参議院厚生労働委員会レクチャー 「保育改革と育児保険構想 について」 参議院厚生労働委員会レクチャー 「保育改革と育児保険構想 について」 東京学芸大学 鈴木 亘 本プレゼンテーションで用いている多くの図表は、筆者が委員として分析を担当した内閣府「保育サービス価格に関する研究会」報告書及び筆者が委員長を努めた墨田区保育料改定委員会の報告書から用いている。
待機児童ゼロ作戦 待機児童ゼロ作戦(平成13年7月6日閣議決定) 保育所、保育ママ、自治体単独施策、幼稚園預かり保育等を活用し、平成14年度中に5万人、さらに平成16年度までに10万人、計15万人の受入児童数の増を図り、待機児童の減少を目指す取組み。
[表1]保育所の定員・利用児童数等の状況(( )内は対前年比増減) 保育所数 定員 利用児童数 定員充足率 (か所) (人) (%) 平成16年 22,490 2,028,045 1,966,929 97.0 平成17年 22,570 (+80) 2,052,729 (+24,684) 1,993,684 (+26,755) 97.1 (+0.1) うち公立 12,090 (-266) 1,087,919 (-12,264) 987,865 (-14,176) 90.8 (-0.3) うち私立 10,480 (+346) 964,810 (+36,948) 1,005,819 (+40,931) 104.3 (+0.3)
2.保育所待機児童数の状況 17年4月1日(A) 16年4月1日(B) 差引 (A-B) 待機児童数 23,338人 24,245人 △ 907人 [表3]年齢区分別の待機児童数 17年利用児童数(%) 17年待機児童数(%) 低年齢児(0~2歳) 632,011人 (31.7%) 15,831人 (67.8%) うち0歳児 78,658 (3.9%) 2,417 (10.4%) うち1・2歳児 553,353 (27.8%) 13,414 (57.5%) 3歳以上児 1,361,673 (68.3%) 7,507 (32.2%) 全年齢児計 1,993,684 (100.0%) 23,338 ○ 年齢区分別待機児童数 年齢区分では、特に1・2歳児の待機児童数(13,414人、57.5%)が多い。 低年齢児の待機児童数は全体の67.8%を占める。
なぜ待機児童が減少しないのか 供給が需要を呼ぶ「呼び水」効果。 失業率と同じように、潜在的待機児童数が重要。 潜在的待機児童数の推計(周・大石2005、Zhou and Oishi,2005、内閣府「保育サービス価格に関する研究会」報告書2004)などによれば、首都圏の待機児童数は25万~65万人
原因1:認可保育所の高コスト構造(供給)
特に高い人件費 施設長は東京都では1200万と局長並み給与。 調理師も800万円以上。 福祉職の給与体系と行政職給与体系。 私立は保育単価設定が頭割り(勤続5年程度の30歳前後の保育士を基準)のため、いびつな就業構造 認証、認可外はされにフラットな賃金
公立保育所は、それ以外でも高コスト体質。 質が高い分は高コストでも仕方がないという議論 そこで、質の高さを考慮したうえでのコスト比較を行う。 質はある程度高いことが確認。 しかし、それを考慮しても20-30%ほど私立認可に比べて高コスト。 公立保育所を増やそうとする限り費用面での限界がある
原因2:安すぎる保育料(需要面) 費用の2割程度しか負担していない保育料。東京都は1割以下。 それ以外がすべて補助金によるもの。 幼稚園や専業主婦としての子育てに比べ、あるいは認可外の子育てに比べ圧倒的に不公平が生じている。 また、入所者は低所得者を中心にいびつな構造。生産性の高い人々にいきわたっているか?
どうすればよいか (保育料の応益化、引上げ) 保育料を引き上げることがもっとも手早い手段。 均衡保険料は1.5万円ほどの引上げ。 また、低所得者対策は保育料ではなく税額控除などで行えば、ミスマッチも解消し、効率性が増す。 基本的には介護と同様、応益負担原則でよい。認証と同様。
(公立保育所の民営化、規制緩和による供給増加) ・認証の参入促進、公設民営。幼保一元化施設。 保育所の最低定員制限:保育所の定員は、夜間保育所と小規模保育所は20人、普通の保育所は60人以上が条件である。 資金制限:保育所の年間事業費の12分の1以上に相当する資金を、普通預金、当座預金等に有していること。 施設制約:原則として、保育所の経営を行うために直接必要なすべての物件について所有権を有しているか、又は国若しくは地方公共団体から使用許可を受けていること。
設置主体の制限:平成12年3月までは、設置主体は市町村と社会福祉法人に実質限定されていた。 利益分配制限(営利企業の場合):国から受け取る保育所運営費は、保育以外の事業に使うことはできない。 財産処分制約:保育所の財産を処分(例えば閉所)することにより収入があった場合には、その収入の全部または一部を国庫に納付させることがある。
今後予定されている規制緩和 (内閣府 規制改革・民間開放推進会議 ) 認可保育所への民間企業の参入促進→認可基準の見直し、特別保育実施の規制緩和 認定子供園 認可保育所と利用者の直接契約推進 利用者に対する直接補助方式への転換→不公平解消、ただし財源をどうするか
育児保険構想 もともと、山崎泰彦教授(神奈川県立保健福祉大学)が子育て支援として、2003年に提唱。
① サービス中心の地域保険モデル:保育等のサービスを中心に、かつ地域特性に十分に配慮した支援を進める観点から考えられる介護保険のような市町村を保険者とする地域保険型の制度。 ② 現金給付中心の国民保険モデル:出産関連費用や児童養育費の軽減のための現金給付に重点を置き、かつ全国一律の支援を進める観点から考えられる年金保険のような国を保険者とする国民保険型の制度。 ③ 綜合保険モデル:育児支援を一元的に進めるという観点から考えられる、両者の要素を一体化し各種のサービスと現金給付を包括的に提供する綜合保険型の制度。 この場合、財源としては、現役世代が「保険料(育児支援負担金)」を納め、それに租税負担や事業主負担を加える必要があります。
→規制改革・民間開放推進会議第2次答申(2005年12月)では、既存の育児支援関連予算等を統合化したものと保険料とを財源とする「育児保険(仮称)」を創設 →ただし、財政面などでなんらつめが行われていない。 →その試算として、八代、鈴木、白石論文を紹介。
基本的スキーム 利用者への直接補助 介護保険と一体の保険料徴収。20歳以上から徴収。 要保育認定 保険になじまないとの批判。→モラルハザードはまったく問題にならない。 公平性の確保、質の競争の確保が出来る。
保育料を、医療保険同様、実質コストの3割とする(応益負担化)。それにより、追加財源は潜在的待機児童を考慮しても0.5兆円程度にとどまる。 20歳以上の全国民からの徴収は、月額400円程度。