聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 3年目 桝田 志保

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Presentation transcript:

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 3年目 桝田 志保 Jermy R. Beitler , Shahzad Shaefi , Sydner B. Montesi , Amy Devlin , Stephen H. Loring , Daniel Talmor , Atul Malhotra Intensive Care Med(2014) 40:332-341 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 3年目 桝田 志保

背景 ARDSに対する腹臥位療法は40年来行われて来た Crit Care Med4:13–14 腹臥位療法のメリットは、換気血流マッチング・従属する肺領域のリクルートメント・胸郭壁の力学を最高に活用する・気道分泌物のドレナージを増強させることなど Chest 106:1511–1516, Intensive Care Med39:1909–1915, Intensive Care Med38:221–229, Am J RespirCrit Care Med 157:387–393, CritCare Med 29:1084–1085 しかしARDSの腹臥位療法に関する多くの臨床試験で死亡率の低下は示せなかった N Engl J Med345:568–573,JAMA 292:2379–2387,J Trauma 59:333–341,Am JRespir Crit Care Med 173:1233–1239, Intensive Care Med 34:1487–1491,JAMA 302:1977–1984

背景 一方最近のGuerinらの多施設randomized trialでは、腹臥位は死亡リスクを半数まで減少させた N Engl J Med 368:2159–2168. 以前のメタ解析とpost hoc解析では疾患重症度が最も高い患者群や重症ARDSで利益があると示したが、以前の最も大きな300-800人を含んだrandomized trialではそのような結果は得られず N Engl J Med345:568–573, Am JRespir Crit Care Med 173:1233–1239, Crit Care Med36:603–60,Intensive Care Med36:585–599,Crit Care 15:R6, JAMA 292:2379–2387, JAMA 302:1977–1984.

背景 これらの結果の相違について、異質性に着目してメタ解析を行った ここ10年ほどで普及したlow tidal volume ventilationが結果の相違に大きく影響していると予測 Am J Respir CritCare Med 183:59–66, N Engl JMed 346:295–297,Am JRespir Crit Care Med 188:1286–1293. 侵襲的なhigh tidal volume ventilationを回避した場合のみ、ARDSの60日死亡率は低下すると仮説を立てた

PICO P ARDS/ALIで背臥位vs腹臥位の死亡率への影響を評価したrandomization trialに含まれた人工呼吸器管理中の患者 I ARDS腹臥位療法群 C ARDS背臥位療法群 O 60日死亡リスク比

研究デザイン メタ解析(RCTのみ) 文献データベースで見つかった336の文献(MEDLINE,EMBASE,Coch-LILACS,引用文献) ARDSに対し、人工呼吸器管理中の背臥位vs腹臥位の死亡率への影響を評価したrandomized trialをinclude Low tidal volume群とhigh tidal volume群を層別化

Inclusion Criteria Exclusion Criteria RCT ARDS,ALIについてのstudy 人工呼吸器管理下で背臥位vs腹臥位の死亡率への影響を評価したstudy Exclusion Criteria 死亡率の報告なし Randomizedされていない

統計解析1/2 primary outcome:60日死亡率 Random effect modelを使ったメタ解析 異質性はQ-statisticsとI2-indexで測った 累積メタ解析で肺保護的人工呼吸とその他の集中治療領域の進歩を評価 random effect modelで1回換気量が異質性の重要な要素であるか否かを評価

統計解析2/2 無制限最尤推定法で死亡率とbaseline tidal volumeとの量反応関係を評価 Random effect modelで腹臥位でのlow tidal volume 対 high tidal volumeの効果を評価 funnel scatter plot,Begg-Mazumdar rank correlation,Egger’s regressionでpublication biasを評価 メタ解析はPRISMAガイドラインに沿い、Comprehensive Meta-Analysis v2を用いた

結果 Fig.1 計7つのStudy,2119人に対し メタ解析を行った 初めの検索で336のabstractから成る643の文献がhitした。 Primary resarchで査読を受けていなかった108のabstractやinclusion criteriaに当てはまらなかった217のabstractを除外。 また、4つはreview後、controlでの習慣的人工呼吸器管理で無かったため、またrandomized designでなかったため除外された。 最終的に評価に値する7つのstudyを抽出し、それらのstudyに含まれる2119人に対してmeta analysisを行った。 このうち、Tacconeらのstudyではrandomizationの段階でmoderate/severe ARDSで層別化されていたため、解析時に2つの別のTrialとして扱った。 Study quality: 全てのstudyはmuticenter RCT 全てのcaseで割り付けを隠した状態で行った。 事後除外は、同意の撤回と加入時点でのincludeミスに限り行われた 3つのtrialは加入するのが遅かったため、早期に終了した。そのためグループ間の違いをdetectする統計学的パワー不足というリスクを招いた。 計7つのStudy,2119人に対し メタ解析を行った

結果 Table1 ・それぞれ40-802の症例を含んだ7つのtrial Table1にincludeされたstudyの特徴をまとめてある。 N数:それぞれ40-802の症例を含んだ7つのtrial 腹臥位での時間(pronig dose)は1日6-20時間以上で、新しいstudyになるほど長くなった 全てのtrialで、APRVではなく比較的lowPEEPで管理されている ・それぞれ40-802の症例を含んだ7つのtrial ・proning doseは6-20h/day,新しいstudyほど長い傾向 ・全てのtrialで比較的low PEEP管理(APRVでない)

結果:Table 2 ・SAPSⅡスコアにstudy間での差なし SAPSⅡスコアにtrial間での差はなし 7つのうち4つのstudyはlandmark studyであるNHLBI ARDS Network trial(低用量換気が死亡率を下げる;2000年)が出される前に開始されていたこともあり、 最近推奨されている6-8ml/kgの低1回換気量で行われたstudyは4つ 実際のPEEPやP/F比は以下のようになっている ・SAPSⅡスコアにstudy間での差なし ・7つのstudyのうち4つはNHLBI ARDS Network trial(2000)が出される前に開始 →6-8ml/kgの低容量換気下で行われたstudyは4つ

結果:Fig.2 ・GuerinのTrialでのみ著明に死亡率低下 ・全体での60日死亡リスクは0.83 個々のstudyでは最新のGuerinのtrialでのみ、腹臥位での著明な死亡率減少が示された 全体での60日死亡リスクは0.83(95%CI 0.68-1.02;p=0.073) high tidal volume(>8ml/kg) と low tidal volume(<8ml/kg)で層別化し解析を行った結果、Low群で死亡リスク比を減少させたが(RR=0.66;95% CI0.50-0.86;p=0.002)、high群ではそうではなかった(RR=1.00;95%CI 0.88-1.13;p=0.949) 両群間の死亡リスク比の違いは著明に高かった(p<0.001) ・GuerinのTrialでのみ著明に死亡率低下 ・全体での60日死亡リスクは0.83 ・low tidal volume群で死亡リスク減少(RR=0.66;95%CI 0.50-0.86;p=0.02) high tidal volume群では減少せず(RR=1.00,95%CI 0.88-1.13;p=0.949)  両群間の死亡リスク日の違いは著明に高かった(p<0.001)

結果:Fig.3 ・累積メタ解析で、腹臥位で死亡率が下がるという結果 累積メタアナリシスで、腹臥位で死亡率が下がるという結果を示し、 1ml/kg PBW のmean baseline tidal volume低下は死亡リスク比を16.7%低下させた(95% CI 6.1-28.3;P=0.001) ・累積メタ解析で、腹臥位で死亡率が下がるという結果 ・1ml/kg PBW のmean baseline tidal volume低下は死亡リスク比を16.7%低下させた(95% CI 6.1-28.3;P=0.001)

Discussion 1/2 [異質性について] Study間で異質性は明らか (Q-statistic=19.6,I2=64%,p=0.006) I2;全体=64%からhigh群=11%・low群=25%まで低下 Q-statistic;全体=19.6からhigh群=3.4、low群=4.0まで低下 Proning durationで層別化したところ、High dose群で明らかに死亡率が低下したが、全異質性の1/3未満しか説明がつかなかった(High dose; I2=44%,全体; I2=64%) Proning dose(high:≧12h/day,low:<12h/day)で層別化し解析;high群で著明に死亡率低下(RR=0.71;95%CI 0.56-0.90;p=0.004)・Low群では改善なし(RR=1.05;95%CI 0.92-1.19;p=0.472)

Disucussion 2/2 ARDSに対し腹臥位でlow tidal volume ventilation 時に有意に死亡率を低下させる 以前のメタ解析で異質性を説明したり死亡率低下がかなわなかった理由として、低酸素や疾患重症度などの疾患関連因子に焦点をあてていたなどが挙げられる 本メタ解析では、平均一回換気量での層別化を行うことで、異質性を最小限にすることができたことが強調すべき点である 低酸素や疾患重症度などの患者特異的要素は、患者レベルのメタ解析で評価されると良いだろう

Limitation 腹臥位でのARDS加療に関して、評価に値する論文が少ない 腹臥位に慣れていない施設では合併症が増えると思われる 現行のopen lung-protective ventilation下での評価ではない

マリアンナ救急としての方針 本論文の評価出来る点 疾患関連因子(低酸素・重症度など)でなく、治療関連因子(tidal volume・proning dose)に着目した 本論文の問題点 ①文献の母数が少ない ②腹臥位に慣れていない施設では管理が難しい ③high PEEP+腹臥位の検討が必要