モチベーション
モチベーションとは モチベーションとは人間の内的な状態であり、個人をあるゴールに 向けて行動させる。 モチベーションの研究は大きく2つに分類できる。プロセス・モチベー ションの研究ではどのように個人が動機付けられるかに注目し、コン テント・モチベーションの研究では個人の内的資質に注目してモチ ベーションの研究がされている。
プロセス・モチベーションの理論 プロセス・モチベーションの研究ではNeeds-Goal理論とVroomの予測の理論が有名である。 この2つの理論は比較的単純にモチベーションを表現しているので、現実の世界でのモチ ベーションを表現するには限界があるといった批判もあるが。この2つの理論が基礎となって より高度な理論が開発されてきたといえるであろう。 Needs-Goal理論 Varoomの予測の理論 ニーズの発生 フィードバック ゴールの為の補助的行動 ゴールの為の行動 モチベーションの度合い = 行動によって得られると予測される主観的な価値 X 行動が成功する主観的な確率予測 Intrinsic Rewards 内的報酬 Perceived Equitable Rewards 報酬の衡平感 Performance (Accomplishment) パフォーマンス・結果 Satisfaction 満足度 Extrinsic Rewords 外的報酬
コンテント・モチベーション理論 コンテント・モチベーション理論では、個人はどのような要求(ニー ズ)を持っているのか、そしてどのようにこの要求を満たしているの かと言う点に注目して研究が進められている。 コンテント・モチベーション理論では、マズローの「欲求階層」、 ERG 理論、マック・クレーランドの欲求の取得理論などが広く利用されて いる。
コンテント・モチベーション理論 企業はヒトの集まりである。どうすれば個々のヒトを組織に有利なように動かすことが出来るか理解すると いう問題は「Problem of Motivation」と呼ばれ、多くの組織では、この問題に多大なエネルギーを費やして いる。この動機づけ問題を理解するうえで、欲求理論(Needs Theory)と衡平理論(Equity Theory)が役に立 つ。 マズローの「欲求階層」は人間の欲求を5段階に分類している。彼の理論では人間は低次の欲求が充足 されると、ひとつ高次の欲求が人格を支配するという欲求の階層性である。この欲求階層説は経営学の 人間観を大きく変革した。 この理論では、低次の欲求は「欠乏欲求」と呼ばれ、欠乏の解消が動機ずけになり、欠乏が解消した時点 でその満足度の緊張は解消する。それに対し、高次の欲求は、「成長欲求」と呼ばれ、人間は欲求充足に 向け、環境に積極的に働きかけ、その対象に関しても自律的に選択し、さらに欲求が充足されてもさらなる 衝動が出てくる終わりの無い欲求である。 この理論をもとに、人間の自律性を尊重する人的資源管理が近年多く使用されている。簡単に述べると、 個々の人間の活動のなかで、自分自身が環境に影響を及ぼしたとする達成感と、その職務については自 分が自身をもってなしえるという自信をあたえるような職務を従業員に与える手法である。 自己実現欲求 高次 承認欲求 愛情欲求・所属欲求 安全欲求 生理的欲求 低次
ERG理論・欲求の取得理論 クレイ・アルダーファーは、マズローの「欲求階層」をベースに、より現代的・効果的な「ERG理論」と称する欲 求理論を考案した。「E」「R」「G」は、この理論で扱う3種類の欲求の頭文字をとったものである。存在 (Existence)欲求は十分な身体的快適さを求めるといった欲求である。関連(Relatedness)欲求は、他者との 密接に関連し個人間の関係を持ちたいといった欲求である。成長(Growth)欲求は、創造的でありたい、仕 事を通して自分を表現したい、生産的でありたい、などである。この3つの欲求が、状況に応じて人々に 様々な動機づけを与えている。身体欲求から自己実現までの階層をあがるのは簡単なことではない、また、 複数の欲求は同時に働くこともある。そのために、各個人が職場で必要としているのは本当は何かを理解 するのは非常に複雑であるといえる。 ERG理論が、実際の職場でどう役立つか例を使って説明すると。ある社員が仕事仲間とうまくやっていけな い状況では、この社員の「関連欲求」が満たされていない状態である。たぶん、この従業員の欲求を満たす には人間関係のスキルを向上するようなトレーニングが有効かも知れない。 マック・クレーランドの欲求の取得理論では、人間はその成長過程で3つの大きな欲求を満たそうとすると 考える。3つの欲求は達成感を得る欲求、パワーを得る欲求、人間関係に関する欲求である。
人的資源管理 動機づけ問題 欲求を理解することは重要であるが、より直接的に動機ずけに影響を与えるも のは、報奨制度等の基本的な公平性について従業員がどう感じるかであると衡 平理論では仮定している。公平さの判断は「個人のインプット(仕事に対する努 力水準)と結果(賃金など)との比率を、関連する「他者」の同様な比率と比較す ることで出来る。衡平理論を支えるものは「労働は社会環境である」という考え 方である。うまり、「人間の性質を理解するには、私たちが常に他者とのかかわ りを持つ社会的な生き物であるという事実を考慮する必要がある」という考えで ある。 衡平理論によれば、動機づけ問題の大半は、職場での不公平感の軽減・排除 に関連している。不公平感の生まれる要因として、仕事の割り当てや報酬、勤 務評定や昇進といったプロセスに至るまで,多種多様である。
人的資源管理 権限関係 衡平理論が注視しているところは、企業内の人間の関連性である。この関連性に関してみると、 企業内では「権限」(Authority)の関連が非常に重要である。この「権限」には様々な種類がある。 強制的な権限、また、正当な権限、Referent(シンボル)、専門性の権限等などであるが、企業が うまく機能するのは、多くの場合、権限関係を重視しているおかげである。安定した世界では、マ ネージャーは一般社員より、経営幹部は中間管理職より、またCEO(代表取締)は他の経営幹部 より事態をよく把握しているという考えが支配的で、正当な権限は階層の上から下へと次々と降 りていく。この権限関係が円滑な組織運営につながる。だが、こうした権限への服従に従ってい れば全てがOKかというと、そうではない。 エール大学で行はれた有名な事件を通じて、スタンレー・ミルグラム教授が突き止めようとした のは、人々はなぜ従うのかという問題だった。彼が突き止めた結果は「ヒトは状況に応じて権限 に従うという傾向」があり、時に安易に不当な権限をも受け入れるということであり、この権限関 係に伴う力は非常に強力な行動の動機づけになる。
人的資源管理 動機づけ問題 企業の中で人々を動機付けることは、時にその企業の将来を左右することもあ り非常に重要である。その為、幾つかの手法が開発され現在でも多数の企業で は使用されている。これらの手法の中で幾つかをここで紹介しておく。 マネジメント・コミュニケーション X理論・Y理論 Job・Design - ローテーション、 Enlargement(拡張), Enrichment(高価値化)、 フレックス・タイム Behavior Modification(行動修正) - ポジティブ・ネガティブ修正要因 金銭的報酬 非金銭的報酬
人的資源管理 動機づけ問題 リカートのマネージメント・システム リカートはその動機の研究から、部下への信頼、コミュニケーション の度合いと方向、組織の意思決定の所在により、4つのマネージメ ント・システムがあることを明らかにした。一番低位のシステムでは 部下への信頼はまったく無く、コミュニケーションは上から下位の従 業員に対する指示のみで意思決定はトップが全て行う。一番上位の システムでは部下は完全に信頼され、コミュニケーションは全ての方 向にフリーに行はれ、意思決定にも参加することができる。動機付け の手法もそれぞれのシステムで大きく変える必要があることを彼の 研究で明らかにした。
モチベーションの文化的影響 パワー・アクセプタンス 不確定への容認度 個人主義・集団主義 男性的・女性的 社会がどれだけ権力の違いを許容するか 不確定への容認度 社会がどれだけ不確定な状況や不明瞭さを許容できるか 個人主義・集団主義 男性的・女性的 独断的、結果重視 寛容性
ハーズバーグの2要因理論 マズローやアルダーファーの理論は人間の要求を解き 明かすのに広く引用されているが、ハーズバーグの2要 因理論は職場に限定した理論として広く影響を与えてい る。 人が満足を感じるのは、仕事そのものに対してであり、 仕事を取り巻く要因には、満足を高めるような効果は期 待しにくいと考えた。そこで、前者を動機付け要因と呼び、 後者を衛生要因と呼んだ。 つまり、人のやる気を引き出そうと思えば、仕事そのもの にやりがいや責任を待たせることが必要で、環境を快適 にするとか、人間関係を良好にするといったことは、大切 ではあるが、それ自体がやる気を引き出すことにはつな がらない。
ハーズバーグの2要因理論
デシの内発的動機付け理論 デシの研究はハーズバーグの理論と同じように仕事 そのものに人は満足を見出すということをベースに、 大学の学生を対象に実験を実施した。 この実験により、人は本人の内発的要因により動機 づけられている時、金銭的報酬を与えることは、内発 的動機を損ねやる気を失わせてしまうことがあると主 張した。つまり、金銭的報酬が内発的動機によって すり替わってしまい、金銭的報酬が減少したり無く なってしまうと、やる気も減じられてしまうと考えた。
職務特性モデル Motivation Potential Score(MPS) パックマンとオルダムの職務特性モデルは、人のやる気 を引き出す仕事の特性を明らかにする目的で提唱された。 ある仕事の潜在的なモチベーションの程度(MPS)を次の 式で表すことができる。 (skill variety + task identity + task significant) MPS = X autonomy X feedback 3 Skill variety: 職務を遂行する上で必要な多様な技能 Task identity: 仕事の工程でどの程度かかわりを持っているか Task significant: その仕事がどの程度他者にインパクトを与えているか Autonomy: 仕事を行う上で、自由、独立性、裁量がどの程度持っているか Feedback: 仕事から得られるフィードバック
フロー体験 モティベーション研究で,フロー体験が最近よく紹介されている。内 容理論の中の内発的動機づけ理論に近い考えであるが,他の理 論ほど頻繁に取り上げられてきたわけではないので,ここでは KEYWORDの1つとして,詳細に見ていくこととしたい。 フロー体験について,チクセントミハイは,『フロー体験-喜びの現 象学』の中で,次のような例を引いて説明している。複雑で意欲を そそられる訴訟に関わっている若手弁護士の話である。 「彼女は数時間図書館にこもり,年上のパートナーのために資料を分析し, 訴訟についての可能な道筋の輪郭を措く。極度に注意を集中させるので, 昼食をとることも忘れ,空腹に気づく時には外はもう暗くなっているなどと いうこともよくある」。 つまり,やっていることに注意を集中し,我を忘れるほど打ち込んで いるような状態のことを意味している。それほど集中しているのだ から,当然やっている最中は楽しんでいる。モティベーション研究に おいて,最近このような現象が注目されている。 では,「フロー」とは何を意味しているのだろうか。チクセントミハイ によれば,面接をした人の多くが,自分の最高の状態のときの感じ を「流れている(floating)ような感じ」「流れ(flow)に運ばれた」と表 現したことによっているとのことである。
フロー体験 チクセントミハイによれば,フロー体験には次のような要素が ある。①能力を必要とする挑戦的活動,②行為と意識の融合, ③明確な目標とフィードバック,④いましていることへの注意 集中,⑤統制の逆説,⑥自意識の喪失,⑦時間の変換。①, ③,④は比較的理解しやすいが,②,⑤,⑥,⑦は少しわかり にくいかもしれない。 行為と意識の融合とは,行為にあまりにも深く没入しているの で,その行為から切り離された自分を意識することがなくなる ような状態である。 統制の逆説とは,状況や環境,あるいは世界を自分が統制し ているような感覚のことを意味している。 自意識の喪失とは,自分という意識がなくなってしまうような 状況である。我を忘れるという表現があてはまる。 時間の変換とは,「時間が普通とは異なる速さで進む」ような 状況である。何かに熱中していて,気がつけば思いもしない ほど時間が経過していたといった状況はこれにあてはまる。
フロー体験 フロー体験によって人は成長していくとされる。それ を図示したのが図である。
仕事の逆説 「仕事中,人々は能力を発揮し,何ものかに挑戦している。したがってより 多くの幸福・力・創造性・満足を感じる。自由時間には一般に取り立ててす ることがなく,能力は発揮されておらず,したがって寂しさ・弱さ・倦怠・不 満を感じることが多い。それにもかかわらず彼らは仕事を減らし,余暇を 増やしたがる」 これをチクセントミハイは,仕事の逆説としてとらえている。 では,私たちはどうして仕事に対して否定的なのだろうか。チクセントミハ イは以下のような理由をあげている。それは,仕事に関して,自分の感覚 が得た証拠を重視しないということである。つまり,直接的経験の質を無 視しているということである。いい仕事をして,充実感を得るような体験をし ても,それがストレートに仕事は楽しいものだという意識へは結びつかな いのである。そのかわりに,仕事とはこのようなものであるはずだという思 いにとりつかれている。仕事を義務,束縛,自由の侵害と考え,したがって できるだけ避けるべきものだと考えているというのである。 チクセントミハイの研究は,私たちに,「自分の仕事をもう一度よく見つめ なおしてみませんか?」と問いかけているように思える。「いくら仕事だから といって,楽しい部分については,素直に楽しいと考えてはどうですか?」 と。