吸苦 昇圧剤が増量されている 努力呼吸がない 自発呼吸トライアルです。SATと同様に開始しない基準、失敗の基準がある。

D: Delirium monitoring/management C:Coordination 鎮静剤の選択により、せん妄のリスクを減らす D: Delirium monitoring/management RASSを2時間ごとに評価、目標のRASSスコアであるかどうか検討 RASS-3以上なら8時間ごとにCAM-ICUを評価する せん妄が疑われれば原因検索、除去、鎮静剤の中止を試みる RASS CAM-ICUについては次のスライドで説明します。 RASS: Richmond Agitation Sedation Scale CAM-ICU: Confusion Assessment Method for the ICU

RASS 鎮静の評価に使用する。

CAM-ICU(日本版)

E:Early Exercise /Mobility 理学療法士と看護師が評価、施行 早期リハビリが可能か毎日スクリーニング リハビリ開始可能→最低1日1回、3段階:端座位、立って椅子へ移動、短距離歩行 リハビリ開始不可能→24時間後に再評価 どの患者も個々で状況は異なるものの、1日の間で最低1度は動く事が推奨されている。ベッド上で座位で行うもの、ベッドサイドで立位で行うもの、椅子にに座るもの、短い距離を歩くものなどが含まれる。

Early exercise /mobility 開始しない基準 失敗の判断基準 RASS<-3 平均動脈圧の低下 FiO2 >0.6 Hr<50 >130 が5分以上 PEEP>10cm H20 RR<5 か 40< が5分以上 2時間以内の昇圧剤の増量 sBP >180 が5分以上 活動性のある心筋梗塞 SPO2 < 88% が5分以上 新たな不整脈 人口呼吸器の同期不全 活動を制限する治療中 (ECMO 開腹など) 患者の苦痛 活動が禁忌となる怪我 (不安定骨折など) 新たな不整脈、活動性のある心筋梗塞 挿管や呼吸器管理の心配がある 跪いてしまう 早期リハビリが可能かのスクリーニングの基準と失敗の判断基準です。SAT,SBT同様に開始しない基準(以下の一つでもあれば開始しない) 、失敗の判断基準(以下の一つでもあればSBTへ進まない)がある。

結果 LAR: legally authorized representative 法的代理人 結果です。対象となった617名のうち、基準に合わない、同意が得られない、死が切迫している患者などを除いた300名が研究の研究の参加対象となった。ABCDEバンドル前後で,人口呼吸管理されていない人は57/150 56/150 であり、 どちらの集団も人口呼吸管理されていない患者は1/3以上います。 LAR: legally authorized representative 法的代理人

結果 バンドル導入前 の方が高齢で あるほかは差なし 対象と患者は様々な内科、外科的治療目的にICU管理となっており、全体の40%の患者は外科的治療を行われている。患者の年齢は導入前vs. 導入後で59.2歳vs. 55.6歳(p=0.05)であり、バンドル導入前の方が高齢であるほかは二つの対照群を比較して、内服薬を含め大きな違いは見られなかった。

結果 人工呼吸器管理の患者では、ABCDEバンドル施工前に比べ、3日間人工呼吸器なしの期間が増えた。また施行後の患者群ではせん妄が48.7%と少なくなった。(62.3%)年齢、性別などで調整後、せん妄のオッズ比は半分近くまで減少する結果となった。 人工呼吸器管理の患者群では、人工呼吸器管理の期間が有意に減少した。 せん妄の日数も有意な減少が見られた。 また、昏睡の期間には有意な差は見られなかった。

結果ー安全性 ABCDEバンドル施行前後で予定外の抜管、再挿管の割合、気管切開の頻度や身体拘束の時間などで大きな変化は見られなかった。

結果:SATとSBTの実際 SATとSBTの実際です。ABCDEバンドル導入前後で比較して、一度でもSATが施行された患者の割合は、53%から71%へ増加し、SBTについても70.4から84%へ増加している。ABCDEバンドル導入により、より多くの患者にSAT SBT が行われた事になります。

結果:鎮静剤使用状況 ABCDEバンドル施行前後では、ベンソジアゼピン系の使用が減り、オピオイドの使用が増える傾向が見られた。しかし、鎮静剤の投与量や患者の割合には導入前後で明確な差は見られなかった。またRASSはバンドル導入前後ともに−1から0程度にコントロールされていました。

結果:せん妄の評価、リハビリの実際 ABCDEバンドル導入後、8時間毎にCAM-ICU 、RASS による評価されている割合はそれぞれ、50%、68%と決して高くはない事が見られる。 バンドル導入後、ICU入室中のPTの介入や、一度でも離床した患者の割合は増えているが、ベッドから離れて過ごした時間の割合(33.3%)は介入前とあまり変化が見られない。

Discussion ABCDEバンドルの導入後は導入前に比べ人工呼吸管理下の患者の呼吸器離脱期間が3日増加した(研究開始から28日目まで)

Discussion:過去の研究との比較 Girardらの研究(人工呼吸管理患者を対象にSATとSBTの組み合わせを通常ケアと比較した無作為比較試験, Lancet 2008; 371:126-34)との比較 類似点:3日程度呼吸器離脱期間の延長 相違点:本研究では昏睡の期間は減少なし➡Girard の研究の対象は本研究と比較して、もともとの鎮静が強めであったためと思われる(本研究ではRASS -1 、GirardらはRASS -4) 2008年にGirard らが人工呼吸管理患者を対象にSATとSBTの組み合わせを通常ケアと比較した研究を行っています。それらと今回の研究を比較すると、呼吸器離脱期間が増えたについては共通していますが、昏睡の期間については本研究では減少が認められませんでした。理由としては、本研究にくらべ元々鎮静が強めであった事が考えられます。

Discussion:過去の研究との比較 Schweickertらの研究(人工呼吸管理患者を対象に早期のPT、OT導入を通常ケアと比較した無作為比較試験, Lancet 2009; 373:1874-82)との比較 類似点:SATと早期リハビリの組み合わせで人工呼吸器離脱期間がのびせん妄の期間が短縮した 2009年のSchweickert らの、「人口呼吸器管理患者を対象とした早期OT PT導入を通常ケアと比較した研究」と本研究とはSATや早期リハビリの組み合わせで人口呼吸器離脱期間が増え、せん妄期間が短縮したとい結果で矛盾はない。

Discussion:鎮静に関して 本研究でもGirardらやSchweickertらの研究でも、鎮静剤やオピオイドを投与した患者割合は介入前後で変わっていないにもかかわらず予後の改善がみられた 薬剤の有無にかかわらず「覚醒させる」こと自体が重要なのかもしれない 根拠:強い鎮静を長時間行わないですむ、患者の運動を促し認知機能の改善をもたらす

Discussion:離床に関して ABCDEバンドル導入により「1日1回離床した患者の割合」は増えたが、ICU滞在期間の65%以上の時間をベッドで過ごしていた 原因:最初は看護師のみが離床をさせていた(ほかのスタッフがかかわっていなかった)、入院前の患者のADLの影響

Discussion:本研究の特徴 毎日鎮静、せん妄を評価した 除外となった患者が非常に少ない(4人のみ) あらゆるICU患者を対象としている(非挿管患者も含んでいる) 診療に実際に当たるさまざまなスタッフがABCDEバンドルを実行している ABCDEバンドルへのアドヒアランスは期待を下回った(が、有効性と安全性は証明された) ABCDEバンドルをさらに遵守すればさらなる効果が期待できるかもしれない

Discussion:本研究の限界 患者数が少ない 法的代理人による了解が得られるまで研究を開始できない(研究の開始が遅れてしまう) ABCDEバンドル導入前の時期にスタッフにABCDEバンドルについての教育を行ったため、「導入前」のデータに影響しているかもしれない(「導入前」にすでにABCDEバンドル様のケアが行われていたかもしれない) 「昏睡」の原因がわからなかった カルテを見ただけではABCDEバンドルを開始しなかった理由がわからない患者が存在する(とくにSAT、SBT) スケールなどを用いた患者の痛み客観的評価を行えていない

Discussion:今後の課題 あらゆる患者に共通する、さらに多様なアウトカムについて評価する(今回の研究での「離床」など) 鎮静剤の種類によって患者のアウトカムに差が生じるかを調べる 過去のABCDEバンドルに関する研究のほとんどは人工呼吸器管理患者を対象としている。今回は非人工呼吸器管理患者も含めて検討し有効性と安全性を示すことができたが、各ICUが、自施設の患者背景やスタッフの充足度をよく評価したうえで、ABCDEバンドルをすべてのICU患者に実行できるよう努力すべきである

結論 ABCDEバンドルの導入により、人工呼吸器管理期間の減少、あらゆるICU患者のせん妄の期間の減少、離床の増加が見られた

マリアンナICUとして・考察 早期離床や可能と判断した場合のSAT、SBTは積極的に行っているが、共通したプロトコールはなく、特に鎮静やせん妄の評価は不十分(過鎮静傾向)かもしれない どのスタッフもすべての患者に同質のケアが行えるようにこの研究のようなプロトコールを作成することは有用 看護師の積極的な参加は重要 これほど厳密なバンドルを実行しても死亡率の改善にはつながらなかった→生命予後改善にはABCDEバンドルだけでは不十分?ほかの要素? 早期離床や可能と判断した場合のSAT、SBTは積極的に行っているが、共通したプロトコールはないので、Table1などを参考に作ってもよいかもしれない。 看護師にもっと患者の評価に積極的に介入してもらうことは重要、ただし治療への介入は限界があるかもしれない。 これほど厳密なバンドルを実行しても死亡率の改善にはつながらなかった→生命予後改善にはABCDEバンドルだけでは不十分?改善すべきほかの要素があるのだろうか?