ポラニー,ヒックス,ブローデルの市場観・社会観・歴史観 斎藤 修 「市場と社会」第一回研究会,2009年7月18日
『大転換』の読み方 市場経済の理論 コンセプト: 互酬・再配分・家政 自己調整的市場経済 擬制商品の市場 「埋め込み」論 コンセプト: 互酬・再配分・家政 自己調整的市場経済 擬制商品の市場 「埋め込み」論 19世紀文明の崩壊と転換 その根幹には自己調整的市場経済 20世紀における反動の始まり
『大転換』の読み方(続) 歴史観 歴史的検証 多くを英国の事例に依拠 本書が描き出したこと:「市場経済の興隆と没落」 市場の社会へのゆったりとした浸透と,19世紀におけるレジームとしての確立,そして規制/管理/組織の時代へ(後述するように,この歴史像は,意外なほどヒックスのそれに近い) 歴史的検証 多くを英国の事例に依拠
さまざまな市場経済論 ポラニーの「市場経済」概念は歴史的 「社会的大変動の源泉は,自己調整的市場システムを打ち立てようとした経済的自由主義のユートピア的な試みにあった」(49頁) 「自己調整とは,すべての生産が市場における販売のために行われ,すべての所得がそのような販売から派生することを意味する」(120頁)。
さまざまな市場経済論(続) ブローデルは,資本主義と区別 「自動調整機能を持つ市場を経験した世紀であるという19-20世紀よりはるか以前に,市場経済は存在した。古代からすでに,価格は変動している。13世紀には,価格はすでにヨーロッパ全域で一致して変動している」(『交換のはたらき』1,281頁)。-ブロックの批判(xlvii頁,註11) 資本主義の領分には「才覚と最強者の権利が君臨していた」。一種の「反-市場のゾーン」。 両者の区分は「中世以来ヨーロッパの不変の状況」(同,284頁)
さまざまな市場経済論(続) ヒックスにとって,市場経済は資本主義に先立って勃興し,成長するもの ただし,その「勃興」は「あまりにも遠い過去」。したがって,歴史的事実にかんする判断としてはブローデルと変りなし( 『経済史の理論』 21頁) ヒックス,ブローデルの「市場経済」概念はともに分析的, ポラニ―のいう「埋め込まれた」市場にも「切り離された」市場にも適用できる概念(以上,斎藤Hi-Stat Voxエッセイ参照)
擬制商品論 ポラニーの慧眼 要素市場は,通常の商品市場とは違う 要素市場は,通常の商品市場とは違う 「労働は,生活そのものの一部であるような人間生活の別名」「土地は自然の別名」「貨幣は,単に購買力の表象」(125頁) ヒックスによる継承: 「この領域[土地市場と労働市場]においては,市場原理は適合しないか,適合できるとしても困難をともなう。そこに抗争が生ずることになる。この抗争はきわめて初期のころからはじまり,… われわれの時代にいたるまで続いている」(前掲書,174-5頁)
擬制商品論(続) 歴史解釈上の不幸 「イギリスでは,労働に先んじて,土地と貨幣が流動化された」(136頁) スピーナムランド法の解釈 「イギリスでは,労働に先んじて,土地と貨幣が流動化された」(136頁) スピーナムランド法の解釈 「民衆のプロレタリア化を妨げることを狙っていたか,あるいは少なくともそれを遅らせよう」 (142頁) ブロック「スピーナムランド法については,ポラニ―の主張の多くに異論が出されている」(xlviii頁,註16)
擬制商品論(続) 「市場経済はイギリスに生まれた。しかし,その弱点がもっとも悲劇的な混乱をもたらしたのはヨーロッパ大陸においてであった」(50頁) この視点から土地市場と労働市場が論じられていたら,より生産的であったろう 「構造的分岐」 経済史における東西,西のなかでも南北の分岐と関連(斎藤『比較経済発展論』)
経済的自由主義と国家 「パラドクス」:「自由市場の導入は,統制,規制,あるいは干渉の必要性を取り除くどころか,逆にその範囲を驚くほど増大させた」(254頁) 「ベンサム流の自由主義とは,議会の活動を行政的な機関による活動に置き換えることを意味した」 (253頁)
経済的自由主義と国家(続) 官僚制化の文脈( M・ウェーバー,R・ベンディクス) 「ベンサム・パラドクス」の行く先には,「管理と規律の時代」 行政だけではなく,企業自体も官僚制化
経済的自由主義と国家(続) ヒックスのいう行政革命と固定価格(fixprice)市場の登場 近代の行政革命 「一つには機構の問題-つまり分業を適用した直接的改善-であり,一つには…資本装備の適用の問題である」(前掲書,166頁)。
現代における非市場領域の拡大 Unorganised flexprice markets have been ‘largely replaced by what I called fixprice markets, in which prices are set by the producers themselves (or by some authority)’ (Hicks, Economic Perspectives, 1977, pp. xi). ‘In a fixprice world, in which so many prices are administered, and have to be administered, the social functions have become more important, and more sensitive, than they were’ (p. viii).
産業社会と市場社会 「市場経済という制度の本質は,商業社会における機械というものの衝撃が理解されないかぎり十分に把握されるものではない」(69頁)。 そこにおける商人の役割-製品の販売だけではなく,「商人の指示に従って組み合わされる労働と原材料」も。「これは,家内工業あるいは「問屋制」工業に限られるものではなく,われわれの時代の産業資本主義を含むあらゆる種類の産業資本主義に当てはまる」(70頁)。
産業社会と市場社会(続) このポラニーの産業社会論は,事実上,スミスの分業論に立脚 「産業文明は,自己調整的市場のユートピア的な実験がもはや過去のエピソードにすぎなくなったときにおいても存続しつづけるであろう」(454頁)。 問題は, 「複合社会における自由」に加えて,ポストflexprice経済における‘social functions’の内容か