乗鞍岳におけるアミノ酸組成とその氷晶過程における役割 乗鞍岳における大気中エアロゾルの除去機構の研究 乗鞍岳におけるアミノ酸組成とその氷晶過程における役割 静岡大学 ○鈴木 款 森田 理絵
Introduction 1 雲形成過程において、氷晶核は重要な役割をする。 降水機構の概略図 * * 気温が0℃以下になっても水滴は過冷却の状態で存在。 * * * * 0℃ 氷晶核:水滴の凍結を早める 微粒子 氷晶核の作用で雲粒が一つでも凍結すると、氷晶の急激な成長が始まる。 雲形成過程において、氷晶核は重要な役割をする。
Introduction 2 ●氷晶核作用は氷晶核物質とその核を取り巻く環境(特に気温)に強く依存する。 これらは、室内実験の結果である。 表:自然氷晶核のもつThreshold temperature(℃) これらは、室内実験の結果である。
Introduction 3 *バクテリアや植物にとって生物利用可能 →生態系への潜在的役割. *バクテリアやアミノ酸は有効な氷晶核になる. →生態系への潜在的役割. *バクテリアやアミノ酸は有効な氷晶核になる. *窒素を含む有機物は雲凝結核化作用,表面活性化, 水溶解性を促進させる可能性がある. →雲物理化学への影響. 近年になって,大気中有機窒素の研究が進んでいるが,大気中アミノ酸の起源,物理化学的性質については今だ明らかではない.
Object Approach 大気中における生物起源粒子であるアミノ酸の氷晶作用の可能性を考察する。 * ●降水、霧水中アミノ酸濃度を測定する。 * ●雲の中で成長した水滴から氷晶ができる過程を探るため、実験的に氷晶形成温度を観察する。 * * *
Sampling Sites ・気温が低く、雲・霧が発生しやすい地域。 ・地形条件から岐阜からの北西風が卓越し ている。 乗鞍岳 東京大学宇宙線研究所観測所 (標高2,770 m) (2003.9.6〜9.20観測) ・気温が低く、雲・霧が発生しやすい地域。 ・地形条件から岐阜からの北西風が卓越し ている。 ・人為起源物質が極めて少ない。 ・森林限界
Sample analysis 試料(降水・霧水・エアロゾル) GF-75フィルターでろ過 (Keil & Kirchman, 1991) 溶存態結合アミノ酸(DCAA; Dissolved Combined Amino Acids) 蒸発乾固 ろ液 フィルター 気相加水分解(7NHCl,156℃, 0.5h) 粒子態結合アミノ酸(PCAA) 超純水で溶解 高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1100) 高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1100) ; OPAで蛍光誘導化 溶存遊離アミノ酸 (DFAA; Dissolved Free Amino Acids) 遊離アミノ酸として定量
アミノ酸の組成から花粉、バクテリア(植物の起源は アスパラギン酸の割合が平均15%程度)が主な起源として 考えられる。 表:乗鞍岳における霧水中の遊離アミノ酸濃度(nmol / l).(n=14)
Result :乗鞍における降水中の遊離アミノ酸濃度 表:乗鞍岳における降水中の遊離アミノ酸濃度(nmol / l).(n=2) 植生にしては 少ない 花粉、 バクテリア の組成に近い
Result 霧水中の遊離アミノ酸組成 降水中の遊離アミノ酸組成
Result 霧水中のpHと遊離アミノ酸組成変化 (9/13~9/14) (9/18~9/19) 全アミノ酸に対する割合(%) pH
●9/13~9/14の気象データ ・気圧の低下 →低気圧の通過により発生した雲 ・風速が強く,北西風 →岐阜(高山)方面の影響を受けている. N W S E 気圧(mbar) 太陽放射量(W / sqM) 風向 (m / s) 風速 ●9/18~9/19の気象データ ・風速が弱く,南東風 異なる気団でアミノ酸濃度が変化する.
Dissolved free amino acids <2〜6400 Table : summary of rain and fog water concentrarion of amino acids. Reported range (nmol/l) References Aliphatic amines <2〜2700 Gorzelska et al. (1992); Likens et al. (1983); Mopper and Zika (1987); Van Neste et al. (1987); Gronberg et al. (1992) Dissolved free amino acids <2〜6400 Gorzelska et al. (1992) 3000〜120000 Zhang and Anastasio (2001) Total hydrolysable amino acids <2〜14000 Gorzelska et al. (1992); Mopper and Zika (1987); Zhang and Anastasio (2001) 7000 to >250 (Cornell et al., (2003)より一部抜粋) ●報告されている値に比べて比較的低い結果となった.
Method ー氷晶形成温度の測定ー 毎分1℃の速度で銅プレートを冷却して、2μℓづつ30箇所の水滴を滴下。凍結する温度を測定。 電源部本体 冷却循環装置 (0℃) 電源部本体 (Vali, 1977) *測定試料 ・Gly, Ser, Ala標準試料 ・降水試料 ・霧水試料 ・氷核活性バクテリア溶液(約107cell/ml) (Pantoea anantica KUIN-3) 繰り返し誤差:1%以下(n=3)
Result 1:アミノ酸、タンパク質 標準溶液の氷晶形成温度 Ala : 疎水性 Ser, Gly : 親水性 標準溶液の氷晶形成温度 Ala : 疎水性 Ser, Gly : 親水性 他の研究との比較 Protein(BSA) 10µM Parungo & Lodge, 1967より 氷核形成温度(℃)
Results 2:バクテリアと降水・霧水の氷晶形成温度 乗鞍 遊離アミノ酸濃度 霧水:2〜52 nmol / l 降水:1〜11nmol / l バクテリア数(夏目2003MS) 降水: 6.2×104 cell / ml 霧水: 2.1×104 cell / ml 静岡 遊離アミノ酸濃度 fiitered : 6nmol / l non-filtered : 7nmol / l 氷核形成温度(℃)
乗鞍岳の霧水の氷晶温度(ろ過と未ろ過の比較) 粒子態の有機窒素濃度 =8 umol/l (アミノ酸態窒素 67%) 溶存態の有機窒素濃度 =5 umol/l (アミノ酸態窒素 47%)
Results & Discussion ●溶存遊離アミノ酸の存在によって高い氷晶形成温度が確認された。 ●降水・霧水試料も同様に、超純水よりも高い温度で氷晶を形成した。共存物質が存在するにも関わらず、アミノ酸標準試料との違いは見られなかった。 ●乗鞍の天然試料は、静岡の試料よりも高い氷晶形成温度が確認された。 →乗鞍の地形条件から、乗鞍の雲形成過程において、静岡よりも氷晶核をより多く水滴に取り込んでいる可能性がある。
Results & Discussion ●氷晶核が有効に作用するかどうかは温度で決まる。 ●氷晶形成には過冷却の中に氷粒子ができることで開始される。 氷晶が出来はじめる温度が重要である。 温度のみをコントロールする単純な系において、 天然試料の潜在的な氷晶能力を確認する実験 乗鞍岳の未ろ過の霧水はろ過した霧水より高い温度で 氷晶化した。これは粒子態物質の影響と考えられる。
Conclusion 雲や霧が発生しやすい乗鞍岳において、降水・霧水中にnmol /lオーダーで遊離アミノ酸が存在し、Glyが優占して検出された。生物起源であることを示唆。 溶存遊離アミノ酸の存在によって高い氷晶形成温度が確認された。 今回測定した降水・霧水試料には氷晶作用を持つ物質の影響が考えられる。 乗鞍岳の未ろ過の霧水はろ過した霧水より高い温度で 氷晶化した。これは粒子態物質の影響と考えられる。