乗鞍岳におけるアミノ酸組成とその氷晶過程における役割

Slides:



Advertisements
Similar presentations
火星の気象と気候 2004 年 11 月 10 日 小高 正嗣北海道大学 地球惑星科学専攻. 講義の概要 太陽系の惑星概観 太陽系の惑星概観 地球型惑星と木星型惑星 地球型惑星と木星型惑星 地球と火星の比較 地球と火星の比較 火星の気象と気候 火星の気象と気候 探査衛星による最新の気象画像 探査衛星による最新の気象画像.
Advertisements

相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
2.温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 温暖化-雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
タイタン探査の魅力 関根康人(東京大学 ・ 新領域) 杉田精司 ・ 石丸亮 ・ 今中宏 ・ 松井孝典
昼ゼミ Seeing the forest for the trees: long-term exposure to elevated CO2 increases some herbivore density 著者Stiling P., Moon D., Rossi A., Hungate.
鉄ミョウバンを用いた 磁気冷凍に関する研究
大成企業株式会社 環境事業部 新活性汚泥技術研究会会員 〒 東京都府中市八幡町2-7-2
Results of last fiscal year
医薬品素材学 I 4 物質の状態 4-1 溶液の蒸気圧 4-2 溶液の束一的性質 平成28年5月20日.
薬学物理化学Ⅲ 平成28年 4月15日~.
洗剤の適切な使用量とは ーー臨界ミセル濃度を調べるーー
HPLCにおける分離と特徴 ~逆相・順相について~ (主に逆相です)
2.温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 温暖化-雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
○田中康寛、新海貴史、津野洋(京都大学) 松村千里、中野武(兵庫県立健康環境科学研究センター)
緩衝作用.
3)たんぱく質中に存在するアミノ酸のほとんどが(L-α-アミノ酸)である。
放射線(エックス線、γ線)とは? 高エネルギー加速器研究機構 平山 英夫.
中性シイステインプロテアーゼブレオマイシン水解酵素は、脱イミノ化されたフィラグリンをアミノ酸へと分解するのに不可欠である
いまさら何ができるのか?何をやらねばならないのか?
22・5 反応速度の温度依存性 ◎ たいていの反応 温度が上がると速度が増加 # 多くの溶液内反応
福岡市内の公共用水域におけるLASの調査結果について
科学的方法 1) 実験と観察を重ね多くの事実を知る 2) これらの事実に共通の事柄を記述する→法則 体積と圧力が反比例→ボイルの法則
In situ cosmogenic seminar
社会システム論 第5回 生態系(エコシステム).
生物機能工学基礎実験 2.ナイロン66の合成・糖の性質 から 木村 悟隆
凍害 コンクリート工学研究室 岩城 一郎.
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
緩衝液-buffer solution-.
9 水環境(4)水質汚濁指標 環境基本法(水質汚濁防止法) ・人の健康の保護に関する環境基準 (健康26項目) 
一分子で出来た回転モーター、F1-ATPaseの動作機構 ーたんぱく質の物理ー
グリシン前駆体、メチレンイミンの多天体探査
9 水環境(4)水質汚濁指標 ・人の健康の保護に関する環境基準 (健康26項目) 環境基本法 地下水を含む全公共用水域について適用
下水試料中の女性ホルモン 測定法の課題 -LC/MS/MSとELISAの比較から-
2.温暖化・大気組成変化相互作用モデル開発 温暖化 - 雲・エアロゾル・放射フィードバック精密評価
エレクトロカイネティックレメディエーション
COSMOSプロジェクト: z ~ 1.2 における星生成の環境依存性 急激な変化が起こっていると考えられる z ~1 に着目し、
静岡大学システム工学科 環境分野 前田研究室 伊藤 啓
LabViewを用いた 自動計測制御システムの開発 ~自動中和滴定装置をつくる~ 東京大学生産技術研究所 岡部研究室 東京大学教養学部
雲の発生 < occurrence  of  clouds >  吉田 真帆 .
22章以降 化学反応の速度 本章 ◎ 反応速度の定義とその測定方法の概観 ◎ 測定結果 ⇒ 反応速度は速度式という微分方程式で表現
衛星生態学創生拠点 生態プロセス研究グループ 村岡裕由 (岐阜大学・流域圏科学研究センター).
植生熱収支モデルによる いもち病感染危険度予測を目指して
都市表面における 熱輸送速度の実験的研究 スケールモデルによる野外実験と風洞実験の比較 大久保 典明
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
直流コロナ放電照射による水中のROS生成
アセチリド錯体を構成要素とする 分子性磁性体の構築と その構造及び磁気特性の評価
レーザーシーロメーターによる 大気境界層エアロゾル及び 低層雲の動態に関する研究
課題 1 P. 188.
大成企業株式会社 環境事業部 新活性汚泥技術研究会会員 〒 東京都府中市八幡町2-7-2
液中通電法を用いたAu, Pt, Pdナノ粒子の作成
化学生命理工学実験 II アフィニティークロマトグラフィー (3)
LHC計画で期待される物理 ヒッグス粒子の発見 < 質量の起源を求めて > 2. TeVエネルギースケールに展開する新しい物理パラダイム
酵素表層発現酵母を用いた有機リン農薬検出法の構築
水田における除草剤ブロモブチドの濃度変動と挙動
誘導体化を用いた フッ素テロマーアルコールの高感度分析 ○竹峰秀祐 環境省 環境調査研修所.
雨と雪の気象学 (雲物理) 地学b 「雲と降水」の後半
生態地球圏システム劇変のメカニズム 将来予測と劇変の回避
屋外絶縁用高分子材料の 撥水性の画像解析に関する研究
2006 年 11 月 24 日 構造形成学特論Ⅱ (核形成ゼミ) 小高正嗣
海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 河宮未知生 吉川知里 加藤知道
MD計算による血小板細胞膜蛋白とリガンド結合の立体構造および結合の力学特性の解明(loss of function 型変異体に関して)
大規模シミュレーションで見る宇宙初期から現在に至る星形成史の変遷
風速 風向 気温・湿度 クローズドパス システムBOX 32m 積雪深 純放射量 m 地温 土壌水分量 地中 熱流量 cm 5cm ×4地点 水蒸気密度 吸気口 オープンパス 二酸化炭素濃度 三次元風速.
イミダゾリウム系イオン液体(3)ー分子性液体(2)混合溶液の二酸化炭素溶解度(1)
第35回応用物理学科セミナー Speaker:田中良巳氏 Affiliation: 横浜国立大学 准教授
相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
The Plant Cell, vol. 14, , February 2002
GC/MSによるノニルフェノキシ酢酸類の分析
沿道植物中のEROD活性による 大気汚染のバイオモニタリング ー研究の概略ー.
Presentation transcript:

乗鞍岳におけるアミノ酸組成とその氷晶過程における役割 乗鞍岳における大気中エアロゾルの除去機構の研究 乗鞍岳におけるアミノ酸組成とその氷晶過程における役割  静岡大学  ○鈴木 款 森田 理絵

Introduction 1 雲形成過程において、氷晶核は重要な役割をする。 降水機構の概略図 * * 気温が0℃以下になっても水滴は過冷却の状態で存在。 * * * * 0℃ 氷晶核:水滴の凍結を早める    微粒子 氷晶核の作用で雲粒が一つでも凍結すると、氷晶の急激な成長が始まる。 雲形成過程において、氷晶核は重要な役割をする。

Introduction 2 ●氷晶核作用は氷晶核物質とその核を取り巻く環境(特に気温)に強く依存する。 これらは、室内実験の結果である。 表:自然氷晶核のもつThreshold temperature(℃) これらは、室内実験の結果である。

Introduction 3 *バクテリアや植物にとって生物利用可能 →生態系への潜在的役割. *バクテリアやアミノ酸は有効な氷晶核になる.  →生態系への潜在的役割. *バクテリアやアミノ酸は有効な氷晶核になる. *窒素を含む有機物は雲凝結核化作用,表面活性化,  水溶解性を促進させる可能性がある.  →雲物理化学への影響. 近年になって,大気中有機窒素の研究が進んでいるが,大気中アミノ酸の起源,物理化学的性質については今だ明らかではない.

Object Approach 大気中における生物起源粒子であるアミノ酸の氷晶作用の可能性を考察する。 * ●降水、霧水中アミノ酸濃度を測定する。 * ●雲の中で成長した水滴から氷晶ができる過程を探るため、実験的に氷晶形成温度を観察する。 * * *

Sampling Sites ・気温が低く、雲・霧が発生しやすい地域。 ・地形条件から岐阜からの北西風が卓越し ている。 乗鞍岳  東京大学宇宙線研究所観測所 (標高2,770 m) (2003.9.6〜9.20観測) ・気温が低く、雲・霧が発生しやすい地域。 ・地形条件から岐阜からの北西風が卓越し ている。 ・人為起源物質が極めて少ない。 ・森林限界

Sample analysis 試料(降水・霧水・エアロゾル) GF-75フィルターでろ過 (Keil & Kirchman, 1991) 溶存態結合アミノ酸(DCAA; Dissolved Combined Amino Acids) 蒸発乾固 ろ液 フィルター 気相加水分解(7NHCl,156℃, 0.5h) 粒子態結合アミノ酸(PCAA) 超純水で溶解 高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1100) 高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1100) ;     OPAで蛍光誘導化 溶存遊離アミノ酸 (DFAA; Dissolved Free Amino Acids) 遊離アミノ酸として定量

アミノ酸の組成から花粉、バクテリア(植物の起源は アスパラギン酸の割合が平均15%程度)が主な起源として 考えられる。 表:乗鞍岳における霧水中の遊離アミノ酸濃度(nmol / l).(n=14)

Result :乗鞍における降水中の遊離アミノ酸濃度 表:乗鞍岳における降水中の遊離アミノ酸濃度(nmol / l).(n=2) 植生にしては 少ない 花粉、 バクテリア の組成に近い

Result 霧水中の遊離アミノ酸組成 降水中の遊離アミノ酸組成

Result 霧水中のpHと遊離アミノ酸組成変化  (9/13~9/14)  (9/18~9/19) 全アミノ酸に対する割合(%) pH

●9/13~9/14の気象データ ・気圧の低下 →低気圧の通過により発生した雲 ・風速が強く,北西風 →岐阜(高山)方面の影響を受けている. N W S E 気圧(mbar) 太陽放射量(W / sqM) 風向 (m / s) 風速 ●9/18~9/19の気象データ ・風速が弱く,南東風 異なる気団でアミノ酸濃度が変化する.

Dissolved free amino acids <2〜6400 Table : summary of rain and fog water concentrarion of amino acids. Reported range (nmol/l) References Aliphatic amines <2〜2700 Gorzelska et al. (1992); Likens et al. (1983); Mopper and Zika (1987); Van Neste et al. (1987); Gronberg et al. (1992) Dissolved free amino acids <2〜6400 Gorzelska et al. (1992) 3000〜120000 Zhang and Anastasio (2001) Total hydrolysable amino acids <2〜14000 Gorzelska et al. (1992); Mopper and Zika (1987); Zhang and Anastasio (2001) 7000 to >250 (Cornell et al., (2003)より一部抜粋) ●報告されている値に比べて比較的低い結果となった.

Method ー氷晶形成温度の測定ー 毎分1℃の速度で銅プレートを冷却して、2μℓづつ30箇所の水滴を滴下。凍結する温度を測定。 電源部本体 冷却循環装置 (0℃) 電源部本体 (Vali, 1977) *測定試料 ・Gly, Ser, Ala標準試料 ・降水試料 ・霧水試料 ・氷核活性バクテリア溶液(約107cell/ml)  (Pantoea anantica KUIN-3) 繰り返し誤差:1%以下(n=3)

Result 1:アミノ酸、タンパク質 標準溶液の氷晶形成温度 Ala : 疎水性 Ser, Gly : 親水性        標準溶液の氷晶形成温度 Ala : 疎水性      Ser, Gly : 親水性 他の研究との比較 Protein(BSA) 10µM Parungo & Lodge, 1967より 氷核形成温度(℃)

Results 2:バクテリアと降水・霧水の氷晶形成温度 乗鞍 遊離アミノ酸濃度     霧水:2〜52 nmol / l 降水:1〜11nmol / l バクテリア数(夏目2003MS) 降水: 6.2×104 cell / ml 霧水: 2.1×104 cell / ml 静岡 遊離アミノ酸濃度 fiitered : 6nmol / l non-filtered : 7nmol / l 氷核形成温度(℃)

乗鞍岳の霧水の氷晶温度(ろ過と未ろ過の比較) 粒子態の有機窒素濃度 =8 umol/l (アミノ酸態窒素 67%) 溶存態の有機窒素濃度 =5 umol/l (アミノ酸態窒素 47%)

Results & Discussion ●溶存遊離アミノ酸の存在によって高い氷晶形成温度が確認された。 ●降水・霧水試料も同様に、超純水よりも高い温度で氷晶を形成した。共存物質が存在するにも関わらず、アミノ酸標準試料との違いは見られなかった。   ●乗鞍の天然試料は、静岡の試料よりも高い氷晶形成温度が確認された。 →乗鞍の地形条件から、乗鞍の雲形成過程において、静岡よりも氷晶核をより多く水滴に取り込んでいる可能性がある。

Results & Discussion ●氷晶核が有効に作用するかどうかは温度で決まる。 ●氷晶形成には過冷却の中に氷粒子ができることで開始される。 氷晶が出来はじめる温度が重要である。  温度のみをコントロールする単純な系において、 天然試料の潜在的な氷晶能力を確認する実験 乗鞍岳の未ろ過の霧水はろ過した霧水より高い温度で 氷晶化した。これは粒子態物質の影響と考えられる。

Conclusion 雲や霧が発生しやすい乗鞍岳において、降水・霧水中にnmol /lオーダーで遊離アミノ酸が存在し、Glyが優占して検出された。生物起源であることを示唆。 溶存遊離アミノ酸の存在によって高い氷晶形成温度が確認された。 今回測定した降水・霧水試料には氷晶作用を持つ物質の影響が考えられる。 乗鞍岳の未ろ過の霧水はろ過した霧水より高い温度で 氷晶化した。これは粒子態物質の影響と考えられる。