乳児における 運動情報と形態情報の相互作用

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乳児における 運動情報と形態情報の相互作用 大塚 由美子1,2, 金沢 創3, 山口 真美4 1 中央大学大学院、2 日本学術振興会、3 淑徳大学、4 中央大学

実験 1, 2 運動情報の形態知覚に及ぼす影響 (主観的輪郭の知覚, 顔認知 ) 実験 3 運動知覚に対する形態情報の効果

乳児の形態知覚に対する運動情報の効果 運動情報は乳児の形態知覚一般に対して促進的効果を示すのか? Kellman & Spelke, 1983 4ヶ月児が部分的に遮蔽された棒のつながりを知覚するか検討した. 棒が運動する条件では、4ヶ月児もつながりを知覚することができたが、 棒が静止した条件ではつながりを知覚しなかった. →運動情報は乳児の形態知覚を促進する Moving condition Static condition 運動情報は乳児の形態知覚一般に対して促進的効果を示すのか?

実験 1 乳児の主観的輪郭の知覚に対する 運動情報の効果 Kanizsa (1979)図形 Otsuka & Yamaguchi (2003) Kanizsa (1979)図形

目的 運動情報を付加することで、乳児の主観的輪郭の知覚が促進されるかどうか検討する. 本研究では、動画と静止画での乳児の主観的輪郭の知覚を比較した.

方法 選好注視法: 乳児の刺激に対する注視時間を計測する. 乳児が主観的輪郭を知覚するならば、 小<大 2D<3D 均質な刺激<パターン化された刺激 (より多くの輪郭を含む) (Slater, 1995) 注視選好を引き起こす刺激特性 乳児が主観的輪郭を知覚するならば、 乳児は主観的輪郭図形を選好注視すると予測される. 大きな四角形 知覚上の輪郭 知覚上の奥行き

・主観的輪郭図形と要素反転図形は対で提示された. 参加者:3-4ヶ月,5-6ヶ月,7-8ヶ月児、     全体で62名の乳児.  手続き: ・主観的輪郭図形と要素反転図形は対で提示された. ・各乳児に対し動画条件と静止画条件を各1試行ずつ実験を行った. ・動画条件では刺激は20秒間提示され、静止画条件    では15秒間提示された. 40cm CCD カメラ vs. 静止画条件 40cm vs. 動画条件 CCD camera

結果(動画条件) 生後3-8ヶ月の全月齢の乳児が主観的輪郭を知覚した * * * * p<0.05, two tailed. (n=10) (n=10) (n=11)  生後3-8ヶ月の全月齢の乳児が主観的輪郭を知覚した

結果(静止画条件) 7-8ヶ月児のみが主観的輪郭を知覚した * * p<0.05, two tailed. (n=9) (n=12) (n=10)  7-8ヶ月児のみが主観的輪郭を知覚した

動画条件において静止画条件よりも幼い月齢の乳児が 主観的輪郭を知覚した. 3-4-month 7-8-month 運動情報は乳児の主観的輪郭の知覚を促進する.

運動情報の効果 promote promote これらの結果から、 運動情報は乳児の形態知覚に影響すると考えられる. Amodal completion Illusory contours これらの結果から、 運動情報は乳児の形態知覚に影響すると考えられる. では,形態情報は乳児の運動知覚に影響するのだろうか?

乳児の運動知覚に対する形態情報の効果 McDermott et al.(2001)

成人は局所的な運動情報を統合するか否か決定する際に, 形態情報(e.g. amodal completion)を利用している. 運動するバーの局所的な運動情報は 統合されない 4本のバーはバラバラ(2本ずつ互い違い)に運動するように知覚される. 運動するバーの局所的な運動情報は integrated統合される 部分的に遮蔽されたダイヤ型が円形の軌道に沿って運動するように知覚される McDermott et al.(2001) 乳児においても同じ効果は見られるのか?

手続き or 成人と同様、遮蔽条件において乳児がcoherent motionを知覚するならばテストにおいてLM図形を選好注視すると予測される. 遮蔽条件 非遮蔽条件 Familiarization: 15 秒×6 試行 vs. Test: 10 秒× 2 試行 Coherent motion (CM) Local motion (LM)

手続き 成人と同様、非遮蔽条件において乳児が局所的な運動を知覚するならば、テストにおいてはCM図形を選好注視すると予測される. Familiarization: 15 秒×6 試行 vs. Test: 10 秒× 2 試行 Coherent motion (CM) Local motion (LM)

方法 参加者: 3-4ヶ月児,5-6ヶ月児, 7-8ヶ月児. 刺激: Familiarization Test 40cm CCD 参加者: 3-4ヶ月児,5-6ヶ月児, 7-8ヶ月児.  刺激: or 非遮蔽 遮蔽 40cm Familiarization CCD camera vs. CM LM Test

結果(非遮蔽条件) 3-8ヶ月児がCMに対する有意な選好注視を示した * p <.05,** p <.01 (vs.chance) ** ** * 3-8ヶ月児がCMに対する有意な選好注視を示した

結果(非遮蔽条件) 5-8ヶ月児はLMに対する有意な選好注視を示したが、3-4ヶ月児は選好注視を示さなかった † p <.05 (vs.chance) * * 5-8ヶ月児はLMに対する有意な選好注視を示したが、3-4ヶ月児は選好注視を示さなかった

結果(実験1) 5-8ヶ月児は遮蔽条件において非遮蔽条件より有意に高いLMに対する選好注視を示した. ** p <.01 ** ** n.s. 5-8ヶ月児は遮蔽条件において非遮蔽条件より有意に高いLMに対する選好注視を示した.

生後5-8ヶ月児において運動情報の統合に対する遮蔽情報の効果が示された. 実験1: 生後5-8ヶ月児において運動情報の統合に対する遮蔽情報の効果が示された. =静止情報に基づくamodal補完の発達時期と一致 (Otsuka et al. in press) 遮蔽情報の効果は乳児の補完知覚に依存するのか?

実験2 目的: 遮蔽情報の効果が乳児の補完知覚に依存するのかどうか検討する. ①遮蔽量を増加(実験2A)   可視領域の減少→ダイヤ型の補完がより難しくなる ②遮蔽ダイヤ型の面積を減少させる(実験2A)   遮蔽の知覚が生じない→ダイヤ型の補完は生じない

実験2A 参加者:5-8ヶ月児12名 遮蔽領域を増やした条件でも 乳児は局所的な運動情報を統合した. →遮蔽増加の効果は示されなかった. * p <.05 (vs.chance) n.s. * 参加者:5-8ヶ月児12名 遮蔽領域を増やした条件でも 乳児は局所的な運動情報を統合した. →遮蔽増加の効果は示されなかった.

実験2B 参加者:5-8ヶ月児12名 ダイヤ型が補完できない条件では、乳児は局所的な運動を統合しなかった. * p <.05 * n.s. (vs.chance) ダイヤ型が補完できない条件では、乳児は局所的な運動を統合しなかった.

Discussion 実験1 運動統合知覚に対する遮蔽情報の効果は生後5-6ヶ月頃に発現する. 実験2 5-8ヶ月児の運動統合知覚に対する遮蔽情報の効果はグローバルな形態の補完知覚に依存する. →形態情報は生後5-6ヶ月頃から運動知覚に   利用されるようになる

運動情報は生後3-5ヶ月児の形態知覚を促進する. (Kellman & Spelke, 1983; Otsuka & Yamaguchi, 2003; Otsuka et al. 2005) 本研究の結果は形態情報の運動知覚に対する効果はこれより遅く生後5-6ヶ月頃に発達すると示唆する.

謝辞 本研究は科学技術振興機構,社会技術研究システム,および日本学術振興会科学研究費:課題番号15500172の補助を受けて行われた.