第32回MR基礎講座 (関西) 2010.7.31 京都国際会館 画像法の原理(6) 拡散画像2 荏原病院放射線科 井田正博
MR拡散測定 Stejskal-Tanner法 Spin-echo 180°位相収束パルスの前後にMPGパルスを等時間隔に印加 静止しているプロトン 位相変化が打ち消される→信号低下しない 拡散しているプロトン 位置移動→MPGが異なる 位相変化→信号低下 MPG: Motion Probing Gradient
位相 phase w1 = g B0 位相f1 = 角周波数w1 (= g B0 )・ 時間t 角周波数は静磁場に比例する。 w1 = g B0 w: 角周波数 (共鳴周波数) g : 磁気回転比 B0:静磁場 p/2 p/2 y = r sin wt wt p 2p 360° p 2p 4p 直径r 位相f1 = 角周波数w1 (= g B0 )・ 時間t
位相がずれる = Dephase w2 = g B0 + DB 位相f2 = 角周波数w2 (= B0 + DB) ・ 時間t 角周波数は静磁場に比例する。 傾斜磁場DBを印加 w2 = g B0 + DB w: 角周波数 (共鳴周波数) g : 磁気回転比 B0:静磁場 1.49T 1.50T 1.51T z 静磁場方向 p/2 p/2 y = r sin wt wt p 2p 360° p 2p 4p 直径r 位相f2 = 角周波数w2 (= B0 + DB) ・ 時間t
磁場勾配を加える 距離zの磁場 B0 + G・ z そのときの共鳴周波数 w = g (B0 + G・ z ) 磁場勾配G (T/m) 距離zの磁場 B0 + G・ z G :磁場勾配 (T/m) z : 原点からの距離 (m) B0 :静磁場 そのときの共鳴周波数 w = g (B0 + G・ z ) w = g B0 + g G・ z w = w0 + wz 時間 位置 磁場勾配G (T/m) 位置z (m) 磁場勾配を印加すると角周波数が変化する。 変化した周波数 wz = g G・ z 磁場 G (T/m)・ z (m) 局所磁場が異なる
磁場勾配を加える 磁場勾配を印加すると周波数が変化する。 wz = g G・ z 両側に時間t を掛ける 磁場勾配G (T/m) 磁場勾配を印加すると周波数が変化する。 wz = g G・ z 両側に時間t を掛ける wz ・ t = g G・ z ・ t 位相=周波数・時間なので、位相は f (z, t) = g G・ z ・ t 位相は印加した磁場勾配の時間の関数で変化する 位相変化は勾配磁場印加の面積に比例する 時間 位相f 時間
双極傾斜磁場の印加 磁場勾配G (T/m) 1 双極傾斜磁場 f1 (z, t) = g G・ z ・ t 2 Rephase
双極傾斜磁場の印加 磁場勾配G (T/m) 1 2 双極傾斜磁場 f1 (z, t) = g G・ z ・ t 180°反転パルス 1 2 時間t 双極傾斜磁場 f1 (z, t) = g G・ z ・ t f2 (z, t) = g G・ z ・ t 時間2t後の位相変化 180反転パルス - f1 (z, t) = - g G・ z ・ t + f2 (z, t) = g G・ z ・ t f (z, t) = 0 t t 位相f 時間t Rephase
t 磁場勾配は0 位相変化なし 磁場 G (T/m)・ z (m) 局所磁場が異なる→ 位相変化 拡散による位置移動 MPGによる位相分散 拡散している分子Guassian分布 t 距離 磁場勾配G (T/m) 位置z (m) 磁場勾配は0 位相変化なし 磁場 G (T/m)・ z (m) 局所磁場が異なる→ 位相変化
磁場勾配G (T/m) 時間2t後の位相変化 静止しているプロトン f1 (z, t) = g G・ z ・ t 180反転パルス 180反転パルス - f1 (z, t) = - g G・ z ・ t + f2 (z, t) = g G・ z ・ t f (z, t) = 0 拡散プロトン f1 (z, t) = g G・ 2z ・ t - f1 (z, t) = - g G・ 2z ・ t + f2 (z, t) = g G・ 4z ・ t f (z, t) = g G・ 2z ・ t 180°反転パルス 1 2 時間t t t 位相f 時間t
磁場勾配G (T/m) 時間2t後の位相変化 静止しているプロトン f1 (z, t) = g G・ z ・ t 180反転パルス 180反転パルス - f1 (z, t) = - g G・ z ・ t + f2 (z, t) = g G・ z ・ t f (z, t) = 0 拡散プロトン (2z→4z) f1 (z, t) = g G・ 2z ・ t - f1 (z, t) = - g G・ 2z ・ t + f2 (z, t) = g G・ 4z ・ t f (z, t) = g G・ 2z ・ t 1 2 時間t t t 位相f 時間t
拡散画像 Stejskal-Tanner法 90deg 180deg Echo RF pulse 勾配磁場 静止プロトン 位相変化が打ち消される→信号低下しない Rephase 拡散プロトン 位置移動→MPGが異なる 位相変化→信号低下 Dephase MPG MPG 位相変化
t 磁場勾配は一定 位相変化なし 勾配磁場 G (T/m)・位置 z (m) 局所磁場が異なる→ 位相変化 拡散による位置移動 MPGによる位相分散 拡散している分子Guassian分布 t -p +p z1 z2 磁場勾配は一定 位相変化なし 勾配磁場 G (T/m)・位置 z (m) 局所磁場が異なる→ 位相変化
MPGによる位相分散 90゜ 180゜ MPG MPG 位相が揃う→ MR信号 高信号 位相が分散する MR信号の低下 静止 拡散 位置 位相が分散する MR信号の低下 拡散 拡散により位置移動→受けるMPGの大きさが異なる →拡散プロトンの位相分散→収束しない→MR信号がでない。 MPG印加方向の位置
MPGによる位相分散 90゜ 180゜ MPG MPG 腫瘍充実部分 拡散低下 高信号 位相が揃う→ MR信号 高信号 位相が分散する 静止 腫瘍充実部分 拡散低下 高信号 位相が揃う→ MR信号 高信号 位置 位相が分散する MR信号の低下 嚢胞変性部分 拡散亢進 低信号 拡散 拡散により位置移動→受けるMPGの大きさが異なる →拡散プロトンの位相分散→収束しない→MR信号がでない。 MPG印加方向の位置
MPGによる位相変化 静止しているプロトン 双極MPG→位相変化が相殺 拡散しているプロトン 拡散による位置移動 MPGが異なる z1 z2 静止しているプロトン 双極MPG→位相変化が相殺 拡散しているプロトン 拡散による位置移動 MPGが異なる 局所磁場は位置により異なる 勾配磁場、角周波数の時間積分に比例して位相分散が増強 D f1-2 = g G d (z1-z2) d: 拡散時間 信号低下 = wt 角周波数が時間で異なるとき、 位相は周波数の時間積分になる
勾配磁場の役割 本間一弘先生講義 76頁 スライス断面の選択 k空間への変換 抑制(スポイリング、アーチファクト除去) 強調(血流、拡散) 勾配磁場の役割 本間一弘先生講義 76頁 スライス断面の選択 k空間への変換 位相エンコード 周波数エンコード 抑制(スポイリング、アーチファクト除去) 強調(血流、拡散)
b値 b-value MPGs (motion probing gradients) の強さ MPG印加→拡散プロトンの位相が分散 b = g2 G2 d2 (D - d/3) g : 磁気回転比 (MHz) 静磁場により一定 G: MPGの大きさ (mT/m) d: MPG印加時間 D: MPG間隔 D - d/3: 拡散時間diffusion time 単位: s / mm2 G MPG MPG d d D The Stejskal - Tanner equation b = g2 G2 d2 (D - d/3)
b値 b-value b = g2 G2 d2 (D - d/3) 大きなb → 拡散強調 灌流の影響↓ G MPG d D 真の拡散を強調↑ b=400sec/mm2以上で拡散より大きな灌流の影響が無くなり,拡散強調の画像が得られる。 脳組織の拡散評価にはb=1000 sec/mm2以上 d D G MPG
拡散時間td b = g2 G2 d2 (D - d/3) 拡散時間 td = D - d/3 2つのMPGパルスの間に分子が拡散した時間
大きなb値のDWIを得るには b = g2 G2 d2 (D - d/3) MPG MPG MPG MPG G1 G2 d1 d1 d1 d1 D1 D1 G1 MPG MPG Gの増大 ハードウエアの限界 MPG印加時間の延長 位相分散 MPG印加間隔の延長 位置の移動↑⇒ 位相分散 d2 d2 D2 G1 MPG MPG d2 d2 TE, TRの延長→S/N低下 D3
MPG:Gを大きくすると G1 > G2 G2 G1 MPGが大きいと,位相分散も大きい 拡散がより強調される。
MPG: MPG間隔Dを大きくすると MPG印加間隔D2 > D1のとき 拡散による位置移動が増大→位相分散が大きくなる MPG
平均2乗変位 < x2 > = 2Dt 拡散による分子の平均変位距離の2乗は拡散係数と拡散時間に比例 自由拡散 (制限なし、たとえば脳脊髄液腔) t = 10 t = 20 t = 30 自由拡散では拡散係数は一定 拡散係数、時間に比例して飛程距離が増大
平均2乗変位 < x2 > = 2Dt 拡散による分子の平均変位距離の2乗は拡散係数と拡散時間に比例 制限拡散 (生体組織、たとえば細胞小器官 ) 半径d t = 10 t = 20 t = 20 制限拡散 では拡散時間の延長とともに拡散係数は減少 x2 < d2 D < d2 /2t
自由拡散と制限拡散 自由拡散 細胞外 脳脊髄液腔、膀胱、嚢胞性腫瘤 拡散を制限する構造がない 粘稠度に比例 制限拡散 細胞内(小器官) 拡散を制限する隔壁 制限拡散 では拡散時間の延長とともに拡散係数は減少
組織のADC (10-3 mm2/s) Tanner SF. AJR 174: 1643-1649, 2000 Adult Term Preterm 大脳皮質 0.87 1.20 1.29 大脳白質 0.79 1.62 1.90 脳梁 0.75 1.11 1.43 脳脊髄液 3.3 2.87 3.08 脳実質は0.8 脳脊髄液は3
SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD 拡散画像のMR信号 b: b値 D: 拡散係数 MR 信号 SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD プロトン密度 T1緩和 縦緩和 縦磁化の回復 T2緩和 横緩和 横磁化減衰 拡散 拡散画像 長いTR 長いTE (1 - e -TR/T1) ≒ 1 TR 長い TR 短い TE 長い T2強調画像 短い プロトン密度強調画像 T1強調画像
SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD 拡散画像のMR信号 拡散係数を求める MR 信号 SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD プロトン密度 T1緩和 縦緩和 縦磁化の回復 T2緩和 横緩和 拡散 S(h) = S (0) ・ e –bD log S (h) = log S (0) + (-bD) log S (h) / S (0) = - bD D = [ log S (h) / S (0) ] / -b
SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD 拡散画像のMR信号 拡散係数を求める b: b値 D: 拡散係数 MR 信号 SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD プロトン密度 T1緩和 縦緩和 縦磁化の回復 T2緩和 横緩和 拡散 S(h) = S (0) ・ e –bD log S (h) = log S (0) + (-bD) log S (h) / S (0) = - bD D = [ log S (h) / S (0) ] / -b 拡散強調画像の信号S (h) とT2強調画像の信号S (0)がわかれば拡散係数Dは求まる。
拡散係数 Diffusion Coefficient b=0画像の信号と拡散強調画像の信号比から D = - ln [ S(h) / S (0) ] / b b = 1000,0 を測定する. D = - ln [ S(1000) / S (0) ] / 1000
IVIM :intravoxel incoherent motion 中枢神経では灌流の占める割合は数% 灌流速度は拡散速度に比較して大きいため、b値を大きくすれば(>400ms)、灌流の影響は最小に みかけの拡散係数ADC Apparent Diffusion Coefficient 拡散+微小循環(灌流)の成分も含んだ拡散係数 拡散 “Incoherent”
SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD 拡散画像のMR信号 拡散係数を求める MR 信号 SI = N(H) ・ (1 - e -TR/T1) ・ e -TE/T2 ・ e -bD プロトン密度 T1緩和 縦緩和 縦磁化の回復 T2緩和 横緩和 拡散 S(h) = S (0) ・ e –bD log S (h) = log S (0) + (-bD) log S (h) / S (0) = - bD D ≒ ADC = [ log S (h) / S (0) ] / -b
みかけの拡散係数 ADC 拡散+微小循環(灌流) ADC ≒ D + ( f / b ) b値が小さいとADCは過大評価される。
Standard b-value b=1000 T2値(T2 shine-through)や灌流の影響が抑制 拡散のみを強調 拡散異方性 diffusion Perfusion
High b-value b=3000 b=1000 T2値(T2 shine-through)や灌流の影響が抑制 拡散のみを強調 拡散異方性 小さい拡散のみを強調 拡散異方性低下 SN低下
b値と拡散強調 流速大 b = 50 b = 500 b = 1000 b = 3000 灌流(血流) 大 ←← 拡散 →→ 小 静止 b = 50 b = 500 b = 1000 b = 3000 灌流(血流) 大 ←← 拡散 →→ 小 静止 b値を大きくすると 潅流や速い拡散が対象外 遅い拡散成分の分解能が向上する “ b値は拡散強調画像のWindow 幅” ADCの小さい組織が強調がされる