共生システム創成 水圏環境の保全と利用 北海道大学 大学院環境科学院  環境起学専攻 共生システム創成 北方生物圏フィールド科学センター 共生生態系保全領域 水圏生物資源環境分野 上田 宏 hueda@fsc.hokudai.ac.jp 水の安全性 サケの母川回帰と嗅覚 共生システム創成.

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共生システム創成 水圏環境の保全と利用 北海道大学 大学院環境科学院  環境起学専攻 共生システム創成 北方生物圏フィールド科学センター 共生生態系保全領域 水圏生物資源環境分野 上田 宏 hueda@fsc.hokudai.ac.jp 水の安全性 サケの母川回帰と嗅覚 共生システム創成

海の食物連鎖 第一次生産者(独立栄養生物):植物プランクトン・海草・バクテリア 第二次生産者(植食種:第一次消費者):動物プランクトン・稚魚 第三次生産者(肉食種1:第二次消費者):ニシン・シロナガスクジラ 第四次生産者(肉食種2:第三次消費者):サケ・マグロ 第四次消費者(肉食種3):サメ・シャチ 生産的効率:栄養段階に     より捕食された量の約   10%が成長に利用 海洋のしくみ 日本実業出版社

西部北太平洋の食物連鎖に見られるPCBの生物濃縮 日本沿岸のPCB濃度:0.27ng/l;植物プランクトン 動物プランクトン:6400倍 ハダカイワシ:17万倍 スルメイカ:24万倍 スジイルカ:3.7mg/l;1300万倍 環境ホルモンの恐怖  PHP研究所

外因性内分泌撹乱物質:ホルモン様作用物質 Endocrine disruptors:Hormonally active agents 合成エストロゲン 天然エストロゲン 工業用化学物質 殺虫剤・PCB・ダイオキシン PCB類 ダイオキシン類 メス化する自然 講談社 産業革命以降に86,000種類の人工化学物質を製作 現在約70種類が環境ホルモンと推定 人畜由来天然エストロゲン 非意図的生成物:ダイオキシン・ベンゾピレン

世界各地の野生生物の内分泌機能異変 生物種 生物種 場所 内分泌撹乱現象 原因物質 腹足類 魚類 爬虫類 鳥類 哺乳類   生物種        場所         内分泌撹乱現象          原因物質  エゾバイ科     東南アジア      雌のインポセックス     トリブチルスズの可能性  イボニシ      日本沿岸       雌のインポセックス     トリブチルスズと断定 サケ属       北米五大湖      甲状腺の異常        未特定 ホワイトサッカー  北米五大湖 成熟遅延、生殖巣縮小   未特定 カダヤシ      フロリダ州     雌の雄化         未特定 ローチ、ニジマス イギリス      雄のVg血中濃度上昇   ノニフェノールと推定、                      精巣の発育不全    合成女性ホルモンも関与 コイ        多摩川      雄のVg血中濃度上昇  ノニフェノール等複数の化                      精巣の発育不全       物質の可能性 マコガレイ    東京湾       雄のVg血中濃度上昇  未特定                      雄のペニス矮小化 ミシシッピワニ   アポプカ湖   雌の異常卵        湖内に流入したDDTと推定                      幼体の孵化率低下 ヤマギシ等     イギリス        産卵数の減少        DDT、DDEと断定 アメリカオオセ   サンタバーバラ島  雄の雌化と個体数の減少  未特定 グロカモメ               雌のレスビアン個体出現 セグロカモメ    北米五大湖     甲状腺異常        DDTの可能性 ハクトウワシ    北米五大湖     低孵化率         PCBまたはDDTの可能性 アジサシ      北米五大湖     雄の両性生殖器具有化   PCBまたはDDTの可能性 カワウソ、ミンク  北米五大湖    繁殖激減          餌魚中のPCBの可能性 フロリダヒョウ   フロリダ州   精子数減少、不妊      エストロゲン様作用の農薬 環境ホルモンの恐怖 PHP研究所

ダイオキシン濃度の高い魚介類 種類 海域 天然・養殖 濃度(pg/g) クロマグロ 米国東海岸北部中大西洋 天然? 10.109 コノシロ 大阪湾 天然 9.148 アナゴ 瀬戸内海東部 8.308 カジキ 関東沖 6.648 スズキ 東京湾 6.541 6.448 タチウオ 6.036 キハダ 中部太平洋 5.056 ベニズワイガニ 山陰沖 4.506 瀬戸内海西部 4.397 4.248 ブリ 瀬戸内海南部 養殖 4.038 魚介類の平均濃度:0.748pg/g;魚類:0.951pg/g;甲殻類:0.689pg/g;貝類:0.265pg/g 耐用摂取量:4pg/Kg体重⇒体重50Kgのヒトが米国産マグロを毎日20g食べ続けると越す

環境ホルモンの作用 女性ホルモン擬似作用:エストロゲンレセプターニに結合して、女性ホルモンと同様な作用;DDT・PCB・ノニフェノール・ビスフェノールA 男性ホルモン阻害作用:アンドロゲンレセプターに結合して男性ホルモンの働きを阻害;DDE・ビンクロゾリン 女性ホルモン阻害作用:アロマターゼ(男性モルモンから女性ホルモンを合成する酵素)を阻害し、女性ホルモンを生成できなくする;ダイオキシン・有機スズ(トリブチルスズ・トリフェニルスズ)

環境ホルモンにより予想されるサケの生理への影響 時期          サケの生理への影響          予想される現象               遺伝的雄の雌への性転換   性比のアンバランス 受精~孵化       脳の性分化に影響      雄型脳へ分化出来なくなる               骨形成に不可逆的障害    奇形魚の出現           雌への性転換の影響     雌ヤマベの出現 浮上~降下 感覚・神経系に悪影響    母川記銘が出来なくなる               筋肉・骨・内臓に影響    成長障害・免疫障害               卵黄形成の促進       小型雌魚が回帰する 海洋~母川 感覚・神経系に悪影響 母川回帰出来なくなる 餌生物からの影響 食物連鎖による生物濃縮 生殖生理への影響 神経生理への影響 成長生理への影響 サケの生活史の異変 サケ資源の減少