太陽コロナの加熱 国立天文台 桜井 隆
コロナ加熱に必要なエネルギー 熱はコロナから太陽表面へ流れる 熱以外の(例えば力学的)エネルギーの注入が必要 観測から 静穏コロナへのエネルギー供給: 3 X 105 erg s-1 cm-2 活動領域コロナへのエネルギー供給: 107 erg s-1 cm-2 単位体積あたりのエネルギー供給 コロナループ(長さL)への入力エネルギーが熱伝導と放射の損失と釣り合う (energy balance model) eH = 4 X 10-3 (Tmax/106 K)7/2 (L/109 cm)-2 erg s-1 cm-3 スケーリング則 Tmax~(p L)1/3 Tmax :ループ頂上の温度 p :ループ内圧力(一定)
加熱機構: 波動説と微小フレア説
磁気的加熱機構: AC機構 対 DC機構 コロナループの力学的応答時間: tA = L / VA 駆動源の特徴的時間: tdriver tdriver > tA : 磁場の準静的変形 (DC)→微小フレア説 tdriver < tA : 波動 (AC) VA~500-1000km/s, tA ~ 1-5 min
まず波動加熱から
磁気波動加熱 圧縮性波動はコロナまで達しない(非線型性により衝撃波に発展し、消滅する) Alfvén波は非圧縮なのでコロナまで達するが、散逸しにくい 従って コロナ中で圧縮性の波を発生させる Alfvén波を効果的に散逸させる メカニズムを考える スペクトル線の乱流幅(微視的運動) 15-30 km/s. ρv2VA ~ 106 erg cm-2 s-1 (109 cm-3, 30 km/s, 1000km/s)
乱流線幅の高さ依存性 J.T.Mariska, The Solar Transition Region, p.118 波動の伝搬に伴う振幅増大を表している? 音速
スペクトル線乱流幅の非等方性 (Hara & Ichimoto 1999) 乱流幅: 14-20 km/s (red line, 1MK) 非等方成分(Alfvén波?): 3-5 km/s
Hara and Ichimoto, ApJ 513, 969, 1999
いろいろな温度のイオンの乱流速度幅 Fe X (6374Å, red line) Fe XI (7892Å) Fe XIII (10747Å) Fe XIV (5303Å, green line)
C.Jordan, MNRAS 142, 501, 1969 Fe X 1.0MK Fe XIII 1.6MK Fe XI 1.3MK Fe XIV Fe X 1.0MK Fe XIII 1.6MK Fe XI 1.3MK Fe XIV 2.1MK
乱流幅 Fe X 1MK 高さと共に増加 Fe XIV 2MK 高さと共に減少 red line Fe X green line Fe XIV
Fe X d(width)/dh Fe XI Fe XIII Fe XIV
均一のプラズマでは説明できないので、とりあえず2成分にしてみる T1, V1, n1, L1 T2, V2, n2, L2 V: width (thermal+turbulent) L: path length coronal loop
温度T1, T2の可能な解 represents minimum total path length
等温均一モデルが合うループもあるが例外的
2成分は 実際は何? B: loops C: diffuse plasmas D: diffuse plasmas
loops diffuse plasmas Fe X line width Fe XIV line width 2成分は、ループプラズマとループ間プラズマではない
乱流幅の高さ変化は高度20万kmくらいで止まる Fe X 1MK Fe XIV 2MK
波動の観測から物理量を診断 コロナ加熱は波動でないかもしれないが、波動の観測から有益な情報を引き出そう、という前向きの姿勢 モード判定 減衰機構の同定 viscosity, resistivityの実効値の推定 微細構造スケールの推定 EUVの強度変動からslow mode EUVのパターンの動きからAlfven kink mode
Dopper観測によるコロナループの振動 近傍のフレアにより励起 周期 10-15 min→Alfvén波と考えられる 減衰時間 ~ 100 min (Hori et al. in preparation)
decay time vs oscillation period P phase mixing damping? (Ofman & Aschwanden 2002) ~ P エネルギーが足元から逃げる、横へ逃げる、などの可能性も
波動加熱ここまで ここから微小フレア
微小フレア説の起源 Parker問題とParkerの仮説 仮説 (まだ信奉者多数) 2平面間の一様な初期磁場を考える 境界に運動を与える。運動は磁力線の巻きパターンを乱すようなものにする 自然に不連続ができる (リコネクションにより)エネルギー散逸が起こる シミュレーションではこうはならない 電気抵抗ゼロでは何事も起こらない 電気抵抗がゼロでないと、まずリコネクションが起き、磁力線のパターンを変える→さらにエネルギー解放が起こりやすい状況になる
平衡状態では磁力線に沿って圧力は一定でなければならないのに、両足元の圧力が矛盾する →非平衡状態になる Parker: ApJ 174, 499, 1972 平衡状態では磁力線に沿って圧力は一定でなければならないのに、両足元の圧力が矛盾する →非平衡状態になる
Parker: Solar Phys. 121, 271, 1989 コロナループはこんなになってる?
数値シミュレーション (Mikic, Schnack, and van Hoven: ApJ 338, 1148, 1989)
電流密度の分布 不連続はできない
微小フレア説 フレアの分布関数 フレアが供給する総エネルギー γ>2ならば小さなフレアの総エネルギーが大きな寄与 フレアの分布関数 フレアが供給する総エネルギー γ>2ならば小さなフレアの総エネルギーが大きな寄与 γ<2ならば、少数の巨大フレアが総エネルギーのほとんどを占める フレアではγ≈1.5 微小フレアではγ>2となるのか?
フレアの分布関数 Dennis: Solar Phys. 100, 465, 1985 γ ≈ 1.8
「ようこう」の小フレア観測 γ=1.5、コロナ加熱の2割 Shimizu, PASJ 47, 251-263, 1995
N(E) E 微視的過程で決まる限界 未知の小規模エネルギー解放現象 slope > 2 ? フレア族 slope ~ 1.5 太陽の大きさで決まる上限 E 1026 erg 1032 erg
無限に小さいフレアはない ? Aschwanden, Solar Phys. 190, 223, 1999 あまり小さいと、冷たい光球に近すぎて高温になれない
Sturrock: ApJ 521, 451, 1999 コロナの中にじかに擾乱を作ればよいのか?
vh=0.3 km/s (observed) f=Bh/Bn ~O(1) active region quiet region Poynting Flux F = vh=0.3 km/s (observed) f=Bh/Bn ~O(1) active region Bn=100 G, F=2X107 f erg cm-2 s-1 quiet region Bn=10 G, F=2X105 f erg cm-2 s-1
(現代版?)微小フレアモデルなど
Quiet Sun Magnetic Fields (Magnetic Carpets) ephemeral regionの浮上で磁束は10-40hで入れ替わる 光球面では0.2”スケールの微細磁束管 超粒状斑の流れに乗って動く 従って複雑なcurrent sheet構造ができ、絶え間ないreconnectionで加熱 95%は低高度で閉じる。5%がコロナに達する→ループ足元のほうが加熱される
Priest et al. ApJ 576, 533, 2002
current sheetの分布予想 光球 少し上 コロナ
Schrijver 2001
1D シミュレーション: 特に nanoflare加熱の特徴をつかむための研究が盛ん adaptive mesh, down to 15 km optically-thin radiation Reale et al. (2005) Patsourakos and Klimchuk (2005)
3D シミュレーション Gudiksen and Nordlund (2005) 1503, 50X60X37 Mm, non-uniform in z (0.15-0.25Mm) transition region not fully resolved optically-thin radiation in upper layers Newton’s coolinglaw for lower layers realistic resistivity and viscosity model granulation as a driver
初期磁場は実際のMDIデータ
そのほか、コロナ加熱機構のヒント
ループに沿っての熱入力の分布 uniform: Priest et al. (1998) footpoints: Aschwanden (2001) Yohkoh SXTのような広い温度に感度がある望遠鏡では、高温のloop topに引きずられる。uniform heatingのように見えるのはデータ解析の問題、とAschwandenはいう フレアではloop topにエネルギー注入?
光球とコロナの関係 活動領域全体を見たとき Lx ~ , Fx ~ B (Fisher et al. 1998;Yashiro&Shibata 2001) Fx vs nonpotentiality at footpoints (Falconer et al. 1997) Fx vs magnetic helicity (Maeshiro et al. 2005) Alfven waves: Fx ~ dB2 VA ~ B v2 microflares: Fx ~ B2 v 高分解能では? Solar-Bは 光球 0.2” (0.1” pixel) コロナ 2” (1” pixel)
ようこうSXTのループ(2MK以上)と EIT, TRACEのループ(1MK)の比較 TRACE “moss” structure: footpoints of hot loops TRACE 171Å cool loops (1 MK) Yohkoh/SXT hot loops (> 2 MK) Katsukawa and Tsuneata (2005)
Magnetic Filling Factorの差? cool loops hot loops l磁束管がまばらだと 動きやすいので、 よりエネルギーが 注入され、hot loop ができる 低温ループ 磁束管が詰め込み 状態だと動きにくいので エネルギーが入らず cool loopになる
コロナループの太さ: 上空でもポテンシャル磁場ほど広がらない R(top)/R(foot)= 1.13 : Yohkoh SXT (Klimchuk et al.1992) 1.16 : TRACE (Watko & Klimchuk 2000)
ループの長さとexpansion factorは関係がない 実はループは望遠鏡の分解能より細い?
コロナ加熱:まとめ 波動説: 微小フレア説: 光球のエネルギー源とコロナの関係はほとんど 手つかず→Solar-Bに期待 波動は検出されている モードもわかりつつある コヒーレントな波の持つエネルギーは小さい 乱流幅の正体は未だ不明 散逸機構の問題 微小フレア説: 観測的には微小フレアの数が不足 微小フレアの観測できる特徴をつかむ研究が盛ん 光球のエネルギー源とコロナの関係はほとんど 手つかず→Solar-Bに期待