分子軌道理論(Molecular Orbital theory, MO理論) 有機化学2(高須)2016.12.2 ① 分子軌道理論(Molecular Orbital theory, MO理論) ブルース上巻 25ページ参照 化学結合は原子同士が電子を共有し合うことで形成される。 共有結合は原子軌道が結合して、分子軌道を形成することに起因する。 分子軌道(MO)は、電子の存在する確率の高い、分子の周りの空間を意味する。 分子軌道には、特定の大きさがあり、形、エネルギーを持っている。 素粒子は、「質量」「電荷」をもつという性質やそれに起因するエネルギーを持つ一方(有機電子論)、「波」としての性質とエネルギーをもつ(有機軌道論、量子化学)。 「分子軌道」の概念を使って、初めて理解できる化学が存在する。 2つの原子軌道の重なり(電子の共有)から、2つの分子軌道が生じる。 結合性分子軌道、反結合性分子軌道
② H2の分子軌道 Hの1s軌道(原子軌道)同士が 反結合性軌道 相互作用して、2つの分子軌道 を作る。 2つの電子は、エネルギー的に安定な 結合性軌道に収納される。 軌道には「波」の性質がある。軌道の 色は、波動としての位相を示す。 結合性軌道
③ エテンのπ結合の分子軌道 ブルース上巻 408ページ参照 多原子分子において、全ての分子軌道を考えることは到底困難であり、面倒である。 ブルース上巻 408ページ参照 多原子分子において、全ての分子軌道を考えることは到底困難であり、面倒である。 対象としたい結合のみを切り取って考えることも可能である(若干、近似的要素あり)。 エテン(エチレン)のπ結合を例にとって考えよう。 節(node):位相0の面(点) エネルギー 2つの原子軌道が干渉し合った結果、2つの周期(波長)の違う分子軌道が生じる。 反結合性軌道 Π*分子軌道 (Ψ2) 炭素原子の p軌道(φ1) 炭素原子の p軌道(φ1) エネルギーの低い分子軌道(Ψ1) を結合性軌道(bonding orbital)と呼び、2つの電子が収容される。 エネルギーの高い分子軌道(Ψ2)を反結合性軌道(non-bonding orbital)と呼び、通常は電子が収容されない π分子軌道 (Ψ1) 結合性軌道
④ ブタジエンのπ結合の分子軌道 ブルース上巻 409ページ参照 1,3-ブタジエンには4つのπ電子があり、4つの炭素上に非局在化している。 ブルース上巻 409ページ参照 1,3-ブタジエンには4つのπ電子があり、4つの炭素上に非局在化している。 Π*分子軌道(Ψ4) 4つの原子軌道が干渉し合った結果、4つの分子軌道が生じる。 エネルギー準位の低い分子軌道から順に電子が2個ずつ収容される。 エネルギー 2つの反結合性軌道 Π*分子軌道(Ψ3) π分子軌道(Ψ2) それぞれの分子軌道の位相に 注目すると、エネルギーの低い 分子軌道から順に節の数が 0,1,2,3となっている。 また、分子軌道の波の形・色は、 対称または反対称になっている。 炭素原子の 4つのp軌道(φ1) 2つの結合性軌道 π分子軌道(Ψ1) のような軌道はない
⑤ ブタジエンの分子軌道 2つのエテンの相互作用で生じるとも考えられる。 練習問題 1,3,5-ヘキサトリエンの分子軌道を 考えてみよう。 エネルギー 1,3,5-ヘキサトリエンの分子軌道を 考えてみよう。 ヒント:π結合に関わる原子はいくつある? π電子はいくつある? アリルアニオン、アリルカチオンの 分子軌道を考えてみよう。 現時点では、「このようにも考える ことができる」程度でよい。
⑥ ヘキサトリエン アリルアニオン (π電子4、 原子数3) π電子6個 アリルカチオン (π電子2、 原子数3) 原子数6 Π*分子軌道(Ψ6) Π*分子軌道(Ψ3) π分子軌道(Ψ2) Π*分子軌道(Ψ5) π分子軌道(Ψ1) Π*分子軌道(Ψ4) π電子6個 π分子軌道(Ψ3) アリルカチオン (π電子2、 原子数3) Π*分子軌道(Ψ3) π分子軌道(Ψ2) Π*分子軌道(Ψ3) π分子軌道(Ψ1) π分子軌道(Ψ1) 原子数6
フロンティア軌道(Frontier Molecular Orbital, FMO) ⑦ 多原子分子において、全ての分子軌道を考えることは到底困難であり、面倒である。 そこで、電子の詰まった電子の詰まった軌道の中でもっともエネルギーの高い軌道(古典的に言えば,電子の入った軌道のうち,原子核から最も遠い軌道)と,エネルギー的にそのすぐ上に位置する空軌道のことである.一般には,HOMO, LUMOの略号が使用される. エネルギー Π*分子軌道(Ψ4) LUMO π*分子軌道(Ψ2) Π*分子軌道(Ψ3) LUMO π分子軌道(Ψ2) HOMO HOMO π分子軌道(Ψ1) π分子軌道(Ψ1)
HOMO: Highest Occupied Molecular Orbital 最高被占軌道 ⑧ HOMO: Highest Occupied Molecular Orbital 最高被占軌道 他の分子等にπ結合から電子を与えるときに、移動する電子が 収容されている軌道のこと。 電子richなπ電子が反応する時に関与する。 LUMO: Lowest Unoccupied Molecular Orbital 最低空軌道 他の分子等から電子がπ結合に与えられるときに、移動してくる電子が 収容される軌道のこと。 電子不足なπ電子が反応する時に関与する。