経営学Ⅰ テクノロジーと技術革新.

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経営学Ⅰ テクノロジーと技術革新

テクノロジー テクノロジーは、ノウハウである。ハイテクであろうともロウテクであると問わず、テクノロジーとは、物事のやり方について我々が知っていることを表現するものである。 テクノロジーは、企業が価値連鎖のなかで行う全てのプロセスに体現されている。 テクノロジーの変化は、企業が行う活動だけでなく、活動相互の関係や企業同士の関係にも影響を与える。 テクノロジーは、企業が何を作り、何を相手に競争するかにも影響を与えるものである。したがって、テクノロジーの進歩はビジネスに大きな影響を与える。 テクノロジーの変化は、産業の競争優位の基盤を変化させ、企業に大きなチャンスや脅威を与える。 産業レベルでは、テクノロジーの変化が業界の様相を一新し、衰退する企業/勃興する企業の明暗を分ける。このテクノロジーの変化を理解する企業は優位にたつ機会を得ることができる。 企業レベルでは、社内のテクノロジー/技術革新のマネジメントが優れていれば競争優位を生み出す重要なソースとなりうる。そこで、ここではテクノロジー/技術革新マネジメントにおける3つの重要なテーマについて見ていくことにする。それらは、1)適切なタイミングで適切なプロジェクトを追求する、テクノロジー戦略の開発、2)商業成功と競争優位を実現する技術革新マネジメント、3)技術革新の組織化。

テクノロジー テクノロジー戦略の開発 テクノロジー戦略とは、製品テクノロジーとプロセステクノロジーの開発・活用について、企業がどのような優先順位をつけるかということである。 ここで留意すべきことは、テクノロジーが社内全体で、あらゆる活動において用いられる点である。であるから、テクノロジー戦略を開発する際には、社内の機能全般に目を配ることになる。 テクノロジー開発に対するコミットメントに優先順位をつける際に、テクノロジーの評価が必要になる。そこで、テクノロジーを評価する5つのステップは、1)主要テクノロジーを見極める、2)現在・将来の主要テクノロジーが変化する可能性を分析する、3)主要テクノロジーが競争に与える影響を分析する、4)自社のテクノロジー面の長所・短所を分析する、5)研究開発プロジェクト、テクノロジー所得に関する暫定的な優先順位を決定する。

テクノロジー 主要テクノロジーを見極める ここで確認すべきテクノロジーは、製品テクノロジーや製造プロセス・テクノロジーだけではなく、マーケティング、情報管理、顧客サービス、研究など様々な部門で用いられるテクノロジーも含まれる。さらに、自社で用いられるテクノロジーだけでなく、競合他社、取引しているサプライヤーや顧客が使っているテクノロジーも含まれる。

テクノロジー 現在・将来の主要テクノロジーの変化の分析 テクノロジーの変化を予測するには、そのテクノロジーに詳しい人が必要である。また、建設的な批判をおこなう人も、技術者偏向の常識に無批判に寄りかかった予測が生まれるのを防ぎ、予期せぬ変化がどのように生じるかにも一考を促すのである。

テクノロジー 主要テクノロジーが競争に与える影響 競争に与える影響を分析することによって、どのテクノロジーが企業に最大の競争優位をあたえるか、競合他社の手に渡れば最大の脅威になるか、あるいは業界の構造を大きく変えるかといったことが確認できる。こうした視点から、テクノロジーは「ベース」「キー」「ぺーシング」に分類できる。 ベース・テクノロジーは必要であるが、競争優位を生む源とはならない。業界内でよく理解され、広く使用されている。長期的に改善していくことは競争力を保つのに必要であるが、こうした改善はすぐに競合他社に真似されてしまい競争優位をもたらしてはくれない。 キー・テクノロジーは競争優位を得るうえで必須うである。特許や傑出した専門能力などにより、企業独自の物となっている場合が多い。 ペーシング・テクノロジーとは、競争の基盤を全面的に変えたり、業界を一新する可能性を秘めたものである。実績のある企業はペーシング・テクノロジーを見逃しがちである。理由は、従来のものとあまりに違っていたり、既存の製品と共食いになる可能性があったり、これまで成功の鍵だった既存のプロセスに変わるものだったりするからである。したがって、強力なキー・テクノロジーを持つ企業は、ペーシング・テクノロジーの予測に失敗するリスクに備えておく必要がある。

テクノロジー 自社のテクノロジーの長所・短所の分析 競争上の影響に対する評価を完了するには、各レベルのテクノロジーについて、自社の長所と短所を評価し、各テクノロジーを改善する予想コストを見積もらなくてはならない。 プライドや、競合他社の能力を認めることへの難しさから、この評価が、客観性を欠く可能性がある。この場合、テクノロジーを理解している専門家など外部の人を含んで評価することが必要かもしれない。

テクノロジー テクノロジー・ポートフォリオ テクノロジー戦略を開発するには、自社の競争戦略を分析し、テクノロジー戦略の成果が、競争上の地位や競争優位に関する自社の目標にどう貢献するか理解しなくてはいけない。そのために、7つの原則が重要である。 原則1: テクノロジー戦略は、企業の現在・将来の競争優位の源を明確にささえるものでなくてはならない。 原則2: 技術革新が常に価値を生むとは限らない。 原則3: 市場のニーズに奉仕する技術革新は必ず成功する。まったく新しい製品・サービスを導入する場合、将来の市場規模を綿密に推測するより、先駆的な消費者を慎重に確認することが大切である。

テクノロジー テクノロジー・ポートフォリオ 原則4: 技術革新だけでは、価値を実際に「つかむ」のに不十分である 原則5: 市場もしくはテクノロジー(あるいはその双方)に馴染んでいれば、新製品・サービスを導入する際に役に立つ。 原則6: 独占的な保護、強力かつ迅速な研究開発、技術的な複雑さ、補完的な資産があれば、価値を「つかむ」チャンスが広がる。 原則7: 研究の成果にはどうしても不確実性が付きまとう、資源の割り当ての際には、成功の確率と利益への影響力を考慮することが不可欠である。

テクノロジー テクノロジー・ポートフォリオ 売上高に対する影響(利益額) ワイルドカード 推進 中止 過剰投資は禁物 成功の確率(技術的成功X商業的成功)

テクノロジー テクノロジー・ポートフォリオ 成功の確率と売り上げへの影響力lがともに大きければ、協力に推進する意義がある。 成功の確率は高いが売り上げへの影響力が小さいプロジェクトは、低リスク・低リターンのプロジェクトである。こういったプロジェクトに過剰投資は間違っている。 成功の確率は低く売り上げへの影響力も低いプロジェクトは無視・中止すべきである。 売り上げへの影響力は高いが成功への確立が低い場合、そのプロジェクトは「大穴」であり、何が結果とでるかわからない。更なる分析が必要かもしれない。

テクノロジー テクノロジー・ポートフォリオ 技術革新・テクノロジー関連プロジェクトをどうそろえるかという選択には、重要なバランス感覚が必要とされる。リスクと潜在的な利益のバランスをとらねばならないのはもとより、既存の製品・サービスと新製品・新サービスの創造とのバランスもとらねばならない。健全なテクノロジー戦略に関してThomas C.MacAvoyが提唱した特徴をリストしておく。 企業の競争戦略を支援する。 企業の競争上のポジショニングにおけるテクノロジーの役割を拡大する。 短期・長期の双方の視野をもつ。 最終目標・逐次目標をそなえた大型プロジェクトが確認できる。 必要な資源が確認でき、企業の金融プラン・予算との整合性がある。 達成度を測定する方法が備わっている。 よく理解され、伝達されている。 戦略を実施する中心人物にやる気がある。

テクノロジー 技術革新プロセスの管理 技術革新とは、アイデアを価値に転換するプロセスである。このプロセスはよく段階・ゲート型のモデルに例えられる。 知識の構築 採算性の判断 現実性の検証 確立の実証 商品化 継続的改善の維持 立ち上げ アイデアを得る アイデアがうまくいくことを証明する 開発と検証 規模の拡大

テクノロジー 技術革新プロセスの管理 知識の構築 採算性の判断 現実性の検証 確率の実証 商品化 初期コストは低い 不明確 不確実性の低下に伴い、コストの増加 技術的な成果に対する明確な判断基準が重要 市場のポテンシャルの考慮 現実性の検証 プロトタイプと顧客によるテスト 商品化に伴う潜在的問題点の究明 継続的な市場調査 確率の実証 テスト生産開始 製造プラン・マーケティングプランの策定 不確実性の解消が重要なテーマ 商品化 商業的な立ち上げ 問題点の迅速な解決 品質改善、製造コスト削減、生産ラインの拡張、顧客サービスの充実

テクノロジー 技術革新の組織化 技術革新のプロセスを通じてアイデアをうまく商品化に結びつける力量は、企業によって差があるようだが、こうした企業が成功を続けられるのは決して偶然ではない。こうした企業には技術革新をうまく管理し、優れた組織と、高いモチベーションを持った従業員が存在する。マネージャーは技術革新を刺激し支援する背式構造をどう定義するかという重要な判断を迫られているのである。 組織の中に「保護区(reservation)」、つまり技術革新を育てるための特別な部分を設けておくことは効果的である。 技術革新のために独立した保護区を設ける方法はいろいろある。 物理的な距離 専門の研究所 具体的な技術革新プロジェクトに専念する一時的なチーム 合弁事業もしくは研究開発協力 社員に起業家的なインセンティブをあたえる新規事業 サプライヤー・流通業者との協力を通じ技術革新を推進する社外チーム

テクノロジー 技術革新の組織化 分離か統合 既存事業との分離を進めれば創造性は高まるかもしれないが,それによって得られる成果を統合する際の苦労が増すことにもなる。したがって、どの程度分離するかは一概に言いがたい問題である。テクノロジー集約性が高い複雑な場合は、分離を進めれば移送効率的かもしれない。また逆に、技術革新のアイデアが製造部門やマーケッティング部門から生まれる傾向が強ければ、既存事業に近いところで定期的な接触を欠かさないことが必須であろう。

テクノロジー 構造の柔軟性 技術革新部門をどの程度まで分離するかという判断は、どの程度まで柔軟性を持たせるかという判断と切り離せない。柔軟性には2つの意味がある、1)迅速に大掛かりなプロジェクトを立ち上げることで、企業は非常に大きな利益をもたらす可能性を秘めたチャンスに他社よりも迅速に取り組みえる立場に立てる。2)担当者が比較的簡単に別のプロジェクトへ移動でき、難航しているプロジェクトも大騒ぎせず、社員の士気も落とすことなく中止できる。

テクノロジー 成功の秘訣 成功を収めた企業の実例を見ると、技術革新・テクノロジー開発のマネジメントで大きな成功は、すでに開拓された市場における改善よりも、市場における巨大な空白部分を狙った取り組みによってなされている。だが空白な市場であれば何でもうまくいくのではなく、企業がアクセスが可能な市場であることが必要で、さらに企業の技術的能力がその市場に奉仕するだけの水準でなければいけない。 不確実性というと、マイナスのイメージがあるが、研究開発のマネジメントという点では、チャンスの印であり、不確実性が高いほど、それだけ高い見返りを得るチャンスも生まれる。見通しが暗ければ、速やかにプロジェクトを中止する心構えをもち、さらに、大きなチャンスには失敗の可能性も高いことを認めなければいけない。

イノベーションと競争 イノベーションの類型 イノベーションと利益 破壊的イノベーション Incremental イノベーション 知的財産 補完的な資産のコントロール 技術特性による模倣困難性 新製品の連続投入

燃料噴出装置 ペンディクス社はガソリンエンジン用の燃料噴出装置を発明したが、それによってどのような価値が生まれるかほとんど考えていなかった。燃料噴出装置は、燃費を向上させ、排出物を抑え、ほぼどんな運転状況でもエンジンの性能を向上させる。だが、こうした特性は、1967年当時の米国のドライバーにとっては、特に価値のあるものではなかった。欧州では米国に比べ燃料価格が高く排気ガス規制も厳しかったから、市場の存在もはっきりしていた。ペンディクス社は欧州企業のボッシュに対し、この燃料噴出技術についての11年契約のライセンスを与えた。ボッシュはこの技術をさらに進歩させ、1970年半ばには、欧州市場を手中に収め、日本市場に進出し、さらに、米国市場でも販売を開始した。 どの原則をしっていれば、ペンディクス社がこの技術で成功を収められたでしょうか。

CTスキャン CTスキャンをEMIのゴッドフリー・ハウンズフィールドが開発したのは、脳をスキャンするためであった。当時、脳スキャンの市場は小さく、脳スキャンの費用が保険の対象にもならなかった。さらに、せっかくスキャンが患部を探知しても、満足な治療法がほとんどなかったのである。このテクノジーが普及するには、全身をスキャンできるような数世代後のテクノロジーが開発されるのを待たねばならなかった。この新しい世代のスキャンによって、治療法の存在する症状の診断にも使えるようになったのである。ゼネラル・エレクトリック社はこの世代のCTスキャンにおける技術革新で利益を得た。だが、当のEMIは、発明の8年後にこの分野から完全に撤退している。CATスキャンの発明がノーベル賞を受けただけにEMIの失敗は非常に印象的である。 なぜ、EMIは失敗してGEが成功したのか。