サプライチェーンにおける インセンティブの設計 間下充顕 丸山浩幸 渡辺理志
目次 1.目的 2.SCの失敗と原因 3.不均衡を是正する方法 ・現状の認識 ・原因の特定 ・調整方法の変更 ・契約による解決 ・契約による解決 ・情報による解決 ・信頼による解決 4.結論 5.インセンティブ調整による改善例
1.目的 サプライチェーン全体の利益を 最適化するには
2.SCの失敗と原因 シスコシステムズ社 ネットワーク機器最大手 SCMの手本 アメリカ産業史上最大級の在庫償却 25億ドル相当の余剰在庫 アメリカ産業史上最大級の在庫償却 25億ドル相当の余剰在庫 四半期売上高の約半分に相当
大量在庫発生の原因 需要予測ソフト シスコシステムズの経営陣の責任 サプライチェーンを構成する パートナー(下請け企業など)の行動
シスコシステムズ社の生産ライン 市場の需要が供給を上回っているとき 市場の需要が減ってきたとき 大量在庫 部品メーカー EMS社 シスコ 需要以上の大量注文 (コスト低下) 需要予測に基づいた注文 部品メーカー EMS社 シスコ 市場 需要以上の大量の部品 全て買取 市場で大量に 販売 市場の需要が減ってきたとき 部品メーカー EMS社 シスコ 市場 市場での 販売量低下 大量在庫
大量在庫発生の原因 パートナー企業の行動を考慮していない 個々の企業利益を最大化することがSC全体の利益も最大化するという考えが当てはまらない(アダム・スミス)
(事業に伴うリスク、コスト、利害が公平に配分) SC全体最適化が困難である理由 経営権が直接及ばない企業を含む 役割やアカウンタビリティを明確に規定することが困難 企業文化が異なる SC全体最適をもたらすには インセンティブ調整するしか方法がない (事業に伴うリスク、コスト、利害が公平に配分)
インセンティブが機能しない理由 不均衡なインセンティブ パートナーの隠れた行動 サプライチェーン内の一企業だけ他の企業の知らない「隠れた情報」を持っている インセンティブの設計方法が間違っている 不均衡なインセンティブ
3.不均衡を是正する方法 1, インセンティブ問題の発生理由 2, インセンティブ問題の解決手順 パートナーの「隠れた行動」 1, インセンティブ問題の発生理由 パートナーの「隠れた行動」 「隠れた情報」:サプライチェーン内の特定企業だけが知っているデータ インセンティブ設計の誤り 2, インセンティブ問題の解決手順 問題の存在を認識する。 「隠れた行動」「隠れた情報」「インセンティブ設計の誤り」のどれが原因なのか、診断する。 関連各社に全体の利益を最大化する行動を促すようにインセンティブ体系を再設計する。
3.不均衡を是正する方法 インセンティブ問題の解決手段 インセンティブ問題の予防法 契約を変更し、全体の利益を考えた行動に報いる。 「隠れた情報」を掘り起こし、サプライチェーン全体で共有する。 仲介者を参入させるか、人と人のつながりを生かして、サプライチェーン内の信頼関係を醸成する。 インセンティブ問題の予防法 新技術の導入、新市場への参入、サプライチェーンの改善など、そのつどインセンティブを精査する。 サプライチェーン内の他者の業務プロセスやインセンティブについて、シニアやミドル・マネジャーを教育する。 波風の立たぬよう、他社や他業界のケース・スタディを検討させる。
ステップ1 現状の認識 サプライチェーンに生じるさまざまな問題とインセンティブとの関係を理解すること自体の困難 他社の業務を詳しく知らない 金銭的なインセンティブの問題を取り扱うことを好まない しかし、これらの偏見さえ取り除けば、インセンティブの不一致を見つけ出すことはさほど難しくはない。
ステップ2 原因の特定 多くの場合、サプライチェーンを構成する関係各社が、おのおのの利益を目標として活動することによる。 それらが「隠れた行動」「隠れた情報」「インセンティブ設計の誤り」のどれに該当するのかを決める。
ステップ3 調整方法の変更 数式やアルゴリズムでは解決できない 各社のそれぞれの立場における意思決定を理解する能力が必要 例 大手メーカーによる一元管理の失敗(関係各社の抵抗)
調整方法① 契約による解決― 契約条件を業績連動型に改める(1) 調整方法① 契約による解決― 契約条件を業績連動型に改める(1) 1, 製パン・メーカーの例 改善前 配達員の報酬は売り上げのみに連動 ―過剰在庫をいとわない 改善後 売り上げに連動した報酬に加え、在庫に違約金を課す ―適正在庫を心がける
契約条件を業績連動型に改める(2) 2, 家電小売チェーン・トウィーター社の例 2, 家電小売チェーン・トウィーター社の例 買収したブリンマー社の経営改善 改善前 万引き被害に対し、店長の給与に大きなペナルティを課す ―万引き防止に尽力、売り上げを向上させることに関心が低い 改善後 利益に応じた追加報酬 ―売り上げ重視の姿勢に ブリンマーの企業文化・風土の改革が、多少のインセンティブ変更だけで実現した
契約条件を業績連動型に改める(3.1) 3, ビデオ・レンタルの例 3, ビデオ・レンタルの例 改善前 映画会社は3ドルでダビングしたテープをレンタル店に60ドルで販売、レンタルビデオ店は3ドルで貸し出す レンタルビデオ店は初期費用の回収に時間がかかるため、品を遊ばせることを強く厭う。また、多くの需要があることがわかっていても多数を購入しにくい。
契約条件を業績連動型に改める(3.2) 3, ビデオ・レンタルの例 3, ビデオ・レンタルの例 改善後 映画会社は3ドルでダビングしたテープをレンタル店に3ドルで販売、レンタルビデオ店は3ドルで貸し出し、売り上げの50パーセントを映画会社に分配 つまり、初期費用を映画会社も負担する。損失の負担も分け合う。
契約条件を業績連動型に改める(3.3) 第i日の需要Ni, 1≦i≦n 映画会社のコストc 映画会社からレンタルビデオ店への販売価格p レンタル価格q p≧c, q 改善前のレンタルビデオ店の利益R12 R12 =∑min(x, Ni)q-px 改善後のレンタルビデオ店の利益R22 R22 =(∑min(x, Ni)q-cx)/2
契約条件を業績連動型に改める(3.4) グラフの形状、交わりは同じではないが、極大値をとったあと一次で減少するというのは共通 常にE[R22]のほうが大きなxで極大
調整方法② 情報による解決 ビジネス上の可変データを観察し、その内容を明らかにし、サプライチェーン全体にその情報を流通させること。 調整方法② 情報による解決 ビジネス上の可変データを観察し、その内容を明らかにし、サプライチェーン全体にその情報を流通させること。 →多種多様なデータの追跡調査の中から、有益な情報を活動に結びつけられる。
(例)キャンベル・スープ(C.S社)のケース ~現象~ C.S社は年に数回、卸企業に卸値を割引。しかしその際、卸企業は小売店に卸す以上の量を一気に仕入れた。その結果、同社の売上は乱高下した。 (例えば、チキンヌードルの年間売上高の4割がセール期間中に集中。) ~改善策~ ・データ管理を目的としたITシステムの導入 →卸企業の仕入れ量だけでなく、小売店への販売 量に応じた値引方式へ ・ミステリー・ショッパー(覆面調査員)の雇用
調整方法③ 信頼による解決 インセンティブの諸問題を未然に防ぐ方法には、信頼関係に基づいたアプローチが有効な場合がある。 調整方法③ 信頼による解決 インセンティブの諸問題を未然に防ぐ方法には、信頼関係に基づいたアプローチが有効な場合がある。 →協力関係を築くのが難しい場合は、仲介者の協力を仰ぐことでサプライチェーンの機能麻痺を回避できる。
(例)アウトソーシング 発注:欧米企業⇔受注:アジアの受託生産者 この場合、双方が不安を抱えている。 欧米・・・受注先の納期の延長、品質のバラツキ、 優先順位の問題に対する懸念 アジア・・・納品する際に拒絶されるという不安 仲介者が両者のインセンティブを調整 (香港のリーフン:発注側と受注側の利害を調整)
(例)アウトソーシング 仲介者:香港のリーフン社 香港のリーフン社の役割(インセンティブの調整) アジアの各国の工場間にネットワークを築き、各工場に非衛生な労働環境、最低賃金法違反などを禁じる倫理基準の義務付け。 ・アジアの受託生産者を監視 (品質基準と倫理基準を遵守するため) ・欧米企業を監視 (無理な要求、支払いの減額を阻止するため)
2つのアドバイス ある企業とインセンティブを調整できた方法でも、他の企業では不一致を増幅しかねないということ。 サプラーチェーン内の意思決定者全員のインセンティブをもれなく調整すること。
インセンティブの不一致を認識し、調整する必要がある! (例)ボストンの新興企業A社のケース ・ある製品の自動販売機を小売店に設置 ・(伝達ミス:小売店には出来高払いを提示) 販売機の設置場所が人目のつかない場所へ インセンティブの不一致を認識し、調整する必要がある! 意思決定者同士の対話が肝心
4.結論 サプライチェーン全体を最適化するには、インセンティブをうまく調整・決定する必要がある インセンティブの多少の調整で、サプライチェーンの構成要素の行動に大きな影響を与えることができる
5.インセンティブ調整による改善例 ある企業がサプライチェーンを構成する関係者各位のインセンティブを調整できれば、全員が高い利益にあずかることができる。 →(例)新聞社のケース
(例)新聞社のケース (設定) 新聞社の製作コスト・・・1部45セント 販売店の仕入れ値・・・80セント 販売価格・・・1ドル 需要・・・1販売店、1日当たり100~200部 の間で均等に分布 販売店の最適仕入れ部数は120部になる
(例)新聞社のケース