2013年地球惑星科学連合大会 山賀 進(麻布中学校・高等学校)

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2013年地球惑星科学連合大会 山賀 進(麻布中学校・高等学校) 島津康男の高校地学教科書 2013年地球惑星科学連合大会 山賀 進(麻布中学校・高等学校)

島津康男と縫い目のない地球 地球を縫い目のない織物と捉える 第2世代から第3世代の地球科学へ 研究室のSMLES憲章(1960年代後半) Seamlles Earth System http://www.selis.hyarc.nagoya-u.ac.jp/21coe-selis/limit/dvd/pdf/2007/15_open_symposium_resume_Kumazawa.pdf 第2世代から第3世代の地球科学へ 第2世代 地球を構成する物質科学&地球誕生以来の歴史科学 第3世代 総合的視点、惑星・生物・人類社会も対象

島津の業績 主な著書 地球内部物理学(裳華房、1966年) 地球の進化(岩波書店、1967年) 現代地球科学(筑摩書房、1969年、竹内均) 地球を設計する(科学情報社、1971年) 地球の物理(裳華房、1971年) 国土科学(NHK出版、1974年) 自然の数理(筑摩書房、1975年、共著) 環境アセスメント(NHK、1977年) 国土学への道(NHK、1983年) 市民からの環境アセスメント(NHK、1997年) 島津(右)&熊澤(左)、2013年1月

島津と名古屋大学 理学部地球科学科(1949年創設) 27歳(1953年)で地球物理助教授として赴任 地球物理系研究室(地震、地球物理) 研究室制度(講座ではない) 地質系と地物系が共存 27歳(1953年)で地球物理助教授として赴任 1926年熊本生まれ、1948年東大地物卒 「地球科学」にひかれた&T氏との確執? 実態は不本意なものだった(地質系の道具?) 地球物理系研究室(地震、地球物理) 地球物理はシミュレーション(島津)と超高圧(熊澤)

理科学習指導要領の変遷(1) 1957年スプートニクショック 理科4教科(物・化・生・地)必修(1963年から) 教育の近代化、理数の重視(米国も、米国の真似?) 理科4教科(物・化・生・地)必修(1963年から) 物(5単位)、化(5単位)、生(3~4単位)、地(2単位) それ以前は物・化・生・地から2科目(各3~5単位) 1958年の地学履修は15%と少ない(←でも現在以上?) (物75%、化・生は97%) 4教科必修(地学必修)は和達清夫、藤本治義の政治力? 小中学校では生活単元から系統的学習へ 参考;http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/1971/1971_04_0179.pdf 図版:http://www.astroarts.co.jp/news/2007/10/04sputnik_50/index-j.shtml 学習指導要領データベース;http://www.nier.go.jp/guideline/

理科学習指導要領の変遷(2) 島津高校教科書当時の理科指導要領 1973年~81年の学習指導要領理科 選択制に戻ったのは高校進学率の増加 基礎理科(6単位)←「総合的理科」の始まり 物理Ⅰ・Ⅱ(各3単位)、化学Ⅰ・Ⅱ(各3単位) 生物Ⅰ・Ⅱ(各3単位)、地学Ⅰ・Ⅱ(各3単位) 上記Ⅰの科目を2単位or基礎理科が必修 選択制に戻ったのは高校進学率の増加 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2011/04/14/1303377_1_1.pdf

島津と高校教科書(学図版) 執筆の動機(推測) 共著者 「地球の物理」(裳華房、1971年)の高校生版 地球には縫い目がないことを伝えたい 自然界(宇宙、地球、生物)+人類社会 共著者 杉本大一郎(東大宇宙地球科学) 牧野融(慶応大学) 平瀬志富(都立戸山高校) 斎藤邦三(宮城県立高校) 「地球の物理」(裳華房、1971年)の高校生版 島津教科書 http://yamaga.cafe.coocan.jp/rika-kyoiku/shimazukokochigakukyokasho.pdf (島津氏と熊澤氏のご厚意により公開)

島津地学教科書の特徴(1) 縫い目のない地球(システム図を使う) マントル対流! p.60地球表面の物質循環の図

島津地学教科書の特徴(2) 人類も扱う(生物としてのヒト&生産活動) 生物としてのヒト 生産活動 p.159人類が利用しているエネルギーの流れ

島津地学教科書の特徴(3) 物理的(数学的)手法の紹介(1) 走時表から<深さ⇔地震波の速さ>を求める p.15、16 発展 層単位で<深さ⇔速さ>を求める

島津地学教科書の特徴(4) 物理的(数学的)手法の紹介(2) 年代測定ウラン-鉛法の原理 アイソクロン法の図的理解 微分方程式の初期値の意味 初期値がわからない場合 p.110

島津地学教科書の特徴(5) 化学的(数学的)手法の紹介 X:侵食された岩石 M:海水(1kg) Y:堆積物 元素によってX、Yが異なる(海水の年齢が異なる) p.56~58

島津地学教科書の特徴(6) いち早く大陸移動説を扱う 地向斜=マントル対流の沈み込み 地質図は扱わない 地向斜の解釈 p.123 p.133

島津教科書の受け入られ方 あまり売れなかった(推測) とりわけ地質系の人には使いづらい 地団研系の人にはあるまじき教科書 地学Ⅱの教科書は出なかった 次期学習指導要領下では出なかった とりわけ地質系の人には使いづらい 物理・化学的手法、地質図がないなど 地団研系の人にはあるまじき教科書 大陸移動説を入れて、地向斜(従来型)を省く 地団系の人たちが使った教科書は実教出版(推測) cf.東海大出版の「地学教育講座」 勤務校では島津教科書以後は自主教材 内容はWeb(http://www.s-yamaga.jp/)参照

その後の学習指導要領 1982年~1993年(ゆとり、隔週5日制) 1994年から2003年(完全週5日制) 理科Ⅰ(必修、4単位)、理科Ⅱ(2単位) 物理、化学、生物、地学(各4単位) 1994年から2003年(完全週5日制) 基礎理科(選択、4単位)、物・化・生・地のA 物理ⅠB・ⅡなどⅠB(4単位)、Ⅱ(2単位) 2004年~2013年(理数だけ2012年まで) 理科基礎、理科総合A・B(各2単位) 物理Ⅰ・Ⅱ、地学Ⅰ・Ⅱなど各3単位 2013年~(理数だけ先行実施) 科学と人間生活、物理基礎・物理など2単位・4単位 http://www.nier.go.jp/guideline/

島津教科書の今日的な意義 後期中等教育の意義と目的、方法の再検討 優秀な人材の確保 総合的な理科の先取り 理科Ⅰなどの人類社会との関わりの先取り 現実から目を背けない(災害・環境汚染・原発事故など) 縫い目のない地球 縫い目のない宇宙・地球・人類システム さらに縫い目のない宇宙史・地球史 自然・生物・人類各システムの3×3マトリクス 「われわれは何者か」の総合的入門 高校理科(含む地学的内容)再編のヒント 自然 生物 人類 自然サイクル 光合成呼吸 資源災害 分解呼吸 食物連鎖 食糧 廃棄 スペース圧迫 経済サイクル 後期中等教育の意義と目的、方法の再検討 優秀な人材の確保