不安定核における殻進化と エキゾチックな核構造 宇都野 穣 (JAEA) KEK研究会「現代の原子核物理 -多様化し進化する原子核の描像- 」 2006年8月1日
安定核と不安定核 不安定核構造の興味 殻構造をどのように変えるか、また、 その核構造に対する影響は? 中性子のフェルミ面が連続状態に近いことによる、弱束縛系としての側面(中性子ハローなど) 多体系の緩い束縛による、新たなサブシステム(クラスター)の存在可能性しての側面 陽子/中性子数の比が大きいことによる、核子間相互作用のアイソスピン依存性とそれを反映した多体問題としての側面 ・・・ 殻構造をどのように変えるか、また、 その核構造に対する影響は?
殻構造の変化 (殻進化) 安定核において殻構造が移り変わる例 異なる軌道角運動量 を持つ軌道の相対位置 ls splitting 殻構造の変化 (殻進化) 安定核において殻構造が移り変わる例 異なる軌道角運動量 を持つ軌道の相対位置 ls splitting 実験のone particle or one hole stateから
一体ポテンシャルによる理解 Woods-Saxon potential 安定核における殻構造の変化を再現する。 殻構造の変化は「単調な」振る舞いになる。 不安定核では? 変化の様子は本当に滑らかなのか? Taken from the textbook by Bohr & Mottelson
不安定核における魔法数の生成・消滅 N=20領域 これらを支配しているもの ここでは N=20魔法数の消滅(Na, Mg近辺) 新魔法数N=16(O近辺) これらを支配しているもの N=16魔法数は、球形核のため、shell gapの増大を直接的に表していると考えられる。 s1/2 lowering or d3/2 heightening? 前者は、N=20 shell gapの減少を伴わないが、後者は伴う。 N=20魔法数の消滅がN=20 shell gapの減少と関係するか? ここでは 殻模型によって、中性子過剰核の構造を研究し、その殻構造との関係を調べる。
normal vs. intruderの競合 normal vs. intruderの競合 殻模型的理解 平均場的理解 normal (0p0h) pf 20 sd intruder (2p2h) 0p-0h 2p-2h pf 20 sd 殻模型:十分な相関エネルギーが取り入れられる。
Conventional “island of inversion” N=20 shell gapについて Conventional “island of inversion” (Warburton et al.) SDPF-M interaction (Utsuno et al.) 20 中性子のd3/2軌道と陽子のd5/2軌道間の 強い「平均的」相互作用 =monopole interaction
shell gapと核構造 Na intruder stateが小さな中性子数でも基底 状態となるには、shell gapが狭まっていな shell gapと核構造 Na difference in correlation energy largest smaller intruder stateが小さな中性子数でも基底 状態となるには、shell gapが狭まっていな ければならない。 Y. Utsuno et al., Phys. Rev. C 70, 044307 (2004).
相互作用から見た殻進化 Spin-isospin dependence Tensor interaction T. Otsuka, T. Suzuki, R. Fujimoto, H. Grawe, and Y. Akaishi, Phys. Rev. Lett. 95, 232502 (2005). T. Otsuka, R. Fujimoto, Y. Utsuno, B.A. Brown, M. Honma, and T. Mizusaki, Phys. Rev. Lett. 87, 082502 (2001). 異なるl-軌道間にも大きな寄与を与える。 (他のshellも変えうる?) 主に同じl-軌道間のみに働く (N=20のshell gapの振る舞いを説明) 中重核の構造との関係:阿部さんの講演
中性子過剰核における陽子の殻進化 テンソル力の与える影響 a) N=16から20にかけて b) N=20から28にかけて f7/2 f7/2 d3/2 d3/2 d3/2 16 16 s1/2 s1/2 14 14 d5/2 d5/2 proton neutron proton neutron N=20近傍では、大きなZ=14(16) shell gapが予想される。 N=28近傍に向かうと、Z=14 gapは、中心力との相殺であまり変化せず、Z=16 gapは、中心力との相乗効果で著しく狭まると思われる。
34Siは二重閉殻的核か? 軽い核における二重閉殻核 16O、40Caの2+1は、1p-1h状態(RPA的)ではなく、4p-4h(or クラスター励起)したバンドのメンバー。(パリティの禁止則でone major shell上のshellへの1p-1h励起が許されない) 48Caの2+1は、主にN=28 shell gapを超えた1p-1h状態である。 どちらになるかは、両者のエネルギーの競合関係が決める。 34Si 条件的にはbと同じ(主殻内の1p-1h励起が許される。) 実際は??
34Siの小さなB(E2) 現在では× (experiment by Iwasa et al.) 基底状態はpure normal、2+1はpure intruderとすると、これらはE2遷移 ではつながらない。 もし、2+1が変形状態のメンバーとすると、回転バンドが現れるはず・・・ まだこの核の構造について、完全な決着がついていない。
35Pの準位とZ=14殻ギャップ sd-shell p n sd-shell 1/2+-3/2+-5/2+ ordering : Z=14 gap > Z=16 gap Very sparse levels Experiment and MCSM Two more 5/2+ levels by 36S(d,3He)35P reaction are reproduced. d5/2のhole stateはどれに相当するかは 決まっていないが、s1/2-d5/2 gapは相当 あるようである。
殻模型相互作用におけるテンソル力 与えられた相互作用から中心力、スピン軌道力、テンソル力の寄与に分解するには? 一般的には、2体行列要素が数値として与えられている。 spin-tensor decomposition (M.W. Kirson, Phys. Lett. 47B, 110 (1973)) (U, Xは座標空間、スピン空間における rank kのテンソル、k=0,1,2それぞれ、 中心力、スピン軌道力、テンソル力を表す)
現実的相互作用のテンソル力の強さ GXPF1 (M. Honma et al. 2002) T=0テンソル力のmonopole centroids (in MeV) GXPF1 (M. Honma et al. 2002) pf shell領域の標準的な相互作用 安定核から不安定核まで広くカバー MK (Millerner and Kurath 1975) cross-shell相互作用としてよく用いられているもの 異なるテンソル力で比較 sd, pf shell内相互作用は共通 sd-pf cross-shell相互作用に異なった3つを比較する MK: Millener-Kurath TS1: T=0 p+r TS2: T=0, 1 p+r の強さを1.2倍 i j GXPF1 p+r MK f7 0.223 0.210 0.080 p3 0.036 0.035 0.013 f5 -0.335 -0.315 -0.120 p1 -0.073 -0.070 -0.026 0.092 0.150 0.064 -0.048 -0.046 -0.017 -0.229 -0.376 -0.160 0.382 0.360 0.137 0.097 0.093 0.034 0.306 0.501 0.213
N=20から28へかけての陽子の殻進化 弱いテンソル力では、d3/2-s1/2の狭まりが十分に再現できない。 p+rよりやや強いテンソル力(TS2)が定量的には最も良い。 Z=14のギャップも同時に変化させる。
最近の話題:42Siは球形か変形か? 魔法核であることの論点 1) 2) 42Siのガンマ線直接測定(@GANIL) 魔法核でないとの結果
Si同位体の構造と殻進化との関係 Si 偶偶核Siの第一励起状態のエネルギーとB(E2) 中性子数が22,24くらいまでは、テンソル力の依存性はほとんどない。2+1状態が主に中性子で作られているため。 中性子数28では、テンソル力に大きく依存する。 Si
まとめ 軽い核では、中性子過剰核の構造が非常に中性子過剰な核まで理解されつつあり、それにより、不安定核の構造をグローバルに理解することが可能になりつつある。 不安定核における殻構造の変化(殻進化)はその一つの話題であり、殻模型による精密な核構造計算に牽引されて研究が進められてきた。 中性子数20領域のエキゾチックな構造は、テンソル力による殻進化が非常に重要な役割を果たしている。 それは、さらに重い核にも重要であると考えられ、sd-pf殻領域、 pf-g殻領域の統一的な相互作用を用いた殻模型研究や、Gogny力にテンソル力を入れた平均場計算などに向かっている。