ミリ波帯電力増幅器における発振安定性の検討 2007/10/29 ミリ波帯電力増幅器における発振安定性の検討 ○松下 幸太,高山 直輝,岡田 健一,松澤 昭 東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 ご紹介ありがとうございます。東京工業大学の松下が発表させて頂きます。
K. Matsushita, Tokyo Tech 発表内容 2007/10/29 ・研究背景 ・電力増幅器概要 ・発振原因 - デカップリングキャパシタ - トランジスタ ・発振対策の一例 ・まとめ K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 研究背景 2007/10/29 5um ミリ波帯の中でも特に60GHz帯は低電力ならば世界的に無免許で使用することが可能 酸素と共振 [1] 総務省 電波利用HP http://www.tele.soumu.go.jp/index.htm [2] Rec. ITU-R P.676-2, Feb. 1997 電力増幅器 RF Front-end ミキサからの小さな信号を送信に十分な大きさまで増幅 まず初めに研究背景です。 現在60GHz帯という周波数帯が注目を集めています。その理由の一つとして、57GHzから66GHzまでと幅広い帯域が世界各国で無免許で使用可能な大きな利点があります。 この周波数帯の電波はこちらの図のように酸素と共振を起こし大きく減衰してしまうため、長距離通信には向きませんが、反対に電波同士の干渉が少ないため 、近距離の高速通信としての利用が適しています。 現在私は主にRFフロントエンド図上の電力増幅器を主に研究しています。この電力増幅器は前段のミキサからの信号を送信に十分な大きさまで増幅する役割を担っています。 K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 電力増幅器における発振 2007/10/29 ・正帰還回路を設けていなくても、寄生素子によりフィードバックがかかり、発振の可能性 ・安定係数Kが1を下回ると発振の可能性がある ・低周波で起きる発振と高周波で起きる発振がある この電力増幅器を作成する上で注意しなくてはいけない物の一つとして、発振の問題があります。 この図のように正帰還回路を設けていなくても、寄生素子によりフィードバックがかかってしまい、発振してしまう可能性があります。 発振する可能性があるかを判断する式としてはこの安定係数の式があり、この式が1を下回ると負荷のインピーダンスによっては発振してしまう可能性が出てきます。 また、発振は低周波でも高周波でも起こる可能性があり、どちらにたいしても気をつける必要があります。 正帰還回路 安定係数 K. Matsushita, Tokyo Tech
モデリング 伝送線路モデル トランジスタモデル ・表皮効果の影響を考慮 ・スケーラブルモデル モデル回路 チップ写真 回路図 利得特性 2007/10/29 2007/10/29 伝送線路モデル トランジスタモデル ・表皮効果の影響を考慮 ・スケーラブルモデル 減衰量α alpha[dB/mm] 提供モデル モデル回路 チップ写真 Frequency[GHz] 位相変化量β 電力増幅器が発振しないためにも、シミュレーションと実測の誤差を少なくすることが必要になります。 特に60GHz帯では提供されているシミュレーションモデルが実測と合わないため、 実際に独自に回路素子を測定し、モデルを作成する必要があります。 まず初めに伝送線路のモデリングについてご説明します。 60GHzでは低周波では影響のあまり見えなかった表皮効果の影響が大きくなるため、それをモデルとして再現するように 単位長さあたりの減推量や位相変化量をあわせこむように作成しました。 また、伝送線路はマッチングで使用する際に様々な長さが必要となるため、スケーラブルなモデルとしています。 トランジスタモデルも同様に作成しました。 提供されているトランジスタのモデルを実際に測定したトランジスタの測定データに近づけるために、インダクタやキャパシタなどの寄生成分を追加します。 実際に合わせこみを行った結果のグラフがこちらで、利得特性・反射特性共に誤差が0.1〜0.2dB程度と、ほぼ実測に近づけることができました。 beta[deg/mm] 回路図 利得特性 Frequency[GHz] K. Matsushita, Tokyo Tech K. Matsushita, Tokyo Tech 4
K. Matsushita, Tokyo Tech 電力増幅器 チップ写真 2007/10/29 ・シングルエンド4段PA ・伝送線路によるマッチング ・省面積化のためにL字の伝送線路を使用 DC 920mm さきほどのような独自に作成したモデルを使用して、実際に電力増幅器を作成しました。 構成はシングルエンドの4段になっていて、トランジスタサイズは後段になるほど大きくなっています。また、60GHz帯という所から伝送線路によるマッチングをとっています。 また、省面積化のために曲げるためのL字伝送線路を使用しています。 RFout 4th stage 160/0.06um 1st stage 40/0.06um 2nd stage 60/0.06um 3rd stage 80/0.06um RFin 1620mm K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 電力増幅器 実測結果 2007/10/29 電力増幅器の利得 安定係数 (1を切ると発振) Stab.Fact. 問題点: 52.5GHz付近で発振してしまう 原因 ・モデルの誤差 こちらが先ほどの電力増幅器の実測結果です。 グラフからわかるように利得において52.5GHz付近で異常な利得がでてしまっています。また、安定係数についても同様の場所で1を切ってしまい、 発振してしまっている事がわかります。 この原因として考えられるのが、モデルの誤差です。さきほどご説明した伝送線路やトランジスタだけでなく、デカップリングキャパシタやプローブなどほとんどの回路素子を独自にモデル化しています。しかし、完全なモデルとは言い切れないため、そのモデルに誤差があるという要因があります。 またGNDのインダクタンスなど、モデル化できていないものもあるため、その影響も考えられます。 今回はその中でも影響が大きいデカップリングキャパシタとトランジスタについてより詳細な検討を行いました。 -デカップリングキャパシタ -トランジスタ -伝送線路 -キャパシタ -プローブ ・モデル化できていないもの GNDのインダクタンス K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech デカップリングキャパシタ 2007/10/29 線路の両側に短めのデカップリングCap.を配置することで高周波での使用を可能にした。 [1] T. Suzuki, et al., ISSCC 2008. [2] Y. Natsukari, et al., VLSI Circuits 2009. デカップリングキャパシタとは、電源部分のインピーダンスが不確実なため、その影響をうけないように電源線の交流的なインピーダンスを下げるために入れるものです。 線路の両側に短めのデカップリングキャパシタを配置することで共振周波数を上げることにより高周波での使用を可能にしました。 また、このミリ波帯でのデカップリングキャパシタは長さを持つため、デカップリングキャパシタを特性インピーダンスの低い伝送線路のようにモデル化しています。 長さを持つため、デカップリングキャパシタを特性インピーダンスの低い伝送線路のようにモデル化 K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 発振の考察1 デカップリングの長さ 2007/10/29 デカップリングを短くする デカップリングが期待した性能を発揮できてない可能性がある。 短くすることでCが小さくなるため電源線部分でフィードバックが起きる。 Meas. Decup original Decup 1/2 まず発振の考察の一つ目として、デカップリングキャパシタを 低周波(5GHz付近)で安定性が悪くなることを確認 K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 発振の考察2 トランジスタの誤差 2007/10/29 引き出し線:10mm 引き出し線:50mm 引き出し線 Transistor Transistor 引き出し線 引き出し線10mm 引き出し線50mm ※測定結果からPADと線路をディエンベディング。 引き出し線が短いとプローブ同士の干渉が起き、測定誤差が出やすい K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 発振の考察2 トランジスタの誤差 2007/10/29 新しいTr.モデルを4段電力増幅器に入れ込む Meas. 引き出し線10mm 引き出し線50mm インバンド(56GHz付近)で発振することを確認 トランジスタのフィードバック量の誤差が発振に大きく影響する事がわかった。 K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech 発振対策の一例 2007/10/29 ・抵抗の挿入 利得減少 w/o Res. w/ Res. Resistance 5 [W] MIM TL ・クロスカップルキャパシタ w/o Cap. w/ Cap. Capacitance10[fF] K. Matsushita, Tokyo Tech
K. Matsushita, Tokyo Tech まとめ ・引き出し線の長さなど測定環境の差によって、トランジスタの測定結果に影響を与えることを示した。 ・測定誤差などによって変化するトランジスタのフィードバック量の誤差が60GHz帯では大きく発振に影響を及ぼす事を示した。 K. Matsushita, Tokyo Tech