火山噴火危機における国と自治体の役割 早川由紀夫 (群馬大学教育学部) 2004年12月13日、鹿児島県国分市
Iraq 2004年4月、大きな社会問題になったイラク人質拘束事件と火山噴火危機は、その問題点がよく似ている。 それは、緊急時における私権の制限の問題である。
意見の対立点 政府の主張 イラクは危険すぎて邦人保護を実現できない。いかなる理由があろうとも、イラクへの渡航は自粛してほしい。(外務大臣) 「民間人」の主張 危険を承知の上で、イラクに行く。死は覚悟している。他人からあれこれ言われたくない。
義務と自由 国民を守る義務 移転の自由 報道の自由
イラク人質問題の解 罰則をもって渡航を禁じるのは、憲法22条『移転の自由』に反するから、できない。 危険の程度と内容をできるだけ詳しく説明したのち(説明責任)、渡航の自粛を粘り強く要請する。 それでも渡航したい人は、自己責任で行ってよい。 万一の場合、政府は邦人を保護するためにできるだけの努力をしなければならない。 一方、渡航者は、政府が保護してくれることを期待してはならない。
火山災害時の立入り制限 火山災害時には、災害対策基本法63条に基づいて、警戒区域が長期に渡って設定されることがある。 違反者には、罰則がある。10万円以下の罰金または拘留。 警戒区域設定による損失補償がなされたことは、ない。
居住地への立入りが制限された火山噴火の例 伊豆大島1986 1ヶ月 法的根拠なし 雲仙岳1991 1年余 63条 有珠山2000 数ヶ月 60条(罰則なし) 三宅島2000- 4年3ヶ月(継続中) 60条 浅間山1973- 31年10ヶ月(継続中) 63条 ただし山体部分の非居住地域のみ
伊豆大島1986 警察と町役場 一夜のうちの全島避難。霞ヶ関の影。軍事演習 行政判断することを拒んだ火山噴火予知連絡会 鈴木都知事のリーダーシップによる早期帰島「嵐の前の静けさではない」
火山噴火予知連絡会 火山専門家と防災にかかわる行政官からなる。 測地学審議会の建議に沿って1974年に組織された気象庁長官の私的諮問機関である。 私的諮問機関は審議会と違って法令上に設置根拠をもたないが、しばしば審議会より大きな権威をもつ。 噴火予知連も、伊豆大島1986年噴火や雲仙岳1991年噴火などの経験を通して、現在進行中の噴火現象についての総合判断を下す国の最高意思決定機関であると社会に認知されるようになった。
雲仙岳1991 市議会選挙のさなか、避難勧告を一部解除。その後の惨事。43人の犠牲者。 火砕流惨事後、厳重な警戒を叫び続け、警戒区域内への立ち入りを禁じた。市街地への警戒区域設定は初めて。小川一本へだてたホテルが営業停止→廃業? 自衛隊の活動 鎌田慧フライデー事件 警戒区域内の写真を実費配布した警察官
災害対策基本法(1) 国の災害対策の基本となる重要な法律。1959年9月の伊勢湾台風のあと1961年に作られた。 避難勧告:災害対策基本法60条にもとづいて、市町村長が発する。 避難の指示:災害対策基本法60条にもとづいて、市町村長が発する。事態が急を要する場合に出される。 避難命令:日本の法律に避難命令の規定はない。ただし災害対策基本法63条に、「当該区域からの退去を命ずることができる」とある。これを退去命令あるいは避難命令だと解釈することは可能だろう。
災害対策基本法(2) 警戒区域指定:災害対策基本法63条にもとづいて,市町村長が発する.60条が対人的指定であるにくらべて,63条は地域的指定である.これには罰則規定があり,違反したものには10万円以下の罰金または拘留が処せられる(116条). 車両通行制限:災害対策基本法76条によって都道府県公安委員会が発する.これにも罰則規定があり,違反したものには3月以下の懲役または20万円以下の罰金が処せられる(114条). (抜け道)徒歩ならOK
防災会議 防災を実現するために、国は中央防災会議を内閣府に置いている。 地方公共団体は、地方防災会議を置く。 ただし都道府県防災会議はどの都道府県にも設置されているが、市町村防災会議は必ずしも設置しなくてよい。 防災会議は、平時の防災計画および災害発生時の緊急措置を作成する。
災害対策本部 災害が起こると、都道府県知事または市町村長は、みずからが本部長になる災害対策本部を設置する。 国家的立場から災害応急対策を推進しなければならないほどの災害が発生したときには、国務大臣が本部長となる非常災害対策本部が内閣府に設置される。 首都東京が壊滅的打撃を受けるような、国が総力を挙げて災害応急対策の推進に当たらなければならないときには、内閣総理大臣みずからが本部長となる緊急災害対策本部が設置される。 国の経済に重大な影響を及ぼすような異常かつ激甚な災害が発生したときは、内閣総理大臣が災害緊急事態を布告する。これには金融モラトリアムが含まれる。
風評被害 観光業への打撃 「雲仙岳」ではなく「普賢岳」 「本日00時から15時までの火山性地震の回数は59回で、火山性微動の 発生はありませんでした。なお、火山性地震はすべて体に感じない微小なものです。 」(浅間山の火山情報)
有珠山2000 伊達霞ヶ関。ちょうど省庁再編と国政選挙だった。 月浦側での自衛隊。サンパレス側の警察官。伊達警察署次長の本音 洞爺湖の水面にも避難指示を出した奇異 避難指示区域内に留まった男性を戦車で救出 動物愛好家によるペット救出強行
公の責任 わが国の火山監視の責任機関は、気象庁である。 しかし実際には、内閣府・国土交通省・大学などが協力して火山防災にあたっている。 アメリカでは、合衆国地質調査所(USGS)に権限と責任が一極集中している。
気象庁は、 火山警報を出す義務を負っていない 気象業務法第13条 気象庁は、政令の定めるところにより、気象、地象(地震及び火山現象を除く。この章において以下同じ。)、津波、高潮、波浪及び洪水についての一般の利用に適合する予報及び警報をしなければならない。
気象庁が出す火山情報 緊急火山情報(警報にあたる) 臨時火山情報(注意報にあたる) 火山観測情報 このほかに、毎週毎月毎年出す定期情報がある。
警察官職務執行法 警察官が職権職務を忠実に遂行するために,必要な手段を定めている.4条が,災害対策基本法61条と63条に定められた避難等の通知の具体的方法を規定している. (避難等の通知)第4条 警察官は、人の生命若しくは身体に危害を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる。
強制保護とペット
三宅島2000 6月26日の緊急火山情報に都知事が過剰反応して自衛隊を派遣。 島民はのんびり 地震が続く中、東京都は災害対策本部を早期解散 8月、島を脱出したい村民および村の希望を都が聞かず、島内にとどめた。 避難してきた島民を分散して居住させた東京都。 親と子を切り離し、小学校低学年まで合宿生活させた東京都教育委員会。 それをそのまま受け入れた村と村民。 島内作業は続けつつ、住民の帰島を許さなかった東京都。
自主避難のグラフ
浅間山2004 災害対策基本法63条を使った登山規制を1973年から 2003年11月から規制範囲を気象庁の危険レベルとの連動させる 県境をまたいだ火山の特殊事情 有名観光地 軽井沢 ハザードマップ疑惑 危険レベル判定疑惑
説明責任と 自己責任 キラウエアの例
気象庁レベルと警戒区域の連動
長野原町営 浅間火山博物館 ハザードマップ 国土地理院地形図
浅間山 火山活動度レベル レベル 火山の状態 噴火の形態 事例 (活動履歴) 5 広範囲まで及ぶ大規模噴火が発生または可能性 遠方まで火砕流または溶岩流が到達して広域に影響するような大規模噴火が発生した。 または、上記のような噴火の可能性がある。 山麓まで噴出物が降下、溶岩流の流出、火砕流の発生の可能性がある。 ・天仁、天明の大噴火(山麓まで火砕流、岩屑なだれ) 4 山麓まで及ぶ中~大規模噴火が発生または可能性 遠方まで噴石が飛散、あるいは火砕流または溶岩流など、居住地まで影響するような中~大規模噴火が発生した。 または、上記のような噴火の可能性がある。 山頂火口から3km以遠、山麓まで噴出物降下、空振の影響の可能性がある。小規模の火砕流もあり得る。 ・1950年9月23日の噴火(火口から8km以上離れた場所に噴石) ・1973年の噴火 3 山頂火口で小~中噴火が発生または可能性 小~中規模噴火が発生した。 または 地震が群発したり、火映、鳴動が観測されるなど小~中規模噴火の発生の可能性がある。 山頂火口から2~3km程度以内まで、噴石を飛散したりごく小規模な火砕流を伴う噴火もあり得る。 ・1983年4月8日の噴火(空振で山麓のガラス等に被害) ・2000年9月、2002年6月の地震群発 2 やや活発な火山活動 噴煙がやや多くなったり、火山性地震が時々多発、微動が発生するなど火山活動がやや活発である。 火山性ガスの顕著な放出や微小な噴火(火山灰の放出など)があり得る。 山頂火口付近に微量の火山灰の噴出もあり得る。 ・2002年5月以降の噴煙活動の活発化、火口の温度上昇 ・1990、2003年の微噴火
噴火災害への行動心得 宮崎県消防防災課のページより