MOIRCS試験観測データによるBzK-selected galaxiesの評価 田中壱 / 東北大学大学院理学研究科天文学専攻COEフェロー 勝野 由夏(東北大理/国立天文台)、市川 隆(東北大理)、山田 亨(国立天文台)、 MOIRCSチーム 共同研究/松田 有一(東北大理/国立天文台)、山内良亮、林野友紀(東北大理) すばる望遠鏡の第二期観測装置であるMOIRCSは、昨秋無事ファーストライトを成功させた。MOIRCSは8m級望遠鏡で世界最大の広視野を誇り、しかも徹底した迷光対策と高いスループットによって、総合的サーベイ能力は最終的には現行のCISCOの10数倍に達すると期待されている。宇宙の黎明期における銀河の形成進化史の研究にとって、そのパフォーマンスへの期待は大きい(山田他、関連講演参照)。 我々はMOIRCSの深撮像能力評価データの一貫として、z=3.1の原始銀河団領域として有名なSSA22領域のJとKsのデータを取得した(勝野講演参照)。GT観測のパイロット研究として、このデータを用いて所謂BzK-selectedの銀河について研究したので報告する。BzK-selectionは1.4<z<2.5の銀河を2色図上で効率よく選び出すための新しい手法であり(Daddi et al.astro-ph/0409041)、既に複数の大規模分光サーベイによって有効性が実証されている。今回我々は、21平方分 5σ limitでKs<21.5magのデータから約30個のBzK銀河を検出した。K<20magでは17個で、天球面密度は0.81±0.2個/arcmin2.である。これはDaddi et al.で報告された平均密度とconsistentと言える。K<20でのBzKでのz分布が1.4<z<2.5である事から、SSA22領域の原始銀河団の手前のこのzレンジは通常のフィールド環境であると言える。ただ、2つのチャンネル間で銀河の色分布に顕著な違いが見られた。ポスターではこの起源を考察し、併せてGT観測における``BzK銀河"への我々の戦略も議論する。 Introduction 1.1 MOIRCSファーストライト すばる望遠鏡の第2期観測装置であるMOIRCS(すばる近赤外多天体分光撮像装置)は、2004年9月20日に初めて望遠鏡からの光を装置に入れるファーストライトに到達した。3日間行われたこの第一回機能試験観測において、撮像性能やソフトウェアなど、実際的な試験が行われた。装置の概要・性能評価に関する報告は、本学会においてMOIRCSグループの市川、鈴木、吉川、小西、小俣によって報告されるので、そちらを参照されたい。 この試験のひとつである深撮像性能テストとして、我々はz=3.1の原始銀河団が存在する事で有名なSSA22領域のデータを取得した。このデータを用いてLymanα輝線を放つ巨大な雲を伴うLyman Break Galaxiesの特性を評価した結果を、本学会において勝野が報告する。さらに、同じデータを用いた補助的な研究を田中と市川が行っている。本ポスターではMOIRCSを用いた今後の原始銀河団の研究を考える上で重要になると思われる、所謂BzK selectionを試験データに適用してみた結果を報告する。 BzK銀河とは、1.4<z<2.5の銀河を「星形成の活発な銀河にバイアスされず」「最小の観測時間で」効率よく選び出す手法である。特にMOIRCSでは、今後2<z<4の宇宙における原始銀河団の発見とメンバーの特性のz進化を見たい。特に今の対象であるzレンジではメンバー銀河の大半がK>21-24の付近になり、すばるの集光能力を生かした研究が必要となる。 上の動機においてひとつの問題は、特にLyman Break Galaxiesとの相補評価が可能となるz>3付近では、すでにBzK selectionは効果的でないという事である。MOIRCSでの原始銀河団サーベイにおいては、BzKのlow-z側を落とすと共にz>3に対しても天体検出能力が欲しい。そのひとつのアイデアとして、我々はBzKと補完的な、VJK selection を提案し、その有効性についても評価を試みる。 観測領域とデータ:SSA22 2.1 SSA22原始銀河団 at z=3.1 Stedelらによって発見された、現在知られている原始銀河団として最も遠方級のものの一つ(Steidel et al. 1998,2000)。後に林野らにより、>60Mpcのスケールを持つ大規模構造がすばるにより発見される(Hayashino et al. 2004:本学会講演参照)。フィラメント構造内部には、Steidelらによって発見された、>100Kpcのスケールを持つ巨大なLyman-α Blobsに代表されるExtended Lyman-α天体が、31'×23'の視野に30個以上も見出され(Matsuda et al. 2004)、それらのKeck分光結果から、松田らはその力学質量を1011-13Msolarと見積もっている(松田 東北大学博士論文、本学会講演参照)。広がった輝線は大規模な星形成活動に伴うsuperwindに関連していると考えられており(Ohyama et al. 2003)、その活動タイムスケールが非常に短い事を考えると、この大規模構造の中心部では、現在の銀河団中心に存在する大質量楕円銀河に相当する質量の銀河が、非常に短い時間の間に大量に形成されているという事になる。銀河団コアにおける銀河形成の現場としての観測意義は極めて大きい。 松田らによって詳細な研究がなされているこれらのBlobsはLyα輝線ガスによるものであり、紫外光を放つこのBlobsの母銀河がどの程度の恒星質量を持っているのかは近赤外波長で見ないと評価できない。MOIRCS第一回機能試験観測の深撮像視野としてこの領域を選んだのは、試験データとしての性能がサイエンスに耐えるものであると証明できた時に最もロバストで、かつ意義のある研究が可能だからである。この結果については本学会の勝野講演参照のこと。 Matsuda et al. 2004 (Yamada収録より改変) 25 arcsec. (190 kpc) Hayashino et al. (2004)より改変 2.2 BzK for SSA22a: 解析データについて ここではMOIRCSでの観測戦略の一つとして、現有可視データとMOIRCSの近赤外データを用いたケーススタディとして、BzK-selectionをこのデータに対して適用してみる。 SSA22原始銀河団のz=3.1は、BzKが次第に効果的でなくなるzである。BzKが原始銀河団のメンバーを捉える事ができるかどうか、及び、BzKで選べる原始銀河団手前の1.4<z<2.5の宇宙が一般的などうかを見る。 可視の観測データはすばるのSuprime-Camで得られたもの(Matsuda et al. 2004, AJ, 128, 569に詳細あり)。K-selectedカタログ作成後、Gunn-Striker(1983)の星のSED、及びNakajima et al. (1996)の近赤による星カラーテーブルを用いてゼロ点の微調整を行った。 データ解析においては、光学系のdistortion、Jのチップ2におけるフリンジ、リセットアノマリ及び変動するアノマリパターンの存在、大きな装置ノイズ(1月に解決)が課題となった(解析に関する議論、乗ってくれる人大歓迎!)。 1.2 BzK-selected Galaxiesとは: BzK銀河 ・・・・ Daddiらの提案による、1.4<z<2.5の銀河を検出する手法( Daddi et al. 2004, astro-ph/0409041) 3バンドの観測で効率よく(>85%)1.4<z<2.5の銀河を選び出せる。 星形成の活発な、UV bright galaxiesにバイアスされにくい。 古い銀河のみならず、活発な星形成を伴う青い銀河や、ダスト吸収を 受けた銀河も選ぶことが可能。 BzKダイアグラム上でDusty / Old / Young Galaxies の診断が可能。 BzK-selected銀河の特徴 UVselected銀河よりも活発な星形成率(~200Msolar/yr) K<20で~1011 Msolar。 Massive。 K<20で~1/arcmin2。K<22では~5/arcmin2。 しばしばIrregular Morphology。Merger. 高いMetallicity。z~2で既にsolar以上も。 密度、メタル量、形態・・・近傍楕円銀河の先祖か。 データの詳細: MOIRCSデータ: Seeing FWHM~0.3-0.9arcsec. Matched to optical data by Gaussian. 天候安定、時々シラス飛ぶ。 積分時間: K 1.75hr (ch1& 2), J 1.25hr (ch1) 1.55hr (ch2) ・検出限界(1 arcsec aperture, 5σ limit) J=23.7-23.8, K=23.5-23.2 in AB mag. 可視データ: ・装置:Subaru Suprime-Cam B, V, Rc, i', z', NB497の各バンドデータ。 松田、山内らによる解析。 ・Seeing FWHM~1.0arcsec. ・検出限界(2 arcsec aperture, 5σ limit) B=26.5; V=26.6; z=25.7 in AB mag. CISCOの視野 SSA22a Region Suprime-Cam B, i' & MOIRCS Kによる三色合成 3.結果と展望:BzKからVJK銀河へ(?) K-selectedで構築したカタログに対し、 BzKでの選択をかけた。 Daddi et al.(2004)との比較と、S/Nが悪い理由から、データをK<20mag(Vega)に絞った。結果全視野中17個がBzKの基準に合致した。天球面密度は0.81±0.2個となり、Daddi et al.の~1/arcmin2とほぼ無矛盾であった。また、検出ぎりぎりのK<21.5magでは33個が検出されている。Daddi et al.ではK< 22magで~5/arcmin2という結果であり、傾向としてはやや数密度が低めである。これは我々のFLデータの質がまだ十分でなく、Kの検出率がfaint endで落ちているためと考えられる。 我々は7バンドの測光データがあるため、このBzKサンプルに対してHyper-z (Bolozonella et al. 2000)を用いたphotometric redshift解析の結果(市川ポスター参照)と比較した(ch2のみ)。結果は1.4<z<2.5の範囲に11個中9個が入るという、大変良い結果を得た。SSA22原始銀河団手前のこのzレンジの宇宙は、明るい銀河に関してはgeneral field的であると言えよう。 SSA22はz=3.1の原始銀河団である。BzKはこのzに対しては効率が落ちる。しかし今後のMOIRCSを用いた原始銀河団サーベイにおいては、2.5<z<4の宇宙への応用が重要である。そのため、BzK的な思考をさらに遠方に伸ばす試みとして、VJKセレクションの可否について、モデルとデータとで考えてみた。z~3.5にもなると宇宙年齢が若くなって、SSP的な星生成でさえ銀河は十分に古くなれずpost starburst的な振る舞いとなる。そのためBzK的なold/dusty diagnosticsはあまり意味がないかもしれないが、このような銀河に対しても、VJKセレクションはdusty starburstと区別が可能となる示唆がモデル的に得られた。星形成銀河に対しては、BzK同様、ダスト吸収にあまり寄らずに2.3<z<3.4の銀河を効率よく選べる可能性が高い。今後MOIRCS深撮像データを用いて、VJKの可能性について引き続き追求する積りである。 うまく行けばこのzレンジでの紫外セレクトでない原始銀河団探査や、同じz~3populationであるLBGとの性質の違いといった研究へと発展でき、新たな地平が開ける可能性もあるだろう。MOIRCSの多天体分光モードでこれらの銀河を観測し、stacking techniqueを用いてK>20の暗い銀河のMetalicityをz>3において求め化学進化のmass dependenceを求めるのが、我々の目標である。 B V z J K z=2.5 z=2.5 z=1.4 z=1 z=0.3 z=0 z=3.5 1.4<z<2.5に特化したBzKセレクションと、よりhigh-zにあわせた提案するVJKセレクションの概念。SEDは400 Myr Burstを左からz=0, 1.2, 1.8, 2.2, 2.8, 3.2にシフトさせたもの。Lymanα端とBalmer Jumpに注目。BとzでフラットなUV continuumを見てるうちは拾える。BzKの場合、z<1.4ではBalmer Jumpがzに、z>2.5ではLymanα端がBに入る。同様の事をよりhigh-zで実現するのがVJK。z<2.5ではJにBalmer Jumpが、z>3.4ではVにLymanα端が来る(cf:RJL by Daddi et al.2004)。 z=2.5 z=2.3 z=2 MOIRCSデータによる、SSA22領域へのBzK銀河セレクションの適用結果。赤がエンジニアリンググレード(chip1)、青がサイエンスグレードチップ(chip 2)。緑色は主系列星の分布。点線はDaddi et al.によるBzK selectionの境界を示し、赤がold、青が星形成を示す。 (注:この図ではKのみVega Sytemになっています。) z=3.1 z=1 z=3.4 z=0 GALAXEV (Bruzual & Charlot 2003)の3種類のモデルSED(SSP, Tau=0.1 & 4, continuous SF)について年齢を振ってその色進化を見た。上がBzK(青枠)、下がVJK(赤枠)。 1.4<z<2.5に特化したBzKセレクションの有効性が良く見て取れる(上左)。しかし、zレンジを2.5<z<3.5にすると(上右)、トラックは特に星形成銀河がlow-zのものと混在してしまい、全く対応できな。一方、よりhigh-zにあわせた、今回提案するVJKセレクションでは、 2.5<z<3.5の銀河をコントラストを保ったまま取り出すことができると期待される(下右)。 BzK VJK B NB V R i' z' K photo-z的に2.5<z<3.5の銀河は例外的にマッシブでない限り非常に暗く、今回のK<20に限ったデータでは期待される銀河の数が非常に少ないと期待される。今回のVJKセレクションでも、質の良いchip2のデータでは2,3天体しか拾えなかった。今後のdeep surveyにおいてVJKは真価を発揮すると期待している。 上図は、このzレンジでのKセレクトで受かった一つの銀河の例(中央)。SteidelのBlob1の中に埋もれたLymanαAbsorber(松田, private comm.)である。推定質量2.1E11 Msol。 MOIRCSデータによる、SSA22領域へのBzK selectionとVJK selectionの適用結果の比較。赤がエンジニアリンググレード(chip1)、青がサイエンスグレードチップ(chip 2)。水色は主系列星の分布。直線はDaddi et al.によるBzK selectionの境界、及びVJKでの境界(tentative)。 BzK selectionとVJK selectionの比較。左図より0.5mag深くセレクトしている。赤がVJK、青がBzK。水色は主系列星の分布。黄色はMatsuda et al.のBlobsの分布。