ピーニング処理を用いた X線反射鏡の製作 X線望遠鏡用反射鏡の 表面形状向上の研究

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ピーニング処理を用いた X線反射鏡の製作 X線望遠鏡用反射鏡の 表面形状向上の研究 宇宙物理実験研究室 鈴木 真樹 大熊 隼人

ピーニング処理を用いたX線反射鏡の製作 宇宙物理実験研究室 鈴木 真樹

X線望遠鏡 〜1400枚の反射鏡 X線望遠鏡・・・・天体からのX線を集光し結像する X線 見込む面積が小さいので集光できる光子が少ない 回転放物面 回転双曲面 反射鏡 Wolter I型斜入射光学系 X線 検出器 入射角θ<1° 多重薄板型‥‥非常に薄い反射鏡を多数同心円状に並べたもの 検出器 〜1400枚の反射鏡 X線 まず始めにX線望遠鏡について説明させて頂きます。X線望遠鏡は、X線領域における物質の屈折率が1よりわずかに小さいため、X線を臨界角以下の非常に小さな角度で全反射させて集光する斜入射光学系を用いています。しかし、斜入射光学系ではX線入射方向からの鏡の見込む面積は小さくなってしまいます。そこで、非常に薄い反射鏡を多数同心円状に並べることにより有効面積を稼ぐ工夫を行なっています。そのような望遠鏡のことを多重薄板型X線望遠鏡と呼んでいます。 こちらの図は実際の多重薄板型望遠鏡です。直径は40cmで、約1400枚の反射鏡を内蔵しています。こちらは内蔵されている個々の反射鏡になります。母線の長さは10cm程度、反射鏡の厚さは180μmです。 X線反射鏡 厚さ: 180μm 母線: 101.6mm 見込む面積が小さいので集光できる光子が少ない

X線反射鏡の製作工程 金型 反射鏡基板の製作 反射鏡面の製作 反射鏡基板の切り出し (発注) バリ取り (50秒/枚)  反射鏡基板の製作 金型 バリによる端の折れ曲がり 切り出されたアルミニウム薄板 電動やすり(ルーター)によるバリ取り 基板 熱成形 ローラーによる粗成形 反射鏡基板の切り出し (発注) バリ取り (50秒/枚) 基板のうねり ローラーによる粗成形 (20秒/枚) 熱成形 (200度、10時間) このX線反射鏡の製作行程は大きく2つに分けることができます。一つは反射鏡基板の製作、もう一つは反射鏡面の製作です。 ここでは、反射鏡基板の製作について見ていきます。まず、放電加工によって基板が切り出されます。こちらが、実際に切り出された基板の束で、100枚単位で切り出します。次に端の部分に生じたバリをルーターを用いて除去し、ルーターによって生じたかえりをヤスリがけにより取り除きます。その後ローラーによって粗く曲率をつけ、最後に精度よく加工された金型にのせ圧着し、熱をかけて成形します。 本研究は、基板製作の一工程であるバリ取り時の問題の解決を目指しました。 では、バリ取りにおける問題とはなんでしょうか。 平らな反射鏡基板を作る為にはバリ取りが必要である  反射鏡面の製作

バリ取りの問題点 ピーニング処理の導入 大量の基板を処理するには手間がかかる 1400(枚)×4(辺)×2(裏表)=11200回   1400(枚)×4(辺)×2(裏表)=11200回 バリを落とすパラメータの定量化が難しく、基板に個人差が生じる それは大量の基板を処理するのに、手間がかかるということです。 望遠鏡には反射鏡が1400枚入っており、各反射鏡の4辺を裏表、バリ取りを行なう為、1万回以上のルーターがけを行なうことになります。 この手間を軽減するために、今回我々はピーニング処理という新しい方法を導入しました。 この方法を用いると、ルーターがけによるかえりが生じない為ヤスリがけを行なう必要がなくなります。また治具を用いることにより、一度に複数枚の基板を処理することができ、バリ取りの工程の時間短縮につながります。 では、このピーニング処理について見ていきます。 ピーニング処理の導入

ピーニング処理とは 微細粒子を吹き付けてバリを除去 治具により大量の基板を一度に処理可能 パラメータが設定でき個人差がでない 処理工程の短縮 エージェント 治具により大量の基板を一度に処理可能 パラメータが設定でき個人差がでない 処理工程の短縮 ピーニング装置 ノズル ピストル圧力 時間 こちらがピーニング処理の概念図になります。ピーニング処理とは30μm程度の微細粒子をバリに対して吹き付けることにより除去する方法です。 右の図が実際のピーニング装置になります。図中赤丸で囲まれた部分がノズルで、ここからエージェントを噴霧します。 バリを取り除く為のパラメータとして、エージェントを吹き付ける圧力(ピストル圧力)とピーニング処理の時間が挙げられます。今回、バリを除去する為にこの二つのパラメータの最適化を行ないました。 ピーニング処理の概念図   微細粒子を吹き付けてバリを除去

ピストル圧力と処理時間 ピストル圧力:1bar 処理時間:約8秒 曲がりは50μm 曲がりは約3μm 測定方法 3[μm] 3[μm] バリが落ちていない 3[μm] -3[μm] 0[μm] ピストル圧力: 0bar 12[μm] -12[μm] 0[μm] バリ 3[μm] -3[μm] 0[μm] 測定方法 ピーニング処理部分を横切るように表面形状を測定 処理された部分 レーザー光 レーザー変位計 ~300μm ピーニング処理 12[μm] -12[μm] 0[μm] 曲がりは50μm ピストル圧力: 2bar 曲がりは約3μm こちらの図は、切り出されたままの状態の基板の端の形状を表していて、こちら側が基板の端になります。横軸は基板の端からの距離を表し、色の違いが基板表面からの高さを表しています。緑色が基板表面の高さであり、赤くなるほど基板表面からの高さが高くなります。スケールはμmで表示されています。 この基板に対して、0bar程度の低いピストル圧力でピーニング処理を行なった結果がこちらになります。図から、バリが取れていないことが分かります。 次に、ピストル圧力を2bar程度の高い圧力で処理をおこなった基板の、端の形状を測定したところこのように約50μm曲がってしまうことが分かった。端の曲がりに関しては、ピストル圧力が同じでも、処理する時間が長いと大きく曲がることも分かった。 そこで、まずピーニング処理する時間を、ノズルが基板の端を1往復するのにかかる時間、4秒で固定しピストル圧力を変化させた。圧力は0barから2barまで0.5barピッチで変化させ、バリの形状を測定しました。その結果、ピストル圧力が1barであればバリを除去できることが確認できた。 しかし、バリの中にはこの図のように、約8μmの大きさのものも存在する。このようなバリを完全に除去するために、ピストル圧力は1barに固定したまま、処理の時間を2倍に延ばし8秒として処理を行なった。。その結果がこちらの図で、完全にバリが取れていることがわかる。また、端の曲がりも50μmから3μmにまで軽減することができた。 これで、バリ取り用のパラメータの最適化はできたが、ここで新たな問題が生じた。 端が曲がる バリが落ちない 低い圧力 : 高い圧力 長時間 ピストル圧力:1bar 処理時間:約8秒

熱成形と形状測定 7枚同時にピーニング処理 押さえ棒 マスク 反射鏡基板 支持板 7枚の反射鏡基板を熱成形する 母線方向の表面形状を測定 キャップスクリューネジ 押さえ棒 反射鏡基板 マスク 支持板 7枚同時にピーニング処理 7枚の反射鏡基板を熱成形する 母線方向の表面形状を測定 反射鏡基板 母線 バリを取り除く為のパラメータを設定し、ピーニング処理よってマスクとの境界に生じていた問題が解決したので、バリ取り後の基板を熱成形して、反射鏡基板の表面形状を測定しました。 バリ取りの終わった基板はロールがけした後、精度良く加工された金型の上に重ね合わせて乗せられ、熱成形されます。 このようにして熱成形された7枚の反射鏡基板に内側のものから、IDとして番号を振っていきます。番号のつけられた基板の母線方向の表面形状を測定していき、それぞれの結果を重ね合わせました。

結果 端の部分の形状に注目すると ルーター処理 ピーニング処理 ~3μm ~4μm 〜5μmの曲がり #7 ~3μm ~4μm その結果がこちら(右図)になります。横軸が母線方向を、縦軸が基板表面からの高さを表しています。 左の結果は従来のルーターがけによってバリ取りされた基板を熱成形したものです。 どちらの基板形状も、PV値で3から4μm程度の平滑さが得られており、良い形状の反射鏡基板のように見えます。ls。 ところが、赤枠で囲まれた領域を拡大すると、ピーニング処理による基板は約5μm曲がっていることが分かります。したがって、ピーニング処理によるバリ取りを導入する為には この問題を解決することが必須であり、これは今後の課題であります。 ピーニング処理 ルーター処理 端の部分の形状に注目すると

まとめと今後の展望 ピーニング処理でバリを落とす為の、装置のパラメータの最適化を行なった(ピストル圧力:1bar, 処理時間:約8秒) 基板の中央付近におけるうねりを3〜4μm程度に抑えることができた 熱成形後の基板の端の曲がりを抑えることが今後の課題である

補足1: 噴射角度 基板表面と噴射角度には関係がある 表面に周期構造のできない垂直方向からのピーニングをおこなう 基板表面に対して浅い角度で処理した基板の表面形状 基板表面に対し垂直に処理した基板の表面形状 基板表面と噴射角度には関係がある  表面に周期構造のできない垂直方向からのピーニングをおこなう

補足2: 治具について 押さえのバー バーでネジ止めし、強固に固定 反射鏡基板 180°回転 キャップスクリューネジ

補足3: ピーニング処理時のマスク 境界の凸形状を除去 3[μm] 0[μm] -3[μm] 3[μm] 0[μm] -3[μm] 境界に凸形状ができる 基板とマスクの間に隙間を作る 3[μm] -3[μm] 0[μm] 実際にピーニング処理を行なう時、この部分にマスクを置きエージェントが当たらないようにします。ところが、この図から分かるようにマスクの境界付近で、3μm程の高さの凸形状が現れてしまいました。そこで、この問題を解決するためマスクにこのような工夫をしました。 マスクの端の部分にスペーサーとしてカプトンテープを張り、120μmの隙間を基板とマスクの間に設けました。基板とマスクの間に空間を設けることにより、エージェントが端の部分に若干回り込み、境界付近に凸形状ができるのを防ぎます。 その結果がこちらです。マスクとの境界付近に存在した凸形状を除去することができました。  境界の凸形状を除去