アメリカ、ヨーロッパ、日本の 高エネルギー天文衛星データアーカイブス 宇宙科学研究本部・宇宙科学情報解析センター(PLAINセンター) 海老沢 研
データアーカイブスとは? 世界中の誰でも無料で利用し、それから得られた成果を発表できる衛星データベース データは半永久的に保存される 天文衛星を上げるのは… データを取得するため データを取得するのは… それを使って研究するため 衛星データとそれを使って研究できる環境を 半永久的に管理しておくのはアタリマエのこと! 衛星の寿命は有限だがデータアーカイブスは無限 しかし過去には衛星データアーカイブスは軽視されていた 現在では各X線天文衛星が アーカイブスセンターを持っている
1962 私の歩んできた道 1987 Chandraデータセンター(アメリカ) http://cxc.harvard.edu Data Archives and Transmission System (宇宙研) http://darts.isas.jaxa.jp 2005 1992 BeppoSAXデータセンター(イタリア)http://bepposax.gsfc.nasa.gov/bepposax/ INTEGRALデータセンター(スイス) http://isdc.unige.ch 2004 2001 HEASARC(アメリカ) http://heasarc.gsfc.nasa.gov XMM-Newtonデータセンター(スペイン) http://xmm.vilspa.esa.es
今日の話の内容 1962年から2005年まで 将来に向けて X線天文学の歴史 X線天文データアーカイブスの歴史 宇宙科学情報解析センター(PLAINセンター)のデータアーカイブ DARTS(http://darts.isas.jaxa.jp) 現状と今後の展開 MAXIアーカイブスをどうする?
1962年 大気が宇宙からのX線を吸収する 1962年6月18日 そのお陰で地球上に生命が存在している… ジャコーニら(2002年ノーベル物理学賞受賞)が放射線検出装置を搭載したロケットを打ち上げ 月による太陽からのX線反射の観測が目的 全天で一番明るいX線源Sco X-1を偶然発見 X線天文学の誕生
1960年代 ロケットと気球によるX線観測の時代 すだれコリメーターの発明(小田稔) 宇宙開発の進歩 X線源の位置が正確に決まるようになった ScoX-1は中性子星 Cyg X-1はブラックホール 宇宙開発の進歩 1957年、最初の人工衛星スプートニク打ち上げ 1958年、アメリカのエクスプローラ1号 各国から人工衛星が次々と打ち上げられる(おおすみ1970年) スペースからの宇宙観測の黎明期
1970年Uhuru(アメリカ)打ち上げ すだれコリメーターを搭載して全天観測 339個のX線天体を発見 本格的なX線天文学の幕開け ほとんどが銀河系(天の川)内の中性子星かブラックホール 銀河、活動的銀河中心核、銀河団からのX線の発見
1970年代 多くのX線天文衛星が打ち上げられた Uhuruが発見した天体をさらに詳細に研究 「はくちょう」(1979年) Copernicus, Ariel-5, ANS, SAS-3,OSO-7,OSO-8,Cos-b,HEAO1 Uhuruが発見した天体をさらに詳細に研究 「はくちょう」(1979年) 日本で最初のX線天文衛星 すだれコリメーターによるX線バースターの観測 明るいX線源しか観測できなかった Einstein Observatory(アメリカ、1979年) X線鏡を積んだ初めての結像衛星 飛躍的に感度が向上 カタログデータ、イメージのCD-ROMを作って無料で世界中に配布 本格的なデータアーカイブスの誕生 現在でもそのデータが使える
1970年代までのX線天文学の研究手法 天文学と言うよりも「実験物理学」 検出器を作ったチームがデータを保有していた 検出器の開発が大きなウェイト 検出器を知らないと解析が出来ない 「ゲストオブザーバー」は存在しない 特殊なデータフォーマット 未熟なコンピューターとソフトウェア データアーカイブスは存在しえなかった
1980年代 「てんま」(1983年) EXOSAT(ESA,1983年) エネルギー分解能にすぐれた観測 データアーカイブスは存在しない 観測時間を広く開放(ヨーロッパに限る) 公募制の採用 「ゲストオブザーバー 」の誕生 衛星や検出器の開発に参加せず、データ解析を行って論文を書く すぐれたアーカイブスシステム HEASARCの基盤 汎用性のあるソフトウェアの開発 一部は改良を重ね今でも使われている
1980年代後半 アメリカ、ヨーロッパのX線天文学は冬の時代 Mir-Kvant(ソ連、1987年) 「ぎんが」(1987年) ソ連以外の研究者が使うことはほとんど不可能 「ぎんが」(1987年) 大面積の比例計数管 高い感度、早い時間分解能 精度の高い機器較正 日本の衛星では初めてプロポーザル制を採用 アメリカ、ヨーロッパに観測時間を開放 450本以上の投稿論文が出版 2000年以降アーカイブスが完成 まだまだ論文が出つつある
ぎんがアーカイブス 1991年に寿命を終えた後、データが忘れ去られる危機 2000年よりアーカイブス開発を開始 日本のX線チームは、あすか、Astro-E1に専念 Unixの普及、大型計算機は使われなくなってきた 2000年よりアーカイブス開発を開始 Astro-E1失敗により時間ができた NASA Astrophysics Data Program のグラントを得た(PI:Ebisawa) 宇宙研からの正式なサポートはなし 元ぎんがチームメンバーがボランティアとして開発 メインフレーム計算機からUnixに移植 データフォーマットをFITSに変更 ソフトウェアの移植 2005年4月に完了 以前は宇宙研のメインフレームでしかできなかったデータ解析が世界中の誰にでもできる まだ論文になっていない貴重なデータがたくさんある
DARTSによるぎんがアーカイブス 検索
1990年代 ROSAT(ドイツ、1990年) CGRO(アメリカ、1991年) Einstein衛星よりも高感度 初期にはデータフォーマットの混乱 複数のフォーマットが並立していた 今では優れたデータアーカイブスができている CGRO(アメリカ、1991年) 最初の本格的なガンマ線天文台 大体のデータはアーカイブス化されている
1990年代 あすか(1993年) Advanced Satellite for Cosmology and Astrophysics (ASCA) 最初の日米共同X線ミッション 日本の衛星にアメリカ製のミラーとCCDを搭載 データアーカイブス、ユーザーサポートはアメリカが担当 ASCAゲストオブザーバーファシリティー(私の就職先[1992年]) 「非常に」使いやすい解析システム、アーカイブスの開発 GSFCで作ったアーカイブスをDARTSにミラーしている FITSフォーマットを採用した最初の衛星 その後の衛星は、ほぼASCAのフォーマットを踏襲 データの占有権をはっきりと規定 アメリカのデータは1年、日本のデータは1年半後にアーカイブスにいれて公開 1400本以上の投稿論文が出版されている 優れた検出装置、使いやすいアーカイブス、ソフトウェアのお陰
FAQ,解析マニュアルの整備などはGOFの大切な仕事 Guest Observerが良い科学的成果を挙げることが GOFの評価につながる 2年ごとのシニアレビューで、衛星の成果、GOFの成果が 評価される 評価が低いと、縮小または打ち切り ASCA Guest Observer Facility (GOF)のウェブページ
あすかアーカイブス成功の背景: FITS (Flexible Image Transportation System)の普及 1980年代後半より可視光の分野で使われ始めた 異なる天文台で同じフォーマットを使い、データの入出力の標準化を図る 大成功。他の基礎科学分野では例を見ない? 天文データは標準化しやすい 画像は二次元データ X線イベントは、時刻、位置、エネルギーの情報だけ データの利用に金銭的利害が絡まない どんなコンピューターでも読み書きできる 汎用ツールの開発が容易 光学天文学で始まり、他の波長にも普及 X線天文学では1990年代に普及 全面的に採用したのは「あすか」が初めて 実質的に「あすか」がX線天文用FITSフォーマットを規定した 後のX線天文衛星(Chandra,XMM,etc)も、ほぼ同じフォーマットを踏襲
あすかアーカイブス成功の背景: HEASARCの設立(1990年) High Energy Astrophysics Science Archive Research Center@NASA/GSFC 世界中の高エネルギー天文衛星データのアーカイブスセンター X線天文学データのFITSフォーマットの標準化 イベントデータ キャリブレーションデータ FITSファイルにアクセスするためのライブラリの開発 cfitsio – デファクトスタンダード 汎用データ解析ツールの開発 ftools, xanadu 同じソフトウェアが複数の衛星に使える
データ検索システム フリーソフトウェア
「あすか」以降の衛星のデータ公開ポリシー 初期データは衛星、検出器チームに帰属 一定期間の後にアーカイブス化されて公開 オープンタイムは世界に公開 年に一回Announce of Opportunities (AO)のアナウンス ゲストオブザーバーは厳しい競争を経て観測時間を得る データは一定期間(通常は一年)の後にアーカイブス化される Target Of Opportunity(TOO)データは直ちに公開 衛星によっては、ほぼすべてのデータが最初から公開 Swift衛星のガンマ線バーストデータなど データの権利と公開のバランスが難しい データを占有できないと、研究者はやる気が起きない オープンにするほど、衛星の成果はあがる
1990年代後半 XTE(1995年、アメリカ) BeppoSAX(1996年、イタリア、オランダ) 「ぎんが」よりも大面積の比例計数管 機動力に富む観測、オープンなポリシー 全天モニターデータはただちに公開(MAXIのモデル) TOOデータもただちに公開 BeppoSAX(1996年、イタリア、オランダ) 複数の検出器で広いエネルギー範囲(0.1-300keV)をカバー HEASARCの資産をフルに活用 HEASARCの枠組みでデータとソフトウェアを公開
2000年代 X線天文衛星とアーカイブスの黄金期 Chandra(アメリカ、1999年) XMM-Newton(ESA,1999年) 史上最高(今後10年以上?)の位置分解能(~0.6秒角)と感度 XMM-Newton(ESA,1999年) Chandraをはるかにしのぐ有効面積 INTEGRAL(ESA,2002年) 20keV以上でのイメージング GRBの速報性は成功、しかし複雑なデータ権利…… HETE2(アメリカ、2001年) ガンマ線バーストミッション Swift(アメリカ、2004年) ガンマ線バーストミッション、データはただちに公開 すざく(2005年) 史上初のX線マイクロカロリメーター搭載 鉄輝線領域で過去最高のエネルギー分解能を実現(するはずだった) 冷媒のヘリウムをすべて失い観測不可能に…… 20keV~300 keVで過去最高の感度 低エネルギー側でChandra, XMMをしのぐエネルギー分解能
将来に向けて フリーソフトウェア アーカイバルデータ アーカイブスを使った天文研究の発展はフリーソフトのおかげ Linux,Apache,gnu 等 解析ソフトは完全にフリーソフトウェアベースになりつつある アーカイバルデータ 無料の天文衛星データベースはアタリマエの存在になりつつある データ量が膨大。世界中の研究者を合わせても解析しきれない! 優先期間は短縮の方向に向かう(?) 研究者はデータを取得することでなく、大量のデータを使いこなすスキルが必要になってくる
DARTSの現状と発展 2003年以前のDARTS DARTS2004 DARTS2005 PLAINセンターの研究者がPerl-CGIで書いていた 継続性、拡張性、機動性に難 DARTS2004 Astro-Eを念頭に、企業(SEC)と共同開発 JAVAベース、論理的な設計、文書の整備 DARTS2005 JAXAの高度情報化予算を使い、汎用性、拡張性を重視して根本的に再設計 Astro-F,Solar-Bを念頭に 2006年3月現在、ベータバージョンが稼動中 将来のDARTSはこの枠組みに乗る Astro,Solar,STPの新たなミッションを簡単に追加できる
PLAINセンターニュース2006年3月号、松崎氏の記事より
新たなソフトウェア開発 JAXAの衛星データを誰でも簡単に見られるようにする 仮称JAXA Universe Data Oriented (JUDO) あかり、MAXI等の全天サベイデータ上をマウスを使って簡単にナビゲート(google mapの宇宙版) 他波長サベイデータ、カタログをスイッチ DARTSと結びつけ、世界中の研究者の便をはかる 同時に、一般向け、教育用、エンタテイメントソフトウェア マウスを天体に持っていくと説明が現れる 宇宙旅行しているような気分になれる
最新のソフトウェアテクノロジーを採用し “製品レベル”にしたい プロトタイプ: “fovdsp”とすざくデータの例 (研究者が必要に迫られた作ったツール) 最新のソフトウェアテクノロジーを採用し “製品レベル”にしたい