「周産期母子医療センターネットワーク」による フォローアップ・介入による改善・向上に関する研究

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© 日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法委員会 日本版新生児蘇生法ガイドライ ン 2015 改正点のポイント 日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法委員会.
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Presentation transcript:

「周産期母子医療センターネットワーク」による フォローアップ・介入による改善・向上に関する研究 平成20年度厚生労働科学研究費補助金 (子ども家庭総合研究事業) 「周産期母子医療センターネットワーク」による 医療の質の評価と フォローアップ・介入による改善・向上に関する研究 (第2年度)   主任研究者 藤村正哲 大阪府立母子保健総合医療センター 分担研究者 楠田 聡 東京女子医科大学 河野 由美 自治医科大学 田村 正徳 埼玉医科大学総合医療センター 上谷 良行 兵庫県立こども病院 板橋 家頭夫 昭和大学医学部

班研究の概要

「新生児集中治療の質」の現在的課題 周産期医療センターにおける 藤村班 1.アウトカムのいっそうの改善    アウトカムをどのようにして明示するか? →死亡率・罹病率と成長・発達予後 2.施設間格差、地域格差の是正   格差をどのようにして明示するか? →アウトカムと臨床指標のベンチマーク 3.施設別アウトカムの改善 何に介入するか? →アウトカムを規定する臨床指標の解明 4.EBMの実践   EBMをどのようにして開発するか? →多施設臨床比較試験の実施 →国際情報発信能力の向上 5.そのための研究・臨床実践インフラとしての   NICUネットワークの運営 藤村班

藤村班 総合周産期母子医療センターネットワーク研究班 東京都 全75NICUが参加 (2008年10月現在) 沖縄

周産期ネットワーク・データベース 参加施設数および登録数(≦1500g)の推移 楠田班 3500 3000 2500 2000 1500 70 3500 施設数 60 3000 登録数 50 2500 施設数(箇所) 40 2000 登録数(人) 30 1500 20 1000 2003年から始めたネットワークデータベースは年毎に拡大し、2006年出生児は年間3000例以上を収集できる状態となった。参加施設としては、県全体で参加し、総合周産期母子医療センターのデータも含まれるようになった。 10 500 (年) 2003 2004 2005 2006

症例データベースの解析 比較可能なデータの集積 症例データベースの解析 比較可能なデータの集積

1500g未満の低出生体重児 死亡率には施設間格差がある=改善の余地 楠田班 (林) 調節した死亡の危険率 ±1.4SD 成績のいい施設 成績のいい施設  成績の悪い施設  調節因子;出生体重、在胎期間、多胎、母体合併症、性別、先天異常、院外出生 マルチレベル分析 (林)

楠田班 死亡率ランクは疾患罹患率と比例する 死亡率ランク (加部) 総合周産期母子医療センターネットワーク研究班

米国カリフォルニア州(127 NICUs) データベースとの比較(2005) 国際比較が可能 California Perinatal Quality Care Collaboration (加部)

米国NICHD*network (18 NICUs) データベースとの比較 国際比較が可能 *National Institute for Child Health and Human Development -------------------------------------------------------------------------------------- NICHD   日本 ----------------------------------------------------------------------- 年 1997~2002 2003~2006 対象の出生体重 501-1500g 1500g以下 登録数(人) 18,153 11,183 平均出生体重(g) 1033±289 1031±303 死亡退院率(%) 15.1 10.0 ------------------------------------------------------------- 症例が蓄積されたため、米国のNICHDのデータベースとも比較が可能となった。

米国NICHD*network(18 NICUs) データベースとの比較 合併症(≦1500g) 楠田班 100 90 80 日本 総合周産期母子 70 60 (%) 50 40 米国 NICHD 30 米国のデータの比較では、我が国の児の方が死亡率が低いのみでなく、合併症の頻度も低かった。 20 10 脳室内出血 重症脳室内出血 脳室周囲 白質軟化 壊死性腸炎 敗血症

≦1500gの発達予後 アウトカムを知る

三科・河野班 しかし、総合周産期センターの指定施設数は増加しており、現在75施設に至っている。統一プロトコールでフォローアップ実施可能な施設の割合でみると2008年と2009年では65%前後でほぼ同率であった。新規に総合に指定された施設ではNICUでの人手確保も不十分なことが多く、フォローアップ体制を確立するためには、十分な人的、経済的バックアップが必要である。

三科・河野班 脳性麻痺(CP)の合併率  (2003年出生の3歳児) 3歳生存数:NICU生存退院+フォロー時生存

三科・河野班 DQ<70(発達遅滞)の割合 (新版K式発達検査、2003年出生の3歳児) 3歳生存数:NICU生存退院+フォロー時生存

視覚・聴覚障害の合併率 三科・河野班 (2003年出生の3歳児) n 合併率 両眼失明 5 0.3 0.6 片眼失明 7 0.4 0.8 対出生登録 (%) 対3歳フォロー(%) 両眼失明 5 0.3 0.6 片眼失明 7 0.4 0.8 弱視 24 1.4 2.7 その他 55 3.3 6.1 全国ELBW 3歳予後の両眼失明 の頻度(上谷班) n 合併率 対出生登録 (%) 対 3歳フォロー 聴覚異常あり 5 0.8 0.6 全国ELBW 3歳予後の聴覚障害 の頻度(上谷班) 2.4

介入と改善(1) 周産期因子と極低出生体重児のアウトカム 多変量解析 介入と改善(1) 周産期因子と極低出生体重児のアウトカム 多変量解析 森 臨太郎 (大阪府立母子保健総合医療センター) 楠田 聡 河野由美

森、楠田、河野

森、楠田、河野

森、楠田、河野

結果から分かること 森、楠田、河野 この施設に入院した極低出生体重児の死亡危険度は重症度を加味しても、その他の施設に比べて約50%低い その低い理由は強い順番に 中心静脈栄養の使用 蘇生技術(5分後アプガースコア) 母体ステロイド投与 敗血症予防 新生児痙攣予防 一方でこの施設において頻度が全国平均より13%多い脳室内出血および50%多い肺出血の影響による死亡危険度の相対的上昇を認めており、これを手掛かりに診療カイゼンを試みることでさらにアウトカム向上も可能か 欠損値により検討できない項目もあり、重要課題

介入と改善(2) 個別施設による交絡因子の ベンチマーク 介入と改善(2) 個別施設による交絡因子の ベンチマーク

A病院の分娩様式 -<1500g経膣分娩の割合- 2003年 43% 2005年 20%

A病院と 施設別死亡率(補正済) 2003年 2005年 27% (2004年 77例 死亡率 16%) 8% (37施設 2145症例) (37施設 2145症例) (2004年 77例 死亡率 16%) 2005年 (59施設 3002症例) 施設別死亡率はワースト1でした。 在胎期間、出生体重で補正した死亡率はワースト5位でした。 8%

介入と改善(3) 多施設共同ランダム化比較試験 による介入 Neonatal Research Network Japan 低用量インドメタシンによる超低出生体重児の脳室内出血予防試験 (2000-2007)

718 選択基準に合致 601 469 235 インドメタシン群 234 プラセボ群 191 187 平野、藤村 718 選択基準に合致 50 : 除外 67 : 試験参加の呼びかけをせず 601 層別化因子 施設   在胎期間 性別 院内出生 / 院外出生 アプガースコア1分 132 : 同意得られず 469 235 インドメタシン群 234 プラセボ群 登録症例の流れを示します。 718例が選択基準に合致し、そのうち469例がランダムに割付けられ、 インドメタシン群は235例、プラセボ群は234例でした。 その後インドメタシン群で22例、プラセボ群で29例が死亡し、 フォローアップデータが得られたのはそれぞれ191例、187例で、各施設にて脳性麻痺の評価がなされました。 フォローアップ率は90.4%でした。 死亡 : 22 Drop out、データなし : 22 死亡 : 29 Drop out、 データなし : 18 3歳フォロー率 191 378 / 418 (90.4%) 187

出生体重群別 “CP or 死亡” 平野、藤村 “IVH 3 or 4” 出生体重(g) N= 49 314 106 出生体重群別  N= 49 314 106 “CP or 死亡” “IVH 3 or 4” 今の結果をグラフで示したものですが、 出生体重400−599gのグループでは、インドメタシン群は脳性麻痺あるいは死亡を減少させています。 このグループにおいては重症脳室内出血もインドメタシン群において有意に減少させています。 つまり400−599gのグループにおいてインドメタシンの重症脳室内出血の減少は脳性麻痺の減少に反映したと考えられました。 出生体重(g) 第35回 小児臨床薬理学会  2008.12.6

(森)

介入と改善(4) 新生児蘇生法講習会

田村班 日本周産期・新生児医学会認定 新生児蘇生法講習会インストラクター養成数   2008年12月末現在 812 名

田村班 新生児蘇生法講習会開催件数/月別 2007年7月期~2008年12月期

板橋班 在胎期間別出生時体格基準値の作成

板橋班 2003-05年出生児の体重分布(男児体重) 90p 50p 10p 2003-2005年出生 初産 小川ら 経産

板橋班 男児出生体重 -経膣 v.s 帝王切開- 90パーセンタイル 中央値 10パーセンタイル 黒:経膣 橙:帝切 実線:初産 点線:経産

新旧在胎期間別出生時体格基準値 板橋班 男児(初産) 実線:2003-2005(経膣分娩) 90パーセンタイル 点線:小川ら 50パーセンタイル 10パーセンタイル 出生体重(g) 在胎期間(週)

  超低出生体重児の長期予後全国調査

上谷

上谷

総合周産期母子医療センターネットワークの展望 藤村班 総合周産期母子医療センターネットワークの展望 参加施設は提示された課題に共感し・役割を遂行する意欲と実績を示しつつある NICU入院患者データベースは、施設のアウトカム指標(合併症、生命予後、発達予後等)を比較可能な形で表現できる。 NICU入院患者データベースは、アウトカムに関わる臨床因子の解析を可能とする。 エンドポイントとしてのアウトカム指標を規定する特異的な臨床的交絡因子を示すことにより、施設独自の改善課題を定量的に示し介入根拠を与えることができる。 フォローアップ体制の向上に関する努力は成果を示している。 コメディカルへの蘇生技術の普及事業が成功している。