原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.

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原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型

液滴模型 電子散乱などから得られた原子核の電荷密度は次の特徴をもつ 原子核の液滴模型 表面が明瞭である(原子核表面で密度が急速に減少) 内部の密度は原子核に依らずに一定(密度の飽和性) Fermi の分布関数でよく記述できる 原子核の液滴模型 原子核の最初の模型 原子核を非圧縮性流体(密度の飽和性から)と考える 原子核全体の性質を記述する模型 量子流体であるので,通常の流体の液滴とは異なる ⇒ 核子は Fermi 粒子であり,Pauli 原理がはたらく   原子核内では,核子間距離が大きく核子の衝突は稀である 通常の流体では,粒子間の距離が近く粒子の衝突が頻繁

核子間距離 原子核の結合エネルギーは核子数(質量数 A)にほぼ比例する ⇒ 核子は限られた個数の核子とだけ相互作用する(核力の飽和性) 全ての核子と相互作用するのであれば,結合エネルギーは A2 に比例する 原子核の半径は 原子核を球として,1個の核子が占める体積は   1個の核子が占める体積を球と仮定すると,その半径は    核子間距離は球の半径の2倍程度

核子間距離と原子核の結合エネルギー 原子核は自己束縛(量子)多体系 原子核は のバランスによって結合している 大きな正の運動エネルギー 大きな負のポテンシャルエネルギー   のバランスによって結合している 粒子を狭い空間に閉じ込めると運動エネルギーは増大する 核力の到達距離は 1.5 fm 程度であるので,核子間距離が広がるとポテンシャルエネルギーは急速に減少する

原子核の結合エネルギー

結合エネルギーの特徴 結合エネルギー B(A,Z) は質量数 A に比例する。 核子あたりの結合エネルギーは,ほぼ一定。 核子あたりの結合エネルギーは A = 60 付近で最大になる。   A = 60 以降は単調に減少する。 質量数 A を固定して,陽子数 Z 依存性をみると,Z の2次曲線で近似できる。 3.をさらに詳しく見ると,質量数 A が奇数のときは1つの2次曲線で表されるの対して,偶数のときは2つの2次曲線で表される。 陽子数が偶数の原子核は奇数の原子核に比べて結合エネルギーがやや大きい。 質量数が小さい領域では,陽子数と中性子数が同数ずつ(Z = N)もつ傾向がある。質量数が大きい領域でも同様な傾向があるようである。

半経験的質量公式 Weizsaecker の質量公式                                       β安定線へ

1.体積エネルギー項 流体の凝集エネルギーは流体の量に比例する 原子核のエネルギーの場合には,最も粗い近似で,核子の数,すなわち,質量数に比例する   結合エネルギーの飽和性 核子のあいだにはたらく核力は平均して引力である そのため,エネルギー E1 には負号をつけてある 結合エネルギーには正で寄与する ⇒ 結合を強める 他の項(対エネルギー項を除いて)は全て逆符号で結合エネルギーに寄与する ⇒ 結合を弱める 体積エネルギー項によって,原子核は束縛系として存在できる

2.表面エネルギー項 液滴の表面には表面張力がはたらく 単位面積あたりの表面張力を   とすると, 半径が R の球状液滴の表面エネルギーは,表面張力と球の表面積の積で与えられる: 液滴の体積が質量数に比例すると考えると 表面エネルギーは原子核のエネルギーを増加させるので,結合エネルギーを減少させる 核子は,そのまわりの核子から引力を受けている しかし,表面にある核子は,内部にある核子からだけ引力を受ける 表面効果として,エネルギーを増加させる表面エネルギー項が現れる

3.Coulomb エネルギー項 半径 R の球に電荷 Ze が一様に分布していると考える Z ( Z – 1 ) を Z2 で近似 Coulomb エネルギーは原子核のエネルギーを増加させる ⇒ 原子核の結合エネルギーを減少させる

4.対称エネルギー項 陽子数が 1 から 20 までの安定な原子核

Coulomb 相互作用を除くと,原子核は同数の陽子と中性子をもとうとする傾向がある   ⇒  中性子数と陽子数の比 N / Z が同じでも, 核子数が2倍になれば対称エネルギーも2倍になるはず   この式は,Z = N のまわりに N – Z について展開して,最低次の2次の項だけをとったもの 原子核の質量の実験データは,N – Z に比例する項はないことを示す

5.対エネルギー項 原子核は同種の核子を偶数個もとうとする性質がある A = 奇数 の原子核の質量は1つの2次曲線で近似される 従って,次の3つの場合に応じて Z = 偶数, N = 偶数 Z + N = 奇数 Z = 奇数, N = 奇数

対エネルギー項の質量数依存性 原子核の質量の実験値から, 対エネルギーが求められる ⇒ 右図 実験値を次の関数で近似的に表す(右図の曲線) これとは異なる関数型を用いることもある

β安定線 質量数が等しい原子核の中で,結合エネルギーが最大の原子核 ⇒ 下図の曲線(黒い四角は安定同位体)

結合エネルギーの内訳 質量数の増加とともに,表面の効果は減少 質量数(陽子数)の増加とともに,Coulomb エネルギー項は増大 対称エネルギー項は小さく見えるが,この項は本来「非対称エネルギー」

原子核の結合エネルギー 安定な原子核                全ての原子核

殻効果 半経験的質量公式は, 全体として実験値をよく再現する しかし,詳細に比較すると,特徴的な違いが見られる 質量数が小さい領域 質量数が  A = 90, 140, 210 の領域 実験値 - 質量公式 の値を, 横軸に「陽子数」,「中性子数」をとって表すと(右図),違いが顕著に見える ⇒ 魔法数

核物質 対称核物質   核子あたりの結合エネルギー( Coulomb エネルギーを無視する) 中性子物質(中性子星)   核子あたりの結合エネルギー