原子・分子の"集合体"の科学 横浜市立大学理学部環境理学科 野々瀬真司 自然界の全ての物質 … 気体・液体・固体の3態 クラスター科学特論 原子・分子の"集合体"の科学 横浜市立大学理学部環境理学科 野々瀬真司 自然界の全ての物質 … 気体・液体・固体の3態 気体中にある原子・分子 … 独立して空間を自由に飛びまわる 液体・固体中にある原子・分子 … 無数の個数で凝集し互いに強く結合 数個から数10個の原子・分子の”集合体” … 第4の状態(クラスター) 大部分の自然現象 … ミクロの世界と日常世界との中間にある、 原子・分子の"集合体"のスケールでの現象 本講義では、この"集合体" (クラスター)の科学について易しくお話いたします。
♣ 序章
世界の根源をさぐる - 究極の謎 銀河系 1021(m) 地球 107(m) 太陽系 1012(m) 宇宙の果て 1026 ?(m) 人間 世界の根源をさぐる - 究極の謎 銀河系 1021(m) 地球 107(m) 太陽系 1012(m) 宇宙の果て 1026 ?(m) 人間 1(m) … 人間 1(m) 原子 10-10(m) 原子核 10-15(m) 素粒子 ?(m) …
自然科学のもう一つの流れ 分析された要素を組み立て 日常世界を再構築 生体高分子 原子 細胞 人間 分子 10-10(m) 10-9(m) (タンパク質・DNA) 10-8(m) 原子 10-10(m) 分子 10-9(m) 細胞 10-5(m) 人間 1(m)
クラスターとは・・・ 物質の3態 気体 液体 固体 数個から数10個の原子・分子の "集合体"(クラスター)とは "第4"の状態
化学結合と分子間力 e- + - + + - - + + - + + O H O H 共有結合 イオン結合 金属結合 水素結合 ファンデルワールス力
♣ 実験方法 1.真空中へ噴出させて クラスターを生成 2.特定のサイズを 質量選別 3.レーザー照射による 反応を観察 高圧気体 検出器 ♣ 実験方法 1.真空中へ噴出させて クラスターを生成 2.特定のサイズを 質量選別 3.レーザー照射による 反応を観察 高圧気体 検出器 レーザー 真空排気装置
金属原子、クラスター、固体中の電子の挙動 孤立原子 電子 e-
金属クラスター中の電子の結合エネルギー 小さいクラスター 大きいクラスター 電子は個々の原子に局在 電子はクラスター全体に広がっている
水銀クラスターの電子構造 水銀原子 - 最外殻軌道 (6s)2(6p)0 - 準閉殻構造 水銀の液体・固体 - s帯とp帯とは完全に混成 水銀2量体, Hg2の原子間の結合エネルギーは7kJ/mol ⇨ ファンデルワールス結合 水銀液体の蒸発エンタルピーは58.1kJ/mol ⇨ 金属結合 水銀原子が何個集合すると電子構造が非金属から金属へと転移するのか? 実験 水銀クラスターのイオン化ポテンシャルの測定 ⇨ 非金属から金属への転移 水銀クラスター負イオンの光電子分光 ⇨ s帯とp帯との間のバンドギャップの測定 結論 非金属から金属への転移は構成原子数が〜20個で始まり、〜400個で完結
Ber. Bunsenges. Phys. Chem., 水銀クラスターのイオン化エネルギー 構成原子数 ∞ 70 17 8 4 2 1 Hg e- 非金属 金属 非金属 から 金属への遷移 非金属 Hg e- 金属 金属状態だと仮定 した場合の値 W.F.=4.49eV K. Rademann, Ber. Bunsenges. Phys. Chem., 93, 653 (1989).
♣ 孤立した状態において生体分子を研究する ♣ 孤立した状態において生体分子を研究する 有限な系 構造の揺らぎ 内部エネルギー 最も単純な反応 液相中における生体分子 水分子に囲まれている 生体中における生体分子 かたち はたらき
例えば、パソコンの動作の仕組を理解するには・・・ 1.入力による応答を調べる。 入力 出力 2.パソコンをばらばらに分解する。 Fe Cu CPU トランジスタ Si Ga メモリ コンデンサ Ge As いずれの方法によっても本当のところは理解できない! 全体は分解された要素の単なる総和ではないからである。
分解された要素を組立て再構築することが必要 Fe Si Ge Cu Ga As CPU メモリ トランジスタ コンデンサ 同様に、生命現象を理解するためにも分解された要素を再構築する必要がある。 蛋白質 細胞 水 アミノ酸 DNA ・・・
エレクトロスプレーイオン化法の原理 生体分子を 含む溶液 タンパク質等の生体分子の形を壊さないまま真空中へ導く
♣ まとめ 近代の自然科学の発展によって、 孤立した原子・分子や固体結晶などの単純な系について、 詳しく理解できるようになった。 ♣ まとめ 近代の自然科学の発展によって、 孤立した原子・分子や固体結晶などの単純な系について、 詳しく理解できるようになった。 しかし、複雑な系については未だによく分かっていない。 生命現象は複雑な系の典型である。 複雑な系で起こる現象は自然界で重要な領域を占め、 多数の科学技術にも関連している。 複雑な系で起こる現象の中心にあるものは、 ミクロとマクロの中間にある ”原子分子の集合体(クラスター)”である。 そもそも我々が生きていることとは何なのだろうか? そのような問に答えることができるかもしれない。
♣ クラスターについてもっと詳しく知りたい人へ ♣ クラスターについてもっと詳しく知りたい人へ 1.Webラーニングプラザ 技術者Web学習システム http://weblearningplaza.jst.go.jp の中にある [クラスターサイエンスコース] 2.季刊化学総説38 マイクロクラスター科学の新展開 日本化学会編 3.新しいクラスターの科学 ナノサイエンスの基礎 菅野暁 近藤保 茅幸二 編著 講談社
-- Appendix --
大学院教育のあるべき姿とは? T型人間になろう 知識・教養は広く 専門は深く 目的・方針: 従来の大学院教育は個別専門教育だけになりがち。自然科学全体を見渡す教育・総括的視点の教育が必要。それは自分野、他分野といった捉え方ではない。自分野と他分野の接点について学び、自然科学全体を見渡す総括的視点を修得することが重要。 講義の中で自分の興味を覚えた部分を掘り下げて理解を深め、将来の自分の専門に役立てよう。生物、無生物を問わず、万物は何れかの化学物質から構成されている。ゆえに、原子・分子とその集合体の構造と機能に関する知識は、必ず諸君に役立つはず。 T型人間になろう 知識・教養は広く 専門は深く