DPFのマスモジュールにおける残留ガス雑音の研究IV

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DPFのマスモジュールにおける残留ガス雑音の研究IV 東京大学理学系研究科 物理学専攻坪野研究室 発表者:岡田健志 共同研究者: 麻生洋一, 坪野公夫, 石徹白晃治, 安東正樹

概要 背景 Squeeze film dampingの研究  背景 ・ DPFにおいてテストマスと静電アクチュエータとのギャップが狭い ため残留ガス雑音が増大(Squeeze film damping) → Monte CarloシミュレーションによるとDPFの現デザインでは Squeeze film    damping による雑音が問題となる可能性がある ・ Squeeze film dampingは静電アクチュエータに穴をあけることで 低減する見込み  Squeeze film dampingの研究 目的: ・ Monte Carlo シミュレーションの結果が実験値と合うか検証 ・ DPFの静電アクチュエータに穴をあけることでSqueeze film damping  の効果の低減が可能か検証 方法: ねじれ振り子を用いてダンピング測定 今回は壁(静電アクチュエーターの代わり)に穴がある場合とない場合でSqueeze film dampingの効果を比較した

DPFにおける残留ガス雑音 テストマス: 50 mm角の立方体 ギャップの大きさ: 静電アクチュエータ – テストマス: 1 mm *大きさは変更されることがあります DPFマスモジュールの概略図 通常の残留ガスによる加速度雑音 : 8.6 × 10 -16 [m/s2/Hz1/2] Monte Carlo シミュレーションではSqueeze film damping により 残留ガス雑音が通常より一桁程度大きくなると計算された → 対策として静電アクチュエータの形状を工夫し 残留ガス雑音を低減したい

Squeeze film damping とは テストマスが壁に近づく場合を考える この部分の 圧力上昇 拡散 テストマスの移動が速いほど圧力上昇 が大きい 速度に比例した力 → ダンピング力 特徴 分子の移動が間に合わないほど高周波では ダンピングが効かなくなる → カットオフ周波数をもつ Monte calro シュミレーションによって計算された DPFにおけるSqueeze film damping の雑音(from 麻生氏)

Squeeze film damping の測定 Squeeze file damping の効果はカットオフ周波数以下(wτ<<1) では散逸項bsqueezeに、以上(wτ>>1)ではばね定数κsqueezeに現れる DPFの測定帯域は十分低周波なのでカットオフ周波数以下 で考えてよい : 振り子の回転 : 拡散時間 : 振り子の腕の長さ (分子がギャップから抜け出る のにかかる時間スケール) わかりづらい : テストマスと壁との距離 テストマスにかかる雑音スペクトルは揺動散逸定理より となる

実験とシミュレーションの比較 Q ∝1/ b squeeze なのでダンピング測定によりQ値を求め、 モンテカルロシミュレーション 換算して比較 Q値 力の雑音の時系列データ Q ∝1/ b squeeze b squeeze フーリエ変換 揺動散逸定理 Squeeze film dampingによる 力の雑音のスペクトル Q ∝1/ b squeeze なのでダンピング測定によりQ値を求め、 その距離依存性からSqueeze film dampingの効果を確認する わかりづらい 実験で得られたQ値をシミュレーションで得られたS squeezeをQ値に換算したもの と比較し、モンテカルロシミュレーションの結果が正しいか検証する

壁 さらに壁に穴がある場合とない場合で比較する 通常の壁 くし形の壁 テストマス-壁 間の気体が逃げる経路を 確保 テストマスと壁の 向かい合う面は鏡面加工 壁に細長い穴 (幅、間隔ともに2mm) テストマス-壁 間の気体が逃げる経路を 確保 上から見た図 写真 絵にする 壁 テストマス ガス粒子 → Squeeze film damping の効果が低減 することを期待

モンテカルロシミュレーション(1) ・ 時刻0に分子をランダムに配置し、Maxwell-Boltzmann分布に従った初速度を与える ・ 単位時間ごとに分子衝突によってテストマスに与えられる力を記録し  雑音力の時系列データを得る ・ これをフーリエ変換しスペクトルを求める シミュレーションにおける分子の飛跡 通常の壁 櫛形の壁 Matt evans シミュレーションコードはMatt Evansより

モンテカルロシミュレーション(2) テストマスに与えられた雑音のスペクトル 例 通常の壁で距離が1 mm, 1.5 mm, 2 mm の場合 分子: H2O 分子の数: 1000 圧力: 6.0×10-2 Pa テストマス: 30mm ×35mm ×10mm の直方体 距離大きく これをQ値に換算し実測値と比較する

実験セットアップ テストマス プレートの大きさ: 30 mm×35 mm×10 mm 慣性モーメント: 7.5 ×10 - 4 kg m2 材質: アルミ ・ ドーナツ型磁石(二つ)と銅の円盤で マグネットダンピング → テストマスの並進のゆれを低減 ・ 光てことPSDで回転の読み取り ・ ドライポンプ、ターボ分子ポンプ → 約 10 -4 Pa まで到達可能 ・ 真空計: クリスタルイオンゲージ

測定方法 テストマスの回転→光てこ(PSD) テストマスの並進運動→フォトセンサー(PS1) で測定 自動並進ステージで壁-テストマス間の 自動回転ステージ テストマスの回転→光てこ(PSD) テストマスの並進運動→フォトセンサー(PS1)  で測定 自動並進ステージで壁-テストマス間の 距離を変えて測定 PSD テストマス PS2 → 壁-テストマス間の距離と回転のQ値 の依存性を調べる PS1 壁 遠すぎる → Squeeze film dampingの効果         が小さくなる 近すぎる → 誤差の寄与が大きくなる 自動並進ステージ 距離1mm程度で測定

圧力 平均自由行程 50 m以上 → 6×10- 2 Pa 以下 6×10- 2 Pa 程度で測定 バタフライバルブ 排気口をふさぐ円盤の角度を調節 →チャンバー内の圧力を調整 分子どうしの衝突を無視するには 平均自由行程 >> ギャップのスケール が必要 ギャップの大きさ:35mm×30mm×10 mm 平均自由行程 50 m以上 → 6×10- 2 Pa 以下 DPFにおける圧力は10-6 Pa (平均自由行程 数 km) 逆に圧力が低過ぎるとSqueeze film damping の効果が見えづらくなる 真空チャンバー 6×10- 2 Pa 程度で測定

測定データ Q=251 PSDで読み取ったねじれ振り子の回転 振幅の時系列データをプロットし 対数でフィッティング 例: 通常の壁 距離 1.3mm 圧力 6.0 × 10-2 Pa

測定結果 測定されたQ値とモンテカルロシミュレーションとの比較 ただし測定ごとに圧力の違いがあるため1 /QPをプロット 1 mm 2 mm 赤:測定データ(通常の壁) 黄:モンテカルロシミュレーション (通常の壁) 青:測定データ(くし型の壁) 緑:モンテカルロシミュレーション (くし型の壁) エラーバーは主にテストマスの 回転振動による距離の不定性

まとめ DPFにおいて狭いギャップで残留ガス雑音が大きくなる Squeeze film damping の効果が問題となる可能性があり、ねじれ振り子でこの効果を測定した Squeeze film damping の効果自体はみえている可能性が高いが シミュレーションとの違いがみられている 実験でもシミュレーションでも壁に穴がある場合で低減しており、 DPFで静電センサをくし型にすることでSqueeze film dampingの効果 をある程度低減できることは期待できそう シミュレーションとのずれの解明 今後の課題 測定誤差を低減し、くし型の場合での違いを より精密に測定する

おまけ エアコンoff 最近になってエアコンを切るとまともなデータが 取れるようになった おわり

Squeeze film damping の導出 テストマスと壁との間の気体の圧力変化 : 平衡時の圧力 : 圧力上昇 拡散 による効果 体積変化 による効果 : 面積 : テストマスの質量 テストマスにかかる力は : 拡散時間 (分子がギャップから抜け出る のにかかる時間スケール) これより 散逸項 ばね定数 いらん Squeeze file damping の効果はカットオフ周波数以下(wτ<<1) では散逸項bsqueezeに、以上(wτ>>1)ではばね定数κsqueezeに現れる。

測定結果 Q=309 Q=251 測定されたQ値とモンテカルロシミュレーションとの比較 6.2 × 10-2 Pa 1 mm 2 mm 赤:測定データ(通常の壁) 青:測定データ(くし型の壁) 黄:モンテカルロシミュレーション (通常の壁) 緑:モンテカルロシミュレーション (くし型の壁) Q=251 6.0 × 10-2 Pa エラーバーは主にテストマスの 振動による距離の不定性 Q値の距離依存性が見えているので Squeeze film damping の効果は 見えていると考えられる しかし測定データがシミュレーション結果と大きさが一致していない