宇宙マイクロ波背景放射 1 理論の部 樽家 篤史 (東大理) 2006/08/13-14 東北大自主セミナー 2006/08/13-14 東北大自主セミナー 「宇宙における構造形成とダークマター」 宇宙マイクロ波背景放射 1 理論の部 樽家 篤史 (東大理)
目次 理論の部 ~温度非等方性を中心に~ CMBとは何か?/ CMBに関わる物理 基礎方程式 CMB非等方性:4つの効果 まとめ 定性的ふるまいと解析的な取り扱い まとめ
文献 S.Dodelson, “Modern Cosmology” (Academic Press, 2003) 小松英一郎, “宇宙背景放射” (集中講義録, 2000) W.Hu, “Wandering in the Background” (Thesis, 1995) Hu & Sugiyama, Phys.Rev.D 51, 2599 (1995) ApJ 444, 489 (1995) ApJ 471, 542 (1996)
CMBとは何か?(1) Cosmic Microwave Background 宇宙マイクロ波背景放射 宇宙晴れ上がり時に発せられた光子のエネルギー分布 0次レベル 絶対温度2.7Kのプランク分布 (一様・等方) 1次レベル 0.01% の小さな温度のゆらぎ (非一様・非等方) Sachs-Wolfe 効果、トムソン散乱 物質密度のゆらぎ CMBは、宇宙の構造形成・進化を考える上での出発点
CMBとは何か?(2) CMB は、光の最終散乱面からやってくる天球面上の情報 膨張宇宙の幾何学を色濃く反映 宇宙の構造形成に関連して起こる2次的効果も反映 (再イオン化、SZ効果,重力レンズ、etc.) CMB anisotropy からわかること: 物質密度ゆらぎの初期条件 (パワースペクトル) 宇宙論パラメーター・物質組成比 ダークエイジの手がかり(再イオン化) さらに、 初期宇宙(インフレーション)の様子まで
CMBに関わる物理 (1) 再結合~脱結合の間に起こる、 ミクロな物理 光子と電子(バリオン)の電磁相互作用 マイクロ波背景放射 陽子 トムソン散乱 マイクロ波背景放射 陽子 晴れ上がり 電子 初期天体 銀河 宇宙の始まり 38万年 10億年 100億年 現在
CMBに関わる物理 (2) (インフレーションによる)超地平線サイズの密度ゆらぎの形成と一般相対論に基づく進化 マクロな物理 ゆらぎのサイズ (∝ 宇宙のスケール因子) 地平線サイズ(~ct) Physical length 晴れ上がり 時間 インフレーション 輻射優勢 物質優勢
CMBに関わる物理 (3) 0次レベル: フリードマン方程式 膨張宇宙の進化 イオン化率のレート方程式 再結合の物理 1次レベル: 宇宙論的摂動論 多成分物質系のゆらぎの進化 相対論的ボルツマン方程式 登場メンバー: CMB の観測 ニュートリノ 輻射(光子) 重力 トムソン散乱 大規模構造 の観測 CDM バリオン(電子)
基礎方程式(1) フリードマン方程式 a=1 で現在 は現在のハッブルパラメーター 密度パラメーター 曲率パラメーター
Distance-Redshift Relation Comoving radial distance : Angular diameter distance : Luminosity distance :
Distance-Redshift Relation
基礎方程式(2) (電子)イオン化率の時間発展 Sahaの式 Peeblesの式 (平衡状態) (非平衡反応) ※ は、n=2レベルの影響を考慮した補正因子
Recombination History RECFAST Sahaの式 RECFAST Multi-level calculation の結果を高精度で再現する近似計算コード Seager, Sasselov & Scott, (1999) CMBFAST などのボルツマンコードに実装
基礎方程式(4) ゆらぎの進化の記述: 曲がった空間での線形進化(宇宙論的摂動) 物質場の進化 相対論的ボルツマン方程式 時空の進化 平坦な時空上のスカラー型摂動(密度ゆらぎ)の場合、 計量テンソル Longitudinal gauge Newton ポテンシャル 曲率ゆらぎ 物質場の進化 相対論的ボルツマン方程式 時空の進化 アインシュタイン方程式
基礎方程式(5) 相対論的ボルツマン方程式 摂動量 C[f] 輻射(光子) トムソン散乱 バリオン トムソン散乱 なし CDM ニュートリノ プランク分布からのずれ トムソン散乱 分布関数のモーメント バリオン (電子) トムソン散乱 分布関数のモーメント なし CDM ニュートリノ (massless) プランク分布からのずれ なし
基礎方程式(5) 輻射(光子) バリオン CDM . ニュートリノ フーリエ変換 モーメント ルジャンドル関数 (電子) 共形時間 (massless)
コメント 輻射(とニュートリノ)の温度ゆらぎは、方向依存性を表す変数 μ に依存する 無限階層の連鎖方程式 モーメントを取ると、 輻射とバリオンの相互作用の強さは、 で決まる(時間的に変化する) 再結合~脱結合時に効く
基礎方程式(6) アインシュタイン方程式 Longitudinal gauge (00)-成分から (ij)-成分のトレースレス部分から 近似的に無視 非等方ストレス
基礎方程式のまとめ 0次 flatの場合 1次 (0th-1) (0th-2) (1st-1) (1st-2) (1st-3)
How to Solve Equations 得られた方程式をどうやって解くか? 直接、数値計算: CMBFAST, CAMB, CMBEASY, … 0.1%以下の高精度で、CMBの角度パワースペクトル、 質量密度ゆらぎのパワースペクトルが、高速に求まる その前に… 初期条件 観測量との対応
初期条件 得られた基礎方程式を解く際に、どんな初期条件を課せばよいか? 十分過去にさかのぼると、 断熱ゆらぎの条件 等曲率ゆらぎの初期条件 (輻射優勢期) (ゆらぎの波長が、地平線スケールを超える) 断熱ゆらぎの条件 等曲率ゆらぎの初期条件
観測量との対応:CMB 観測から求まるもの: 温度マップ 統計量として評価: 理論計算から求まるもの: (※) アンサンブル平均 角度 パワースペクトル 一方、 理論計算から求まるもの: 原始密度ゆらぎのスペクトル 密度ゆらぎの 初期振幅を1 に規格化 (※)
理論計算例 adiabatic isocurvature by CMBFAST4.5.1 再イオン化なし 重力レンズ効果なし ns=1 (adiabatic) ns=2 (isocurvature) by CMBFAST4.5.1
Primary Anisotropy Sachs-Wolfe(SW) effect (インフレーション時の)原始ゆらぎの情報を含む Integrated Sachs-Wolfe (ISW) effect 宇宙膨張の変化に伴う重力ポテンシャルの動的変化 Acoustic oscillation 宇宙の曲率・バリオン密度に敏感 Diffusion damping CDM・バリオン密度に敏感
Primary Anisotropy & Cl Log scale Linear scale Acoustic oscillation Acoustic oscillation ISW effect SW effect SW effect Diffusion damping
Integral solution 摂動方程式 : (1st-1) 無視 形式解 モーメントを取って部分積分:
Visibility function & Optical depth Last scattering surface (最終散乱面)
Approximate Expression Visibility function のふるまいから、 (★) :最終散乱面 の時刻 Early type Integrated Sachs-Wolfe 項 Late type (Recombination以後に効く)
Large-scale Anisotropy (★) 式の第1,2項の評価をするため、摂動方程式 (1st-1) : 長波長極限 (k→0) : 初期条件より 解 より、 断熱ゆらぎ 等曲率ゆらぎ これがいわゆる、「Sachs-Wolfe 効果」 原始密度ゆらぎの痕跡
Simple Derivation of Factor 1/3 (W.Hu, Lecture note より)
Small-scale Anisotropy 引き続き、 (★) 式の第1、2項の評価に戻って… 小スケール のふるまいに着目 : トムソン散乱が強く効く の状況で、摂動方程式 を見直すと、 (1st-1) (1st-4) は無視 (1st-1) モーメントを取った で (1st-4)
Tight-coupling Approximation (1st-1) (1st-4) (1st-4) (1st-1) 第2式に代入: (1st-1) 第1式を時間微分(d/dh)した後、上式を代入し、 を消去
Acoustic Oscillation(1) 調和振動子型の方程式に帰着: : sound velocity of baryon-photon fluid WKB近似解: C1, C2 は任意定数 : sound horizon
Acoustic Oscillation(2) と思うと、 (★) 式の第1項: 振動項 定数項 実線: 波線: 奇数次と偶数次のピークの高さの比が、バリオン密度に依存して異なる
コメント(1) 断熱ゆらぎなら、cos型、等曲率ゆらぎなら、sin型 ピークの位置 角度パワースペクトルに現れるピークの位置 (断熱ゆらぎ) ピークの位置 (等曲率ゆらぎ) 角度パワースペクトルに現れるピークの位置 cos or sin (※) 式より、 (注・ flat の場合)
コメント(2) (続き) 一般には、 特に曲率パラメーター に敏感 Diffusion damping Comoving angular diameter distance 特に曲率パラメーター に敏感 Diffusion damping Tight-coupling 近似の高次効果: トムソン散乱によるゆらぎの減衰
宇宙論パラメーター依存性(1) バリオン密度と音響振動 1st peak と 2nd peak の振幅比 断熱ゆらぎ バリオン密度大 バリオン密度小 断熱ゆらぎ
宇宙論パラメーター依存性(2) 曲率パラメーターと音響振動 Doppler peak の位置 Doppler peak の高さ 断熱ゆらぎ 曲率大 Doppler peak の位置 Doppler peak の高さ 密度パラメーター大 曲率小 密度パラメーター小 断熱ゆらぎ
バリオン振動との関係 Baryon acoustic oscillation (BAO) Percival et al. astro-ph/0608636 質量密度ゆらぎのパワースペクトル P(k) に現れる振動 SDSS Main sample + LRG (77800個) 脱結合前に、輻射と強く結合していたバリオンの音響振動の痕跡 振動の空間スケールを“ものさし”にすれば、距離-赤方偏移関係がわかる ダークエネルギーの性質
Velocity overshoot effect パワースペクトル: Growing mode 脱結合後、 Decaying mode 振動 Tight-coupling limit : (断熱ゆらぎのとき)
Evolution of linear P(k)
Secondary Anisotropy 宇宙再イオン化 重力レンズ効果 Sunyaev-Zel’dovich (SZ) 効果 Zaldarriaga (1997) 重力レンズ効果 Seljak (1996); Zaldarriaga & Seljak (1998) Sunyaev-Zel’dovich (SZ) 効果 Komatsu & Kitayama (1999); Komatsu & Seljak (2002) Ostriker-Vishniac (OV) 効果 Rees-Sciama (RS) 効果
Variation of Angular Spectrum 再イオン化の影響 (Thomson optical depth) 重力レンズの影響 レンズ効果なし レンズ効果あり
Cl of secondary anisotropy (Hu & Dodelson 2002) 再イオン化を除くと、primary anisotropy を凌駕しうるのは、小スケールにおいてのみ
まとめ CMB非等方性の物理: 宇宙晴れ上がり時の物理素過程 相対論的ボルツマン方程式 大スケールのゆらぎの進化 宇宙論的摂動 大角度 Sachs Wolfe 原始密度ゆらぎの情報 Integrated Sachs Wolfe ポテンシャルの時間変動 Acoustic oscillation バリオン密度・曲率パラメーターに敏感 小角度 Diffusion damping バリオン密度・CDM密度に敏感
付録
Legendre polynomial 定義 (漸化式) (積分公式)
More on Cosmological Dependencies Angular projection Late-time ISW Late-time ISW Baryon compression Early-time ISW Fiducial model parameters: Hu & Dodelson (2002)