オホーツク海における海氷‐海洋生態系モデルの基礎的研究 平成19年2月12日 工学部システム創成学科 環境エネルギー・システムコース 応用流体工学研究室 60778 川内 雅雄 指導教員 山口一教授
発表の流れ 序論(背景・目的など) 序論(背景・目的など) 計算モデル 計算設定 計算結果・考察 結論・成果
研究背景 ~オホーツク海~ オホーツク海は 水産資源が豊富 季節海氷域 閉じた海 アムール川からの淡水流入 →表層付近の塩分が薄くなる 研究背景 ~オホーツク海~ 閉じた海 アムール川からの淡水流入 →表層付近の塩分が薄くなる 冬季の北西からの冷たい風 オホーツク海は 水産資源が豊富 北半球でもっとも低緯度の凍る海 季節海氷域 Lapco and Radchenko, Sea of Okhotsk, Marine Pollution Bulletin Vol.41, 200
研究背景 ~栄養塩の巻き上げ~ 海氷生成・成長 海氷生態系 海氷底部・内部にアイスアルジー(ice algae)という藻類が存在。 冬季でも活発な光合成。 海氷生態系 海氷生成・成長 高濃度の塩分水(ブライン)の排出 →鉛直方向の対流 →深海部の栄養分が表層へ →表層植物プランクトンが豊富に →豊かな生態系 海洋生態系 (応用流体工学研究室HPより)
研究背景 ~オホーツク海~ 海氷が生態系の鍵 →地球温暖化による海氷面積の減少が懸念 →地球温暖化による海氷面積の減少が懸念 サハリンプロジェクトなどの資源開発での 万一の事故による生態系への影響 オホーツク海の生態系を再現し、 そのメカニズムを解明することが必要!!
既往研究(氷海域の生態系モデル) 西(2004) 伴(2007) 海氷生態系と海洋生態系に分けて結合 低次生態系を表現 サロマ湖及びオホーツク海の一部 西のモデルと海氷‐海洋連成モデル を結合 オホーツク海全域
研究目的・流れ 生態系モデルの改良へ 最終目標:オホーツク海の生態系のメカニズムの解明 計算負荷が大きく、 生態系モデルの改良を 最終目標:オホーツク海の生態系のメカニズムの解明 計算負荷が大きく、 生態系モデルの改良を 行うのが困難 伴(2007)のモデル若干改良 *海洋‐海氷データは外部入力として 生態系モデル部のみを分離する *タイムステップを大きくとる →計算負荷の低減 生態系モデルの改良へ
発表の流れ 序論(背景・目的など) 計算モデル 計算設定 計算結果・考察 結論・成果
モデル(全体図) 一つ目のモデル 二つ目のモデル 生態系モデルのみを分離 1way方式 海洋生態系モデル 海氷生態系モデル 海洋モデル (MECモデル) 海氷モデル (DMDFモデル がベース) 連成計算 計算結果 海洋‐海氷連成モデル 佐川(2007) 二つ目のモデル 海洋および海氷に関するデータは 外部入力(1日毎または10日毎)として 生態系モデルのみを分離 1way方式 海洋生態系モデル (アイスアルジー・ 植物プランクトン) 海洋生態系モデル 海氷生態系モデル 海氷生態系モデル (アイスアルジー) 海洋‐海氷結合 生態系モデル 西(2004) 連成計算 生態系間での物質収支を数値モデル化
海氷生態系 光合成 アイスアルジー DOM 栄養塩 POM オパール 動物プランクトン 細胞外排出 摂取 移行 捕食 枯死 無機化 排出・死亡 排泄 動物プランクトン 海氷生態系 海洋生態系
海洋生態系 光合成 アイスアルジー 植物プランクトン DOM POM 栄養塩 オパール 動物プランクトン 海氷生態系 海洋生態系 剥がれ落ちる 捕食 海氷生態系 海洋生態系 光合成 細胞外排出 植物プランクトン DOM 摂取 移行 栄養塩 捕食 POM 枯死 無機化 オパール 排出・死亡 排泄 動物プランクトン
生態系モデル 変数の数: 海洋生態系(19個)→水粒子と共に移流 海氷生態系(15個)→海氷と共に移流 変数の時間変化を表現する方程式 海氷生態系(15個)→海氷と共に移流 変数の時間変化を表現する方程式 生物化学変化項 移流拡散方程式(海洋‐海氷物理モデルより)
変数の変動要素 海氷生態系 海洋生態系 生物化学過程変化 生物化学過程変化 2次元の移流拡散 3次元の移流拡散 (←海氷計算より) (←海氷計算より) カップリングに伴う海洋生態系からの物質収支 生物化学過程変化 3次元の移流拡散 (←海洋計算より) カップリングに伴う海氷生態系からの物質収支 非溶存物の沈降
発表の流れ 序論(背景・目的など) 計算モデル 計算設定 計算結果・考察 結論・成果
計算条件 計算対象領域 -オホーツク海全域 -境界は全て閉境界 計算格子 -3次元直行格子 -水平方向:25kmメッシュ 70x89 -オホーツク海全域 -境界は全て閉境界 計算格子 -3次元直行格子 -水平方向:25kmメッシュ 70x89 -鉛直方向:24層(非均等) 計算期間 -11/1~7/1(海氷存在時期) オホーツク海水深データ[m]
入力データ 地形データ:ETOPO5 5分メッシュ水深データ(前スライド) 海況:WOA2001 水温・塩分データ(月平均) -10月と11月の月平均データの平均を計算初期値に使用 生態系:WOA2001 生態系データ(季節平均、秋季) -クロロフィル、動物プランクトン、窒素、リン、珪素を計算初期値に使用 気象データ:NCEP/NCAR 大気再解析データ(月別気候値) -開水域の海水面および海氷表層の境界条件として使用 海氷・海洋データ:佐川(2007)の海氷・海洋連成物理モデルの計算結果 -非結合型生態系モデルのみ
発表の流れ 序論(背景・目的など) 計算モデル 計算設定 計算結果・考察 結論・成果
これが計算結果上で再現出来ているかを検証する。 春季ブルーム 春季にオホーツク海において海氷の後退に伴って表層の植物プランクトンが急激に増える現象のこと。 冬季:鉛直混合による深部から表層への栄養塩の巻き上げ 春季:深部からの鉛直混合が弱くなり、表層付近に栄養塩が大量に存在 これが計算結果上で再現出来ているかを検証する。 春季ブルーム 角田(2007)より リモートセンシングによる表層クロロフィルデータ
結果・考察対象領域 境界は全て閉境界。 その影響を少なくする ためオホーツク海中心 部に絞る。 対象とした領域(赤四角部) 東経149度~150度 北緯53度~54度
海洋‐海氷計算(混合層1) 氷海域の生態系には鉛直方向の混合が大きな役割 氷海域の生態系には鉛直方向の混合が大きな役割 鉛直方向の流速が最大となる鉛直層が、その日で鉛直方向の混合が一番起きている層番号 各層における鉛直方向流速[m/s]の分布、2/19(左)・5/20(右) 5 25 62.5 112.5 175 275 450 650 850 1050 1250 1450 深さ[m] 2/19の鉛直流速分布 5/20の鉛直流速分布 ←Kmix=18 ↑Kmix=2
海洋‐海氷計算(混合層2) 4/10~20において Kmixが900m以上上昇 depth 0 m 15 m 40 m 87.5 m
海洋‐海氷計算(混合層3) depth[m] 2.5 10 20 32.5 51.25 75 100 125 156.25 200 250 2.5 10 20 32.5 51.25 75 100 125 156.25 200 250 312.5 400 500 600 700 800 900 depth[m]
海洋‐海氷計算(混合層4) 冬季:鉛直混合は主に深部 春季:鉛直混合は主に表層部(深部からの鉛直 対流は弱まる) depth 0 m 15 m 40 m 550 m 750 m 950 m 1150 m 87.5 m 137.5 m 225.5 m 350 m 冬季:鉛直混合は主に深部 春季:鉛直混合は主に表層部(深部からの鉛直 対流は弱まる) 現実(氷海域の挙動)をよく表している 4/10~20以降において 第2,3層の鉛直方向の対流が増加 表層付近の鉛直混合(Wave(1,2,3,4))の時間変化
生態系計算(春季ブルーム) クロロフィル濃度[mg/m3] 計算結果 青丸を赤丸に近づけたい →植物プランクトンに関する 比較する実測データはリモートセンシングのデータ 比較するのはクロロフィル濃度 →計算結果は海洋生態系の表層植物プランクトンなので、それをクロロフィル ‐植物プランクトン比の60で割ったもの 計算結果 青丸を赤丸に近づけたい →植物プランクトンに関する パラメータ調整を行う クロロフィル濃度[mg/m3] 実測値 日付[month/day]
パラメータ調整(狙い) 植物プランクトンの生物化学過程の式 B(PHYw)(植物プランクトン中の炭素量) 植物プランクトンの生物化学過程の式 B(PHYw)(植物プランクトン中の炭素量) = (Photosynthesis=光合成) - (Respiration=呼吸) - (Grazing=動物プランクトンによる捕食) - (Extarcellular excretion=細胞外排出) - (Mortality=枯死) 光合成量を増やす、呼吸量・被捕食量・枯死量を減らせば植物プランクトンの量が増加するはず。
パラメータ調整 光合成係数:2倍 枯死係数:1/2倍 被捕食圧:1/2倍 光合成温度依存係数:2倍 呼吸温度依存係数:2倍 各々、独立または組み合わせてパラメータ調整を行い、 計算を行った。
このあと減少してブルーミングとなる可能性がある。 パラメータ調整(計算結果) リモートセンシングによる実測値 光合成係数(水温依存)2倍 光合成係数(水温依存)2倍かつ 呼吸係数(水温依存)1/2倍 このあと減少してブルーミングとなる可能性がある。 クロロフィル濃度[mg/m3] 呼吸係数(水温依存)1/2倍 元の計算結果 日付[month/day] パラメータ調整後の計算結果の比較
栄養塩(ケイ酸)比較 春季ブルームの発生 ケイ酸濃度[mgSi/m3] 日付[month/day] 元の計算結果 光合成係数(水温依存)2倍 光合成係数2倍 日付[month/day]
パラメータ調整計算(まとめ) 海洋‐海氷計算において、水温などで春季が十分に表現されていない。→入力データの改善。 感度が高いものは光合成量。 温度依存係数以外の係数を調整すると春季より前に栄養塩枯渇をする。 温度依存係数の調整により冬季の間に栄養塩枯渇となるのは避けられたが、明確な春季ブルームの再現には至ってない。 海洋‐海氷計算において、水温などで春季が十分に表現されていない。→入力データの改善。 生態系モデル自体が西(2004)のサロマ湖用のものであり、オホーツク海の環境には適していない。→変数の変更、追加などが必要。
発表の流れ 序論(背景・目的など) 計算モデル 計算設定 計算結果・考察 結論・成果
結論・成果 伴(2007)のモデルを改良、生態系部の分離を行い、計算負荷の軽減を達成した。 海氷‐海洋計算部位においては、春季ブルームの発生要因の一つである混合層の存在が再現出来た。 春季ブルームのおおまかな再現が出来た。また、明確なる春季ブルームの再現に向けたモデル改善の有益な情報となりうるパラメータの感度などが得られた。
fin. 御静聴どうもありがとうございました。
海氷厚さ分布の変移(4月)
混合層平均
混合層(水温比較) 対象領域内での一点における水深方向の水温分布の移り変わり 水温[℃] 水温[℃] 2/19 5/20
混合層(塩分比較) 対象領域内での一点における水深方向の塩分分布の移り変わり 塩分[‰] 塩分[‰] 2/19 5/20
混合層(密度比較) 対象領域内での一点における水深方向の密度分布の移り変わり ポテンシャル密度 ポテンシャル密度 2/19 5/20
結合型と非結合型モデル 大きな違いは見られない。 *全て表層植物プランクトンの計算開始より5ヶ月経過後の4/1のデータ。 海氷-海洋連成計算非結合型生態系モデル(dt=600[s]) データ入力1[day]and10[day]毎 海氷-海洋連成計算結合型生態系モデル(dt=60[s])データ入力60[s]毎 海氷-海洋連成計算非結合型生態系モデル(dt=60[s]) データ入力1[day]and10[day]毎 *全て表層植物プランクトンの計算開始より5ヶ月経過後の4/1のデータ。 表示スケールは全て20~160[mgC/m3]。 生態系モデルの改良は計算負荷の少ない非結合型(dt=600[s])を用いることが出来る。 大きな違いは見られない。
海氷・海洋間の物質交換を数値モデル化し、 生態系モデル 海氷生態系 海洋生態系 剥がれ落ちたアイスア ルジー・植物プランクト ンを一次生産者として 数値モデル化 アイスアルジーを 一次生産者として 数値モデル化 海氷・海洋間の物質交換を数値モデル化し、 結合→海洋・海氷生態系モデルに
パラメータ調整(計算結果1)
パラメータ調整(計算結果1栄養)
パラメータ調整(計算結果2)
パラメータ調整(計算結果2栄養)
パラメータ調整(計算結果栄養)
海洋計算モデル MEC (Marine Environment Committee)モデルを利用 運動支配方程式:NS方程式と連続の式 *静水圧近似(流体の圧力は静水圧のみ)で計算 *ブシネスク近似:静水圧計算以外では海水の密度は一定値ρw 運動支配方程式:NS方程式と連続の式 NS方程式 静水圧近似 連続の式
海洋計算モデル 水温(T)と塩分(S)の支配方程式:移流拡散方程式 計算格子:鉛直方向にz座標を設定、3次元直交格子 変数:スタッガードグリッドに配置
海氷計算モデル 海氷の相互干渉力:DMDF (Distributed Mass / Discrete Floe) モデル 海氷を氷盤の集合体とし、計算格子ごとに配列 海氷の運動方程式 風、海からの応力 海面傾斜力 コリオリ力 相互干渉力
海氷計算モデル 新氷形成 水温が結氷温度以下 →氷厚と密接度が設定した最小値である氷形成 氷の成長・融解 大気‐海洋‐海氷間の熱フラックス →氷厚(鉛直方向)、密接度(水平方向)の変化を それぞれ計算
ブルーミング オホーツク海内部では 春季ブルーム及び 秋季ブルーム オホーツク海外部では 夏季ブルーム 斉藤ら(1996)