Ellerman Bombを伴う浮上磁場領域の 偏光磁場観測

Slides:



Advertisements
Similar presentations
初期に複数のピークを示す古典新星 のスペクトルの変化 1 田中淳平、野上大作 ( 京都大学 ) 藤井貢 ( 藤井美星観測所 ) 、綾仁一哉 ( 美星天文台 ) 大島修 ( 水島工業高校 ) 、川端哲也 ( 名古屋大学 )
Advertisements

宇宙ジェット形成シミュレー ションの 可視化 宇宙物理学研究室 木村佳史 03S2015Z. 発表の流れ 1. 本研究の概要・目的・動機 2. モデルの仮定・設定と基礎方程式 3. シンクロトロン放射 1. 放射係数 2. 吸収係数 4. 輻射輸送方程式 5. 結果 6. まとめと今後の発展.
オリオン星形成領域における 前主系列星の X 線放射の 長期的時間変動 京大理 ○ 兵藤 義明 中嶋 大 高木 慎一郎 小山 勝二 /23 天文学会 秋季年会 P39a もくじ  星の長期的変動  今回行った解析  まとめ.
YohkohからSolar-Bに向けての粒子加速
極紫外撮像分光装置 (EIS) 国立天文台 渡 邊 鉄 哉
市販Hα太陽望遠鏡を 飛騨DSTで測定した結果の報告
太陽フレアの磁気リコネクション流入流の発見
2005年8月24日の磁気嵐を 引き起こしたフレア・CMEと、 活動領域NOAA 10798のアネモネ構造
ビッグデータ解析手法を用いた 宇宙天気予報アルゴリズムの開発
星間物理学 講義3資料: 星間ガスの熱的安定性 星間ガスの力学的・熱的な不安定性についてまとめる。星形成や銀河形成を考える上での基礎。
W31A領域に付随する 水蒸気メーザーによる3次元的速度構造
2001年4月10日のフレアにおける、磁気ヘリシティ入射
2001年4月10日のフレアにおける、 磁気ヘリシティ入射率の研究
山口大学電波グループ ブレーザー電波データの紹介
フレア星EV Lacの 超低分散高速分光観測
AOによる 重力レンズクェーサー吸収線系の観測 濱野 哲史(東京大学) 共同研究者 小林尚人(東大)、近藤荘平(京産大)、他
太陽観測衛星「ひので」によって明らかになった短寿命水平磁場と その起源について
輻射優勢円盤のMHD数値実験 千葉大学宇宙物理学研究室 M2 松尾 圭 Thu.
謎の惑星スーパーアースを探れ! 国立天文台・成田憲保.
NGC4151(活動銀河核)の ブラックホールの観測
そもそも、私は分担者やその共同研究者ではない
2m電波望遠鏡の製作と 中性水素21cm線の検出
実習 「太陽の光球面のようすを調べよう」 「太陽の黒点の温度を求めよう 」
下条 圭美 国立天文台・野辺山太陽電波観測所
2003年12月2日 課題研究ガイダンス (3分) S2 太陽物理 柴田一成 花山天文台 北井礼三郎 飛騨天文台.
すざく衛星による、2005年9月の太陽活動に起因する太陽風と地球大気の荷電交換反応の観測
研究会「Solar-B時代の太陽シミュレーション」
フレアにおける Haカーネルと 硬X線/マイクロ波放射
Taurus-Auriga association
銀河物理学特論 I: 講義1-4:銀河の力学構造 銀河の速度構造、サイズ、明るさの間の関係。 Spiral – Tully-Fisher 関係 Elliptical – Fundamental Plane 2009/06/08.
Real-time Frame Selector 2 and Convective Structure in Emerging Flux Region 高津 裕通.
これまでの研究のまとめ: 「太陽フレアのリコネクションレートの統計解析」 今後の研究
SAX J1748.2−2808 からの 3 つの鉄輝線と593 秒周期の発見
京都大学大学院理学研究科 附属天文台(飛騨天文台)
磁気リコネクション (Craig-Henton解の安定性) ~シミュレーションサマースクール@千葉大より~
磯部洋明 京都大学花山天文台 波動加熱勉強会 2004年2月23日
マイクロ波と硬X線での プリフレア相の様子
YT2003 論文紹介 荻原弘尭.
フレア・CMEトリガーメカニズムの数値シミュレーション
磁気浮上領域での太陽ジェットと エネルギー解放
実習課題B 金属欠乏星の視線速度・組成の推定
星形成時間の観測的測定 東大天文センター M2 江草芙実 第4回 銀河shop 2004/10/19.
星間物理学 講義1: 銀河系の星間空間の世界 太陽系近傍から銀河系全体への概観 星間空間の構成要素
第24太陽周期はどうなるのか 1.観測速報 石井 貴子1、磯部 洋明2、 北井 礼三郎1,2、柴田 一成1,2 1京都大学・理・天文台
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
論文紹介 Type IIn supernovae at redshift Z ≒ 2 from archival data (Cooke et al. 2009) 九州大学  坂根 悠介.
2. 浮上磁場とリコネクション 様々な太陽のジェット現象 -----宮越 2. 対流現象を粒子で追いかける -----野澤
太陽フレアと彩層底部加熱に関する 観測的研究
銀河物理学特論 I: 講義2-1:銀河中心の巨大ブラックホールと活動銀河中心核
新潟大学集中講義 ープラズマ物理学特論ー (天体電磁流体力学入門) 2004年1月19日ー1月21日
下降流(Downflow)の観測と磁気リコネクション
浮上磁場はこれからだ 茨城大学 野澤恵 2006/6/15 13:30-14:00 東大地球惑星
星間物理学 講義1の図など資料: 空間スケールを把握する。 太陽系近傍から 銀河系全体への概観、 観測事実に基づいて太陽系の周りの様子、銀河系全体の様子を概観する。それぞれの観測事実についての理解はこれ以降の講義で深める。 2010/10/05.
フレア・CMEのトリガー機構と エネルギー解放過程
MHD Simulation of Plasmoid-Induced-Reconnection in Solar Flares
応用課題: 磁気リコネクション—Craig解2 (担当:柴田・田沼)
2006 年 11 月 24 日 構造形成学特論Ⅱ (核形成ゼミ) 小高正嗣
スターバースト銀河NGC253の 電波スーパーバブルとX線放射の関係
400MHz帯ウィンドプロファイラとCOBRAで観測された台風0418号の鉛直構造
すばる /HDSによる系外惑星 HD209458bの精密分光観測
すばる/HDSによる系外惑星HD209458bの精密分光観測
浮上磁場に伴う磁気リコネクションのMHDシミュレーション(ES)
地上分光観測による金星下層大気におけるH2Oの半球分布の導出
すばる&マグナム望遠鏡による 系外惑星トランジットの 同時分光・測光観測
Preflare Features in Radios and in Hard X-Rays
フレアリボン内の微細構造で探るエネルギー解放機構
磁気リコネクションによる Alfven波の発生
「ひので」EIS*によって観測された、フレアに付随する強いブルーシフト現象について
太陽フレアの基礎 磯部洋明 京都大学宇宙ユニット.
2011年8月9日の巨大フレアに伴う Ha線モートン波とEUV波現象、および プロミネンス/フィラメント振動について (Asai et al
Presentation transcript:

Ellerman Bombを伴う浮上磁場領域の 偏光磁場観測 ○渡邉皓子、岡本健太、 北井礼三郎、西田圭佑、 清原淳子、上野悟、 柴田一成 (京都大学) 発表時間:9分 Ellerman Bombを伴う浮上磁場領域の偏光磁場観測というタイトルで発表さ せていただきます、 京都大学理学研究科修士1年の渡邉皓子です。 よろしくお願いします。

Ellerman Bombとは? Hα wing(彩層下層)で観測される約1000kmのサイズをもつ小さな領域での増光現象 典型的寿命 20分 1917年Ellermanによって発見 reconnectionによる加熱説が有力 Ellerman Bombとは、Hα wingなど、彩層下層を見るラインで観測される、約1000kmのサイズをもつ 小さな領域での増光現象を言います。 右下図はHα wingのイメージで、黒点付近には多くのEllerman Bombがあります。 典型的寿命は20分ほどで、1917年にEllermanによって発見されて以来、さまざまな研究がなされてきました。 メカニズムについては、磁気リコネクションによって彩層下部の加熱という説が有力とされています。 左の絵はHαのスペクトルです。Ellerman Bombはこのように、line centerでは暗く、wingが広い範囲で光るという 特徴をもちます。 Ellerman Bombの 特徴的プロファイル これとか これとか Hα line center ドームレス太陽望遠鏡    Hα-0.8Åの画像 15000km

飛騨天文台でのEllerman Bombの観測 ドームレス太陽望遠鏡 Hα-0.8Åの画像 Kurokawa et al. (1982) 楕円型、サイズ: 800km x 400km Kitai et al. (1983) Hα profile: 彩層中の温度と密度の高い、上昇しているlayerで形成される Matsumoto et al. (2008) Ellerman Bombの上空にHαサージを観測 15000km Hα profile of an EB (ΔT=1500K, ρ/ρ0=5) (6 km/s) 飛騨天文台では、これまでに多くのEllerman Bombの観測がなされてきました。 1982年のKurokawa et al.では、Ellerman bombの形が円ではなく、楕円形であることがわかり、 1983年のKitai et al.では、Ellerman Bombを特徴づけるHαスペクトルでwingに広がった輝線の説明として、 彩層中の温度と密度の高い、上昇している層がこのようなスペクトルを形成している、ということを発表しました。 最近では、2008年のMatsumoto et al.で、Ellerman Bombの上空にHαサージがあり、 これはmagnetic reconnection説の証拠である、という論文があります。 今日発表しますのは、この間submitしてまだアクセプトされていない論文に関するものです。 Watanabe et al. (2008), submitted 偏光磁場観測装置(Vector magnetograph)を用いた活動領域の長時間観測

Vector magnetograph 鉄630.25nm付近の吸収線を撮影 大気モデルを仮定して計算すると、光球での3次元磁場情報が得られる Stokes I Stokes Q 630.15nm 630.25nm Stokes U Stokes V

Observation 機器 飛騨天文台 ドームレス太陽望遠鏡 Hα filtergram, Vector magnetograph 機器 飛騨天文台 ドームレス太陽望遠鏡       Hα filtergram, Vector magnetograph 対象 NOAA10917 日時 2006年10月22日 スリット固定(tracking), 観測時間: 110分, cadence: ~40秒, 空間分解能: 0.275″(200km) Hα−0.8Å 40万km Hα+0.8Å スリット 観測は飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡を用いました。 ドームレス望遠鏡では、Hαリオフィルターによるイメージ撮像と、鉄6302.5のラ インでのfull Stokesベクトル磁場観測を同時に行なうことができます。 この二つの機器を同時に用いて、おととしの10月22日、NOAA10917という活 動領域を観測しました。 左側は同じ日に同じく飛騨天文台にあります、SMART望遠鏡で撮影した NOAA10917で、西に33°の所に位置しています。 右はドームレス望遠鏡で撮影したHα像で、Ellerman Bombはラインセンター から-0.8Åずれたところで撮ったイメージで一番良く見えます。 ラインセンターで撮ったイメージにたくさんのダークフィラメントがあることから も、この領域が発達したemerging flux regionであることが わかります。 ******************************* ************************** 観測に用いた波長はHα-5(連続光)、-1.2,-0.8,-0.5,0.3,center,0.3,0.5,0.8,1.2の 10種類です。 飛騨天文台SMART で観測した10/22の Hα太陽全面像 Hα center Hα−5.0Å

Hα −0.8Å  movie 活発な浮上磁場領域である フレアは起こっていない 35km/s

方法 Vector magnetographで光球の磁場,速度場の時間変化を調べる Hα wing imageで、Vector magnetographのスリットに近接しているEllerman Bombの位置を調べる Ellerman Bomb(彩層下層)が起こっている下の光球の磁場の様子に、 共通する特徴がないか スリット

結果 Ellerman Bombは、 (a) 浮上磁場の足元 (b) 浮上磁場のtop に位置している。 EB: Ellerman Bomb EFT: emerging flux tube Hαフィルターグラムで同定したEllerman BombとVector magnetographで見つけたEmerging flux tubeの 位置関係をまとめると、このようになりました。 emerging flux tubeの足元にあるものが大多数で、頂上にあるものもありました。 20000km

浮上磁場 (emerging flux) Doppler velocity の分布 inclination angle の分布 我々はEllerman bombとemerging flux tubeの位置関係に焦点をあてて調べました。 Vector magnetographのデータを解析することにより、磁場強度、磁力線の傾き角、ドップラー速度など が得られます。 それらのデータを読み取り、3つの小さなemerging flux tubeを発見しました。 emerging fluxはこの例にあるように、中央付近で磁場の傾き角が水平より下向きから水平より上向きに変わります。 また、中央には上昇流があり、足元付近では重力によりガスが磁力線に沿って落ち込むため、下降流が観測されます。 このような特徴を持つ領域をemerging flux tubeと考えました。

結果 Ellerman Bombは、 (a) 浮上磁場の足元 (b) 浮上磁場のtop に位置している。 EB: Ellerman Bomb EFT: emerging flux tube Hαフィルターグラムで同定したEllerman BombとVector magnetographで見つけたEmerging flux tubeの 位置関係をまとめると、このようになりました。 emerging flux tubeの足元にあるものが大多数で、頂上にあるものもありました。 20000km

Schematic model of EBs x x x x x x (a) (b) 浮上磁場の足元 既存磁場と浮上磁場の間での reconnection (b) x x 浮上磁場のtop 光球より上空にあるlocally dipの 場所でのreconnection もしくは 浮上磁場が既存磁場にぶつかる とき起こるreconnection それぞれのモデル。 x x

浮上磁場のメカニズム 磁場の水平成分が、 Parker不安定性の特徴的 波長で波打っていることを 発見 Parker不安定の条件 Isobe et al.(2007) Parker不安定の条件 (ガス浮力)>(磁気張力) (H: pressure scale height) スリット 次にどのようにして磁力線が浮上するのかについても、観測的結果が得られましたので紹介します。 Ellerman bombが起こっている付近の光球での磁力線の水平成分は、この図のように、左右に波打っていることがわかります。 また、その波長は 磁場の水平成分が、 Parker不安定性の特徴的 波長で波打っていることを 発見

Parker不安定性の証拠 真上から見た図 さらに浮上 圧力小 浮上 圧力大 光球面 横から見た図

Summary 浮上磁場領域の磁場の鉛直成分だけでなく、水平成分にもParker不安定性の特徴的波長を発見 Ellerman Bombは、光球での浮上磁場の足元、もしくは浮上磁場のtopで多く観測される 浮上磁場領域の磁場の鉛直成分だけでなく、水平成分にもParker不安定性の特徴的波長を発見 以上まとめます。 鉄6302.5Åのラインで偏光磁場観測をし、EBが小さなemerging fluxの足元、もしくは頂上付近で起こっているということがわかりました。 過去の研究では足元で良く起こるということは知られていましたが、頂上でも起こる、ということはあまり観測例がないと思います。 また、光球でのemerging fluxの特徴的長さとしてParker不安定性の起こる長さがありますが、今回我々は 磁場の水平成分にもParker不安定性の特徴的長さを発見しました。

おしまい Contents of this presentation will be published おしまい Contents of this presentation will be published. “Spectro-Polarimetric Observation of Ellerman Bombs” H.Watanabe et al. submitted to ApJ SPECIAL THANKS 北井礼三郎  柴田一成 岡本健太   西田圭佑    清原淳子   上野悟 萩野正興   石井貴子          (敬称略)