超伝導のホログラフィック双対な記述に向けて 疋田泰章 (高エネルギー加速器研究機構) 2009年7月9日@基研研究会「場の理論と弦理論」
AdS/CFT対応 d+1 次元のAnti-de Sitter (AdS) 空間上の重力理論 d 次元の共形場理論(CFT) [ Maldacena ’97 ] d+1 次元のAnti-de Sitter (AdS) 空間上の重力理論 d 次元の共形場理論(CFT) AdS空間の境界 r→1 に住む Ex. AdS5上のType IIB超弦理論 古典論をこえた量子論はほとんど理解されていない Ex. 4次元N=4超対称U(N)ゲージ理論 摂動論はよく理解されているが、強結合領域の解析は困難
AdS/CFT対応による強結合物理 結合領域の対応 AdS/CFT対応を用いる有効性 IIB string on AdS5 4d N=4 U(N) SYM 古典重力 ラージN 強結合 AdS/CFT対応を用いる有効性 格子ゲージ理論に代わる強結合物理の定式化? 幾何学的, 解析的な取扱いが可能 時間発展も追える クォーク・グルーオン・プラズマ Shear viscosityの予言 RHICにおける実験との比較 [ Kovtun-Son-Starinets ‘04]
AdS/CMPの例 (I) ホログラフィック超伝導 高温超伝導の理解 双対な重力理論における記述 [ Gubser; Hartnoll,Herzog,Horowitz; Maeda,Okamura; Herzog,Kovtun,son; ... ] 高温超伝導の理解 普通の超伝導 ⇒ BCS理論による記述, Cooper対の凝縮 高温超伝導 ⇒ あまりよく理解されていない, 強相関物理? AdS/CFT双対な理論による記述が有効? 双対な重力理論における記述 有限温度 ⇒ AdS空間中のブラックホール Cooper対の双対なスカラー場が凝縮 2次相転移, 無限大のDC伝導率, エネルギーギャップ, … 場の理論側 重力理論側 有限温度での Cooper対の凝縮 AdSブラックホールにおけるスカラー場の凝縮
AdS/CMPの例 (II) 非相対論的な共形場理論 Schrödinger群 [ Son; Balasubramanian,McGreevy; Sakaguchi,Yoshida; Herzog,Rangamani,Ross; Maldacena,Martelli,Tachikawa; Adams,Balasubramanian,McGreevy; Nakayama,Ryu,Sakaguchi,Yoshida; ... ] Galilean変換 + スケール変換 + 特殊共形変換 (z=2) 冷却フェルミ原子気体(40K, 6Li)の対の凝縮 Tc ~50 nK 強相関, ユニタリ・フェルミ気体 B: 磁場 BEC crossover BCS
AdS/CMPの例 (III) Lifshitz的な模型 量子ホール効果 不純物のある系 有効理論としてのChern-Simons理論 [ Kachru,Liu,Mulligan; Horava, ... ] 時間反転に対して対称, Schrödinger群への拡張はなし 量子臨界現象 繰り込み可能な重力理論? 量子ホール効果 [ Keski-Vakkuri,Kraus; Davis,Kraus,Shah, Fujita,Li,Ryu,Takayanagi; YH,Li,Takayanagi; Alanen,Keski-Vakkuri,Kraus,Suur-Uski ] 有効理論としてのChern-Simons理論 不純物のある系 [ Hartnoll,Herzog; Fujita,YH,Ryu,Takayanagi; ... ] レプリカ法
計画 0. 導入 超伝導 AdS/CFT対応 ホログラフィック超伝導 不純物のある系 議論
1. 超伝導 BCS理論とGL理論
超伝導の発見 Kamerlingh-Onnes (1911) Meissner-Ochsenfeld (1933) ゼロ抵抗 温度 T < 4.2K で水銀の電気抵抗がゼロとなり完全導体となる Meissner-Ochsenfeld (1933) Meissner 効果 転移温度以下では超伝導体の内部から磁束が排除 from Wikipedia
BCS理論 Bardeen-Cooper-Schrieffer (1957) 超伝導のミクロな理解
Ginzburg-Landau理論 (I) 強磁性体の場合 F: 自由エネルギー, M: 磁化(秩序変数) F(M)の最少値
Ginzburg-Landau理論 (II) 超伝導の場合 秩序変数:波動関数 自由エネルギー密度 の最少値 磁場なし h = 0, 転移温度以下 ® < 0
Meissner効果 方程式における特徴的長さ 磁場侵入長:¸ コヒーレンス長:» 超伝導体 方程式における特徴的長さ 磁場侵入長:¸ ゲージ場が質量を持つことによって, 磁場の侵入が指数関数的に抑えられる コヒーレンス長:» ( Meissner効果)
Type I & Type II Type I Type II from Wikipedia
高温超伝導 高温超伝導の特徴 高温超伝導の理解 高温の相点移転点 銅酸化物, 2+1次元 相構造 BCS(フォノンを媒介, 電子のクーパー対,s波) non-BCS(スピン揺らぎを媒介 準粒子のクーパー対,d波) non-BCS(準粒子の描像なし) AdS/CFTによる理解が有効? from Wikipedia
2. AdS/CFT対応 AdS/CFT対応を用いた計算方法
AdS/CFT対応 双対性による写像 状態の対応 分配関数 相関関数 d+1 次元のAdS空間上の重力理論 d 次元の共形場理論 [ Maldacena ] 双対性による写像 状態の対応 分配関数 相関関数 d+1 次元のAdS空間上の重力理論 d 次元の共形場理論 (境界 z=0 に住む) [Gubser,Klebanov,Polyakov; Witten ]
AdS空間中のスカラー場 スカラー場の作用 運動方程式 双対な共形場理論におけるスケーリング次元
2点関数 境界条件 境界における作用 境界 z=0 での振る舞い ホライズン z→∞ で正則 唯一の解 Bulk-boundary propagator スケーリング次元
演算子の真空期待値 境界 z=0 における重力理論の場の振る舞い スカラー場の展開 双対な理論の物理量は境界の振る舞いから読み取る 境界条件 境界 z=0 での振る舞い(ex. ) ホライズン z→∞ における条件(ex. 正則性) スカラー場の展開 に関するソース の真空期待値
スケーリング次元 双対性による写像 双対な演算子のスケーリング次元 :Δ+のみがユニタリティ条件を満たす :Δ+, Δ-両方が満たす 境界z=0に住む d次元の共形場理論 d+1次元のAdS空間上の重力理論 : スカラー場 : スカラー演算子 m : スカラー場の質量 : 演算子のスケーリング次元 が発散しないのは ユニタリティ条件 :Δ+のみがユニタリティ条件を満たす :Δ+, Δ-両方が満たす Breitenlohner-Freedman bound (AdS空間の曲率のため負になりうる)
3. ホログラフィック超伝導 双対な重力理論における超伝導状態の実現
双対な重力理論 重力理論の性質 (2+1)次元有限温度系 (3+1)次元AdS Schwarzschild ブラックホール [ Gubser; Hartnoll,Herzog,Horowitz ] 重力理論の性質 (2+1)次元有限温度系 (3+1)次元AdS Schwarzschild ブラックホール Cooper pair + U(1) 対称性 スカラー場 ª + U(1) ゲージ場 A¹ Ginzburg-Landau模型に酷似 スカラー場の凝縮 ホライズン近傍で質量の2乗が負
重力解の構成 重力解を数値的に解析 スカラー場, ゲージ場の反作用は無視 Ansatz 運動方程式 ホライズンにおける境界条件 q 1 として場の再定義で吸収 反作用も取り入れた解析も可能で定性的に同じ結果 Ansatz 運動方程式 ホライズンにおける境界条件
AdS/CFT写像 演算子との対応 真空期待値との対応 質量を適当に固定 AdSの境界 での振る舞い 境界条件を仮定 AdS/CFT 電荷密度 化学ポテンシャル
スカラー演算子の真空期待値 結果 結論 BCS理論による曲線をうまく再現 2次相転移 (自由エネルギーが連続的) [ Hartnoll,Herzog,Horowitz ] 結果 結論 BCS理論による曲線をうまく再現 2次相転移 (自由エネルギーが連続的) cf. BCS: , High-Tc :
伝導率 Maxwell場の摂動 ベクトルポテンシャル Ax の摂動 AdSの境界 における振る舞い Ohmの法則による伝導率 ホライズンで を仮定 AdSの境界 における振る舞い Ohmの法則による伝導率
エネルギーギャップ 結果 結論 無限大のDC伝導率 エネルギーギャップ [ Hartnoll,Herzog,Horowitz ] Cooper対 ??
ホログラフィック超伝導のまとめ 結果 議論 超伝導にホログラフィック双対な理論を構成 Cooper対 Meissner効果 不純物 スカラー場がAdSブラックホールホライズン近傍で凝縮 2次相転移, 無限大のDC伝導率, エネルギーギャップ 議論 Cooper対 CFT側での理解, 高温超伝導特有の現象 Meissner効果 U(1)対称性のゲージ化, NGボソン Type II 超伝導?Abrikosov格子? [ Albash,Johnson; Montull,Pomarol,Silva ] 不純物 並進対称性によりDC伝導率が無限大
レプリカ法とその双対な重力理論における対応物 4. 不純物のある系 レプリカ法とその双対な重力理論における対応物
不純物のある系 不純物 不純物のある系の例 実験で用いられる物質 スピングラス系 量子ホール効果 などなど 不純物の存在が大きな効果をもたらすこともある 不純物のある系の例 実験で用いられる物質 スピングラス系 量子ホール効果 などなど 31
設定 d 次元の場の量子論を用意 演算子 によって理論を変形 変形のパラメータに関して平均化 Ex. 4d N=4 U(N) SYM 演算子 によって理論を変形 Ex. single-trace 演算子 変形のパラメータに関して平均化 変形のパラメータが空間座標 x に依存
レプリカ法 自由エネルギー レプリカ法 レプリカ法はこの恒等式に由来 n 個のコピーを用意し, 不純物に関して平均をとったのち, n = 0 の極限をとる
重力理論による記述 利用する事実 ホログラフィックレプリカ法 レプリカ法 Double-trace 演算子による変形 n 個の場の理論を用意 相互作用を導入 最後に n = 0 の極限をとる Double-trace 演算子による変形 重力側では双対なスカラー場 Á の境界条件を変えることに対応 ホログラフィックレプリカ法 n 個のAdS空間を用意 それぞれのAdS空間は境界を共有 AdS空間に住むスカラー場 Ái の境界条件を変形 スカラー場の境界条件を通してそれぞれのAdS空間が相互作用 主に2点関数を計算し、両方の方法で同じ結果を得た [ Fujita,YH,Ryu,Takayanagi ] [ Witten ]
5. 議論 まとめと展望
議論 まとめ 問題点 AdS/CFT対応の物性系への応用 現実の模型に双対な重力理論の構成は困難 強相関物理が重要 いろいろな模型が構成できる 実験室でAdS/CFT対応の検証を 問題点 現実の模型に双対な重力理論の構成は困難 古典重力を超えた解析が困難 ラージN極限, 共形場理論側の理解 ユニバーサリティ?