Graduate School of Public Policy Law and Economics 2 (1) 今日の講義の目的 (1) この講義の進め方、受講の際の基本的な考え方を理解する (2) 法と経済学とは何かを理解する (3) ミクロ経済学の体系を概観する 公共政策 法と経済学2
お知らせ (1) パワーポイントのファイルは私のHP(http:// dbs.iss.u-tokyo.ac.jp/~matsumur/PUBLE2013.html)で公開します。講義を欠席した人、事前に資料を見て予習したい人はここからダウンロードして下さい。資料は前日21時までには(出来ればもっと早く) アップロードできるよう努力します。 (2) 法学の知識を前提としないで講義します。 (3) ミクロ経済学の知識を前提としますが、最低限の復習はこの講義で解説した上で法と経済学の本題に入ります。 (4) 成績は原則として平常点で付けます。 公共政策 法と経済学2
この講義のルール (1) 講義中いつでも質問・発言して下さい。 (2) 講義中当てます。 (3) 出席は取りません。平常点は出席点ではなく講義中の発言等を評価します。したがって講義に出席していても発言せず、かつ質問に回答しなければ点数はつきません。 公共政策 法と経済学2
法と経済学 法と経済学 Law and Economics →法学と経済学の境界領域 ~これでは抽象的すぎて何のことだかわからない。 Law and Economics =Economic Analysis of Law (法の経済分析) →法を経済学の道具を使って分析する ~法学者と経済学者の協力が不可欠な分野 公共政策 法と経済学2
法と経済学で主に使う経済学 ミクロ経済学、ゲーム理論 ・厳密には2つは異なる分野で、ゲーム理論はあらゆる社会科学の分析に不可欠な道具になりつつある。 ・ゲーム理論は現代の経済学には必要不可欠な分析道具になっている。→情報の経済学、契約理論、産業組織等の経済学の道具を使うと必然的にゲームの話がでてくる。 公共政策 法と経済学2
法と経済学で主に使う経済学 公共経済学・産業組織・貿易・契約理論・組織の経済学・企業金融・社会選択等の経済学も使うのではないか? ミクロ経済学・ゲーム理論が基礎となる理論 →これを特定の問題を取り上げるのに特化した道具にしたものが上記の理論 →基礎的なミクロ経済学・ゲーム理論の発想と道具がわかるとより専門化した分野の議論もかなりわかる。 ~道具・基本的な発想は共通だから 公共政策 法と経済学2
ミクロ経済学の概観 原理的にはあらゆる意思決定を分析できる まず何をどれぐらい生産して消費するかという選択から出発 ・消費者の理論・生産者の理論(個人の意思決定) ・市場均衡の理論(同時決定の体系を閉じる) →厚生経済学の第一定理=市場均衡は以下の3条件が満たされていればパレート効率的である (a)完備市場(b)完全競争(c)完備情報 公共政策 法と経済学2
効率的な資源配分の例 ・潜在的な売手、買手それぞれ最大1単位のみ取引 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95 公共政策 法と経済学2
効率的な資源配分の例 ・潜在的な売手、買手それぞれ最大1単位のみ取引 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95 →効率的な取引量6単位 市場均衡では価格Pが60≧P≧55の範囲に収まって需給が均衡し取引量は6単位になる。 公共政策 法と経済学2
市場の失敗 (1) 不完全競争 完全競争:全ての経済主体が価格受容者 価格受容者:自分の行動が価格に影響を与えないと思っている経済主体 買い手が価格受容者→自分の購入量が市場価格に影響を与えると思わない消費者 売手が価格受容者→自分の生産量が市場価格に影響を与えると思わない生産者 不完全競争:少なくとも1人価格受容者ではない者(価格支配者)が存在する 公共政策 法と経済学2
不完全競争による市場の失敗の例 ・売手がカルテルを結ぶ。買手は価格受容者。 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95, →効率的な取引量6単位 公共政策 法と経済学2
不完全競争による市場の失敗の例 ・売手がカルテルを結ぶ。買手は価格受容者。 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95 →効率的な取引量6単位 売手が供給量を4単位に絞ると価格を80≧P≧70の範囲に上げられる。→利潤が増える。⇒過小供給 ⇔カルテル監視の必要性(独禁法、事業法・価格規制)この講義では扱わない~規制政策で扱う 公共政策 法と経済学2
不完備市場による市場の失敗の例: 外部不経済 ・潜在的な売手、買手それぞれ最大1単位のみ取引 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95 ・消費1単位あたり10の損失を第3者に与える →効率的な取引量5単位、市場均衡における取引量は6単位⇒過大生産に伴う損失が発生 ~一単位の生産(消費)に10の税をかければ効率的に 公共政策 法と経済学2
不完備市場による市場の失敗の例: 外部不経済 ・潜在的な売手、買手それぞれ最大1単位のみ取引 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95 ・消費1単位あたり10の損失を第3者に与える →市場均衡における取引量は6単位 公共政策 法と経済学2
不完備市場による市場の失敗の例: 外部不経済 ・潜在的な売手、買手それぞれ最大1単位のみ取引 ・潜在的な買手の支払意志額 110, 100, 90, 80, 70, 60, 50, 40, 30, 20, 10 ・潜在的な売手の費用 5, 15, 25, 35, 45, 55, 65, 75, 85, 95 ・消費1単位あたり10の損失を第3者に与える →効率的な取引量5単位、市場均衡における取引量は6単位⇒過大生産に伴う損失が発生 ~一単位の生産(消費)に10の税をかければ効率的に 公共政策 法と経済学2
外部不経済によって本当に市場は失敗するか? ・第3者が潜在的な売手、買手と交渉すれば効率的な資源配分が達成される。 ⇒コースの定理~法と経済学の出発点の一つ コースの定理 (a)権利の帰属が明確(b)交渉費用ゼロ(c)情報が完備 ⇒効率的な資源配分 公共政策 法と経済学2
コースの定理の世界の交渉過程 ・6単位目の取り引きによって生じる余剰は(売手・買手合計で)5。これを取りやめることによって節約できる第3者の被害額は10。交渉によって被害者は10以下の補償金を支払って取り引きをやめてもらう。当事者が合理的なら補償金は5以上10以下の範囲で決まり、取引量は5に減るはず。 ⇒被害者が加害者に金を払うのは不公正では? ⇒デフォルトルールを変更すればよい 公共政策 法と経済学2
デフォルトルール変更の効果 ・第3者の承認がなければ取り引きを認めないというルールに変更する。 ⇒売手・買手が被害者と交渉。 5単位の取り引きの結果生まれる余剰は(売手・買手合計で)355。第三者の被害額は50。交渉によって加害者は355以下の補償金を支払って取り引きを認めてもらう。当事者が合理的なら補償金は50~355の範囲で決まり、取引量は5になるはず。 公共政策 法と経済学2
コースの定理の世界でのデフォルトルールの中立性 ・デフォルトルールの変更 ⇒資源配分は変更の前も後も効率的(ルールの中立性)。 ~しかし所得分配には影響を与える 取引費用が大きい ⇒デフォルトがそのまま実現されてしまう恐れ ⇒デフォルトルールの設計が重要になる 公共政策 法と経済学2
コースの定理の重要性 ・市場観の革新 ~分権的な相対取引の集積⇔集権的な(整備された)市場 ・相対交渉・契約の重要性の見直し ⇒法と経済学、契約の理論の出発点の一つ ・市場メカニズムへの信頼 ⇔規制、強行法規への不信 公共政策 法と経済学2
Market Failure Caused by Incomplete Information 完備情報:全ての人が同じ情報を持っている 完全情報:全ての人が全ての情報を持っている 情報が不完備~情報が非対称的~情報が偏在 ・情報が偏在することによる市場の失敗の典型例 (a)モラルハザード (b)逆淘汰 ・情報の偏在への対応 ⇒シグナリング⇒これが更に市場の失敗を生む 法と経済学の分野でも中心的な役割を果たす 公共政策 法と経済学2
Incomplete Information and Information Economics 不完備情報の重要性の発見 古典的な経済学ではうまく説明できなかった現象をうまく説明できる事に気が付く →情報の経済学~現代の経済学の母体 ゲーム理論の発展と相まって経済学に一大革新をもたらし、契約理論、組織の経済学の誕生と産業組織、企業金融などの理論の刷新につながる 公共政策 法と経済学2
GamenTheory 相互依存関係にある合理的な主体の意思決定を科学的に分析する →ミクロ経済学の発想と似た面を持つ ・ゲーム理論の発展とともに経済学も発展 ・逆に経済学の発展がゲーム理論の発展にも貢献 ~現在ではミクロ経済学の不可欠な分析道具に 公共政策 法と経済学2
次回以降の講義予定 (2)経済学の基本的発想と特徴 (3)コースの定理 ~経済学の基本的な発想と分析の出発点を学ぶ (4) 不法行為 (5) 製造物責任 (6) 債務不履行 ~法と経済学の基礎である損害賠償(金銭賠償)を学び、更にゲーム理論や市場均衡分析を復習する (7) 交渉解 (8) ホールドアップ (9) 特定履行 ~不完備契約の下でのコミットメントの重要性を学ぶ (10) 情報の経済学の基礎 (11) 企業金融 (12) 破産法 (13) 市場間競争・インサイダー取引 (14) 情報開示 ~金融市場の分析を基に会社法・証取法を分析する 公共政策 法と経済学2
この講義を受講するための前提条件 (a)公共政策の経済学基礎あるいはミクロ経済学あるいは経済学研究科のミクロ経済学を取った (b)学部時代にミクロ経済学とゲーム理論の初歩を学んだ (c) いずれにも当てはまらないが、今学期かなりの努力をする準備と忍耐力がある 公共政策 法と経済学2
(b)のカテゴリーの人のための チェックリスト 需要,供給,限界費用,可変費用,固定費用,機会費用,支払意志額(Willingness to Pay),価格受容者(Price Taker),価格支配者(Price Maker),外部性,危険中立,危険回避,リスクプレミアム,情報の非対称性(または情報の偏在または情報の不完備性),逆選択(または逆淘汰),モラルハザード,シグナリング,分離均衡,戦略型ゲーム,ナッシュ均衡,反応曲線,展開型ゲーム,後方帰納法,部分ゲーム完全均衡(subgame perfection),割引因子,割引現在価値,繰り返しゲーム 以上の用語のうち5つ以上聞いたことのない用語があった人は相談に来て下さい。 公共政策 法と経済学2
この講義の受講目的 ・法と経済学という分野に関心がある。 ○ ・法と経済学という分野に関心がある。 ○ ・労働、社会福祉、環境問題、都市問題に関心があり、これらに関連する法律にも関心がある。 X →まずこれらを専門に扱う科目を受講すべき。これらのトッピクスは基本的にこれらの科目が扱う。 公共政策 法と経済学2
この講義の受講目的 ・経済学を復習する・その使い方を学ぶ。 ○ ・法と経済学を学ぶことを通じて経済学を一から学ぶ。 X ・経済学を復習する・その使い方を学ぶ。 ○ ・法と経済学を学ぶことを通じて経済学を一から学ぶ。 X →一度学んだが忘れてしまったので、思い出すために受講なら可。経済学の体系に沿って授業が進むのではないので、ミクロ経済学に関して全くの予備知識なしではついてこれない。全くミクロ経済学を知らなければ、まずそれを学ぶか少なくとも並行して学ぶ必要がある。 公共政策 法と経済学2