発光と発光励起スペクトルから見積もる 低次元電子系のキャリア温度 ’06 12/12 @ 秋山研打ち合わせ 発光と発光励起スペクトルから見積もる 低次元電子系のキャリア温度 井原章之 東京大学 物性研究所 秋山研究室 D2 Ph.D student of Akiyama group in Institute for Solid State Physics, University of Tokyo and CREST, JST, Chiba 2778581, Japan 10
FESが弱い。本当に温度は5Kまで冷却されているのだろうか? ドープ細線の実験結果 Vg = 0.7V Tcryostat = 5K Photon energy (eV) FESが弱い。本当に温度は5Kまで冷却されているのだろうか?
固定の条件 : Te = Th me = 0.067m0 mh = 0.105m0 Gγ:γ = 1 meVのGaussian 自由粒子モデルでのフィッティング 固定の条件 : Te = Th me = 0.067m0 mh = 0.105m0 Gγ:γ = 1 meVのGaussian 求まる値 Te = Th = 10±3 K ne = 6(±1)x105 cm-1
A. Yamaguchi, K. Nishi, and A. Usui, フィッティングの問題点 固定した条件は正しいか? A. Yamaguchi, K. Nishi, and A. Usui, Jpn. J. Appl. Phys. 33, L912 (1994). Te = Th me = 0.067m0 mh = 0.105m0 Gγ:γ = 0.5 meV の Gaussian 測定値がないため、 二次元系の計算値を利用。 正孔の有効質量を変えるとどうなるか? mh = 0.105m0 Te = Th = 10±3 K ne = 6(±1)x105 cm-1 mh = 0.7m0 Te = Th = 13±3 K ne = 7(±1)x105 cm-1 さらに ブロードニングの幅γの値にも依るし、 発光・吸収どちらに重みを置くかにも依る。(要するに恣意的) 温度を独立に決定する方法はないか?
発光÷吸収 (I/A) を計算するとどうなるか ブロードニング関数をγ→0のδ関数の極限にとる ※ f h << 1 のエネルギー範囲(正孔濃度が小さい) ※ Kochらの言う「KMS関係式」に相当 Koch et al. , Physica E 14, 45 (2002). Chatterjee et al., Phys. Rev. Lett. 92, 067402 (2004). キャリア温度以外のパラメータが消えた 仮に、KMS関係式と呼ぶ
KMS関係式を用いて温度を求める 実験 T = 11±2 K log(I/A)の傾きから温度が求まる
おおまかには合うものの、温度計よりも高い値が出る傾向にある ヒーターで温度を変えてみる 黒字:クライオスタット温度計の表示 青字:KMS関係式を用いて求めた温度 おおまかには合うものの、温度計よりも高い値が出る傾向にある
温度計の表示と、KMS関係式での解析結果が異なる原因を考える 3.671 11 20.3 23 30.35 34 41.11 45 51.75 60 ① 温度計の表示が間違っている ② 温度計は正しいが、途中の熱接触の問題で試料(格子・電子)の温度が高い ③ 格子系の温度は温度計の通りだが、光励起のせいで電子系の温度が高い ④ ブロードニングの効果のため、KMS関係式から求めた値が間違っている 最近気になりだした
自由粒子モデルで、ブロードニングを変えてみる 計算 Gauss関数の場合、 γ<< kBTの条件下において、 KMSで求める温度は正しい 計算 Lorentz関数の場合、 KMSで求める温度は 分布関数の温度よりも高くなる Kiraら(※)の示唆するように、δ→ 0でないと使えない? ※ M. Kira, F. Jahnke, W. Hoyer andS. W. Koch,Prog. Quantum Electron. 23, 189 (1999).
KMS関係式は、ブロードニングがある場合は、 連続状態であっても正確ではない? 質問 KMS関係式は、ブロードニングがある場合は、 連続状態であっても正確ではない? → 状況による。外的要因の幅なら不正確になる。 KMS関係式を使って 正確な温度を見積ることはできない? → システム内部に起因するブロードニング だけならば、正確に求まると考えてよい。
離散的なピーク構造のピークの 近傍では成立しない? 質問 離散的なピーク構造のピークの 近傍では成立しない? → 幅の要因がシステム内部か外部かによる。 連続状態の低エネルギー端 (バンド端の低エネルギー側テール) では成立しない? → 上に同じ。
BCSやBECなどギャップが開いている場合は、 フェルミエッジ近傍で成立しない? 質問 BCSやBECなどギャップが開いている場合は、 フェルミエッジ近傍で成立しない? → ギャップは関係ない。フェルミ端で吸収が0になることに注意が必要、という意味。 フェルミ端特異性があってもKMSは成立する? → 成立する。
線形応答理論に現われる「KMS条件」と Kochの言う「KMS関係」は等価? 質問 線形応答理論に現われる「KMS条件」と Kochの言う「KMS関係」は等価? → 似たようなもの。逆を示している。 「線形応答ならKMSが使える」とは、 どんな条件のもとで、何のために使うことを指す? → KMSを使う = 吸収から発光を出す
電子正孔系の上記の関係式には KMS以外の呼び名はない? 質問 電子正孔系の上記の関係式には KMS以外の呼び名はない? → 特になし。KMSでいい。 アインシュタインの関係式とも繋がっているっぽい。 電子系の上記の関係式は KMSと呼ぶ?他の呼び名は? → 特になし。
浅野先生のノートより抜粋 準熱平衡・線形応答であれば、発光と吸収の対応は厳密である。 スペクトルに幅があったとしても、それがハミルトニアンによって自動的に生まれるものであれば、厳密にこの関係は満たされる。 無輻射遷移などによって電子・正孔の数が保存しなくなるとまずい。 電場の高次の効果がまったく入っていない。 ポラリトン効果が効くとまずい。
ディスカッションの内容をまとめた井原なりの理解 電子系・格子系も含めて熱平衡であれば、電子・電子散乱や フォノン散乱があってもKMSは成立する。 「δ関数の集まりで幅が生じている」というように考える。 不均一幅や、寿命による自然幅など、ハミルトニアンに 含まれない幅がある場合は、ずれる可能性がある。 実験は全て含めたハミルトニアンを解いているようなものなので、 KMSは成立すべき。温度が高い原因は①~③と考えるのが妥当。 電子正孔系のKMSは、準熱平衡状態という概念が必要不可欠。 システムの内部による幅が主要であれば(?)、KMSは成立。 μeやμhは、相互作用を含めても定義できる。それぞれ観測可能(?)。 Haug et al., Prog. Quantum Electron. 9, 3 (1984). の14ページで、KMSが発光と吸収の間に成立することを一般的に示している。 ただし、この論文は上級者向け。