第1講 保険の本質と代位 保険法2条6号   「損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう。」 保険法2条8号   「生命保険契約 保険契約のうち、保険者が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約するもの…をいう」   *旧商法673条には、「一定の金額を支払う」とされていた。

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求償・免責について 第三者加害行為事案に伴う事務
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第1講 保険の本質と代位 保険法2条6号   「損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう。」 保険法2条8号   「生命保険契約 保険契約のうち、保険者が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約するもの…をいう」   *旧商法673条には、「一定の金額を支払う」とされていた。

1 損害保険契約の特性 保険法の字義どおり… 「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約する」 1 損害保険契約の特性 保険法の字義どおり…  「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約する」 生保と損保の根本的相違は、  定額の金銭給付  vs  損害填補

被保険利益 →損害の発生によって滅失すべき利益 3条:「金銭に見積もることができる利益」 【前提】 損害が発生する可能性がある 損害保険契約の「目的」とその支配! 被保険利益  →損害の発生によって滅失すべき利益   3条:「金銭に見積もることができる利益」 【前提】   損害が発生する可能性がある  =損害が発生するはずの対象物でなければ  損害保険をかけられない。

模式図 人の財産(例えばまず特定物を想定してみよう)   損害発生!     価値減少 こんなになっちゃった…

- =

損害保険契約の目的 この部分の回復!

「回復」の方法 金銭で回復する(損害補償手段の統一性) 被保険利益が、金銭で評価できなければならないわけを考えてみよう!   被保険利益が、金銭で評価できなければならないわけを考えてみよう!  →被保険利益の金銭評価額を「保険価額」  *保険価額は原則として保険金額と一致するように思えるが、保険金額とは契約の時に決められる支払金額をいうにすぎず(もっぱら保険料算定の基礎となる)、一致しないために問題が生じることがある。

保険のおかげで、「元に戻った」だけにすぎない! 損害填補性と「儲かり感」 =  保険のおかげで、「元に戻った」だけにすぎない!

【ところで…】 そもそもなぜ損害の填補なのか? α.当事者意思説   ?? β.強行法規説(利得禁止原則の存在)  →被保険利益の存在は、損害保険契約を「賭博化」することを防いでいる。すなわち、公序良俗に関わる問題!   *モラル・ハザード防止

2 利得禁止原則の厳格性 24条、25条(代位)に端的に… 2 利得禁止原則の厳格性 24条、25条(代位)に端的に… 25条:「保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権…について当然に被保険者に代位する。   一 当該保険者が行った保険給付の額   二 被保険者債権の額…」

代位の典型例 保険会社 保険金支払 民法709条・損害賠償請求権 放火犯 家屋所有者 保険契約者

保険契約者(被保険者)が二重に利得しない 有責加害者を免責しない 損害賠償請求権をムダにしない   *保険者がこれを行使する

保険代位は、3大代位に含まれているのをご存じですか?  考えてみると、民法という大都会を保険村のルールで押し通しているような… おらが村のルールで走るだ!

でも、一番の問題は…   保険契約者(被保険者)は、タダで保険金を受領したわけではない!! 保険料を支払っているからこそ保険金を受領できた!!

だったら本当は… 保険会社 保険料払込 保険金支払 民法709条・損害賠償請求権 放火犯 家屋所有者 保険契約者

【ところで… 】  損害保険の本質論争(目的論) 絶対説   *利得禁止の原則重視 相対説   *保険料の対価性重視 不確定損害肩代わり説

3 「人」の生命・身体の実損填補? 生命保険:法文的にいうならば… 「一定の保険給付を行うことを約する」 →定額給付性 それでは… 3 「人」の生命・身体の実損填補? 生命保険:法文的にいうならば…       「一定の保険給付を行うことを約する」          →定額給付性 それでは…    生命保険を損害填補にする可能性はないか?

実は… 考えられる 価値減少 損害発生

人間について、 「元の価値」-「現在価値」 この部分が「減った」

例えば、不法行為(民710条)   他人の身体…を害したる場合と財産権を害したる場合とを問わず、前条の規定によりて損害賠償の責に任ずる者は、財産以外の損害に対してもその賠償を為すことを要す。 →ライプニッツ法やホフマン法による、損害算出(例えば、平均余命×収入)

それではなぜ保険法2条8号? 「給付の容易性・迅速性」なのか? 定額給付指向! 例えば傷害保険でも、死亡保障は定額…  例えば傷害保険でも、死亡保障は定額… どうして? 当然の理屈があるのか?  行き着くところは?  「給付の容易性・迅速性」なのか?         *「四の五の言わずに、払え!」

4 生保の特性から導かれるところ -受取人の権利の特性- 4 生保の特性から導かれるところ      -受取人の権利の特性- 保険金請求権の「固有権」性   「保険金受取人の権利取得は、保険契約者が一旦取得した権利を承継的に取得するのではなく、受取人に指定されることにより自己固有の権利として原始的にこれを取得する」(大森)

どんな場合にメリット?-シミュレーション- 債権者 保険会社 保険契約 生命保険金支払 被相続人(死ぬやつ) 相続財産 保険契約者・被保険者 × 相続人 相続放棄 保険金受取人

結局、基本的スタンスとして、 生命保険を定額給付にした =損害保険と生命保険を理論上も分離 =生命保険については「被保険利益」概念   =損害保険と生命保険を理論上も分離   =生命保険については「被保険利益」概念    を放棄した 【結果】  生命保険には被保険利益が果たす役割を期待できない。   *もちろん、「賭博化」の危険も払拭できない!

5 二類型で割り切れるのか? -「組合せ」の基準- 5 二類型で割り切れるのか? -「組合せ」の基準- 2条6号 損害填補 物 2条8号 人 定額給付

有名どころの傷害保険  ◆傷害治療費用保険金 海外旅行行程中の事故によるケガが原因で、医師の治療を受けられた時(義手、義足の修理を含みます。)、1回のケガにつき、現実に支出した当会社が妥当と認める次の費用を傷害治療費用保険金額の範囲内でお支払いします。ただし、事故の日からその日を含めて180日以内に要した費用に限ります。) (1)診療費関係、緊急移送費、ホテル客室料(治療を要する場合において医師の指示によりホテルで静養する時のホテル客室料)、入院・通院のための交通費及び通訳雇入費で治療のために現実に支出した金額。 (2)入院により必要となった国際電話料や身の回り品購入費などの諸費用のうち現実に支出した金額。ただし、身の回り品購入費は5万円、合計で20万円を限度とします。 (3)入院ののち、旅行行程に復帰または直接帰国するために現実に支出した交通費・宿泊費(払戻しを受けた金額または負担することを予定していた金額がある時は、その額を差し引きます。)

提起される傷害保険の本質問題 傷害保険における「損害填補」原則? 傷害保険における死亡保険金? 代位の有無は?