「働けない者」と「働く意欲がない者」の分離と生成 -P.オルデン『失業者:国家的問題』(1905)を手がかりにして- 報告者:高森 明(こうもり あきら)
報告のねらい ・「障害者はなぜ労働市場から排除されたのか」 という問いに対する、社会政策史の観点から 応答。 ・20世紀初頭のイギリスにおける失業者分類に 関する議論を手がかりにして、 労働政策における失業者対策から 障害者の排除が検討されるようになった歴史的 経緯を明らかにする。
失業者分類とは何か ・失業者の状況に応じて「適切」な分類処遇を 行うことを目的に作成された指標。 ・失業給付の対象としてふさわしいのかどうか も判定する。 ・ふさわしくないと判定された人物は、 「雇用不能者」カテゴリーに分類。
「雇用不能者」カテゴリーの変遷 ・初見はウェッブ夫妻の『産業民主制論』 (1897)。 ・1903年から議論が活発化。 ・活発化した時点では、品行と勤労道徳が 分類の基準。障害者は明確に含まれず。 ⇒「働けない者」と「働く意欲がない者」 という分離はいつ、なぜ生じたのか?
オルデン(1865-1944)の略歴 ・1890年代ロンドン市ウェスト ハム地区で民間の失業対策 事業に取り組む ・1903年より、イギリス内外の 失業対策事業を視察 ・主著は『失業者:国家的問題』 (1905) ⇒「働けない者」のカテゴリー の初見
「働けない者」と「働く意欲がない者」 「働けない者」 「働く意欲がない者」 ・犯罪者 ・準犯罪者 ・邪悪な放浪者 ・救いのない怠け者 (a)高齢者 (b) 「身体的虚弱・再起不能」 (盲、足の不自由、聾 心臓の弱い人) (C)てんかん (d) 「意志薄弱な大酒飲み・ 精神欠陥」 ・犯罪者 ・準犯罪者 ・邪悪な放浪者 ・救いのない怠け者
オルデンの政策構想 ・労働案内所(Labour Bureau)による失業者、 「雇用不能者」の審査と分類。 ⇒ベヴァリッジの労働交換所(Labour Exchange)構想に先行。公共職業安定所 の源流。 ・公的機関が監督する5種類の労働コロニー での科学的かつ適切な分類処遇。
労働コロニーにおける分類処遇 (a)農業コロニー(農業に慣れた失業者が対象) (b)農業コロニー(都会育ちで低技能だが 品行がよい失業者が対象) (c)ドイツ式コロニー(犯罪者や品行の悪い者を 除く絶望的で意志薄弱な失業者が対象) (d)救貧法に基づく農場(てんかん、大酒飲み、 身体欠陥者など「働けない者」が対象 (e)救貧法に基づく強制コロニー(浮浪者、 浪費家など「働く意欲がない者」が対象)
何がモデルになったのか キリスト教社会奉仕組合 コロニーにおける分類 ・1896年に労働コロニーを 設立。農業訓練を実施。 ・イギリス初の障害者コロ ニーを設立したことでも 知られる。 ・救貧委員会から送られて きた「絶望的なケース」を 分類処遇 (1)身体に「損傷」を抱えて いるか、「頭の鈍い」若者 (2)50歳以上の高齢者 (3)指導困難なろくでなしの 子弟 (4)大酒飲み
まとめと課題 【まとめ】 ・「働けない者」と「働く意欲がない者」の分離 はオルデンによってなされた。 ・ウェッブ夫妻、ベヴァリッジの労働政策構想 にも影響を与えた。 【課題】 ・民間の失業対策事業の実践が、 労働政策に与えた影響に注目する必要がある。