自殺未遂者支援 メンタルケア協議会
メンタルケア協議会の紹介 平成11年 精神科診療所の精神科医が集まって講演会を行ったのが始まり 平成11年 精神科診療所の精神科医が集まって講演会を行ったのが始まり 平成14年 NPO(特定非営利活動法人)になり、誰でも入れる組織になりました 今ではいろいろな事業をやっています H11~専門家や一般市民向けのシンポジウムや講演会 H14~東京都精神科救急医療情報センター(ひまわりの中) H16~東京夜間こころの電話相談 H22~東京自殺相談ダイヤル~こころといのちのホットライン~ H26~東京都未遂者対応連携支援事業~こころといのちのサポートネット H15~区の相談事業、精神科保健医療分野の調査研究等 はじめまして、メンタルケア協議会の西村と申します。最初に、簡単な自己紹介をいたします。 メンタルケア協議会というのは、はじめは診療所をやっている精神科医の先生達が、患者さんの地域生活を支援するための勉強会などをやっていました。 しばらくやるうちにせっかく集まったのだから、社会に役立つ事業をやっていこうと言うことになり、NPOを作りました。 今では、主に講演会やいろいろな相談、研究などをやっています。 2
東京都自殺相談ダイヤル 対象者:東京都在住・在勤・在学者 機 能:必要に応じて、関係機関への紹介や仲介をいたします 3
プレワーク1 次のケースについて、自殺のリスクはどのくらいと考えますか? 【60代女性 独居 精神科既往無し、C型肝炎】 次のケースについて、自殺のリスクはどのくらいと考えますか? 【60代女性 独居 精神科既往無し、C型肝炎】 ・1年前に夫が急死し、娘が結婚して一人暮らしに。 ・夫は再婚で、前妻が財産を全部持って行った。体が悪くてパートしかできず、貯金もわずかしかない。 ・本日、娘に残してやれる財産が無いことを申し訳ない、せめて保険金を残したいと遺書を書き、リストカット。 数針縫ったが帰宅可能。心配なので一泊させた。 ・娘が病院に来て、「気にしないで。自分は結婚して幸せに生活している」と言い、数日は母の家に泊まると。 ・対象者は、黙って娘と一緒に帰って行った。
病院に求められる対応 ゲートキーパー活動 見守る 声をかける アセスメント つなげる 身体生命の安全を図る、再企図防止、様子を見る 傾聴しながら、少しずつ、さりげなく、頻繁に アセスメント さりげなく自殺企図の原因を把握し、中期的な再企図の可能性を測り、必要な支援を考える つなげる 精神科医療、生活支援、問題解決機関へ、確実に ゲートキーパー活動
セッション1 自殺未遂者と向き合う
ワーク1 これまでに体験された、自殺企図や自傷行為で来院された患者様(体験がなければ聞いたことなどでも構いません)について、次のことを思い起こして下さい(1分) ・その時の患者さんの言動 ・その時のあなたの感情 簡単に自己紹介して、思い出したことを話してみてください(1分×6人) お互いの体験を聞いて、感じたことを意見交換してみて下さい(10分) グループの一人が発表(1分×4G)
自殺未遂後の患者の気持ち (困惑)助かったけど、問題は解決していない。逃げたかった現実に戻ってきてしまった。 (羞恥心)恥ずかしい。みじめだ。どんな顔してみんなに会えば良いのだろう。 (恐怖)「馬鹿なことをやって、迷惑をかけて」と叱責されるのでは。嫌われているかも。 (疑い)気を引こうとわざとやったと思われているのでは?本気だったことを知らしめたい。 (敵意)結局、誰も私の辛さなんて理解してくれない。
未遂者とスタッフのすれ違い 感情のすれ違い、接点がなくなる (未遂者)明るく振る舞う、もう大丈夫、 感謝を述べる 感謝を述べる (スタッフ)大丈夫と思いたい 突っ込んだ話を聞きにくい (未遂者)申し訳ない、話しにくい 感情のすれ違い、接点がなくなる
未遂者とスタッフの感情の悪循環 相互に陰性感情が高まる (未遂者)無愛想、不機嫌、無表情 (スタッフ)不快感、困惑、やりがいの無さ (未遂者)不満、不信感、疎外感 相互に陰性感情が高まる
ワーク2 自殺企図後、希死念慮が続いているかもしれないけれど、黙って何も話さない患者さんに どのような言葉をかけますか? どんなことに気を付けますか? 自分の経験や、思いつくことを書き出してみる (2分) グループで出し合う(12分) 印象に残ったことを発表(1分×4G)
休憩 10分間
セッション2 自殺企図にいたるプロセスを理解する
プレワーク2 次のケースについて、自殺のリスクはどのくらいと考えますか? ①【30代男性 独居 診断名:発達障害、うつ状態】 次のケースについて、自殺のリスクはどのくらいと考えますか? ①【30代男性 独居 診断名:発達障害、うつ状態】 大企業休職してもうすぐ二年、復職期限が迫っている。リワークのデイケアに通っているが、ちょっとした失敗に対して、若いスタッフからバカにされた、悔しい。 ②【20代女性 家族同居 診断名:産後うつ】 出産後、産後うつと診断され、3年の育児休暇を取った。もうすぐ復職するが、復職してもうまくいくか心配。両親・夫・子ども家庭支援センターも協力してくれているが、自分では家事も満足にできてない。
自殺企図直前の気持ちや行動Behavioral and Psychological Sings of Attempting Suicide(BPSAS) 気づけないと自殺防止は難しい!
事例-A 男性、22才、大学生 統合失調症で2年留年し、復学を目前にした3月末に、受診した帰路にビルの外階段から飛び降りた。
事例(続き) 振り返って見た。何を見落としていたのだろう? 「いつもと違う、呆としている、曖昧、唐突」がサインだったのだと気付いた。 いつもと違っていた。表情や応答が、呆として、曖昧で、心此処にあらずであった。 診察が終わる寸前に「やはり大学は卒業した方が良いですよね」と聞いてきた。それまでの話しの流れからは唐突だった。 「いつもと違う、呆としている、曖昧、唐突」がサインだったのだと気付いた。 この事例の後、受け持ち患者さんに自殺されることが顕著に少なくなった。
自殺企図直前の行動や気持ち(BPSAS) 特徴的な在りよう。 混乱 追い詰められ感・視野狭窄・衝動性 焦燥感 抑うつ感や苦悶感 奇妙さや不自然さ 疎通不良、まとまりのなさ、反応の鈍さ “いつもと違う” 企図直前に希死念慮を“明瞭に”述べている例は少ない。
BPSASは変わりやすい BPSASはほぐれやすい BPSASは、しばしば、1日の内でも変動を繰り返す 倒産の直後、債権者から厳しく責め立てられていた時、携帯電話が鳴って、自分がビルの屋上にいることに気付いた。あの時に携帯電話が鳴らなかったら自分はビルから飛び降りていただろうと今でも思う。
BPSASから自殺企図へ踏み出しやすくする要因 不眠、疲労の蓄積 飲酒、過量服薬 “死ぬこと”についてのリアリティ欠如 「死んで星になる」 自殺の報道 有名人の自殺のニュースの後に起きる「群発自殺」 自殺の名所 富士の樹海、南紀白浜三段壁、東尋坊に行く。
人はどのようにしてBPSASに陥るのだろう 3つのプロセスのどれかを辿っている ①悪循環(生活状況と精神状態の) 例;(対人緊張強い) → リストラ → 自暴自棄 → 家族不和 →うつ状態 → 縊死自殺 ②精神状態の揺らぎ 例;叱責、虐め、別れ話、ガン診断 → 間もなくして縊死 ③精神症状 例;幻聴に”命じられた” → 割腹 ; 強い抑うつ気分・苦悶感 → 縊死
精神疾患を持っている人は揺らぎやすい 統合失調症を持っている人の場合 精神疾患を持っている人は揺らぎやすい 統合失調症を持っている人の場合 高い頻度で“揺らいで”いる! 1ヶ月の間でも2割の人が死にたいと思っている。 ←脆弱性など統合失調症の病理が関係
自殺リスクアセスメントと リスクに応じた支援 セッション3 自殺リスクアセスメントと リスクに応じた支援
自殺リスクのアセスメント 本人の様子をチェック 背景事情をチェック 本人の対応能力・周囲の支援力をチェック → 自殺リスクを総合的に判断 → 自殺リスクを総合的に判断 ★低く見積もる場合が多い。 迷ったら高めに判断
BPSASに陥っているかもしれない時 リスクが(切迫 高 中)の時 訴えを受け止めながら・・・ 確実に保護する。保護困難なら応援依頼。警察依頼も。 ③ BPSASを“やり過ごす”対策、“ほぐす”対策 寄り添い、干渉し、時間を稼ぎして、“やり過させる” 頻回にちょっとした声掛けして、“ほぐす” ④ BPSASから自殺企図への閾値を下げる要因の除去 睡眠確保、過重労働対策、アルコール・薬物乱用防止など ⑤ BPSASに至ったプロセスに応じて必要な支援に確実に繋ぐ
BPSASに陥っていない判断された時 リスクが(中 低)の時 訴えを受け止めながら・・・ プロセスの進行を止めるために必要な支援に確実に繋げる リスクが高ければ対応を急ぐ リスクの高さを見落としているかもしれない可能性(危険性)を考えて対策を打つ 頻回に、さりげなく声掛けする。 声掛けは一石五鳥(見守り、受け止め、孤独にしない、リスク再評価、見落とし防止)
プロセスに応じた支援 悪循環 → 小さな希望と心理的支援 → 精神科医療と生活支援 精神症状 → とにかく精神科医療 精神状態の揺らぎ → 気持ちを受け止め興奮を鎮める 興奮をエスカレートさせない →必要なら精神科医療
未遂者の再企図リスクアセスメント 本人の状態;未遂者の状態は変わりやすいので、頻回にチェック ● 何事もなかったように淡々としていることが多い。 ● 不機嫌であったり、ひねくれていたりすることがある。 ● 憑きものが落ちたようにひどく明るいことがある。 ● 家族の面会時や、退院目前で、暗転することがある。 背景事情;企図したことで、状況が悪化していないかチェック ● 身体損傷が重大、精神状態の悪化、損害賠償を請求される、など ● 自殺未遂している間に、生活状況が悪化する 本人の対応能力、周囲の支援力;低下していないかチェック ● 身体損傷などで、本人の対応能力が低下しがち ● 負担感や偏見から、周囲の者の支援力が低下しがち ● 本人の態度が“悪い”ために、周囲が関わりを嫌がる 人は同じ失敗を繰り返す ● 今回の企図と同じプロセスが、再び繰り返されることが多い。 → リスクは高めに評価した方が良い!
ワーク3 次に示す自殺企図事例の患者さんについて、リスクアセスメントをするのに必要な情報を考えて下さい。(10分) ・本人に聞くこと→何をどんなふうに聞く? ・関係者に聞くこと→何を誰に聞く? グループの一人が発表(1分×4G) みなさんが必要と考えた情報をお知らせします(3分) 得られた情報から、次の事を考えてください。 ・リスクアセスメントと自殺のプロセスの種類 ・院内での支援 (10分) グループの一人が、決定したリスク、プロセスの種類、院内での支援を発表(1分×4G)
ワーク3事例 男性 27歳 病名不明 会社員休職中 (企図手段)自宅近くの駅のホームから 飛び込み。電車が止まり、肩の打撲で済 んだ。 男性 27歳 病名不明 会社員休職中 (企図手段)自宅近くの駅のホームから 飛び込み。電車が止まり、肩の打撲で済 んだ。 (自殺企図の背景)1年前から「仕事を邪 魔されてできない」ふさぎ込み、休職。 企図当日は「周囲の人が、みんな責めて くる」と、家族に辛さを訴えていた。
組織的な対応が必要 スタッフそれぞれが、バラバラに対応するのではなく、組織的に対応するのが良い さりげない声掛けは、全員が行うのが良い 深い話をする人は、絞り込んだ方が良い 担当スタッフに情報を集約した方が良い 精神科専門職から助言を受けて、担当スタッフや責任者が対応方針を決める スタッフで、対応方針を共有する
セッション3 必要な機関へつなぐ
ワーク3-② ワーク3の事例について、得られた情報などから、次の事を考えてください。 ・退院させるにあたって必要な支援 (12分) ・退院させるにあたって必要な支援 (12分) グループの一人が、必要な支援を発表(1分×4G)
★家族以外には、本人に断ってから情報提供する つなぐ先の支援機関 (まずは) 家族、現在の支援者、精神科主治医 (精神科治療) 精神科病院、精神科診療所、総合病院精神科 (精神相談、家族調整、マネジメント) 保健所、保健センター、市町村の障害福祉課等 (生活費、金銭管理) 福祉事務所、社会福祉協議会 (その他) 介護保険対象者であれば「地域包括支援センター」、 ひとり親や子育ての問題があれば「子ども家庭支援セン ター」、18歳未満なら「児童相談所」「学校・SC」 ★家族以外には、本人に断ってから情報提供する
精神科へのつなぎ方のポイント 特定の医療機関を指定して紹介する できれば、自殺未遂について理解のある精神科医、基にある疾患への対応可能な所 ★心あたりがなければ、紹介機関を利用 紹介状だけでなく、電話で紹介先医療機関へ一報入れる 連絡取ってあること、可能であれば担当者名まで患者に伝える うまくいかなければ、再度相談してほしいと患者に伝えておく 受診した結果を先方の医療機関に問い合わせたいと、事前に本人に了解貰っておいて、紹介した医療機関に受診結果の確認を取る
自殺未遂者支援事業依頼内容と対応 対応内容 依頼内容 H26年7/11~H27年12/31 342ケース 786対応 342ケース 786対応 医療者をはじめとする相談者は、精神科入院に繋げればよいと考えてしまいがち 対応内容 依頼内容
精神科医療への期待と実際 希死念慮のある相談者の多くは精神科通院中 ⇔ 死にたいくらい悩むと、精神科に助けを求める 自殺未遂者や希死念慮ある人に対応できないと ⇒ 精神科病院へ入院させたいと考える しかし、実際には・・・ 精神科医療だけでは 解決難しいケースが多い ⇒ 併せて、保健所やその他の支援機関へも繋ぐこと検討
サポートネット ケース対応の類型 精神科入院治療が明らかに必要で、入院先の選定を行うケース 精神科医のコンサルテーションを行い、依頼元での支援を続けられるケース 精神科治療だけでは解決せず、退院後の支援機関仲介、家族調整などを行うケース 生活上の問題を抱えており、解決のための支援機関へ仲介するケース 生き方や考え方の問題が大きいため、恒常的な相談先や支援の輪ができるまで支えるケース
関係機関へのつなぎ方のポイント つなぐ目的、対応してもらいたいことを明確にし、できるだけ的確な機関を選択 電話で担当者に連絡を取り、対応可能かどうかを確認する ★本人の了解がないうちは、個人情報を伝えるのは控える 本人と話し合い、具体的に相談する日時の約束まで取り付け、担当者名まで伝える できれば、相談してどうだったか、報告をもらう しっかりつながないと → つなぎ先機関は、何をしてよいかわからない → 本人は、たらい回しされた感、不信感募る
「東京都こころといのちのサポートネット」 の活用 多忙な中で、救急病院に出来ることは? 少数のケースに取り組んでみて、病院 独自のノウハウを確立する 普段から地域ネットワーク作りの努力 ケースワークを手伝ってくれる機関を 活用する 「東京都こころといのちのサポートネット」 の活用
大変お疲れ様でした