第3課 理想のエネルギー ―原子力 背景知識
福井新聞 「美浜原発3号機 死傷事件」 九日午後三時半ごろ、営業運転中の関西電力美浜原発3号機(加圧水型軽水炉、出力八二・六万キロワット)=美浜町丹生=で、タービン建屋内の二次系配管が破損して蒸気が漏れる事故が起きた。現場で作業をしていた十一人が蒸気を浴び、四人が死亡、七人が重軽傷を負った。国内の運転中の原発で複数の死者が出るのは初めて。放射能による周辺環境への影響はなかったが、原発史上で過去最悪の事態となった。 経済産業省は美浜原子力保安官事務所に現地事故対策本部を設置。原子力安全・保安院の井田久雄審議官を派遣した。県も事故対策本部を設け、医療面の支援や原因調査などの対応に当たっている。 関電の発表や県に入った連絡によると、同日午後三時二十八分、蒸気発生器の水位が減ったことを示す警報が出て原子炉が自動停止、タービンも自動で止まった。配管が破損して蒸気が漏れたことから、タービン建屋内は高温の蒸気が充満し、近くにいた作業員が死傷した。
死傷したのは、関電の協力企業の木内計測(本社・大阪市)の社員十一人。今月十四日から始まる定期検査に備え、朝からタービン建屋の二階部分で作業区域をフェンスで仕切ったり、工具類を搬入するなどの準備作業をしていたという。当時建屋内には約二百人の作業員がいた。 蒸気が噴出したのは三系統ある二次冷却水系の一つ。タービンを通った後、水になった冷却水を温め直して蒸気発生器に送る復水配管で、低圧給水加熱器から脱気器に至る部分。破断した個所はタービン建屋の二階天井付近を通る位置にあった。 配管は外径が五十六センチ、厚さ一センチの炭 素鋼製。配管内の冷却水は約十気圧で水温は百四十度。県などの立ち入り検査の結果、破れた配管の一部はめくれて垂れ下がった状態になっていた。配管の厚さは最も薄いところで○・一四センチになっていた。通常は周囲を覆っている保温材も残っておらず、破損によって圧力の下がった水が蒸気に変わり、一気に噴き出したとみられる。 国などは今後詳しい原因を調べるが、古くなった配管が腐食で減肉し破れる延性割れの疑いが強いとの指摘が出ている。当該部分は運転開始から一度も点検や交換が行われておらず、他原発も含めた検査体制も問われそうだ。
今後の原発政策への影響について西川知事は、記者会見で「当面の対策に全力を挙げるが、運転中の原発事故だけに重大に受け止めるべきだと思う」と指摘。高浜原発での実施に向けて手続きが進むプルサーマル計画への影響は不可避との見通しを示唆。美浜町が誘致表明した使用済み核燃料中間貯蔵施設の行方にも、影響を与えるのは確実だ。
真下に断層!原発停止で電力不足必至 新潟県中越沖地震で、地震を起こした断層が柏崎刈羽原発(同県柏崎市)の直下まで延びている可能性があることが18日、気象庁の分析で分かった。火災が発生した同原発では、施設内の地盤に隆起や陥没も見つかった。柏崎市の会田洋市長は東京電力の勝俣恒久社長らを呼び、消防法に基づいて同原発の安全が確認されるまで運転しないよう緊急停止命令を出した。運転再開は夏の電力需要期に間に合わない見通しで、今夏は酷暑となる恐れも出てきた。 衝撃の分析結果だった。気象庁などによると、中越沖地震の震源地は柏崎刈羽原発の北約9キロで、震源の深さは約17キロ。海底の断層が激しい揺れを引き起こした。余震の震源地は本震の震源から南西約30キロにわたって広がっている。余震分布を分析した結果、断層面は海側から陸地側に向かって延び、同原発の直下に及ぶ可能性が浮上した。断層までの深さは推定で約20キロ。専門家によれば、危険性は低いというが、同原発は事前調査で断層を見つけることを前提に建設されており、調査のあり方などが問われるのは必至だ。それだけではない。柏崎市が地震発生翌日の17日に立ち入り検査を実施した結果、同原発内の地盤に隆起や陥没を複数発見。さらに、避雷鉄塔の部材が一部破損していたほか、3号機のタービン建屋ではパネルが外れるなど、新たにトラブルが3件確認され、合計で53件に達した。会田市長はこの日、勝俣社長らを市役所に呼び「このままの状態で運転していただくことは難しい」と緊急停止命令を出した。勝俣社長は「ご心配を掛け、心よりおわびします」と謝罪した。命令の対象は油類の屋外貯蔵庫やタービンなど。同原発は甘利明経済産業相の指示ですでに全7基が停止しているが、これらの施設の安全が確認されるまでは停止したままの状態だ。消防法に基づく停止命令は高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏えい事故(1995年)に次いで2例目。国の原子力政策にも影響を与えることが予想される。東京電力はこの日、安全点検のため同原発の運転再開が夏の電力需要期に間に合わないとの見通しを発表。関西電力など電力6社に、不足する可能性がある電力の供給を要請した。東京電力は通常の夏の最大電力を1時間当たり平均6110万キロワット、猛暑時で6400万キロワットと予測している。このうち刈羽原発の出力は約13%の約820万キロワット。同電力の供給エリアの関東地区が電力不足で、例年にない酷暑に見舞われる恐れもありそうだ。
●放射性廃棄物の処理方法 原子力発電に伴い、高レベル放射性廃棄物が発生しています わが国の総発電電力量の約3分の1を占める原子力発電の結果、放射能レベルが高い廃棄物(高レベル放射性廃棄物)が発生します。 これは、化石燃料を燃やす火力発電によって発生する二酸化炭素と同様に、電気を得ようとすれば避けられない廃棄物です。 わが国では、原子力発電で使った燃料を再処理して、ウランとプルトニウムを回収しますが、その際、放射能レベルの高い廃液が分離されます。この廃液をガラス原料と混ぜて高温で融かし、ステンレス製の容器の中で固めたものをガラス固化体といい、わが国の高レベル放射性廃棄物はこのガラス固化体の形で発生することになります。原子力発電を開始して以来、約40年経過しているわが国には、既にガラス固化体に換算して20,400本(2006年末)相当が存在しています。 現在は、地上に設けられた貯蔵施設で安全に保管されています。このような保管方法は、期間が限られていれば技術的にも経済的にも問題ありませんが、高レベル放射性廃棄物対策としては数万年といった長い期間を考える必要があります。その間、貯蔵施設の建て替えや維持・管理を何世代にもわたってし続けることになると、後世に大変な負担を残してしまうことになります。 放射能は時間の経過とともに減衰するという固有の性質がありますので、高レベル放射性廃棄物についても人間の生活環境から遠く離れた場所に置き、そこに確実に留めておくことが有効な解決策になります。このような「遠く離れた場所」として空(宇宙)、海中、地中などが考えられますが、この中でも地下深部は、ものの動きが極めて小さいこと、人間が容易には近づけないこと、自国内で実施することができることなどから、最もふさわしい場所と言えます。