極低出生体重児の 新生児遷延性肺高血圧症の検討 名古屋大学医学部附属病院周産母子センター 伊東真隆 中山淳 竹本康二 早川昌弘 名古屋第一赤十字病院 孫田みゆき 安田彩子 鬼頭修 鈴木千鶴子
背景 今回、VLBWにおけるPPHNの病因について後方視的に検討した。 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)はいまだ予後不良の疾患のひとつであるが、極低出生体重児(VLBW)のPPHNに関する検討は少なく、その病因については不明な点も多い。 今回、VLBWにおけるPPHNの病因について後方視的に検討した。 背景です。 新生児遷延性肺高血圧症(以下PPHN)は、新生児集中治療が発達した現在でも予後不良の疾患のひとつである。なかでも極低出生体重児(以下VLBW)のPPHNに関する検討は少なく、その特徴や病因については不明な点も多い。 VLBWにおけるPPHNの病因をあきらかにするために後方視的に検討したので報告します。
対象と方法 奇形症候群、染色体異常、先天性心疾患は除外した。 2000年1月から2006年3月までに名古屋大学関連NICUに入院したVLBWのうち、PPHNと診断された20例をPPHN群とし、1例につき2例の在胎期間、出生体重、性別をマッチさせたコントロールを抽出し、周産期情報、母体妊娠合併症について検討した。 奇形症候群、染色体異常、先天性心疾患は除外した。 対象と方法です。 2000年1月から2006年3月までに名古屋大学関連NICUに入院したVLBWのうち、PPHNと診断された20例をPPHN群とし、1例につき2例の在胎期間、出生体重、性別をマッチさせたコントロールを抽出し、周産期情報、母体妊娠合併症について検討しました。 奇形症候群、染色体異常、先天性心疾患は除外しました。 また統計学的解析にマンホイットニーU検定、カイ二乗検定を用いpが0.05未満を有為差ありとしました。
PPHNの診断と治療 診断 低酸素血症 SpO2の上下肢差 心エコーで動脈管、心房での右左シャントを確認 治療 心エコーで動脈管、心房での右左シャントを確認 治療 人工換気療法、酸素投与、カテコラミン、 容量負荷、血管拡張薬投与 反応がない場合に一酸化窒素吸入療法を開始する PPHNの診断と治療です。 発症時は低酸素血症やチアノーゼを呈し、サチュレーションの上下肢差、心エコーで動脈管もしくは卵円孔での右左シャントを証明することで診断します。 一般的な治療の方針は肺血管抵抗を減らすために十分な呼吸管理、十分な酸素投与を行います。肺血圧を体血圧が上回ること目標としてカテコラミン、容量負荷を行います。肺血管抵抗をさげるため血管拡張薬を投与します。これが無効の場合に一酸化窒素吸入療法を開始します。 実際には施設間症例間で対応が異なっています。
背景 PPHN群 (n=20) コントロール群 (n=40) p値 在胎期間 25W6D (23W4D~30W1D) 0.784 出生体重(g) 940 (624~1494) 976 (660~1472) 0.736 母の年齢(才) 31 (19~41) 30 (15~42) 0.919 男児 10(50%) 20(50%) 1.000 死亡 4(20%) 5(13%) 0.447 在胎期間はPPHN群、コントロール群ともに中央値25週6日、出生体重はそれぞれ940グラム、976グラムで男女比は1対1、母の年齢は31歳と30歳、死亡例は4例と5例でした。2群間には統計学的有為差はありません。
妊娠分娩因子(1) PPHN群 (n=20) コントロール群 (n=40) p値 母体糖尿病 0(0%) 2(5%) 0.313 母体高血圧 3(7.5%) 0.213 羊水過少 1(5%) 1(2.5%) 0.614 羊水過多 2(5.0%) 出生前ステロイド 5(25%) 7(18%) 0.497 多胎 6(30%) 11(28%) 0.841 胎児心拍異常 6(15%) 0.259 帝王切開 13(65%) 14(35%) 0.053 妊娠分娩因子です。母体糖尿病、妊娠高血圧症はPPHN群には認めませんでした。羊水過少は破水以外が原因の羊水過少のみを検討しました。出生前ステロイド、多胎、胎児仮死徴候も両群には差はありませんでした。帝王切開はPPHN群に多い傾向がありましたが有為差はありません。
妊娠分娩因子(2) 破水期間;前期破水から分娩までの期間 PPHN群 (n=20) コントロール群(n=40) p値 前期破水 17(88%) 14(35%) 0.018 破水期間(日) 17 (1~56) 10 (1~49) 0.049 絨毛膜羊膜炎 14(70%) 17(43%) 0.017 羊水環流療法 15(75%) 13(33%) 0.030 前期破水がPPHN群の88%に認められコントロール群の35%に比べ有為に多いことがわかりました。また破水から分娩までの時間を破水期間として比較するととPPHN群は中央値で17日間、コントロール群は10日間でPPHN群が有為に長いことがわかりました。また絨毛膜羊膜炎はPPHN群の14例75%に合併していました。 破水期間;前期破水から分娩までの期間
出生後因子 PPHN群(n=20) コントロール群(n=40) p値 アプガースコア1分後 3(1~9) 4(1~9) 0.145 5分後 5分後 7(1~10) 0.400 蘇生時エピネフリン使用 0(0%) 1.000 蘇生時胸骨圧迫 人工換気療法 20(100%) 35(88%) 0.101 呼吸窮迫症候群 15(75%) 27(68%) 0.553 肺サーファクタント投与 28(70%) 0.688 出生後の因子の検討です。アプガースコアはPPHN群は1分後3点、5分後7点、コントロール群は1分後4点5分後7点であり両群間に有為差はありませんでした。蘇生時のエピネフリン使用、あるいは胸骨圧迫が必要な重症仮死は両群ともいませんでした。人工換気療法を行ったのはPPHN群は全例、コントロール群は35例88%、呼吸窮迫症候群はPPHN群15例75%、コントロール群27例66%で有為差はありませんでした。
考察 前期破水との関連 羊水過少によるdry lung syndrome、肺低形成 が発症に関与 破水期間、羊水還流療法との関連 前期破水後に羊水量が保たれていてもPPHN を発症する機序の存在を示唆 絨毛膜羊膜炎との関連 炎症との関連ははっきりしない 考察です 今回の検討ではVLBWのPPHNには前期破水、絨毛膜羊膜炎、破水期間、羊水還流療法が関連してることが示唆されました。 前期破水との関連 前期破水による羊水過少に関連した病態としてdry lung syndromeと肺低形成症が考えられます。 dry lung syndromeは羊水過少により胎児の気管支がつぶれ、出生時につぶれをとるために強い陽圧を必要とし重篤な呼吸障害にPPHNを合併します。また長期に渡り羊水がない状態が続くと、肺の発生が阻害され肺低形成症となりPPHNを発症します。 こうした機序がVLBWのPPHNに関与していることは以前にも報告されています。 破水期間、羊水還流療法との関連 羊水還流療法で羊水の量を保つことで破水期間が長くなった症例が多いのが本検討の特徴であり、羊水過少による機序では説明できない機序の存在が示唆されます。羊水還流療法は近年在胎期間の延長と予後の改善に効果があるとする報告が散見されますがPPHNとの関連は報告されていません。羊水還流療法の有害事象かどうかは今後検討する必要があると思われました。 絨毛膜羊膜炎との関連 絨毛膜羊膜炎がPPHNと関連しているのか、絨毛膜羊膜炎による前期破水がPPHNと関連しているかは今回の検討では評価できません。前期破水の原因は絨毛膜羊膜炎の炎症によるものがもっとも多いと報告されていますが、絨毛膜羊膜炎自体とPPHNの発症に関係があるという報告は調べた限りでは見当たりませんでした。絨毛膜羊膜炎の炎症との関与は今後の検討課題といえます。 今回の検討では出生後のケア、発症時の状況は検討していないため発症機序を明確にするのは難しいと思われます。PPHNの発症は出生直後の肺血管抵抗の低下が阻害されて起こることは周知の通りですが、リスクファクターとPPHNの発症には不明な点が多く今後の研究課題としたいと思います。 9
結語 VLBWのPPHNは前期破水、前期破水の期間、絨毛膜羊膜炎、羊水還流療法との関係が示唆された。