北海道大学 理学部 地球惑星科学科 宇宙惑星グループ B4 学生番号 渡辺 健介

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北海道大学 理学部 地球惑星科学科 宇宙惑星グループ B4 学生番号 22090312 渡辺 健介 地球大気の初期進化について 北海道大学 理学部 地球惑星科学科 宇宙惑星グループ  B4 学生番号 22090312 渡辺 健介

本研究(卒業論文)の目的 太古の地球における大気進化 地層中に残されている証拠による大気進化の理解 地球で起きていた大気散逸プロセスの理解 Hessler, A. M. (2012) Earth’s Earliest Climate. Nature Education Knowledge 3(5):6 のレビュー 地球で起きていた大気散逸プロセスの理解 特に流体力学的散逸の基礎理論について 梅本 (修論,2012)で構築された数値計算モデル 流体力学的散逸の簡単な仮定をおいたモデルで水素の散逸を実際に考える

太古の地球の記録 液体の水の存在を示唆する証拠 太古の地球の記録   液体の水の存在を示唆する証拠 南オーストラリア・ジャックヒルズ 約44億年前のジルコン粒子 西グリーンランド・イスア 約38億年前の枕状溶岩 南アフリカ・バーバートン 約32億年前のグリーンストーン テレーン(緑色岩) Valley 2005 南アフリカ・バーバートンの緑色岩体に残された地表プロセス(右図) (A)浅海堆積物由来の薄い頁岩と砂岩の積層 (B)砂岩中に残されている波紋 (C)浅海堆積物由来の斜交層理 (D)河川によって運ばれ丸くなった礫岩   (ボーリングのコア) Hessler 2012

暗い太陽のパラドックス パラドックスとは? パラドックスの解消案 恒星の進化論より,当時の太陽は現在よりも暗かった 地球を暖めるプロセスがなければ地球は凍結していた パラドックスの解消案 以下の寄与を考える 温室効果ガスの寄与 アルベドの寄与 田近 (惑星科学フロンティアセミナー,2011)

地球を暖めていた機構 温室効果ガスの寄与:CO2について Kasitng (1993) モデル Rosing et al. (2010) モデル CO2濃度の地質学的制約 FeCO3 : 菱鉄鉱 , FeOFe2O3 : 磁鉄鉱   堆積岩中の鉱物の共存関係を   もとに二酸化炭素分圧を推定 CO2濃度は10PAL以内の可能性 CO2以外の温暖化の機構が必要 Rosing et al. (2010) PAL : Present Atmospheric Level

地球を暖めていた機構 温室効果ガスの寄与:メタンについて 高濃度ではない,CH4-CO2の温室効果が存在していた 二酸化炭素よりも温室効果が高い気体 貧酸素環境下ではCH4の生産が活発 (Kharecha et al. 2005) メタン生成菌の繁栄 メタン酸化菌によるCH4の除去が不活発 CH4/CO2>0.1の条件で炭化水素ヘイズの生成                                  (Trainer et al. 2006) 炭化水素ヘイズの特徴 大気上層で太陽光を吸収する 反温室効果 高濃度ではない,CH4-CO2の温室効果が存在していた http://www.nasa.gov/multimedia/imagegallery/image_feature_199.html

地球を暖めていた機構 アルベドの寄与(Rosing et al. 2010) (現在よりも)陸域が小さいため,アルベドが小さかった ピルバラとバーバートンにしか明確な地塊が存在していない (現在よりも)雲が透明で,アルベドが小さかった 今日の雲は生物起源の雲凝結核(CCN)に起因(全体の50%) アルベドは今日よりも小さく初期地球を暖ためていた可能性 CO2とCH4などの温室効果ガス,そしてアルベドの寄与を総合的に考える必要がある.

大部分が宇宙空間に散逸したと考えられている 原始大気 H2が大気の主成分 太陽を形作っている主な元素 地球内部からの脱ガスによって水素が供給された 生命の起源物質の合成には還元的な大気組成が有利(ミラーの実験) 地球の歴史の初期において軽い気体のH2は 大部分が宇宙空間に散逸したと考えられている

大気散逸 大気散逸プロセス 熱的散逸 非熱的散逸 地球大気の組成や量を決めるプロセス 太陽系の惑星が様々な姿をしている要因 ジーンズ散逸 気体分子の熱運動energy > 惑星の重力energy ジーンズ散逸 大気が希薄な高い高度で気体分子の衝突が起こらないために,重力を振り切るのに十分な速度を持った気体分子が宇宙空間へ逃げ出す散逸プロセス 流体力学的散逸 静水圧平衡が成り立たない場合の大気散逸過程 EUV放射によって加熱された大気が上記の不等号を満たすことで宇宙空間に流出するプロセス 原始太陽の強いEUV放射による加熱に起因 化学反応や粒子同士の衝突により原子が加速されて散逸するプロセス (例)電荷交換反応 *印は過剰な運動エネルギーを持っている粒子を意味する 天体衝突による散逸

太陽タイプの恒星における エネルギーフラックスの変化 極紫外線領域 Ribas et al. (2005)

流体力学的散逸 この散逸を単純なモデルで考える 等温大気モデルを考える理由 ポリトロープ大気モデル 等温大気モデル 変数:密度,圧力,温度 等温大気モデル 変数:密度,圧力 等温大気モデルを考える理由 流体力学的散逸プロセスを理解する 数値計算手法を理解する 解析解と数値解を比較することで,数値モデルが散逸プロセスにとって有用であることを考える. 卒業論文後に行う予定のEUV加熱を考慮した計算のための準備 Catling & Zahnle(2009)

等温大気モデル モデルについて 大気の鉛直方向において温度が一定 球対称,1次元定常モデルを考える 基礎方程式 状態方程式 :   :惑星中心からの距離   :大気密度   :流体の速度   :圧力   :重力定数   :惑星質量   :下部温度   :気体定数   :平均分子量 モデルについて 大気の鉛直方向において温度が一定 変数は密度と圧力 球対称,1次元定常モデルを考える 基礎方程式 質量保存の式 :  運動方程式 : エネルギー保存の式 : 状態方程式 :            散逸パラメータ :  

等温大気モデル 無限遠において,圧力が有限な値をとる流出解は臨界点を通る解のみ 運動方程式と質量保存の式,状態方程式より速度方程式が導かれる  等温大気モデル 運動方程式と質量保存の式,状態方程式より速度方程式が導かれる 特異点(臨界点)における速度と臨界距離    臨界点; 速度:          , 臨界距離:  散逸フラックス :   :等温音速 無限遠において,圧力が有限な値をとる流出解は臨界点を通る解のみ

運動方程式の解 臨界点 梅本 (卒論,2010)

等温大気モデル~数値計算モデル~ H2一成分大気における,球対称一次元を仮定した時間発展非粘性流体方程式 質量保存の式 : 運動方程式 : エネルギー保存の式 : 次に,数値計算モデルについてお話します.今回使う数値モデルは梅本さんの修士論文で構築されたものをもちいます.モデルでは,水素一成分大気における球対称の一次元非粘性流体方程式をもちいます.基礎方程式を等温大気におけるものに書き直したのが,この3つの式です.そして,質量保存の式をCIP-CLS2法,運動方程式をセミラグランジュ法を用いて移流項をCIP法,非移流項を差分法を用いて解きました, CIP法は,移流計算をする場合,値だけでなく,その傾きつまり微分値も移流させることで数値拡散が小さくなる事を利用した解法です. CIP-CSL法は,値と,傾きに加えて積分値も移流させることで質量を保ちながら(プロファイルを保ちながら)計算する事ができる解法です. セミラグランジュ法は,運動方程式の様な,非線形移流方程式を移流相と非移流相に分離して解く方法です. 差分法は,ある微分方程式の関数の有限な差をとり,この差分を変数値の差で割って得られる差分商で近似する方法の事です. ⇒CIP-CSL2法  ⇒セミ・ラグランジュ法   ・移流項   → CIP法   ・非移流項 → 差分法

計算の条件等 計算範囲 Rp ~ 25Rp パラメータの設定 CFL条件による タイムステップ 格子点間隔 の制約 境界条件 初期条件 ν:クーラン数  Ci:格子点間の伝搬速度 N:格子点数,i:格子点番号 密度をr-2 に比例させる. 速度は計算領域にわたり 10-5[m/s]一定 下部数密度,下部境界温度を一定 その他の境界条件を外挿 境界条件 初期条件 パラメータの設定 記号 意味 値 単位 M 地球質量 5.97 × 1024 Kg Rp 地球半径 6.36 × 106 m μ 気体の平均分子量 2.0 × 10-3 kg ν クーラン数 1.0 × 10-5 n0 下部境界数密度 5 × 1015 ~ 5 × 1018 m-3 HEP 散逸パラメータ 5 ~ 25 N グリッド数 100 ~ 1000 ここでは,この計算で用いた定数やパラメータ条件などを書いてあります. CFL条件とは,移流方程式の数値解を求めるときに,タイムステップの値は流体が隣り合う格子点に伝達するまでの時間よりも小さくなければ,数値発散が起きてしまいます.この発散が起きないためのタイムステップの制約をCFL条件と言います. 外挿とは,ある既知のデータを用いてその範囲外で予想される数値を求めることをいいます.

計算結果 密度分布 速度分布 密度分布の式: 密度分布は大気下層において静水圧平衡に従い,上層では速度分布に従う. 散逸パラメータ:5(赤) , 15(緑) , 25(青) 下部境界数密度:5.0 ×1018 グリッド数 : 1000 密度分布 速度分布 密度分布は大気下層において静水圧平衡に従い,上層では速度分布に従う. 大気の流速は臨界点を通りながら外向きに増加する. 密度分布の式:

計算結果 質量フラックス分布 質量フラックスのグリッド依存性 質量フラックスは HEP の値が大きくなると重力による束縛のため小さくなる. 質量フラックス分布     質量フラックスのグリッド依存性 散逸パラメータ:5 , 15 , 25 下部境界数密度:5.0 ×1018 グリッド数 : 1000 散逸パラメータ:5 , 15 , 25 下部境界数密度:5.0 ×1018 グリッド数 : 100 ~ 1000 質量フラックスは HEP の値が大きくなると重力による束縛のため小さくなる. グリッド数のみを変えて同じ計算をすると,グリッド数 1000 において解析解とほぼ  同じ定常解が得られた.

数値計算の時間発展 密度分布 下部境界数密度を変化させた場合 散逸パラメータ: 5 下部境界数密度: 散逸パラメータ: 5 下部境界数密度:   5.0 ×1017 ~ 5.0 ×1019  グリッド数 : 1000 n0 = 5.0×1017 [m-3] n0 = 5.0×1018 [m-3] n0 = 5.0×1019 [m-3]

点線は負の値を絶対値を用いて反転させたもの 数値計算の時間発展 下部境界数密度を変化させた場合 速度分布 散逸パラメータ: 5 下部境界数密度:   5.0 ×1017 ~ 5.0 ×1019  グリッド数 : 1000 n0 = 5.0×1017 [m-3] n0 = 5.0×1018 [m-3] n0 = 5.0×1019 [m-3] 点線は負の値を絶対値を用いて反転させたもの

点線は負の値を絶対値を用いて反転させたもの 数値計算の時間発展 下部境界数密度を変化させた場合 質量フラックス分布 散逸パラメータ: 5 下部境界数密度:   5.0 ×1017 ~ 5.0 ×1019  グリッド数 : 1000 n0 = 5.0×1017 [m-3] n0 = 5.0×1018 [m-3] n0 = 5.0×1019 [m-3] 点線は負の値を絶対値を用いて反転させたもの 下部境界数密度を変化させても時間発展における計算に影響はない

梅本(修論,2012)で行っている,EUV加熱を考慮した計算 まとめ 地球の大気進化 太古の地球の気候変動 太陽が暗かったにもかかわらず,地球は凍っていなかった.これは,CO2やCH4などの温室効果ガスやアルベドの寄与を総合的考えることで,パラドックスを解決できる可能性がある. 大気散逸 初期地球は流体力学的散逸により H2 が散逸 等温大気モデルにおける数値計算 解析解と数値解が一致し質量が保存されていた 散逸パラメータ以外を固定した場合,HEP の値が大きくなると惑星重力による束縛のため質量フラックスは小さくなる. 時間積分することで初期値から定常解に漸近していく.また下部境界の数密度を変えてみても,ある時間における解の取る形は変化しない. 残っているパラメータの変化などを考える 梅本(修論,2012)で行っている,EUV加熱を考慮した計算 ~今後について~

参考文献 Hessler, A. M. Earth’s Earliest Climate. Nature Education Knowledge 3(10):24, (2012). Kasting, J. F., Earth’s early atmosphere. Science 259, (1993). Pepin, R. O., Atmospheres on the terrestrial planets: Clues to origin and evolution. Earth and Planetary Science Letters 252 , (2006). Ribas, I., Guinan, E. F., Gϋdel, M. and Audard, M., Evolution of the solar activity over time and effects on planetary Atmospheres. I. High-Energy Irradiances (1 – 1700 Å). The Astrophysical Journal 622, (2005). Rosing, M. T. et al., No climate paradox under the faint Sun. Nature 464, (2010). Catling, D. C. and Zahnle, K. J., The Planetary Air Leak. Scientific American 300, (2009). Valley, J. W., A Cool Early Earth? Scientific American 293, (2005). 平 朝彦 ら共著, 岩波講座 地球惑星科学 13 地球進化論. 岩波書店, (1998). 梅本 隆史, 流体力学的散逸の基礎理論について, 北海道大学 理学部卒業論文, (2010). 梅本 隆史, 初期地球大気からの流体力学的散逸の数値モデリング, 北海道大学大学院 理学院宇宙理学専攻修士論文, (2012). 田近 英一, 地球型惑星環境進化学 講義資料. 惑星科学フロンティアセミナー, (2011).

時間発展におけるプロットデータ Times (s) Line Color Red 10 Pink 1 X 103 Orange Red 10 Pink 1 X 103 Orange 1 X 104 Brown 3 X 104 Green 4 X 104 Dark-Green 5 X 104 Cyan 7 X 104 Blue 8 X 104 Violet 1 X 105 Black