論文紹介 坂本圭 2004.05.26 Finite-amplitude crossflow vortices, secondary instability and transition in the rotating-disk boundary layer Pier, B. J. Fluid Mech. (2003) 487:315-343
0 はじめに 流線関数瞬間場 水平平均からの偏差(全て上げ潮) 10日 10日目:ほぼ層流 13日目:波長310mの波 u,wとも0.1cm/s程度。 16日目:乱流 流速1cm/sほど。 13日 16日 幅2km 海底から200mまで
0 はじめに(2) 300m v 変曲点→タイプI不安定 0m Karman流鉛直プロファイル エクマン流 実験結果(下げ潮時) 鉛直は(ν/Ω)1/2で無次元化
1 Introduction Karman境界層 回転盤による流れ、その他は静止状態(右上図) 現実には遠心ポンプ、ハードディスクなど 現実には遠心ポンプ、ハードディスクなど 平板上の回転流、静止盤と回転盤の間の流れ、環状キャビティ(右下図)などと共通点 2種類の不安定 1.convective instability (伝達性不安定) 擾乱の成長より基本流の移流の効果が強く、擾乱は流されてしまう。 2.absolute instability (絶対不安定) 成長が卓越し、初期インパルスがあった位置で擾乱が成長する。 回転盤による流れでは、半径方向に絶対不安定であれば、ある位置での擾乱はそこで成長する。(臨界半径Rcaの外側)
1 (2) 絶対不安定の領域で擾乱が成長していくと、非線形効果が流れを安定化し、有限振幅の波動が維持される(crossflow vortices)。 完全に非線形な方程式系では、絶対不安定の領域が存在すれば、自立した有限振幅解が許される。 (線形で考えると、絶対不安定領域の存在は必要条件の1つ) この有限振幅解は、第二段階(secondary)の擾乱に対して安定か? 1.安定か伝達性不安定なら、有限振幅解は維持される 2.絶対不安定なら、有限振幅解は破壊される レイノルズ数などの制御パラメータを増加させていくと… 1.第二段階の絶対不安定の閾値が第一段階より大きいと、あるパラメータ範囲で有限振幅解が存在。(Batchelor流:Le Gal et al. 2003) 2.閾値の順序が逆なら、有限振幅解が現れずいきなり乱流状態に移行。 本研究の目的: 完全に非線形の枠組みでは、Karman境界層の有限振幅解は第二段階の擾乱に対して絶対不安定であることを示す。
2 Laminar basic flow 半径方向外側への基本流 擾乱を外側へ移流する働き z方向 基本流(円柱座標系): 擾乱を外側へ移流する働き z方向 基本流(円柱座標系): 定常、軸対称。無次元化によって外部パラメータに依存しない相似解が得られる。 無次元化パラメータ: 回転角速度、粘性係数、流体密度 長さスケール:(ν/Ω)1/2 r方向 θ方向
3 Mathematical formulation (3.1) 擾乱場と基本場に分ける (3.2) 支配方程式系 Navier-Stokes方程式 連続の式 (3.3) 平行流の仮定 方程式系の係数のrを外部パラメータRに置き換える 「局所支配方程式」
4 Primary linear instability properties 擾乱場をノーマル・モードで記述(ベータは整数)。 線形化した方程式に代入し固有値問題を解いて、分散関係式を導出。 R=300, 400, 500, 600でのα-β平面でのωi (太線が0の等値線) タイプI タイプII
4.3 Local absolute frequency β 絶対不安定の振動数。 (pinch-point criterionから) 左下図:絶対不安定の成長率。太線が成長率0 Rを増大させた時に、伝達性不安定から絶対不安定への移行が起こる点。 R=507.4,β=68, ω0,r=50.5, α=0.227-0.122i ω0,i R
5 Primary saturated crossflow vortices 有限振幅に達した第一段階の波動は下のように書ける。 α、ωは実数、βは整数 これは位相φについて2πの周期関数 α、β、ωの間には局所非線形分散関係が成り立つ unl, pnlは、位相に関してフーリエ級数に展開し局所支配方程式に代入することで求める。 (Newton-Raphson search procedure)
5.2 Nonlinear wave near onset of primary absolute instability 絶対不安定となる付近でのcrossflow vorticesの構造 縦軸:z, 横軸:φ 擾乱場 擾乱場 +基本場 φ=3π/2の時に変曲点がはっきりと見える。 →第二段階の擾乱に対して不安定であることを示唆。 鉛直プロファイル R=510, β=68, ω=50.5
5.3 Nonlinear dispersion relation and fluctuating energy 左上図:Crossflow vorticesによる擾乱エネルギー。 等値線は、線形分散関係式による成長率。 擾乱エネルギーが最大となる波数と成長率のそれにはずれがある。 α R ω β=68
6 Self-sustained spatially extended structure Rca=507.4付近で、r方向に方程式系の係数がゆっくりと変化するような条件でのglobal solutionを求める。WKBJ漸近手法 右で定義したゆっくりと変化するRについて、支配方程式を解く。βg, ωgは全域で同じ値となる。 解の振幅によって2つのレジームがある。 1.小振幅。線形分散関係式によって、r方向の波長と減衰を考慮した複素数のαが得られる。(R<1) 2.有限振幅。非線形分散関係式によって、実数のαが得られる。(R>1) βg, ωgは「elephant全域モード」に特徴的な、伝達性不安定から絶対不安定へ移行する定在的な前線によって決まる。次図
6 Self-sustained spatially extended structure (2) 「elephant全域モード」の螺旋構造 αのr依存性 α 前線より内側へは減衰 非線形分散関係式より決まる実数の波数。 擾乱が溜まり、非線形波動の供給源となる。 r
7 Secondary stability analysis 場を基本流+非線形波動(新しい基本場)と、第二段階の擾乱場に分ける。 無限小振幅擾乱場は以下のように書ける。ハットつきのα、ωは複素数、βは整数である。 線形化した局所支配方程式にこれらを代入して得られた分散関係式から、ある非線形波動(α、β、R)において、α、βに対する振動数が決まる。 波数は第一段階非線形波動の波数ベクトルの向きεに対して記述すると分かりやすい。aがεと同じ向き、bが直交する向きの波数を示す。
7.2 Secondary temporal analysis αは実数とする。 β b/a ほぼ全域で成長率は正。つまり不安定。 a/a α
7.3 Secondary absolute instability and transition 絶対値 z 上方で絶対値0 絶対不安定であるかどうかは、上式の絶対振動数によって判断できる。 R=510, β=68, α=0.35の非線形波動において、ハットつきのβ=20で成長率は正であった。 つまり絶対不安定。 螺旋渦が観測されない原因。 左図:上のパラメータの下での第二段階擾乱場のvの構造。絶対値と実部を示す。点線は基本流+非線形波動の流速。 φ=3π/2で固有関数の振幅最大。鉛直シアー最大の位相と一致。 実部 φ
8 Conclusion Karman境界層の振る舞い:elephant global modeによって解析できる 1.絶対不安定領域の内側境界Rcaで有限振幅に達した擾乱が形成 2.外側に螺旋を描くcrossflow vorticesを発生させる 3.しかしこの有限振幅波動は、第二段階の擾乱に対して絶対不安定 4.よって、 Rcaで層流から乱流へ急激に移行する 第二段階の擾乱は、第一段階のcrossflow vorticesからエネルギーを引き出すので、乱流状態はRcaから内側には進まない。 第一段階のcrossflow vorticesはすぐに消し去られるにもかかわらず、乱流への移行にとって本質的である。 これまでの観測: 観測される螺旋渦の腕の数はまちまち ←回転盤のデコボコが原因 乱流へ移行する半径はほぼ同じ ←Karman境界層に備わった性質