症例検討会 麻薬の使用例 近年、がん患者の増加や高齢化、入院日数の短縮化や在宅治療への移行の推進などに伴い、外来緩和ケアや在宅緩和ケアが増加している。その結果、かかりつけ薬局でオピオイド製剤を取り扱う機会が増えていくと考えられる。今回、加納店において受け付けたことのある麻薬の実際の使用例について紹介し情報を共有化するとともに、より適切な治療の選択肢があるか意見を求め検討したい。

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症例検討会 麻薬の使用例 近年、がん患者の増加や高齢化、入院日数の短縮化や在宅治療への移行の推進などに伴い、外来緩和ケアや在宅緩和ケアが増加している。その結果、かかりつけ薬局でオピオイド製剤を取り扱う機会が増えていくと考えられる。今回、加納店において受け付けたことのある麻薬の実際の使用例について紹介し情報を共有化するとともに、より適切な治療の選択肢があるか意見を求め検討したい。 平成30年2月 加納店 大野 仁志

症例1 複数のオピオイドの併用      (ベースとレスキューの不一致) 71歳男性 大腸がん 術後再発        がん性疼痛の緩和ケアのため自宅療養中        軽度認知症のある配偶者と2人暮らしで薬は自己管理中 ベース薬剤:フェントステープ2mg 、レスキュー薬剤:オキノーム5mg これまで知識として学んだ中で、レスキューにはベースで使用している薬剤と同成分のものを選択する(①)との認識でいたが、実際には異なるものを使用する場合も多い。特にフェントステープを使用している場合にその傾向がみられる。 フェンタニルのレスキューはアブストラルとイーフェンが販売されているが、それぞれ舌下錠・バッカル錠という普段使い慣れない剤型である(②、③)ため、いざという時に使用するものとして使いづらいと考えられる。また用量による使用量の目安がなく、タイトレーションが必要である(②、③)ことも、使用に二の足を踏む一因となっていると考えられる。 本症例の場合、フェントステープ2mgはオキシコドン換算で40mgとなるため、オキノーム5mgで概ね妥当な量であると判断できる(40/6=6.66mg→5mg/回)。ただし患者の疼痛コントロール状況を把握し、レスキュー使用後速やかに鎮痛効果が得られているかや使用頻度に合わせて、レスキュー増量やベースアップなどを提案していく必要がある。 アブストラルやイーフェンの使用については、加納店の場合は高齢者が多く、使用方法の理解が得られない可能性がある、唾液分泌量が低下しており適切に使用できるか不安がある、といった問題がある。また独居や高齢夫婦の2人暮らしなど、適正使用のための家族などによる協力を得ることが難しい、などといった問題もあり、それらも薬剤選択の材料となっていると考えられる。

症例2 複数のオピオイドの併用      (複数のベース薬剤を併用) 48歳男性 下顎腺様嚢胞がん、肝・腎転移、胸膜浸潤        がん性疼痛の緩和ケアのため自宅療養中 使用薬剤: パシーフカプセル120mg 4カプセル 分2朝・夕食後         フェントステープ4mg・8mg 各1枚(計12mg) 1日1回貼付         オキノーム20mg 6包/回 疼痛時         その他、ピコスルファートNa液・酸化Mg・スインプロイク   など 一般的には使用していたオピオイドでの鎮痛効果が不十分、副作用のため継続使用が困難、経口摂取が難しくなってきた、などの場合にはオピオイドスイッチングして別の種類のオピオイドへ切り替えるものであるとの認識でいたが、複数の種類のベースのオピオイドを併用する場合が多く見受けられる。特に高用量のオピオイドが必要な場合にその傾向がみられ、モルヒネとフェンタニル、あるいはオキシコドンとフェンタニル、の併用が多い。 がん疼痛治療の原則は「経口的に」とされており、またモルヒネは上限量が定められていないため鎮痛が不十分であれば経口での増量が原則となる。しかしモルヒネの増量に伴い副作用である嘔気や便秘が強固に現れたりせん妄が現れたりしてしまい、必要量を十分に使用することが難しい場合がある。フェンタニルはモルヒネ・オキシコドンと比較して副作用の発現率が低い(④)ため、モルヒネの増量が難しい場合にフェントスを併用されると考えられる。 本症例の場合、モルヒネとして480mgを服用しているが鎮痛不十分である一方、各種の便秘薬を使用していても3日ほど排便がないことが通常となってしまっていたため、フェントステープが追加投与されている。フェントステープ12mgはモルヒネ換算で360mgでありモルヒネとして総量840mgを使用、レスキューの使用は多くて2回/日であり量も概ね妥当な量で調節されており(840/6=140mg→オキシコドンとして93.33mg) 、疼痛コントロールはそこそこ良好な状態で過ごされている。

症例2 複数のオピオイドの併用      (複数のベース薬剤を併用) 66歳男性 直腸がん 術後再発        がん性疼痛の緩和ケアのため自宅療養中 変更前薬剤: パシーフカプセル120mg 6カプセル 分2朝・夕食後           オキシコンチン40mg 6錠 分2朝・夕食後 変更後薬剤: モルヒネ注+生食 400mg/12mL 0.25mL/時           フェントステープ8mg 2枚 1日1回貼付 モルヒネの持続皮下注(CSI:continues subcutaneous infusion)を使用する場合、加納店で対応する医療機関で使用されているPCAポンプ(テルフュージョン小型シリンジポンプ)にセットできるシリンジは10mL容量までであり、一度の交換で最大400mg(上市されているものは200mg/5mLが一番濃度の高い規格)となる。400mgの注射モルヒネは経口換算で800mgであり、CSI開始前のオピオイド使用量が800mg以上の場合は1回の交換で1日持たない計算となる。頻繁の交換は患者・介護者および訪問看護師などの疲弊へとつながりかねないため、CSIで不足する分をフェントステープの併用で補う場合がある。 本症例では変更前の時点で経口モルヒネ720mg+オキシコドン240mg、経口モルヒネ換算で総量1080mgとなり、そのままCSIとなると17時間余りで交換(1080mg/24時間=45mg/時、800mg/45=17.77時間)しなければならない。そこでフェントステープで一部を補うこととされ、またCSIへの変更のためやや減量して開始となり、注射モルヒネ200mg+フェンタニル16mg、経口モルヒネ換算で総量880mgとして1日半~2日ごとの交換(400mg/24時間=16.66mg/時、800mg/16.66=48時間)で対応できるように調整された。

① オピオイド換算表 ② ③

【参考ページ】 痛みの種類によってレスキューを使い分けることが推奨されており、突発的で予測不可能な痛みには、より効果発現の早いROO (Rapid-onset opioid)製剤(アブストラル・イーフェン)の使用が推奨される。 切れ目の痛み:内服前1時間、テープ貼り替え前1時間、などのタイミング 予測可能な痛み:体動時の痛み(出かける時や入浴時、排尿・排便時)、などのタイミング

参考資料・サイト ・医療用麻薬適正使用ガイダンス   【①、②、③を引用】 ・岡山大学病院 緩和医療科 勉強会資料    【参考ページ、④を引用】  (http://www.okayama-kanwa.jp/study/pdf/pdf56.pdf) ・聖隷三方原病院 症状緩和ガイド    【オピオイド換算表を引用】 (http://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/) ・がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)