Astro-E2衛星搭載 XISの データ処理方法の最適化 大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 常深研究室 東海林 雅幸
内容 XIS データ処理方法の最適化 (電荷漏れ補正) (スプリット閾値の最適化) 軟X線に対する応答関数 まとめ
XIS X線天文衛星の検出器として、事実上の標準 X線CCDの特徴 XISとは、2005年打ち上げ予定のAstro-E2衛星に搭載されるX線天体観測用のCCDカメラのことである。天体の撮像とスペクトルの取得を目的とする。 ノイズを抑えるために、軌道上では -90 [℃] で運用 0.2~12 [keV] のX線に有効な感度を持つ X線CCDの特徴 30cm 優れたエネルギー分解能 優れた位置分解能 X線入射位置とエネルギーを同時に知ることが可能 X線天文衛星の検出器として、事実上の標準 XISの概観
XISのデータ処理の流れ 応答関数 イベント抽出 データ処理 イベント選択 PH合成 XISハードウェア フレームデータ 天体のスペクトル X線強度 フレームデータ X線エネルギー 応答関数 イベント抽出 イベント選択 PH合成 データ処理 XISで観測したスペクトル カウント数 PH
XISのX線検出原理 素材である Si中でX線が光電吸収されると、電子正孔対が発生する。できた電子の数を信号に変換することで、入射X線エネルギーを測定 できる。 XISから出力されたフレームデータ CCD受光面 縦転送 _ CCD蓄積面 読み出し口 横転送
イベント抽出・選択、PH合成 + PH= イベント抽出 イベント選択 PH合成 フレームデータから、ある閾値以上のピクセルと その周囲3×3のピクセルの信号波高値を抽出する イベント選択 イベント抽出されたイベントのパターンを調べて、 X線によりできたイベントを選びだす シングルイベント 上スプリットイベント 下スプリットイベント 3連続イベント X線イベント X線イベントではない と判定される CCDの1ピクセルは、24μmなのに対し、 10keV以下のX線で発生する電荷は、 数μmしか広がらない スプリット閾値を超えたピクセル (他にもイベントパターンあり) PH合成 スプリット閾値を超えたピクセルの信号波高値を 中心ピクセルに足し合わせる PH= +
その他(横スプリットイベントなどを含む) イベントパターン分岐比 XIS全面に単色エネルギーのX線 (5.9keV) を照射する 実験を行い、イベント分岐比を調べた。(CCD温度:-90℃) 問題点 上スプリットイベントと下スプリットイベントの割合は、 等しいはず。 3連続イベントの割合が非常に多い。 4% 22% 11% 10% 53% シングルイベント 上スプリットイベント 下スプリットイベント 3連続イベント その他(横スプリットイベントなどを含む)
その他(横スプリットイベントなどを含む) イベントパターンの解析 上ピクセル (追跡ピクセル) 縦転送方向 下ピクセル (先行ピクセル) それぞれのピクセルについて信号波高値の 波高分布を調べた。 4% 22% 11% 10% 53% シングルイベント 上スプリットイベント 下スプリットイベント 3連続イベント その他(横スプリットイベントなどを含む)
d c b a 上ピクセルと下ピクセルの波高分布 縦転送方向 転送回数に差をつけたときの波高分布 の違いを調べることができる a b c d カウント数 信号波高値 [ADU] 上ピクセル (追跡ピクセル) 下ピクセル (先行ピクセル) CCD受光面を4分割し、領域ごとに上ピクセル(追跡ピク セル)と下ピクセル(先行ピクセル)の波高分布を調べた。 CCD受光面 a b c d 読み出し口から遠い 転送回数が多い 縦転送方向 転送回数に差をつけたときの波高分布 の違いを調べることができる 上ピクセル 下ピクセル 上ピクセル 下ピクセル 上ピクセル(追跡ピクセル)の信号波高値が高い側にシフトしている。 転送回数が多くなるほど、シフト量が大きくなる。 読み出し口から近い 上スプリットイベントが多い原因。 転送中に中心ピクセルの電荷が上ピクセルに、漏れ出している。 転送回数が少ない
電荷転送回数と漏れ込み量の関係 d c b a CTI = (4.5±0.3)×10 [ /Transfer ] 電荷転送非効率 (CTI) 電荷を1画素転送したときに失われる電荷の割合。 d c 上ピクセルの中心信号波高値 [ADU] b 傾きからCTI は a CTI = (4.5±0.3)×10 [ /Transfer ] -6 転送回数
CTIのエネルギー、温度依存性 CCD温度:-90 [℃] X線エネルギー:5.9[keV] CTI= (1.72・10 )×E -0.5 -4 CTI [ /Transfer] CTI [ /Transfer] X線入射位置とエネルギーの情報から、転送回数とCTIが分かるので、 上ピクセル(追跡ピクセル)への電荷漏れ込み量を知ることができる。 ⇒ 漏れ込んだ電荷を中心ピクセルに戻す補正が可能。 入射X線エネルギー [ADU] CCD温度 [℃]
電荷漏れ補正後の採択イベント数 X線イベントと見なされる 割合の増加 5.9keV 8.6keV 採択イベント数 (3連続イベントは除く) 補正前 273272 62403 補正後 302360 72057 増加率 11% 15% 5.9keVで11%、8.6keVで15%、採択イベント数の増加に成功 理由 補正前 3連続イベント 補正後 下スプリットイベント X線イベントと見なされる 割合の増加
電荷漏れ出しの原因=電荷トラップ ∝ E 温度が低いとき (-90℃) トラップ 縦転送方向 温度が高いとき (-80℃) トラップ CTIがE に比例するので、 トラップに捕らえられる電荷の数 ∝ 電荷パケットが占める体積 -0.5 ∝ E 0.5
XISのデータ処理の流れ 応答関数 応答関数 電荷漏れ補正 電荷漏れ補正 スプリット閾値 最適化 新たなデータ処理 XISハードウェア 天体のスペクトル XISハードウェア X線強度 フレームデータ エネルギー 応答関数 応答関数 電荷漏れ補正 スプリット閾値 最適化 電荷漏れ補正 データ処理 イベント抽出 イベント選択 PH合成 XISで観測したスペクトル カウント数 新たなデータ処理 PH
単色X線入射に対するスペクトル =応答関数 FWHM (半値幅) 中心PH:入射X線エネルギーを反映 カウント数 中心PH FWHM:エネルギー決定精度の目安 PH [ADU] 入射X線エネルギー=0.53keVの場合
入射X線エネルギーと中心PH、FWHM関係 [eV] -20 20 40 -40 中心PH [ch] 直線モデルで、約8eVの再現性がある 検出効率のデータと合わせることで、すべてのエネルギーに対する応答関数が得られる。
まとめ データ処理方法と応答関数の結果は、XISで 観測を行うすべての研究者に利用される。 データ処理方法 上ピクセル(追跡ピクセル)に電荷が漏れ出している ことを見つけた。 上ピクセルへの電荷漏れ出し量と入射X線エネルギーの関係を求め、電荷漏れ出しの補正法を確立した。 電荷漏れ出し補正により、検出イベント数を最大15%増加できることを示した。 低エネルギーX線に対する応答関数を求めた。 データ処理方法と応答関数の結果は、XISで 観測を行うすべての研究者に利用される。