X線天文学の歴史と 世界のX線天文アーカイブス

Slides:



Advertisements
Similar presentations
X線で宇宙を見よう 1. X線て何だ? 2. ダークマターやブラックホールが 見える 3. 「すざく」衛星について 首都大学東京 ( 東京都立大学 ) 大橋隆哉.
Advertisements

日本学術会議マスタープランへの提案 ガンマ線バーストを用いた初期宇宙探査計画 HiZ-GUNDAM 主査: 米徳 大輔(金沢大学) HiZ-GUNDAM WG 光赤天連シンポジウム「光赤外将来計画:将来計画のとりまとめ」( 2016/02/09 – 10 国立天文台.
X線で宇宙を見る ようこそ 講演会に 京大の研究
(Japan Experiment Module)
2011年8月金沢大学集中講義 「X線天文学」 2011年8月29日 第1回:イントロダクション
2000年1月17日版 アストロ E 衛星 文部省宇宙科学研究所
6.解析結果3:energy spectrum 1.Introduction
2008年度 冬学期 宇宙科学II X線天文学を通して学ぶ基礎的な物理と数学 第一回ガイダンス(2008年10月6日)
宇宙科学研究本部 宇宙科学情報解析センター 海老沢 研
すざく衛星による 電荷交換反応酸素輝線の研究
背景について 国立天文台 天文情報センター.
単色X線発生装置の製作 ~X線検出器の試験を目標にして~
プロポーザル準備/観測準備 ダストをたくさん持つ銀河 の赤外線分光観測の例 国立天文台 今西昌俊.
南極からの新赤外線天文学の創成 南極内陸は、ブリザードがなく、非常に穏やかな、地球上で最も星空の美しい場所です。この場所で私たちは新しい赤外線天文学を展開します 宇宙初期の広域銀河地図を作って、私たちの銀河系の生い立ちを解明します 137億年前 100億年前 宇宙の果て 最初の星が生まれ、銀河が成長した時代.
ガンマ線バースト (GRBs) ガンマ線で明るい ( keV) スパイク状の強度変動 継続時間の長いもの短いもの click
アメリカ、ヨーロッパ、日本の 高エネルギー天文衛星データアーカイブス
M1M2セミナー すざく衛星による狭輝線1型セイファート銀河TonS180のワイドバンド観測
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 海老沢 研
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
2m電波望遠鏡の製作と 中性水素21cm線の検出
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
Astro-E2衛星搭載 XISの データ処理方法の最適化
CERN (欧州原子核研究機構) LEP/LHC 世界の素粒子物理学研究者の半数以上の約7000人が施設を利用
NeXT衛星 宇宙の非熱的エネルギーの源を探る focal length m
(Japan Experiment Module)
ーJapan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration-
(GAmma-ray burst Polarimeter : GAP)
SAX J1748.2−2808 からの 3 つの鉄輝線と593 秒周期の発見
国際宇宙ステーション搭載全天X線監視装置MAXI/GSCのエネルギー波高値較正実験
高木慎一郎(博士2回) X線天文学のこと X線の特徴と宇宙を観測すること 当研究室で研究していること
(GAmma-ray burst Polarimeter : GAP)
山形大学理学部物理4年 特殊講義F 「宇宙X線」
S3: 恒星とブラックホール (上田、野上、加藤)
「すざく」衛星と日本のX線天文学 July 10, 2005
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
東邦大学理学部物理学科 宇宙・素粒子教室 上村 洸太
全天X線監視装置(MAXI)搭載用CCDカメラのエンジニアリングモデルの性能
宇宙科学統合解析環境の構築とAstro-E2解析支援
電波銀河 Fornax A の東ローブのEnergetics の XMM-Newton による調査
暗黒加速器とパルサー風星雲 --HESSJ とPSR
X線天文衛星「すざく」 X線天文学に関する話題など
京都大学理学研究科 中村卓史 2006年2月24日 国立天文台
S5(理論宇宙物理学) 教 授 嶺重 慎 (ブラックホール)-4号館409 准教授 前田 啓一(超新星/物質循環)-4号館501
京大他、東大やアデレード大学など日豪の16機関が共同で、オーストラリアの砂漠地帯に望遠鏡4台を建設しTeVγ線を観測している。
宇宙線研究室 X線グループ 今こそ、宇宙線研究室へ! NeXT
平成 31 年度 P6 高エネルギー宇宙実験 担当: 物理学第二教室 宇宙線研究室の教員 谷森達 教授、鶴剛 教授、 窪秀利 准教授、
柴田 晋平 山形大学理学部 With 早坂 由美子 NHK山形 キャスター
偏光X線の発生過程と その検出法 2004年7月28日 コロキウム 小野健一.
MAXI による高感度全天X線モニターとサーベイ 磯部 riken
最近の宇宙マイクロ波背景輻射の観測 銀河の回転曲線 回転曲線の測定値 NASAが打ち上げたWMAP衛星が観測
全天X線監視装置 MAXI 地上データ処理システムの開発 Ⅲ ー 突発天体発見システムの開発 ー
講義ガイダンス 「宇宙の物質循環を理解するために使われる物理・化学・数学」
京大理 身内賢太朗 平成22年度東京大学宇宙線研究所 共同利用研究成果発表会
全天X線監視装置(MAXI)搭載ガススリットカメラ用コリメータの特性測定
Introduction to the X-ray Universe
スターバースト銀河NGC253の 電波スーパーバブルとX線放射の関係
ようこそ Hot Universe へ Fes. 馬場 彩 Contents X線天文学とは?
国際宇宙ステーション搭載 全天X線監視装置(MAXI)
エックス線の発見(1895) 3日後、妻をつかまえて 第一回ノーベル物理学賞 100日後! 既に京都(島津製作所)でも 光と影.
Telescope Array ~Searching for the origin of the highest energy cosmic ray 私たちの研究の目的 宇宙線って何? 最高エネルギー宇宙線の数が、 理論による予想を大きく上回っていた! 現代物理学の主要な謎の1つ 宇宙空間を光に近い速度で飛び回っている非常に小さな粒子のことです。
2011年8月金沢大学集中講義 「X線天文学」 第2回 相対性理論とブラックホール
CHANDRA衛星の観測結果による、 球状星団M4(NGC6121)のスペクトル解析
国際宇宙ステーション搭載 全天X線監視装置搭載用CCDカメラ開発の現状
XMM-Newton衛星による 電波銀河 3C 98 の観測
S5(理論宇宙物理学) 教 授 嶺重 慎 (ブラックホール)-4号館409 准教授 前田 啓一(超新星/物質循環)-4号館501
ASTRO-E2搭載CCDカメラ(XIS)校正システムの改良及び性能評価
(GAmma-ray burst Polarimeter : GAP)
X線天文衛星『すざく』の成果 1.5年経過 “すざく” (朱雀) 査読付専門雑誌 32 編 (日本の衛星、大型プロジェクトでは最多)
すざく衛星によるSgr B2 分子雲からのX線放射の 時間変動の観測
中性子星/ブラックホール連星の光度曲線の類似性
Presentation transcript:

X線天文学の歴史と 世界のX線天文アーカイブス 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 宇宙科学情報解析センター 海老沢 研

データアーカイブスとは? 世界中の誰でも無料で利用し、それから得られた成果を発表できるデータベース データは半永久的に保存される 天文衛星を上げるのは… データを取得するため データを取得するのは… それを使って研究するため 衛星の寿命は有限だがデータアーカイブスは無限 現在では各X線天文衛星が アーカイブスセンターを持っている

1962 私の歩んできた道 1987 Data Archives and Transmission System (宇宙研) http://darts.isas.jaxa.jp Chandraデータセンター(アメリカ) http://cxc.harvard.edu 2005 1992 BeppoSAXデータセンター(イタリア)http://bepposax.gsfc.nasa.gov/bepposax/ INTEGRALデータセンター(スイス) http://isdc.unige.ch 2004 2001 HEASARC(アメリカ) http://heasarc.gsfc.nasa.gov XMM-Newtonデータセンター(スペイン) http://xmm.vilspa.esa.es

1962年 大気が宇宙からのX線を吸収する 1962年6月18日 そのお陰で地球上に生命が存在している… ジャコーニら(2002年ノーベル物理学賞受賞)が放射線検出装置を搭載したロケットを打ち上げ 月による太陽からのX線反射の観測が目的 全天で一番明るいX線源Sco X-1を偶然発見 X線天文学の誕生

1960年代 すだれコリメーターの発明(小田稔) 宇宙開発の進歩 X線源の位置が正確に決まるようになった 1957年、最初の人工衛星スプートニク打ち上げ 1958年、アメリカのエクスプローラ1号 各国から人工衛星が次々と打ち上げられる(おおすみ1970年) スペースからの宇宙観測の黎明期

1970年Uhuru(アメリカ)打ち上げ すだれコリメーターを搭載して全天観測 339個のX線天体を発見 本格的なX線天文学の幕開け

1970年Uhuru(アメリカ)打ち上げ ほとんどが銀河系(天の川)内の中性子星かブラックホール 銀河、活動的銀河中心核、銀河団からのX線の発見

1970年代 多くのX線天文衛星が打ち上げられた Uhuruが発見した天体をさらに詳細に研究 「はくちょう」(1979年) Einstein Observatory(アメリカ、1979年) X線鏡を積んだ初めての衛星 飛躍的に感度が向上

1970年代までのX線天文学の研究手法 天文学と言うよりも「実験物理学」 検出器を作ったチームがデータを保有していた 「ゲスト観測者」は存在しない 特殊なデータフォーマット 未熟なコンピューターとソフトウェア もちろんインターネットもなかった! データアーカイブスは存在しえなかった

1980年代 「てんま」(1983年) EXOSAT(ESA,1983年) 観測時間を広く開放(ヨーロッパに限る) 「ゲストオブザーバー 」の誕生 すぐれたアーカイブスシステムとソフトウェア

1980年代後半 アメリカ、ヨーロッパのX線天文学は冬の時代 Mir-Kvant(ソ連、1987年) 「ぎんが」(1987年) 日本の衛星では初めてプロポーザル制を採用 アメリカ、ヨーロッパに観測時間を開放 450本以上の投稿論文が出版 2000年以降アーカイブスが完成 まだまだ論文が出つつある

1990年代 ROSAT(ドイツ、1990年) CGRO(アメリカ、1991年) Einstein衛星よりも高感度 優れたデータアーカイブスができている CGRO(アメリカ、1991年) 最初の本格的なガンマ線天文台 大体のデータはアーカイブス化されている

1990年代 あすか(1993年) Advanced Satellite for Cosmology and Astrophysics (ASCA) 最初の日米共同X線ミッション データアーカイブスはアメリカが担当 標準FITSフォーマットを採用した最初の衛星 データの占有権をはっきりと規定 1400本以上の投稿論文が出版されている

1990年代後半 XTE(1995年、アメリカ) BeppoSAX(1996年、イタリア、オランダ) 「ぎんが」以上に大面積の比例計数管 機動力に富む観測、オープンなポリシー 全天モニターデータはただちに公開 BeppoSAX(1996年、イタリア、オランダ) 複数の検出器で広いエネルギー範囲をカバー

「あすか」以降の衛星のデータ公開ポリシー 初期データは衛星、検出器チームに帰属 一定期間の後にアーカイブス化されて公開 オープンタイムは世界に公開 年に一回、観測公募のアナウンス ゲストオブザーバーは厳しい競争を経て観測時間を得る データは一定期間(通常は一年)の後にアーカイブス化される 突発的現象の観測データは直ちに公開 衛星によっては、ほぼすべてのデータが最初から公開 Swift衛星のガンマ線バーストデータなど

2000年代 X線天文衛星とアーカイブスの黄金期 Chandra(アメリカ、1999年) XMM-Newton(ESA,1999年) 史上最高(今後10年以上?)の位置分解能(~0.6秒角)と感度 XMM-Newton(ESA,1999年) Chandraをはるかにしのぐ有効面積 INTEGRAL(ESA,2002年) 20keV以上でのイメージング HETE2(アメリカ、2001年) ガンマ線バーストミッション Swift(アメリカ、2004年) ガンマ線バーストミッション、データはただちに公開 すざく(2005年) 20keV~300 keVで過去最高の感度 低エネルギー側でChandra, XMMをしのぐエネルギー分解能

将来に向けて 宇宙科学と国際社会 科学衛星データアーカイブスの役割 ヨーロッパ宇宙機構の目的のひとつ:非軍事に限った宇宙開発を国際協力によって行う その結果、宇宙の軍事利用をやりにくくする。相互信頼醸成。 科学衛星データアーカイブスの役割 ロケット、衛星ハードウェアの国際協力はしばしば政治的に困難 データの共有、交換は技術的に簡単 金銭的、政治的な利害や倫理的価値判断が絡まないからこそ、天文衛星データの公開ができる 地上観測データ、原子核データ、生命科学データはそうもいかない できる国が衛星を上げて天文データアーカイブスを作り、広く公開する。世界中の研究者は必要に応じてデータを得て研究を行う。 願わくは、宇宙の研究が世界をひとつに結びつけ、この世界から少しでも争いを減らす力になるように…