『青少年の環境意識の調査』 (川村康文 笠原三紀夫 .2002年) について 『青少年の環境意識の調査』 (川村康文 笠原三紀夫 .2002年) について 東京理科大学理学部第一部物理学科 1212007 飯野 誠也
そもそも『環境意識』とは? 「環境の為に良いこと・悪いこと」 →非常に定性的で主観的 情緒的判断 「環境の為に良いこと・悪いこと」 →非常に定性的で主観的 情緒的判断 「どのような考え方がどれだけ環境問題の解決に有用か」という視点 定量的・客観的な評価が必要!
先行調査について 川村・近藤・藤田による1998年の報告: 高校物理ⅠBにて 生徒から『高校生がどの 『課題研究』実施 ような環境意識を持って いるか調査したい』 受講生を対象に『高校生の環境意識』に ついてインタビューを行った 調査票が十分でなく、改善の余地が あった
本研究における調査票について 高校三年生を対象とし、 ① あるクラスに自由記述で『環境問題に関する ことについて』アンケートを取る ② ①でのアンケートを集約して印刷、別のクラス で自分が共感する意見に○をつけさせる ③ 以上を四クラスにわたり実行して作成された 原案をOnsenML,rikaML,eesML(現,EE-SML)に紹介 して改善、完成
研究の実施(1998年10月~11月) について 環境教育が実施されている京都市内 3小学校の6年生 計129人 3中学校の2年生 計229人 合計9校702人 3高校の2年生 計344人 を対象 授業中にマークシート(質問紙法) で5件法にて実施、因子分析を行った。 因子分析とは 直接観測することのできない潜在 変数が、観測できる変数に影響し ていると仮定 し、その潜在変数(=共通因子)を見 つけ出す手法。 たとえば、国語、英語、公民、理科、数学のテスト結果が時に、国語と英語と公民からは文系能力と言う共通因子が、理科と数学からは理系能力と言う共通因子が見つかるわけです。ここでは、50近い質問項目に対する回答から、なんらかの共通する五つの因子が見つかり、それぞれの共通因子について川村先生が命名されています。
第1因子『人類による環境問題生起観』について 第一因子は以下の五つの解答に対してなんらかの共通する要素が得られた時に、川村先生が命名した『人類による環境問題生起観』です。つまり、人類が環境問題を引き起こしているのだ、と生徒が感じているかどうか、という共通因子を持つ解答群だということです。 12番目の項目が印象的で、生徒が『今の人類全体の環境意識の低さ』を指摘している。これは身の周りや自分のことを鑑みた結果に加え、現状の環境教育がある程度『悲惨な地球環境の現状』については生徒に多く情報を与えている成果とも考えられます。が、具体的にどのような意識が有用なのか、というステップにまで生徒達が達しているかは、分かりません。 ここで結果を見て見ましょう。SDと言うのは標準偏差、つまりバラツキ具合のことです。今回はテューキー法を用いて五パーセント水準で互いに優位に差があるかどうか、下位検定しています。その結果、この第一因子については、小学校の男子or女子、中学校の男子or女子、理系高校生の男女、非理系高校生の男女の計8群間で有意差がみられませんでした。この結果表からも分かる通り、大体平均は21くらいで、全体的に女子の方が5%ほど点数が高いと言う結果になっています。環境問題が人類によって引き起こされているのだ、と言う考え方は、年齢や性差に関係ないという事が分かります。
第2因子『省エネ・省資源行動』について 次は比較的分かり易く、これら四つはどれもエコ活動に繋がる質問です。ちなみに、ケニア出身の女性環境保護活動家で2004年に持続可能な開発、民主主義と平和への貢献でアフリカ人女性として初のノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんのモッタイナイと言う言葉。これは2005年に京都議定書関連行事の出席の際に来日された時に出会った言葉だったそうです。節電に関しての具体的な効果は、電力中央研究所などが多くの調査報告を出しているので、一読の価値はあると思います。例えばこれからの季節エアコンを使う事があると思いますが、部屋に入ってすぐにエアコンを付けるよりも、一度換気してからクーラーを付ければ、冷房効果は数倍になるなどの報告もあります。こう言った身近で、かつ定量的な考え方からも、物理教育・環境教育につなげていくことができれば良いでしょう。 ここで結果を見て見ます。ここでは第一因子と比べ、群の間に有意な差が見られます。どこだと思いますか?そうですね、小学生と中学生との間に大きなギャップが存在しています。男女共に中学生になると一気に10%近く得点が減少し、高校生になるとやや増加するものの、小学生ほどの得点には結びついていません。中学生になると、口酸っぱく言われているこうしたエコ活動についての意識が薄れていくのでしょう。
第3因子『地球環境問題解決活動の実践』 について 三つめはエコと言うよりもより積極的な地球環境問題解決に向けた実践が共通する因子として見られています。勿論首都圏の高校生が生ごみをたい肥として使うことは余り考えられないでしょうし、逆に地方の人にとって自動車はまだまだ必須でしょう。そう考えると、こう言った調査をした時には、その回答が対象者の住んでいる地域やバックグラウンドと密接に関わっている可能性があることを吟味しなければならないと感じました。 ここでの結果も、やはり小学校と中学校で得点にぐっとギャップが存在します。また、ここでも男子より女子の方が10%近く平均得点が高いことがうかがえますね。
第4因子『ゴミ問題への関心』について 四つ目はゴミ問題についてです。省エネや環境問題への取り組みなどと比べ、ゴミと言うのは高校生にとっても常に発生する、ごくごく身近な問題と言えます。過剰包装や大量生産・大量廃棄などの業者側の問題も目立ちますが、それも市民側の意識が低いことからくる影響かもしれません。しかし、ただ単に『ゴミは分別しましょう・減らしましょう』と言った所で、生徒にはあまり響かないでしょう。ここに、具体的で客観的な見方が必要となります。例えばごみ焼却炉の数、アメリカはどれくらいあるかご存知ですか?正解は2008年 OECD調べでは351施設だそうです。では、一方で日本にある焼却炉の数は幾つでしょう?正解は1243施設だそうです。日本では毎日一人当たり1キロのゴミを出しており、年間では1家庭から1トンものゴミが出る計算となっています。そして、ごみ焼却量はヨーロッパ環境先進国の10倍以上、ダイオキシン排出量も世界一と言われています。物理で言えば、1トンのごみを燃やすのに一体どれだけのエネルギーが必要なのか、もし金属ゴミも可燃ごみも一緒になっていた場合、当然融点の高い方に火力を調整しなくてはならないわけですから、どれだけエネルギーロスが生じるのか、具体的に計算してみるのも良いでしょう。一方で、実は自治体では分別させたは良いが結局一緒くたになって燃やしていたり、あるいは国自体もゴミ問題については後回し的な策しか講じないままに市民への呼びかけだけ行っているなどの指摘もあります。こういう時に、『良き市民』として科学的に論拠のある議論を生徒達には行ってもらいたいものです。 ここでゴミ問題への関心についての得点は、年齢で有意差がありません。今まで劣勢続きだった男子群も、小学生では女子に肉薄するほどの得点を見せています。高校生になるとまた女子の方が10%ほど平均得点が高くなりますが……全体的に言うと、標準偏差は男子の方が大きく、即ち男子は『ゴミ問題について意識の非常に高い生徒と低い生徒が居る』平均としてそこそこの結果を、女子は『みんなある程度意識が高い』結果なのです。
第5因子『環境教育の有用感』について 最後となりますが、これは環境教育の有用感が共通すると考えられる質問たちです。環境問題を巡っては、一般のイメージでは社会科の印象が強く、日本ではまだまだSTS教育が定着していないのが現状でしょう。確かに、各国との比較や、文化的・政治的背景も絡めた環境教育は、道徳などで培われる情緒的な環境教育と合わせて大事ではあります。しかし一方で、実際にその効果や要因を考えるのは理科の分野であり、市民が環境問題を知るうえで、理科は特に重要な科目であるはずです。たとえばダイオキシンの例で言えば、たしかにラットなどでの実験においては非常に猛毒を示し、発癌性もあり、奇形児を出産するリスクも非常に高いと言われ続けています。しかし、単純にラットと人間を比較することは出来ず、実際に大量ダイオキシンが流出した事件において死者が0だったり、一時期話題になった日本のダイオキシン汚染キャベツ数百万個分のダイオキシンを飲んでも死には至らなかったなどの事例があります。僕自身も、ダイオキシンは怖い怖いというだけで実際にどのような物か今まで調べようとさえしていませんでしたし、生徒にサイエンティフィックな考え方を持ってもらう事が、そのまま環境教育にダイレクトにつながるのではないかな、と思いました。 ここでは、また小学校と中学校でギャップが大きくなっています。特に男子は高校生になっても上昇する傾向が見られず、環境教育の有用感をあまり感じていないと分かります。現在では高校にSTS教育が科目として導入されていますが、この結果が現代にもあてはまるなら、中学生にこそSTS教育はより重要なのではないかとも考えられます。
論文を拝読した自分の展望 1.情緒的ではなく定量的な視点の重要性 2.生徒の実態把握の重要性 3.『ありがたいお説教』ではない環境教育
ご清聴感謝いたします。 ご指導、ご鞭撻のほど よろしくお願いいたします。