農地工学 「土壌断面を考える」.

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農地工学 「土壌断面を考える」

 たとえば、土壌浸食の現場

現場をひたすら「歩く」 現場でひたすら「見る」 現場でひたすら「触れる」 現場でひたすら「聞く」

土壌硬度をはかる 土壌断面をしらべる 地下構造を探る 土壌の色を見る

地表面の亀裂 地被植物 地表面の鉄石 植物根系の調査

試料土壌を採取する

簡易的土壌調査

GPSで位置をはかる 土壌のpHをはかる 土壌のpFをはかる 研究室内で調査情報の検討

たとえば、町屋海岸

 試掘坑と土壌断面

土層(地層)の堆積過程 ■地層累重の法則(ちそうるいじゅうのほうそく;law of superposition)  地層は万有引力の法則に従って、基本的に下から上に向かって堆積し、下層ほど古い。→Nicolaus Steno(1669):Preliminary discourse to a dissertation on a solid body naturally contained within a solid(固体の中に自然に含まれている固体についての論文への序文) 第1法則 地層は水平に堆積する(初原地層水平堆積の法則;Law of original horizontality)。 第2法則 その堆積は側方に連続する(地層の側方連続の法則;Law of lateral continuity)。 第3法則 古い地層の上に新しい地層が累重する。 ■鍵層(かぎそう;key bed、marker bed)  地層(土層)間の年代を比較し特定するための特徴的な堆積層。距離が離れていても同一時期に堆積した地層。侵食作用を受けるため水平方向に連続しない場合が多い。離れた2点間の地層の生成年代を対比し、連続性を判断する際に重要な指標となる。→火山灰編年学(テフロクロノロジー;tephrochronology)。

典型的な土壌の色(その1) 水田(低平地)に多い 畑(火山灰土)に多い

典型的な土壌の色(その2) 寒冷地・低平地の土壌でみられる 熱帯・亜熱帯の土壌でみられる

たとえば、東南アジアの土壌断面   泥炭土壌      塩類土壌   塩類土壌   酸性硫酸塩土壌                (林地の例)    (不毛地の例)

そして、不毛地の「生えぎわ」 森林域 裸地 有機物多い、根多い、 水・ガスが通りやすい 有機物少ない、根が無い、 透過性低く有害物が蓄積

「土壌科学」と応用技術

「土壌粗孔隙とその機能」

「関東ローム層」 Kanto Loam Formation Q1 関東地方が広くて平らな理由  関東地方の西~北西側に火山が分布し、その降下火山灰が広く堆積しているところに関東ローム層が形成されている。  「関東ローム層」は、関東地方の丘陵、台地、段丘を覆うローム(loam;砂・シルト・粘土がほぼ同量ずつ混じった土)に近い粒度組成をもち、褐色の風化火山灰層となっている。  また、関東地方に分布する更新世(約170万年前~約1万年前。洪積世ともいう)の火山活動に由来する降下火山灰を主とする火砕物質層であり、ローム層のほかに、降下軽石層、スコリア層(火山砂礫層)、水中堆積粘土層などを含んでいる。  関東ローム層のうち南関東地方に分布する層は、上位から下位に向かって、立川ローム層(約1~3万年前)、武蔵野ローム層(約3~6万年前)、下末吉ローム層(約6~13万年前)、多摩ローム層(更新世中期)の4層によって形成されている。

「管状孔隙」が主体となる土壌粗孔隙が発達している。 「関東ローム層」 Kanto Loam Formation Q2 東京に坂が多い理由  関東ローム層の丘陵・台地から低平地へ下る部分には、「開析谷」(流水や土石流などによって地形が侵食され、切り込まれた谷)が多く、その傾斜面が「坂」となっている。 Q3 東京(とくに丘陵地、台地上)に掘り抜き井戸が多い理由  関東ローム層の堆積様式や土壌構造が地下水を貯留し易くしている。地下水が多く貯まる層として軽石層や礫層があり、その下位に粘土層が形成されていることが多い。 ↓ 「管状孔隙」が主体となる土壌粗孔隙が発達している。 

粗 孔 隙 ↓ (1) 「粗孔隙」“macropore”は、内壁面が滑らかで断面形状が規則的に連続する奥行きのある構造。 (2) 圃場規模あるいは地域規模の広範囲の土壌物理性に影響を及ぼす。 (3) 水の流れは(水理学的)曲面間や細管の流れ。 (4) 粗孔隙は、亀裂(割れ目)と管状孔隙(tubular poreまたはchannel)に分類。 ↓ (a) 亀裂は、土層の水平・鉛直方向に進展する曲面状の孔隙。 (b) 管状孔隙は、円孔断面またはそれに近い断面をもった管状の連続的な孔隙。 (c) 粗孔隙は、亀裂網や管状孔隙網などの空間構造をなし、その連続性は間隙の間隔または断面直径をはるかに上回る距離で存在。 (d) 大きさは、 管状孔隙 < 亀裂   存在密度は、管状孔隙 > 亀裂 土壌粗孔隙の 実体顕微鏡写真

粒団内間隙(団粒内間隙) 土壌基質(ped内)に存在する粒団内間隙(団粒内間隙)は、断面形状が不規則で一次粒子や二次粒子の骨格構造の幾何学的配列に規定される。 顕微鏡視野の範囲でマトリックポテンシャルmatric potentialなどの土壌物理性に影響を及ぼす。 黒ボク表土の土壌基質軟X線影像。右下スケール長は10mm

粗孔隙モデル ・亀裂は曲面状モデル ・管状孔隙は管モデル 粗孔隙の構造について、 などが考えられる。 この構造の空間構成は、 ・分布 spatial distribution ・接続状況 connecting ・分岐状況 branching ・屈曲状況 twisting/tortuosity ・断面(積)変化 diameter ・連続長 length ・方向性 orientation などで表現される。 二つの粗孔隙モデル

土壌環境と土層構造(マクロな不均一) 土壌環境と土層構造の関係 地下水位によって、土壌内に入る酸素量の違いが起こり(酸化・還元環境)、作物根環境、土壌微生物環境、土壌・土層環境に変化が生じる。 土壌環境によって、土層構造は明らかに異なり、マクロな不均一構造となっている(畑~水田土層の模式的モデルに分類できる)。 土壌環境と土層構造の関係

水田(地下水位が浅い土層)の粗孔隙 と 水稲根の形態 ①湿田では、根の合計本数や分岐根が少なく、土層の各方向へ分布する。 ②湿田が乾田化された場合は、ほとんどの根は作土層中に分布し、下層へ伸長するのは少ない。 ③乾田では、耕盤が形成され心土の構造が発達すると、根は心土まで伸長・分布する。 ④還元環境の湿田と比べて、酸化環境の乾田の方が2次根の形成が多い。 ⑤管状孔隙が発達している下層において、同一の管状孔隙に異なる株から出根・伸長した根が同時に入り込む現象が見られる。 ⑥根(一次根)の直径は、0.1mmから1.0mm程度である。 ⑦分枝根には、根径の大きいもの(0.25~0.3mm)と小さいもの(0.04~0.08mm)があり、高次の分枝根は太い分枝根からのみ形成される。 ⑧太い分枝根は、親根の屈曲した部位の外側に出現し、内側からは分枝しない。 ⑨屈曲が大きい程、その外側に長大な根が集中して分枝する傾向がある。 ↑ これらの水稲根系の特徴の大部分が管状孔隙の構造的特徴を表現している

水田(地下水位が浅い土層)の粗孔隙/水田型管状孔隙 (1) 飽和透水係数の鉛直/水平方向の比(KV/KH) →1.0よりも大きく、鉛直方向に透水性が優越 (2) 粗孔隙の空間構造→幹線は比較的直線様に鉛直方向に走り、 水平方向へ支線が分岐する他は水理学的な抵抗要素となる分岐はしていない (3) Poiseuille則の土壌への適応は成立しない→管状孔隙を直管として扱うのは極めて困難 (4) 飽和透水係数の抵抗要素は孔隙の空間構造 水田型管状孔隙の軟X線影像。 右下のスケール長は10mmを示す

水田(地下水位が浅い土層)の粗孔隙/水田型管状孔隙モデル ①幹線となる太い孔隙のほとんどは鉛直に近い方向に伸びている。 ②幹線となる粗孔隙のほとんどは円または円に近い断面の管状孔隙である。 ③内径は約0.3mmから1.0mm程度だが、その変動係数C.V.は20%で管路としてやや凹凸のある内面構造である。 ④管路は全体として極端な屈曲はなく、直線距離の30%増の延長で伸びているが、局部的に螺旋状構造が存在する。 ⑤鉛直方向における幹線は水平方向へ支線が分岐する以外に水理学的な抵抗要素となる分岐は見られない。 水田型管状孔隙モデル

畑・汎用農地(地下水位が1mより深い土層)の粗孔隙/ 畑型(汎用農地型)管状孔隙 (1) 土壌環境がいわゆる畑状態の場合、「根は屈曲が顕著で分枝根数が多く長大となる」。 (2) 水田状態よりも畑状態の環境下にある孔隙に屈曲性が大きい。 (3) 休耕田雑草遷移調査では、「発生雑草種は土壌水分によって明らかに異なり、休耕年次の経過とともに急速な遷移を示すが、地帯的な差異は少ない」 畑型(汎用農地型)管状孔隙の軟X線影像。 右下のスケール長は10mmを示す。

畑・汎用農地(地下水位が1mより深い土層)の粗孔隙/ 作物根系の伸長形態を反映した管状孔隙 (1) 水平方向の孔隙のほとんどは鉛直方向の太い孔隙から分岐している。 (2) 主要とみられる太い管状孔隙は、内径0.4~1.2mm、屈曲度1.0~2.1mm/mm。 (3) 屈曲度が大きくなるほど内径は太くなる傾向がある。 管状孔隙の平均屈曲度(曲線距離/直線距離、mm/mm) と平均内径(mm)の関係

畑・汎用農地(地下水位が1mより深い土層)の粗孔隙/ 畑型(汎用農地型)の管状孔隙モデル ①内径は約1.0mm(変動係数C.V.20%)。屈曲度は約1.7mm/mm。 ②畑型は水田型と比較して、屈曲度が高く、内径が大きい。 ③内径の変動変動係数は水田・汎用のどちらも同程度である。 ④畑型は、太い分岐孔隙が隣接した主要孔隙につながっている。水田型は、細い分岐孔隙が隣につながる場合もあるが、鉛直・水平いずれの方向にでもごく一部に屈曲した部分があって、内径が細いためこの部分的な屈曲が水の流れの抵抗として大きな影響を及ぼす。 畑型(汎用農地型)管状孔隙モデル

火山灰台地(地下水位が数mより深い土層)の粗孔隙/ 関東ローム層における地下水位と土壌水分の変動 24時間以内の地下水上昇量の測定時間   [1] 降雨前日~降雨当日   [2] 降雨当日~降雨翌日   [3] 降雨翌日~降雨翌々日  回帰直線の傾きが[1][2][3]の順に小さくなっていく。          ↓ 降雨当日における地下水位の上昇が最大 ←降雨量と地下水位の関係

火山灰台地(地下水位が数mより深い土層)の粗孔隙/ 関東ローム層における降雨量と土壌水分量 24時間以内の土壌水分増加量の測定時間(地下水位上昇量解析期間と同じ[1]~[3])の回帰直線の傾きは、 [1]が最も大きく、降雨後24時間以内に土壌水分がピーク。 [2]の傾きは負。降雨後2日後に土壌水分が減少傾向。 ↓ ベイドスゾーンの液相部分は、pF1.5~pF3.0の範囲で変動 (2) 夏季は変動範囲が大きく、冬季は少なくなっていた。 (3) 全層の平均pF値は、最大2.69、最小0.90、平均2.17(等価平均径換算0.02mm)。これより大きい孔隙が常に開放されていた。 (4) 最も乾いた状態では、径0.006mm以上の孔隙が開放。 (5) 軟X線孔隙像と土壌水分張力から判断して径0.02mm以上の孔隙が常時開放。 ←降雨量と土壌水分の関係

火山灰台地(地下水位が数mより深い土層)の粗孔隙/ 地下水位変動帯の粗孔隙網の役割 ① 雨水は、表層で団粒間間隙や管状孔隙等を通過し、下層で管状孔隙が関与している。 ② 管状孔隙は鉛直方向に太く、水平方向は細く、曲がりくねっている。 ③ 水平方向の孔隙は、鉛直方向の孔隙を伝わる雨水によって満たされることもあれば、開放孔隙に連絡し、高まった空気圧を逃がす役割を持つ。 雨水涵養過程の模式図

火山灰台地(地下水位が数mより深い土層)の粗孔隙/ 圧力開放と雨水の浸透 粗孔隙における排水経路と排気経路に機能の分化がある 表層の団粒間間隙内の通過 (B) 管状孔隙を満流 (C) 隣接する管状孔隙にガスの抜け道がある (D) 管状孔隙支線が下方へ向いている (E) 管状孔隙支線が上方へ向いている 雨水進入経路。水の流れとガスの流れの違い

地下水位の変動帯では、管状孔隙内壁に斑鉄が形成 粗孔隙内壁の被覆と強化/ 地下水位の変動帯では、管状孔隙内壁に斑鉄が形成 (1) 鉛直方向の管状孔隙は中心が白く抜けている。 (2) 管状斑鉄の輪切り断面は、鉄沈澱部分の濃度階調が高く、中空部周辺に約0.55mmの厚さ。中空部分の内径は約0.5mm以上、斑鉄が沈澱していない管状孔隙の内径は約0.5mm以下。 (3) 孔隙径の等価pF値=0.8   (約6cm H2O)。 (4) 斑鉄は堅く管状・暈管状斑鉄の分布は不均一。 (5) この被覆構造によって、ベイドスゾーンの通気・透水パイプ(管路系)の強化・保存がされている。 水田下層の管状斑鉄の軟X線影像。 水平断面、右下のスケール長は10mmを示す

斑鉄形成メカニズム 土壌の還元力と鉄の沈澱・溶解現象 「還元状態が充分に発達していない土壌では内側の水酸化鉄沈澱帯から還元溶解が進行した。この間、外側の水酸化鉄沈澱帯は形態も色調も変化しなかった。」 根系が存在せず中空となっている粗孔隙の周辺に斑鉄が生成される現象 「粗孔隙内が浸透水で飽和され大気と遮断された還元状態、および粗孔隙内が排水され大気に開放された酸化状態の繰り返しによって粗孔隙周辺部の鉄イオンの沈澱・溶解現象が誘起される。」

孔隙の被覆、b. 孔隙の準被覆、c. 孔隙の偽被覆 土壌微細形態学からみた「被覆」 孔隙の被覆、b. 孔隙の準被覆、c. 孔隙の偽被覆 (Handbook for soil thin section description, P.Bullock et al., Waine Research Publications. 1985) 粗孔隙が物理的に堅固な構造として保存され、また粗孔隙内を物質が流れる間に、孔隙内壁面に粘土皮膜や腐植などの有機物が付着することもある。単なる中空の管状孔隙の存在があるのではなく、内壁が被覆された無数のパイプが土壌内に存在していると考えることができる。

「優先孔隙」と「微小循環網」の存在 「粗孔隙の微小循環網」の存在 ○ 管状孔隙は、ある「循環系」を構成している。 ○ 鉛直/水平方向の主要な管状孔隙を、土層内の水やガス移動に影響を与える「優先孔隙」とするならば、この幹線と土層基質内を結ぶ「微小循環網」が存在し、形態的なネットワークが形成されている。 ○ 粗孔隙における排水経路と排気経路の機能の分化があるからこそ、土層内の保水性や土壌水・溶質の移動特性が発揮される。管状孔隙の網状構造が寄与している。 ↓ 「粗孔隙の微小循環網」の存在

粗孔隙の微小循環網 [A] 幹線結束型 [B] 幹線網状型 [C] 支線屈曲型 [D] 支線湾曲型 [E] 支線網状型 [A] [B]

微小循環網の役割 1.微小循環網は、土壌中に生起するさまざまな固有の物理機能に応じて、特異的な幾何学的3次元網構造を成している。 2.微小循環網は、土壌内への物質供給(水、酸素、溶質など)と土壌からの物質排除(水、二酸化炭素、溶質など)に果たす機能、土壌中での物質循環の調節、圧力や物質の分布に関わる平衡機能などに果たす機能を持っている。 3.土壌中の圧力が平衡状態にある場合は、微小循環網を形成している孔隙の分岐水準に応じた圧力分布があるはず。微小循環網に寄与する水の移動が決して定常的な流れを引き起こすものではないと考えることができる。 4.優先孔隙から微小循環網内の分岐末端に至るまで各孔隙内を流動する水の移動速度や量にも各々特有の水準がある。

異なった形態/土壌動物と植物根の管状孔隙形成 作物・植物根が進入または腐朽した後に残る管状孔隙(根跡孔隙、根成孔隙) ミミズなどの土壌動物によって形成された孔道 ミミズ活動の軟X線影像。 右下スケール長は10mm

ミミズの糞塚(東北タイ)

土壌動物の生活環の特徴と役割 土壌動物の特徴 土壌動物の役割 ①体長が小さい(原生動物:0.02~0.16mm、ミミズ:10~60mm)  ③その他(足が短い、白化する、目が退化するetc.)などの特徴がある。 土壌動物の役割  (1)腐植形成 (5)保水 (2)土壌粒子・団粒組成形成 (6)排水  (3)孔隙形成 (7)侵食  (4)通気 (8)養分蓄積 などの効果や影響を土壌に及ぼし、個体が群れを成して時間が経過すると、それらは無視できない程度まで拡大する。土壌動物の行動「掘削」は、土壌有機物を体内に摂取すると同時に体液分泌、孔隙周辺の土壌粒子や団粒の組成変化を伴う。 動物と植物の生活様式は異なり、各々によって構築された土壌物理環境も大きく異なる。表層では、現世の動植物が混在する機会が多く、間隙構造は複雑であるが、下層に向かうほど植物根茎の形態を強く残した管状孔隙が優先して存在している。