生命科学基礎C 第10回 個体の発生と分化Ⅰ 和田 勝 東京医科歯科大学教養部
発生学とは どうして均一に見えるカエルの卵から、 複雑な形態をしたオタマジャクシが泳ぎ だし、カエルになるのだろうか、という 疑問を解き明かそうとする 初めは胚(胎児)の変化を記述する学問 embryologyだったが
発生(development)に伴うさまざまな現象を 生物学のあらゆる手法を駆使して、理解し ていく developmental biologyとなった したがって、現在の発生学を理解するため には、これまで学習したあらゆる知識が必要 遺伝子とその発現機構、タンパク質への翻訳機構、細胞 と細胞の接着、組織の構築、いろいろな器官系の構造、 体細胞分裂と減数分裂、細胞周期とその調節、 転写調節機構、細胞間の情報交換の機構(リガンド、 受容体、細胞内のシグナル伝達機構) など、など
動物の生殖 子供は親と全く同じ遺伝子 安定した環境では増殖が早い 無性生殖 環境が変わると対応できない ことがある 子供は両親の遺伝子の組み 合わせ 有性生殖 両性の出会いが必要 環境の変化に対応できる
配偶子と接合子
配偶子形成 生殖細胞が融合するのだから、染色体の 数は配偶子の倍になる 配偶子を作るためには染色体の数を半減 させておかなければならない そのために、体細胞分裂とは異なる減数 分裂という、染色体を半減させる特別な 分裂様式が導入された
配偶子形成
性の誕生 異型配偶子が極端になると、大型で運動 性のない配偶子(卵)を作る雌と、運動性 のある小型の配偶子(精子)を作る雄の区 別ができる さらに卵と精子を作る生殖器官の区別が 生じ、生殖細胞を生殖器官から体外へ 運ぶ生殖輸管の区別ができあがる
性の誕生 生殖器官、生殖輸管の区別で卵を作る雌 と精子を作る雄の区別を性(sex)というが、 生物学的な見方では、もっとも根源的な 性の意味は、雌雄の染色体の新しい組み 合わせをもった個体を作ることである
精子形成
卵形成 減数分裂の過程は途中で止まっている 哺乳類では減数分裂Ⅱの中期で止まっている
精子と卵 父方の遺伝情報 鞭毛による運動性 精子 中心体→分裂装置 母方の遺伝情報 発生に必要なタンパク質 発生に必要なエネルギー源 卵 リボソームとtRNA、mRNA、 分化促進因子群など
受精 受精(fertilization)によって個体の一生が 始まる 精子から持ち込まれた父方の遺伝情報と 卵にある母方の遺伝情報が一緒になり、 これまで地球上に存在しなかった新しい組 み合わせが生まれる 一方、受精は最初の細胞間の認識でもあ る
ウニの先体反応
ウニとマウスの先体反応
多精拒否機構 早い多精拒否機構 精子との融合による卵細胞膜の膜電位 変化 受容体の構造変化により精子が結合 できなくなる 遅い多精拒否機構 表層顆粒の崩壊による受精膜の挙上
受精に伴う卵表層の変化
卵の賦活、カルシウム波
考えられる メカニズム
ウニの発生Ⅰ
ウニの発生Ⅱ
カエルの発生Ⅰ
カエルの発生Ⅱ
胚葉の分化 ウニの場合もカエルの場合も、こうして 外胚葉、内胚葉、中胚葉に分化する 外胚葉、内胚葉、中胚葉からは、それぞれ 異なる器官が分化してくる
●外胚葉からできる器官 表皮 皮膚の表皮(毛、つめ、汗腺など)、眼の水晶体、 角膜、口腔上皮、嗅上皮 神経管 脳、脊髄、脳神経、眼の網膜 ●内胚葉からできる器官 消化管(食道・胃・小腸・大腸の内面の上皮)、えら、中耳、 肺、気管 ●中胚葉からできる器官 脊索(みずからは器官を作らないが、脊椎骨や筋肉の分 化に関与する) 体節 脊椎骨、骨格、骨格筋(横紋筋)、皮膚の真皮 腎節 腎臓、輸尿管、生殖腺、生殖輸管 側板 腹膜、腸管膜、内蔵筋(平滑筋)、心臓、血管、 結合組織
生殖腺の形成 三胚葉が分化する前に、これらの細胞群 とは別に、将来、生殖細胞になる細胞群が 分化する これを生殖細胞系列(germ cell line)といい 体細胞系列(somatic cell line)と区別する 生殖細胞系列からは生殖腺の中身の卵と 精子が、体細胞系列の中胚葉から生殖腺 の器ができる
ショウジョウバエの初期発生
カエルの生殖細胞質 特定の割球が特殊な細胞質を分配されて 生殖細胞系列に入る 始原生殖細胞(primordial germ cell)
始原生殖 細胞の 移動
生殖腺の 分化
生殖 輸管の 分化
外部生殖器の分化 アンドロジェン受容体の欠損による
外部生殖器の分化
雌雄分化 1)性染色体(ヒトはXX,XY) 2)生殖腺の雌雄分化 3)生殖輸管の雌雄分化 4)外部生殖器の雌雄分化 5)脳の雌雄分化 ホモである女性が原型、ほっておくと雌になる傾向 2)生殖腺の雌雄分化 性染色体によって生殖腺分化の方向が決まる 3)生殖輸管の雌雄分化 生殖腺が分化するとホルモン分泌パターンが決まる 4)外部生殖器の雌雄分化 5)脳の雌雄分化 ホルモン分泌パターンによって4,5は決まる
性染色体と生殖腺雌雄分化 どの様な遺伝子が生殖腺の雌雄分化に はたらいているのか Sry(sex-determining region of the Y)と いう遺伝子が見つかる この遺伝子を導入したトランスジェニック 雌マウスは生殖腺などが雄化することを 確認
卵細胞質の重要性 生殖細胞質のように、卵細胞質にある mRNAや転写調節因子群が重要 これらは卵内に均一に分布するのでは なく、局在している 卵割によってこれが割球に分配される 割球のその後の運命が変わる、、、、