不安定核における殻進化と エキゾチックな核構造

Slides:



Advertisements
Similar presentations
反対称化分子動力学法を用いた原子核構造と反応の研究 延与佳子 (京大基礎物理学研究所) 主なプロジェクトメンバー: 延与(京大) 小野(東北大) 古田(東北大) 1. はじめに 2. 反対称化分子動力学法 3. 重イオン反応の研究・核物質の液相気相の共存 4. 軽い安定核・不安定原子核の構造研究 5.
Advertisements

反対称化分子動力学による Drip-line 核の研究に向けて M. Kimura (Hokkaido Univ.)
原子核物理学 第3講 原子核の存在範囲と崩壊様式
エキゾチックな原子核の魔法数とパイ中間子の 知られざる関係を発見
Spectroscopic Study of Neutron Shell Closures via Nucleon Transfer in the Near-Dripline Nucleus 23O Phys. Rev. Lett. 98, (2007) Z.Elekes et al.
HBT干渉法における 平均場の効果の準古典理論
第2回応用物理学科セミナー 日時: 6月 2日(月) 16:00 – 17:00 場所:葛飾キャンパス研究棟8F第2セミナー室
α α 励起エネルギー α α p3/2 p3/2 α α 12C 13B 12Be 8He α α α
Study of the tensor correlation with a beyond-mean-field method
不安定核のエネルギー準位から探る殻構造の変化
低質量X線連星(X線バースト天体)における元素合成
清水 則孝 理研 大塚 孝治 東大理/CNS/理研 水崎 高浩 専修大 本間 道雄 会津大
クラスター変分法による 超新星爆発用 核物質状態方程式の作成
最近の不安定核の構造研究の発展 板垣 直之 (東大理) KEK研究会 2006年8月.
Shell model study of p-shell X hypernuclei (12XBe)
中性子過剰核での N = 8 魔法数の破れと一粒子描像
Ⅰ 孤立イオンの磁気的性質 1.電子の磁気モーメント 2.イオン(原子)の磁気モーメント 反磁性磁化率、Hund結合、スピン・軌道相互作用
Ⅲ 結晶中の磁性イオン 1.結晶場によるエネルギー準位の分裂 2.スピン・ハミルトニアン
Ⅳ 交換相互作用 1.モット絶縁体、ハバード・モデル 2.交換相互作用 3.共有結合性(covalency)
to Scattering of Unstable Nuclei
平均場理論計算による sd-shell ハイパー核の形 1. sd殻核と変形 2. 自己無撞着平均場理論 と核変形
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
質量数130領域の原子核のシッフモーメントおよびEDM
理研RIBFにおける深く束縛されたπ中間子原子生成
Dissociative Recombination of HeH+ at Large Center-of-Mass Energies
大規模殻模型計算による 原子核構造研究の展開
原子核物理学 第8講 核力.
反核子のオフシェルエネルギーでの振舞いおよび ガモフテーラー和則における中間子生成強度
Λハイパー核の少数系における荷電対称性の破れ
ストレンジネスが拓く エキゾチックな原子核の世界
The Effect of Dirac Sea in the chiral model
Muonic atom and anti-nucleonic atom
テンソル力を取り入れた平均場模型(と殻模型)による研究
QMDを用いた10Be+12C反応の解析 平田雄一 (2001年北海道大学大学院原子核理論研究室博士課程修了
原子核物理学 第2講 原子核の電荷密度分布.
Anomalous deformation in neutron-rich nuclei
原子核の質量 B (束縛エネルギー) 束縛エネルギー *束縛エネルギーが大きいほど安定(質量が軽い)
理研RIBFにおける 中性子過剰Ne同位体の核半径に関する研究
2次元系における超伝導と電荷密度波の共存 Ⅰ.Introduction Ⅱ.モデルと計算方法 Ⅲ.結果 Ⅳ.まとめと今後の課題 栗原研究室
Y. Fujiwara, Y. Suzuki and C. N., to be published in PPNP;
Charmonium Production in Pb-Pb Interactions at 158 GeV/c per Nucleon
Clusters ‘07 会議出席報告 基礎物理学研究所 研究機関研究員 高階 正彰
4体離散化チャネル結合法 による6He分解反応解析
星間物理学 講義2: 星間空間の物理状態 星間空間のガスの典型的パラメータ どうしてそうなっているのか
Why Rotation ? Why 3He ? l ^ d Half-Quantum Vortex ( Alice vortex ) n
チャネル結合AMDによる sd殻Ξハイパー核の研究
研究開発課題(原子核分野)の紹介 東京大学 大塚孝治.
原子核物理学 第5講 原子核の振動と回転.
原子核の殻構造の相対論的記述 n n n σ ω n σ ω n 柴田研究室 石倉 徹也 1.Introduction n n
有限クォークおよび有限アイソスピン化学ポテンシャル
反対称化分子動力学で調べる ハイパー核構造
卒業論文発表 中性子ハロー核14Beの分解反応 物理学科4年 中村研究室所属   小原雅子.
ストレンジネスで探る原子核 -ハイパー核の世界-
中性子過剰F同位体における αクラスター相関と N=20魔法数の破れ
井坂政裕A, 木村真明A,B, 土手昭伸C, 大西明D 北大理A, 北大創成B, KEKC, 京大基研D
J-PARC meeting 藤岡 宏之 2006/01/31.
原子核物理学 第9講 二重ベータ崩壊.
格子ゲージ理論によるダークマターの研究 ダークマター(DM)とは ダークマターの正体を探れ!
α decay of nucleus and Gamow penetration factor ~原子核のα崩壊とGamowの透過因子~
原子核物理学 第7講 殻模型.
課題研究 P4 原子核とハドロンの物理 (理論)延與 佳子 原子核理論研究室 5号館514号室(x3857)
大規模並列計算による原子核クラスターの構造解析と 反応シミュレーション
原子核物理学 第6講 原子核の殻構造.
ハイパー核物理分野から見た K原子核物理へのコメント
Brueckner-AMDの軽い原子核への適用
低エネルギー3核子分裂反応について 法政大学 石川壮一 1.はじめに 2.3体クーロン問題の定式化 p-p-n系
(K-,K+)反応によるΞハイパー核の生成スペクトル
現実的核力を用いた4Heの励起と電弱遷移強度分布の解析
複合アニオンに起因した多軌道性と低次元性からうまれる 強相関電子物性の研究
軽い原子核の3粒子状態 N = 11 核 一粒子エネルギー と モノポール a大阪電気通信大学 b東京工業大学
Presentation transcript:

不安定核における殻進化と エキゾチックな核構造 宇都野 穣 (JAEA) KEK研究会「現代の原子核物理 -多様化し進化する原子核の描像- 」 2006年8月1日

安定核と不安定核 不安定核構造の興味 殻構造をどのように変えるか、また、 その核構造に対する影響は? 中性子のフェルミ面が連続状態に近いことによる、弱束縛系としての側面(中性子ハローなど) 多体系の緩い束縛による、新たなサブシステム(クラスター)の存在可能性しての側面 陽子/中性子数の比が大きいことによる、核子間相互作用のアイソスピン依存性とそれを反映した多体問題としての側面 ・・・ 殻構造をどのように変えるか、また、 その核構造に対する影響は?

殻構造の変化 (殻進化) 安定核において殻構造が移り変わる例 異なる軌道角運動量 を持つ軌道の相対位置 ls splitting 殻構造の変化 (殻進化) 安定核において殻構造が移り変わる例  異なる軌道角運動量 を持つ軌道の相対位置  ls splitting 実験のone particle or one hole stateから

一体ポテンシャルによる理解 Woods-Saxon potential 安定核における殻構造の変化を再現する。 殻構造の変化は「単調な」振る舞いになる。 不安定核では? 変化の様子は本当に滑らかなのか? Taken from the textbook by Bohr & Mottelson

不安定核における魔法数の生成・消滅 N=20領域 これらを支配しているもの ここでは N=20魔法数の消滅(Na, Mg近辺) 新魔法数N=16(O近辺) これらを支配しているもの N=16魔法数は、球形核のため、shell gapの増大を直接的に表していると考えられる。 s1/2 lowering or d3/2 heightening? 前者は、N=20 shell gapの減少を伴わないが、後者は伴う。 N=20魔法数の消滅がN=20 shell gapの減少と関係するか? ここでは 殻模型によって、中性子過剰核の構造を研究し、その殻構造との関係を調べる。

normal vs. intruderの競合 normal vs. intruderの競合 殻模型的理解 平均場的理解 normal (0p0h) pf 20 sd intruder (2p2h) 0p-0h 2p-2h pf 20 sd 殻模型:十分な相関エネルギーが取り入れられる。

Conventional “island of inversion” N=20 shell gapについて Conventional “island of inversion” (Warburton et al.) SDPF-M interaction (Utsuno et al.) 20 中性子のd3/2軌道と陽子のd5/2軌道間の 強い「平均的」相互作用 =monopole interaction

shell gapと核構造 Na intruder stateが小さな中性子数でも基底 状態となるには、shell gapが狭まっていな shell gapと核構造 Na difference in correlation energy largest smaller intruder stateが小さな中性子数でも基底 状態となるには、shell gapが狭まっていな ければならない。 Y. Utsuno et al., Phys. Rev. C 70, 044307 (2004).

相互作用から見た殻進化 Spin-isospin dependence Tensor interaction T. Otsuka, T. Suzuki, R. Fujimoto, H. Grawe, and Y. Akaishi, Phys. Rev. Lett. 95, 232502 (2005). T. Otsuka, R. Fujimoto, Y. Utsuno, B.A. Brown, M. Honma, and T. Mizusaki, Phys. Rev. Lett. 87, 082502 (2001). 異なるl-軌道間にも大きな寄与を与える。 (他のshellも変えうる?) 主に同じl-軌道間のみに働く (N=20のshell gapの振る舞いを説明) 中重核の構造との関係:阿部さんの講演

中性子過剰核における陽子の殻進化 テンソル力の与える影響 a) N=16から20にかけて b) N=20から28にかけて f7/2 f7/2 d3/2 d3/2 d3/2 16 16 s1/2 s1/2 14 14 d5/2 d5/2 proton neutron proton neutron  N=20近傍では、大きなZ=14(16) shell gapが予想される。  N=28近傍に向かうと、Z=14 gapは、中心力との相殺であまり変化せず、Z=16 gapは、中心力との相乗効果で著しく狭まると思われる。

34Siは二重閉殻的核か? 軽い核における二重閉殻核 16O、40Caの2+1は、1p-1h状態(RPA的)ではなく、4p-4h(or クラスター励起)したバンドのメンバー。(パリティの禁止則でone major shell上のshellへの1p-1h励起が許されない) 48Caの2+1は、主にN=28 shell gapを超えた1p-1h状態である。 どちらになるかは、両者のエネルギーの競合関係が決める。 34Si 条件的にはbと同じ(主殻内の1p-1h励起が許される。) 実際は??

34Siの小さなB(E2) 現在では× (experiment by Iwasa et al.)  基底状態はpure normal、2+1はpure intruderとすると、これらはE2遷移 ではつながらない。  もし、2+1が変形状態のメンバーとすると、回転バンドが現れるはず・・・  まだこの核の構造について、完全な決着がついていない。

35Pの準位とZ=14殻ギャップ sd-shell p n sd-shell 1/2+-3/2+-5/2+ ordering : Z=14 gap > Z=16 gap Very sparse levels Experiment and MCSM Two more 5/2+ levels by 36S(d,3He)35P reaction are reproduced. d5/2のhole stateはどれに相当するかは 決まっていないが、s1/2-d5/2 gapは相当 あるようである。

殻模型相互作用におけるテンソル力 与えられた相互作用から中心力、スピン軌道力、テンソル力の寄与に分解するには? 一般的には、2体行列要素が数値として与えられている。 spin-tensor decomposition (M.W. Kirson, Phys. Lett. 47B, 110 (1973)) (U, Xは座標空間、スピン空間における rank kのテンソル、k=0,1,2それぞれ、 中心力、スピン軌道力、テンソル力を表す)

現実的相互作用のテンソル力の強さ GXPF1 (M. Honma et al. 2002) T=0テンソル力のmonopole centroids (in MeV) GXPF1 (M. Honma et al. 2002) pf shell領域の標準的な相互作用 安定核から不安定核まで広くカバー MK (Millerner and Kurath 1975) cross-shell相互作用としてよく用いられているもの 異なるテンソル力で比較 sd, pf shell内相互作用は共通 sd-pf cross-shell相互作用に異なった3つを比較する MK: Millener-Kurath TS1: T=0 p+r TS2: T=0, 1 p+r の強さを1.2倍 i j GXPF1 p+r MK f7 0.223 0.210 0.080 p3 0.036 0.035 0.013 f5 -0.335 -0.315 -0.120 p1 -0.073 -0.070 -0.026 0.092 0.150 0.064 -0.048 -0.046 -0.017 -0.229 -0.376 -0.160 0.382 0.360 0.137 0.097 0.093 0.034 0.306 0.501 0.213

N=20から28へかけての陽子の殻進化 弱いテンソル力では、d3/2-s1/2の狭まりが十分に再現できない。 p+rよりやや強いテンソル力(TS2)が定量的には最も良い。 Z=14のギャップも同時に変化させる。

最近の話題:42Siは球形か変形か? 魔法核であることの論点 1) 2)  42Siのガンマ線直接測定(@GANIL)  魔法核でないとの結果

Si同位体の構造と殻進化との関係 Si 偶偶核Siの第一励起状態のエネルギーとB(E2) 中性子数が22,24くらいまでは、テンソル力の依存性はほとんどない。2+1状態が主に中性子で作られているため。 中性子数28では、テンソル力に大きく依存する。 Si

まとめ 軽い核では、中性子過剰核の構造が非常に中性子過剰な核まで理解されつつあり、それにより、不安定核の構造をグローバルに理解することが可能になりつつある。 不安定核における殻構造の変化(殻進化)はその一つの話題であり、殻模型による精密な核構造計算に牽引されて研究が進められてきた。 中性子数20領域のエキゾチックな構造は、テンソル力による殻進化が非常に重要な役割を果たしている。 それは、さらに重い核にも重要であると考えられ、sd-pf殻領域、 pf-g殻領域の統一的な相互作用を用いた殻模型研究や、Gogny力にテンソル力を入れた平均場計算などに向かっている。