シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造

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シリカガラスのバルク,表面及び融着界面の構造 分子化学講座 応用物理学専攻 永井建

O O O Si O Si O O O シリカガラスの構造,性質 構造 SiO4正四面体構造がOを共有し 3次元的網目構造を形成している 不純物が極めて少ない 熱に強い 優れた光学特性 耐薬品性に優れている まず最初にシリカガラスの構造及び性質について説明します。 構造としてはこの図に示すようにSiO4正四面体がOを共有して3次元的網目構造を形成しています。 性質としては不純物が極めて少ない,熱に強い,優れた光学特性,耐薬品性に優れていると言ったようなことがあげられます。 このような性質以外にシリカガラス特有の特異性があります。 特異性として二つあげておきます。 Si O O O

R.Brückner, J.Non-Cryst.Solids 5, 123 (1970) シリカガラスの体積の温度依存性 R.Brückner, J.Non-Cryst.Solids 5, 123 (1970) 一つ目は体積の温度依存性です。 一般的なガラスではこの図に示すように温度の上昇とともにガラス転移点で熱膨張率は変化しますが常に体積は増加しています。 一方シリカガラスではこの図に示すように温度の上昇とともにある温度を過ぎると体積は減少します。さらに加熱すると再び体積は膨張します。このように極大値,極小値をもつ体積の温度依存性はシリカガラス特有のものです。 一般的なガラスの体積の温度依存性 シリカガラスの体積の温度依存性

R.Brückner, J.Non-Cryst.Solids 5, 123 (1970) 密度の仮想温度依存性 熱履歴に強く依存 仮想温度 特異性の二つ目として密度の仮想温度依存性が挙げられます。 高温のガラスを急冷したことにより,ガラス構造が凍結された温度を仮想温度と呼びます。この図は,Brücknerにより報告されたシリカシリカガラスの仮想温度依存性です。密度は,仮想温度の上昇とともに増大し,1450~1500℃付近で極大値をとります。このようなシリカガラス特有密度の仮想温度依存性は,どのようなミクロ構造を反映したものであるかは正確に把握されていません。 = ガラス構造が凍結された温度 R.Brückner, J.Non-Cryst.Solids 5, 123 (1970)

SiO4の一つのOが共有 結合していない構造 シリカガラス表面付近の密度,欠陥構造 欠陥構造 ・ NBOHC SiO4の一つのOが共有 結合していない構造 ・ E´センター SiO4のOが一つ抜けて SiO3となる構造 続いてシリカガラス表面付近の密度,欠陥構造について説明します。 この図はWangらによって報告された表面付近の密度分布です。 表面に近づくにつれて密度が減少していることがわかります。 また表面近くにはNBOHC(Non-briging oxygen hole center)や E´センターと呼ばれる欠陥構造が存在します。 NBOHCはSiの周りにあるO四つのうち一つだけ共有結合をしていないものです。 E´センターは本来Siの周りにOは四つありますが一つ抜けてOが三つしかない状態のものです このような表面付近の密度の減少や欠陥構造を確認するために 表面に対してのシミュレーションを追試しました。

MDシミュレーションによるシリカガラスの表面及び融着界面の構造解析 本研究の目的 ◎シリカガラスの表面についての研究はすでに行われて   いるが表面と表面をつなげ熱処理した融着界面に   対しての研究は数少ない              ◎シリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なる ◎欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じる 本研究の目的としてはシリカガラスの表面についての研究はすでに行われているが表面と表面を繋げ熱処理した融着界面に対しての研究は数少ない,またシリカガラスの融着界面は屈折率が粒子内部と異なり,さらに欠陥構造により紫外線領域に吸収帯が生じる。と言うことから分子動力学シミュレーションを用いてシリカガラスの表面及び融着界面の構造解析を行いました。 MDシミュレーションによるシリカガラスの表面及び融着界面の構造解析

ポテンシャル D (J) β(Å-1) r* (Å) Si-O 3.1958×10-19 2.7254 1.6148 Si-Si クーロン力 共有結合の効果 (Morse項) 分子動力学シミュレーションで用いたポテンシャルですが,この式に表すようなクーロン力,共有結合の効果を表すMorse項からなるポテンシャルを用いました。Morse項のパラメータはこの表にしめしたものを使いました。このパラメータを式に代入して図に表すとこのようになります。Si-Si,O-Oの相互作用については距離が0に近づくにつれて値が増大し反発していることがわかります。ところがSi-Oの相互作用については約1.6Å付近にマイナスの値の極小値をとっていることがわかります。これが共有結合を表しています。 このポテンシャルで最も重要になってくるのがクーロン力を表した項です。バルクのシリカガラスを研究するときは静電相互作用による電荷の増減は考えなくていいが,本研究では表面を研究するために電荷を正確に計算する必要があります。電荷は次のようにして求めました。   D (J) β(Å-1) r* (Å) Si-O 3.1958×10-19 2.7254 1.6148 Si-Si 2.0538×10-21 1.71743 3.4103 O-O 3.7261×10-21 1.37583 3.7835

電化平衡法 電化平衡法と呼ばれる方法で電荷は正確に計算することができます。左辺の第一項はこのようなslater方程式から求めることができますがこの式は下のこの式に近似することができます。本来の式と近似式を図に表したのがこの図です。O-O,O-Si,Si-Siのクーロン積分ともに重なっていることがわかります。 右辺は原子の電子に対する化学ポテンシャルから求めることができます。 そしてこの行列式を解くことにより電荷は正確に求めることができます。   a b JOO 6.93501 3.07951 JSiSi 38.1721 3.22006 JSiO 20.4747 3.26564

シミュレーション方法 バルク 表面 融着界面 基本セル z y x レプリカ 次にシミュレーション方法ですがSi粒子数216個,O粒子数432個からなるβ-cristobaliteと呼ばれる結晶からスタートしここに示す工程でシミュレーションを行いました。 最初にバルクの状態でここに示すように常温300Kから8000Kまで徐々に温度をあげしばらく8000Kで緩和させてから徐々に2000Kに冷却し2000Kで充分に緩和させました。そしてこのような熱処理をした系にこの図に示すように空間を挟み2000Kから常温300Kまで冷却しました。そして常温まで冷却した表面を解析しました。さらに空間を無くすことにより表面と表面を繋げ融着界面を作成しました。融着界面作成後は500K~3000Kの間で熱処理し再び常温300Kに冷却したものを解析しました。

解析方法 1.5Å 1st layer 2nd layer 3rd layer : 3st layer : 1rd layer 解析方法ですが基本セルを表面,融着界面から1.5Åの層に分割して解析を行いました。 解析として密度,電荷,動径分布関数,配位数,結合角分布を求めました。

表面付近の密度,電荷分布 続いて結果に移りたいと思います。破線で示したのはバルクの密度です。表面の層の密度は約1.0 g/cm3であり,設定密度2.2 g/cm3の約1/2になっています。一方,表面から二層目以降はほぼバルクの値2.2 g/cm3に近くなっていることがわかります。バルクでのシリカガラスではSiの電荷は1.24 e,Oの電荷は -0.62 eです。ここで,eは素電荷です。表面付近ではSiの電荷が1.0 e,Oの電荷-0.5 eと内部の値よりも若干絶対値が小さくなっており,表面から遠くなるにしたがって,電荷の値はバルクの値に近づいていることがわかります。 このような密度の減少や電荷の減少の原因を調べるために次に動径分布関数,配位数,結合角分布を求めた結果を示します。

表面付近のRDF,配位数 左に動径分布関数を示します。バルクのシリカガラスでは動径分布関数(RDF)は1.6Å,2.6Å,3.2Åにピークを持ち、それぞれのピークは最近接のSi-O,O-O,Si-Si対に対応しています。この図をみるとシリカガラス内部に行くほど,Si-Oのピークがよりシャープになっている。今後,一番内部の層をバルクと呼ぶ。表面でのRDFはSi-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にある。さらに表面ではSi-Siのピークがほとんど消滅している。これはSi-O結合が切れた構造が多く、近くにあるSi原子の割合が極端に少なくなったため,あるいは表面付近のSiの電荷が小さくなることにより反発力が弱くなり最近接粒子同士の距離が長くなったためと考えられる。  右に配位数分布を示します。バルクでは4配位Si原子や2配位O原子の割合が1となっていますが,表面に近づくにつれて4配位Si原子や2配位O原子の割合が減少し3配位Si原子や1配位O原子が現れ始めている。これは表面に近づくにつれてNBOHCやE´センターなどの欠陥構造が増加していくことを示している。

表面付近の結合角分布 正四面体構造を保っていればO-Si-O結合角は約109.5°にピークを持つはずです。実際にバルクでは109°付近にピークをもっていることがわかります。表面に近づくにつれてピークは崩れ始め、さらに80°付近にも小さなピークが現れはじめます。Si-Oボンド長を1.6Å,O-Si-O結合角が80°としたときO-Oの距離を計算すると約2.03Åとなります。比較のため,O原子だけの動径分布関数を示します。この図を見ると確かに2.03Å付近に小さなピークが現れていることがわかります。O-Si-O結合角が80°になる一つの可能性として,6配位Si原子が考えられますが、配位数が6になるSi原子は存在しません。そこで,O-Si-O結合角が約80°となる結合付近の構造を調べた。その結果,この図に示すような構造が存在することがわかりました。これらの4つの原子が同一平面上にあるとすると,Si-O-Si結合角は100゜になります。実際にSi-O-Si結合角を見ると100°付近に小さなピークが見られます。この構造は,Garofaliniらによっても報告されています。ここでは,これをSi(O) 2Si菱形構造と呼ぶことにします。 表面付近ではこのような欠陥構造が確認されましたが,表面同士を繋げた融着界面ではどのようになっているのでしょうか?続いて融着界面についての解析結果を報告します。

融着界面付近の密度,電荷分布  融着温度を500 Kから3000 Kまで500 Kずつ温度を変えて融着界面付近の密度分布を求めた。いずれも,大きな違いは見られなかった。界面付近の密度は表面付近の密度と同様,バルクに比べて小さい値をとった。  電荷に関してはSiの電荷は界面付近では値が小さくなる。一方, Oの電荷は界面付近では全体としてほぼ一定の値を保っている。これは,電荷の偏りがおもにSi原子の間で生じていることを表している。

融着界面付近のRDF 表面でのRDFはSi-Oのピークがバルクに比べて短距離の位置にあり,Si-Siのピークがほとんど消滅していた。それに比べて融着界面付近でのRDFは融着界面からバルクまでSi-Oのピークがはっきりと現れている。しかしながらSi-Siのピークは表面同様にほとんど崩れていた。この違いは融着することによってSi-O結合が切れた構造が表面よりも少なくなり,近くにあるSi原子の割合が表面よりも多くなったからだと考えられる。1000 K,3000 Kから常温に急冷した融着界面ではピークがさらにはっきりと現れ,さらに融着界面でのピークが300 Kでの接合界面の動径分布関数よりもはっきりと現れた。

融着界面付近の配位数 2000 Kまでは融着界面付近で欠陥構造が存在することが分かる。しかし2500 Kでは欠陥構造がほぼ0になっている。3000 Kに関しては完全に欠陥構造がなくなっている。NBOHCやE´センターがほぼ消滅したことを示している。表面を繫げる場合はT*付近まで温度を上昇させないと欠陥構造が残ることがわかった。

融着界面付近の結合角分布 表面ではピークは崩れ始めさらにO-Si-O結合角は80°付近に小さなピークをもち,Si-O-Si結合角は100°付近にピークを持っていた。それに比べて常温,1000Kで作成した融着界面でも80°付近に小さなピークがみられる。しかし3000 Kで融着させたものではこれらのピークは消滅していた。つまりSi(O2)Si菱形構造は消滅したことがいえる。

欠陥構造 菱形構造 E´センター NBOHC O原子 Si原子 最後に常温で融着させた時の融着界面付近のスナップショットを示します。この図からNBOHC,E´センターSi(O2)Si菱形構造が確認できます。一方3000Kで融着させたものではこのような欠陥構造は確認できませんでした。  このように表面を融着させるときは温度をT*付近まで上げてから十分時間をかけることが大事になってきます。常温で融着させると欠陥構造が生まれることがわかりました。一方,温度をT*まで上昇させても融着界面付近の密度は小さいままでした。天然の溶融石英ガラスでは原料分が融着した界面の屈折率が粒子内部と異なるため,粒状構造が観測される。したがってシリカガラスは温度を高くしても完全に溶融しない限り均一の材料となることはないものと考えられます。 NBOHC

表面: 欠陥構造(Si(O2)Si菱形構造,NBOHC, E´センター) 融着界面: T<3000 K まとめ シリカガラスの表面及び融着界面の構造 分子動力学シミュレーション 表面: 欠陥構造(Si(O2)Si菱形構造,NBOHC, E´センター) 融着界面: T<3000 K  欠陥構造(Si(O2)Si菱形構造,NBOHC, E´センター) T>3000 K 欠陥構造は消滅,しかし密度は減少 以上をまとめますと本研究ではシリカガラスの表面及び融着界面の構造を分子動力学シミュレーションを用いて研究しました。表面ではSi(O2)Si菱形構造,NBOHC,E´センターなどの欠陥構造が確認することができました。融着界面では2500K以下の温度では欠陥構造が現れるが3000Kでは欠陥構造は消滅した。しかし密度に関しては融着界面付近で減少したままでした。 今後の予定としてはさらに温度を上げて計算を行い,密度が界面からバルクまで均一になるまで計算を行うことが挙げられます。 以上で発表を終わります。 今後の課題 温度を上げてのシミュレーション