間接互恵性の成立 ー進化シミュレーションを用いた選別的利他戦略の検討ー

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間接互恵性の成立 ー進化シミュレーションを用いた選別的利他戦略の検討ー 2004/09/16 「子供の社会行動に関する進化ゲーム論的アプローチ」 間接互恵性の成立 ー進化シミュレーションを用いた選別的利他戦略の検討ー 北海道大学大学院文学研究科  行動システム科学講座 博士後期課程 真島 理恵

なぜこのような行動が存在するのか? 社会にはなぜ利他行動が存在するのか? 利他行動:犠牲を払って他者に利益を与える行動 e. g., 知り合い同士での助け合い、見知らぬ人への親切… 人間社会は、様々な種類の助け合いによって成り立っている。しかし・・・ 利他行動は、自分自身の利益にはならない、少なくとも短期的には非合理的な行動 なぜこのような行動が存在するのか?

利他行動:犠牲を払って他者に利益を与える行動 社会にはなぜ利他行動が存在するのか? 利他行動:犠牲を払って他者に利益を与える行動 愛他動機による説明: 人々は、生まれつき(もしくは教育により)愛他的動機をもっている しかし、なぜそうした動機があるのか?は説明できない 本研究の立場:利他行動に対し、適応論的観点からの説明を試みる 利他行動が、短期的には損になるが 長期的にみると自らの利益になる(利他行動が適応的になる)仕組みが存在する

長期的な2者関係におけるTFT(しっぺ返し)戦略(Axelrod, 1984) 利他行動を適応的にする仕組み 長期的な2者関係におけるTFT(しっぺ返し)戦略(Axelrod, 1984) 長期的な2者関係では、相手が資源を提供してくれる限り、自分も資源を提供する(利他的に振舞う)ことが合理的 資源提供(利他行動) TFT:相手が資源を提供してくれれば自分も提供し、提供してくれなければ提供しない条件付協力戦略 資源提供(利他行動)

直接の返報が保障されない、多人数の間でも助け合いは存在する 利他行動を適応的にする仕組み 長期的な2者関係におけるTFT(しっぺ返し)戦略(Axelrod, 1984) 長期的な2者関係では、相手が資源を提供してくれる限り、自分も資源を提供する(利他的に振舞う)ことが合理的 ただし、①長期的な1対1の関係、②直接の返報が期待できること(=直接互恵性)を前提とする 直接の返報が保障されない、多人数の間でも助け合いは存在する

利他行動を適応的にする仕組み 長期的な2者関係におけるTFT(しっぺ返し)戦略(Axelrod, 1984) 長期的な2者関係では、相手が資源を提供してくれる限り、自分も資源を提供する(利他的に振舞う)ことが合理的 ただし、①長期的な1対1の関係、②直接の返報が期待できること(=直接互恵性) を前提とする 長期的な関係がなく、直接の返報が期待できない状況で、なぜ一方的に利他行動をとる人がいるのか? 本研究の解答:間接互恵性が利他行動の基盤となる

利他行動を適応的にする仕組みー間接互恵性ー 間接互恵性: 資源を提供した人が、提供された人以外の第3者から資源を提供されること ♪ 間接互恵性が成立していれば、利他的に振舞ったほうが得になる 利他行動 別の人から返報 ♪ 利他行動 × 直接の返報なし 本研究の目的:間接互恵性がいかにして成立しうるかを探る。

利他行動を適応的にする仕組みー間接互恵性ー ◆間接互恵性が成り立つためには・・・ 人々が、選別的な利他戦略をとっていることが必要 選別的利他戦略 ♪ ♪ 利他行動 × 別の人から返報 本研究の具体的焦点: どのような選別戦略が、間接互恵性の成立を可能とするのか?

この人に資源を提供しようかな?それとも、自分のものにしようかな? Giving game (1) ゲームの概要 毎回、 donor と recipient がランダムに選ばれる。 donorは、コスト(c)を負ってrecipientに資源を提供するか提供しないかを決定する(recipientは利益bを受け取る :b>c) 。 この人に資源を提供しようかな?それとも、自分のものにしようかな? 提供 or 非提供を決定 recipient donor 選別戦略について具体的に検討する前に、本研究で用いるgiving gameについて説明します。 これは、これまで間接互恵性研究で用いられてきたゲームのパラダイムを踏襲したものです。 giving gameでは~ 先行研究の知見を具体的に紹介する前に、本研究が用いる、giving gameのパラダイムを説明します。 giving gameは、間接互恵性を扱った先行研究の多くで用いられてきたゲームパラダイムです。 毎回~ donorが行動を決定する際には、recipientの評判スコアを参照します。 スコアは、GoodもしくはBadのいずれかの値をとる評判情報です。 ~ またプレイヤーは、小さな確率で次の二種類のエラーを起こすと想定されています。 それでは、スコアの割り振り方(戦略)について説明します。

Giving game (1) ゲームの概要 毎回、 donor と recipient がランダムに選ばれる。 donorは、コスト(c)を負ってrecipientに資源を提供するか提供しないかを決定する(recipientは利益bを受け取る :b>c) 。 donorは、recipientの評判スコア(GoodもしくはBad )を参照し、行動を決定する。 recipientのスコアがGood  ⇒ 提供(利他行動) recipientのスコアがBad  ⇒ 非提供 スコア どうしようかな? donor recipient 提供 or 非提供を決定

Giving game (1) ゲームの概要 毎回、 donor と recipient がランダムに選ばれる。 donorは、コスト(c)を負ってrecipientに資源を提供するか提供しないかを決定する(recipientは利益bを受け取る :b>c) 。 donorは、recipientの評判スコア(GoodもしくはBad )を参照し、行動を決定する。 recipientのスコアがGood  ⇒ 提供(利他行動) recipientのスコアがBad  ⇒ 非提供 スコア この人はGood donor recipient 提供

× Giving game (1) ゲームの概要 毎回、 donor と recipient がランダムに選ばれる。 donorは、コスト(c)を負ってrecipientに資源を提供するか提供しないかを決定する(recipientは利益bを受け取る :b>c) 。 donorは、recipientの評判スコア(GoodもしくはBad )を参照し、行動を決定する。 recipientのスコアがGood  ⇒ 提供(利他行動) recipientのスコアがBad  ⇒ 非提供 スコア スコアの割り振り方は、戦略によって異なる この人はBad donor recipient × 非提供

Giving game (1) ゲームの概要 毎回、 donor と recipient がランダムに選ばれる。 donorは、コスト(c)を負ってrecipientに資源を提供するか提供しないかを決定する(recipientは利益bを受け取る :b>c) 。 donorは、recipientの評判スコア(GoodもしくはBad )を参照し、行動を決定する。 recipientのスコアがGood  ⇒ 提供(利他行動) recipientのスコアがBad  ⇒ 非提供 スコア 行動のエラー (έ) :意図とは逆の行動をとってしまうエラー 2) 知覚のエラー (δ) :他のプレイヤーが過去にとった行動を、誤って知覚してしま うエラー エラー スコアの割り振り方は、戦略によって異なる

先行研究1-- image scoring 戦略 (Nowak & Sigmund, 1998) =前回、recipientに提供した相手をGood、 提供しなかった相手をBadとみなす =過去に他者を助けた相手を助け、 助けなかった相手は助けないTFT的な戦略 image scoring戦略は利己主義者を排除し、間接互恵性を成立させる!(Nowak & Sigmund, 1998)

第1シミュレーション:image scoring戦略の検討 進化シミュレーションの概要 シミュレーションには、All-C(無条件利他主義者), All-D(利己主義者), image scoringの3戦略を投入。 毎試行、集団の中から一組のdonorとrecipientがランダムに選ばれ、giving gameを行う。 1世代=1500試行(m=1500)とし、1万世代を繰り返す。 世代終了後、淘汰と突然変異が生じる。 (突然変異率 :μ=0.0001) 集団サイズ(n)=300, έ = 0.025, δ=0.025, b/c ratio = 2, 4, 6, 8, 10.

第1シミュレーション:image scoring戦略の検討 Figure 1 20レプリケーション中、全レプリケーションにおいて、All-D(利己主義者)が制覇。 image scoring 戦略は、間接互恵性を成立させえない!

All-C の数は、image scoringの数を上回る ←All-D (利己主義者)が侵入可能 image scoring 戦略の問題点 (Leimar & Hammerstein, 2001; Panchanathan & Boyd, 2003) 「Bad」なrecipientと出会った場合・・ ◇image scoring戦略⇒「罰」として、非提供 →他のimage scoring から、「Bad」と見なされる →他のimage scoring から提供を受ける機会を失う ◇ All-C(無条件利他主義者) ⇒常に提供 →常に「Good」なスコアを保持 →image scoring から提供を受ける機会を失うことはない All-Cの期待利得>image scoringの期待利得 All-C の数は、image scoringの数を上回る ←All-D (利己主義者)が侵入可能

image scoring 戦略の問題点 (Leimar & Hammerstein, 2001; Panchanathan & Boyd, 2003) 「Bad」なrecipientと出会った場合・・ ◇image scoring戦略⇒「罰」として、非提供 →他のimage scoring から、「Bad」と見なされる →他のimage scoring から提供を受ける機会を失う ◇ All-C(無条件利他主義者) ⇒常に提供 →常に「Good」なスコアを保持 →image scoring から提供を受ける機会を失うことはない image scoringは、recipientの前回の相手がGoodな相手だったかBadな相手だったか区別しないために、互いに罰しあってしまう!

先行研究2—standing戦略 (L & H, 2001; P & B, 2003) ◇recipientが前回、提供⇒ 「Good」と見なす ◇recipientが前回、非提供の場合には・・・  recipientの前回のrecipientのスコアを参照し、それが ◇正当化できる非提供は、「Good」と見なす  正当化できない非提供は、「Bad」と見なす 「Bad」な相手への罰(=正当化できる非提供)か否かをチェック

解答2—standing戦略 (L & H, 2001; P & B, 2003) ⇒standingは、「Bad」と見なされることなく非提供者を罰することが可能 現在のrecipientの前回のrecipientのスコア 現在のrecipientの前回の行動 Good Bad 提供 非提供 正当化できない非提供 罰として正当化できる非提供 standing戦略が間接互恵性を成立させる!(L & H, 2001; P & B, 2003)

第2シミュレーション—standing戦略 しかし、20レプリケーション中6レプリケーション では、All-Cが増加し、最終的にはAll-D(利己主義者)が制覇。 standing戦略は必ずしも間接互恵性を成立させえない! 間接互恵性を成立させうる利他戦略とは? 20レプリケーション中14レプリケーションでは、standing戦略が制覇し、高レベルの提供率を達成 (0.95)。

提供 Good or or 非提供 Bad 第3シミュレーション—新たな解決策の検討 想定される全戦略の有効性を、1種類ずつ検討 各戦略は、次の二種類の情報を用い、recipientにスコアを割り振る。 (1) recipient の前回の行動 (2) recipient の前回の recipient のスコア (2) recipient の前回のrecipient のスコア (1) recipient の前回の行動 非提供 提供 or Good or Bad 現在の recipient 現在のrecipientが、前回donorになったときのrecipient 現在のdonor

①~④の遺伝子は、各ケースの相手にどのようにスコアを割り振るかを決定 (Table 2)。 戦略・・・4種類の遺伝子の組み合わせ 第3シミュレーション—新たな解決策の検討 ①~④の遺伝子は、各ケースの相手にどのようにスコアを割り振るかを決定 (Table 2)。 戦略・・・4種類の遺伝子の組み合わせ (e. g. GGGG→All-C (無条件利他主義者) BBBB→All-D (利己主義者) GGBB→image scoring, GGBG→standing…全16戦略が想定可能) 4種類の遺伝子 recipient の前回のrecipient のスコア recipient の前回の行動 Good Bad 提供 ① Good or Bad ② Good or Bad 非提供 ③ Good or Bad ④ Good or Bad

①~④の遺伝子は、各ケースの相手にどのようにスコアを割り振るかを決定 (Table 2)。 戦略・・・4種類の遺伝子の組み合わせ 第3シミュレーション—新たな解決策の検討 ①~④の遺伝子は、各ケースの相手にどのようにスコアを割り振るかを決定 (Table 2)。 戦略・・・4種類の遺伝子の組み合わせ (e. g. GGGG→All-C (無条件利他主義者) BBBB→All-D (利己主義者) GGBB→image scoring, GGBG→standing…全16戦略が想定可能) 4種類の遺伝子 第3シミュレーション ◆全16戦略のうち、残り12戦略(All-C(GGGG), All- D(BBBB), image scoring(GGBB), standing(GGBG)を 除いた12戦略)を1種類ずつ検討 ◆All-C, All-D, いずれか1戦略を投入した、12種 類のシミュレーションを実施 recipient の前回のrecipient のスコア recipient の前回の行動 Good Bad 提供 ① Good or Bad ② Good or Bad 非提供 ③ Good or Bad ④ Good or Bad

第3シミュレーション—12戦略の検討 12戦略中、戦略 GBBB(strict discriminator: 以下、strict disc) のみが間接互恵性を成立させた。 strict disc ⇒全レプリケーションにおいて、他の戦略に優越し、高レベルの提供率を維持 (全20レプリケーションの平均提供率0.81).

なぜGBBBが間接互恵性を成立させえたのか? ⇒GBBBはAll-Cの増加を許容しないから 現在のrecipientの前回のrecipientのスコア image scoring Good Bad 提供 非提供 image scoring と standing は、 提供者を常に「Good」と見なす ↓ All-Cを常に「Good」と見なす standing Good Bad 提供 非提供 image scoring、 standingは、 無条件利他主義者(All-C)の存在を許容 ⇒All-Cを食い物にして、All-Dが侵入 GBBB (strict disc) Good Bad 提供 非提供

なぜGBBBが間接互恵性を成立させえたのか? All-C(無条件協力者)を排除することが、間接互恵性の成立を可能とする重要なポイント ⇒GBBBはAll-Cの増加を許容しないから 現在のrecipientの前回のrecipientのスコア image scoring Good Bad 提供 非提供 GBBB は、「Bad」に提供した相手を罰する ↓ All-Cを 「Bad」と見なすことがある strict discは、 Badへの提供者=All-C(無条件利他主義者)の存在を許容しない ⇒All-D(利己主義者)は侵入不可能 standing Good Bad 提供 非提供 GBBB (strict disc) Good Bad 提供 非提供

strict discの問題点 strict discが唯一の答えか? 第3シミュレーションでは、strict discが唯一の答え Good Bad 提供 非提供 第3シミュレーションでは、strict discが唯一の答え しかし・・・

strict discはあまりに厳しすぎる! Good Bad 提供 非提供 第3シミュレーションでは、strict discが唯一の答え しかし・・・ strict discはあまりに厳しすぎる! strict disc:偶然Badとマッチングされ、やむを得ず非提供をとった人まで罰する ←直観的に、不条理な厳しさ

我々の直観は、 ‘GBBG’により合致 strict discの問題点 strict discはあまりに厳しすぎる! Good Bad 提供 非提供 第3シミュレーションでは、strict discが唯一の答え しかし・・・ strict discはあまりに厳しすぎる! strict disc:偶然Badとマッチングされ、やむを得ず非提供をとった人まで罰する ←直観的に、不条理な厳しさ 我々の直観は、 ‘GBBG’により合致 ⇔シミュレーション結果とは不一致

ランダムマッチング状況と選択的プレイ状況 なぜこのような乖離が生じるのか? donor recipient 集団内から、資源を提供すべき相手がランダムに組み合わされる Good Bad ⇒ランダムマッチングという不自然な状況を用  いていたことに由来している可能性 recipientが強制的に決まる この人に提供 or 非提供?

ランダムマッチング状況と選択的プレイ状況 なぜこのような乖離が生じるのか? ⇒他者の評判が全てわかっており、人々が評判を利用して行動する状況を想定するならば・・・ 評判を用いてつきあう相手を選ぶことができず、相手が強制的にマッチングされるのは不自然 この人に提供 or 非提供? donor recipient Bad Good Bad Bad Bad Good donor自身がrecipientを選べる状況(選択的プレイ状況)の方が妥当? Bad recipientが強制的に決まる Bad Good

選択的プレイ状況(e. g., Yamagishi & Hayashi, 1996) 選択的プレイ状況:他のメンバーの評判をもとに、donor自身が資源の提供相手(recipient)を選出 他のメンバーの評判を観察 誰に提供しようかな? donor Good Bad Bad Bad Good Bad Bad Good

選択的プレイ状況(e. g., Yamagishi & Hayashi, 1996) 選択的プレイ状況:他のメンバーの評判をもとに、donor自身が資源の提供相手(recipient)を選出 他のメンバーの評判を観察 donor自身が、資源の提供相手を選ぶ donor recipient Good Bad Bad Good Bad Bad Bad Good

選択的プレイ状況(e. g., Yamagishi & Hayashi, 1996) 選択的プレイ状況:他のメンバーの評判をもとに、donor自身が資源の提供相手(recipient)を選出 ⇒より直観に合致する状況設定 ⇒より直観に合致する結論が得られるか? ← strict discのみが解決策 or GBBGでもうまくいく ? 選択的プレイ状況における間接互恵性の成立要件を検討する。

選択的プレイ状況(e. g., Yamagishi & Hayashi, 1996) 選択的プレイ状況におけるrecipientの区分 集団内にGoodがいる状況で非提供 集団内にGoodがいない状況で非提供 Goodに提供可能な状況での(正当化できない)非提供 Goodに提供不可能な状況での(正当化できる)非提供 recipient の前回のrecipient のスコア recipient の前回の行動 Good Bad 提供 ① Good or Bad ② Good or Bad 非提供 ③ Good or Bad ④ Good or Bad Good Bad 提供 非提供

第4シミュレーション:選択的プレイ状況での検討 選択的プレイ状況においてAll-D、All-Cを除く14戦略の有効性を、1種類ずつ検討 All-C, All-D, いずれか1戦略を投入した、14種類のシミュレーションを実施 recipient の前回のrecipient のスコア recipient の前回の行動 Good Bad 提供 ① Good or Bad ② Good or Bad 非提供 ③ Good or Bad ④ Good or Bad

第4シミュレーション結果 14戦略中、GBBB (strict disc)と、GBBGの2戦略が、間接互恵性を成立させた。 GBBB(平均提供率0.97)とGBBG(平均提供率0.97)は、全条件の全レプリケーションで、他の戦略に優越。

選択的プレイ状況では「Badを罰した者を罰する」という不自然な選別基準は必要ない! なぜGBBGも成功したのか? strict disc (GBBB) GBBG Good Bad 提供 非提供 Good Bad 提供 非提供 GBBBとGBBGの違い:「④Badしかいない状況での非提供者」を排除するか、許容するか しかし、「集団内の全員がBad」という状況は非常に稀 ④を排除するという基準は重要な意味をもたない 選択的プレイ状況では「Badを罰した者を罰する」という不自然な選別基準は必要ない!

考察 選別的な利他性が、二者を超えた多人数における協力状態を成り立たせている可能性 ◆ 間接互恵性の(共通)成立要件 ① 適切な提供に報いる(Goodへの提供者に提供) ② 無条件利他主義者を排除する(Badへの提供者には非提供) ③ 利己主義者を排除する(Goodへの非提供者に非提供) ◆選択的プレイ状況では、直観に合致しない不自然な 条件(④Badを罰した者を罰する)は不要 選別的な利他性が、二者を超えた多人数における協力状態を成り立たせている可能性

現実に人々はstrict discやGBBGを採用して いるのか? 展望(1) 間接互恵性成立条件の数理的解析 選別戦略が機能する範囲の厳密な検討 現実に人々はstrict discやGBBGを採用して いるのか? ←実験室実験による実証的検討が必要 ※予備調査として、質問紙実験を実施済み

展望(2) 教育・発達研究に対する示唆 利他性の適応的基盤に関するモデルの提供 展望(2) 教育・発達研究に対する示唆 利他性の適応的基盤に関するモデルの提供 長期的目標として、利他性に関するモデル(どのような種類の利他性が、適応的になり得るか?)を社会に提供し、道徳教育の方法へ示唆を提供できる可能性 発達研究・フィールドワーク研究とのリンク 発達過程における、利他行動のパターンの観察 人々は、発達過程で、どのような過程で利他的な行動パターンを獲得するのか? また、そうした行動パターンの獲得は、どのような認知能力の発達と関わっているのか? ⇒人間の利他性の獲得メカニズムとその至近的基盤を解明する手がかりに