寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp

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寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp Twitter: @aterao 日本教育心理学会第56回総会 自主シンポジウムJF02 数学教育における言語活動の意味 指定討論 寺尾 敦 青山学院大学社会情報学部 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp Twitter: @aterao

自己紹介 関心領域:数学教育 バックグラウンド:認知科学,教育心理学,教育工学,脳科学 使える道具は何でも使うが(認知モデリング[ACT-R],心理学実験,fMRI),近年は実践研究が主.

実は・・・ 協働とか「学びあい」とか,あんまり好きじゃないんです.数学は1人で考えたいんです. でも,そういう学習が知識獲得に効果的だということは認めます.これを研究することは重要だと考えます.

犬塚さんの話を聞いて思ったこと 証明に必要な知識とは何かということに,もっと注意を払ってもよかったのでは. 最終的な証明は論理の連鎖だが,最初に構成されるべきは,いくつかのステップをとばした abstract planning (Koedinger & Anderson, 1990 Cognitive Science)である.細部を後でうめる. 証明のスキルを獲得するという点では,生徒相互の議論と,数学者への説明(完全な証明)を考えるところは,それぞれ重要な役割がある.

犬塚さんへの質問 学習課題とテスト課題で,解決のプロセスや用いられる知識が異なる. 具体的にいろいろ調べて一般的な規則性を見つけるという証明問題は新奇性が比較的高い.大学入試では難しい問題が多い(例:’98 東大後期「入試史上最難問」). プレテストやポストテストで用いている問題は,問題スキーマを獲得し,それを利用して解決する課題.入試では,すぐに解決の方針が立つ(べき).

教室での協調的学習には,前者の(いろいろ調べる)問題が用いられることが多い. よくわからない新奇な課題をいろいろ探究することは数学者の研究に近く,「真正性」が高い. しかし,こうした学習活動は,問題スキーマの獲得と使用が期待される,典型的な証明問題への効力感につながらないのでは?

大学入試で必要な問題スキーマには,いろいろな方略的アイデアが込められている. 例題でそうしたアイデアを教えて,転移課題を協調的に学習するのではだめか? 受験参考書(『チャート式』や『大学への数学』など)の学習に類似していてつまらない? 「教えて考えさせる授業」(?)

小林さんの話を聞いて思ったこと 比例・反比例の学習で,なぜ誤概念が形成されてしまうのでしょうか? 理科での誤概念と異なり,学習の前に誤概念がすでに獲得されているというよりも,学習での理解に問題があるのでは(忘却があったとしても). 反比例で xy = a に言及している生徒 C は,いいところに気がついている.ここでは a は定数だが,a を変えたときのグラフの変化を理解することも重要だから. 高校数学では,この理解がしばしば重要になる(例:指数関数).

小林さんへの質問 どのような比例・反比例概念の獲得が目標だったのか? 説明活動での目標は妥当だったのか? 「式,表,グラフをセットで理解させるようにしてください」(寺尾が中学の教育実習で言われたこと) 事後テストでの解答を見る限り,「x が2倍3倍になると y も2倍3倍になる」という性質と,y = ax という式の関連づけが弱いような印象を持った.この性質は表での横の関係に言及しているが,式の本来の意味は縦の関係(x に ax を対応させる写像)だろう.

ついでに... 「非定型問題で測られるような,概念的理解や思考プロセスの説明力は弱い」のはその通りだが,「非定型問題」ということを強調するのは少し危険だと感じている.「典型的問題で測られる手続き的知識」を獲得するために,本来は概念的理解が必要. 「答えのない問題を解く力」も,どこかうさんくさい.「答えのある問題」も満足に解けないのに?

参考:初等統計を学習している 大学生の,式の読解方略

小田切さんの話を聞いて思ったこと 高校数学を使った研究は少ないので,どんどんやってください. 私,教育心理学での小学校算数の研究(分数,割合,密度,距離・速さ・時間,・・・)は,あんまり好きじゃないんです. 解法の比較は,深い理解を促すはず.「話し合い」の必要があるかはよくわからないが. 一般角 θ での sin θ ,cos θ の定義を意識させる課題として,センスが良いと感じました. 99 年の東大入試では,定義を直接に問うた.

小田切さんへの質問 日常的知識と数学的知識の間に,どのような関係があると考えているか? 想定する関係によって,説明活動は異なったものになるだろう. 日常的知識を洗練させたものが数学的知識であり,日常語から数学語への変換を行う? 日常から獲得した知識は誤っており,学習を通して正しい概念に置き換える? (理科での誤概念の研究) 日常的知識は正しい概念を含んでおり,それを足掛かりにして知識獲得を行う? (diSessa や Minstrel)

議論の題材はどこから来る? 問題として与えられる(犬塚さん,小田切さん) 仮想的な他者の誤り(小林さん) 盛山隆雄先生(筑波大付属小)の,導入授業での原則のひとつ:教えたいことにつながる言葉を,子どもから引き出すこと.そして,その子どもの言葉を,より数学的な表現や教えたい概念の言葉に近づけること. 「(折り紙で)広さが半分の・・・」 → 「同じ大きさに2つにわけて」 → 1/2

議論の題材がどのように与えられるか(どこから来るか)は,協働的学習活動にとって重要なのか?

とりとめもなく考えていること 数学的内容を言葉で表現することは,どのような知識構築活動なのか? 抽象的数学の理解は,純粋な論理ではない.(「東ロボくん」は純粋論理であり,人間の数学的思考研究ではないと思う). たとえば,方程式の文章題での立式は「日本語から数式への翻訳」と言われることがあるが,視空間的な情報処理も行われていると考えられる.

Consistent/more-than/intransitive problem Assignment x=A R1 B is 6 more than A. R2 C is 8 more than A. Inconsistent/less-than/transitive_n problem A is 6 less than B. B is 2 less than C. (Terao, Koedinger, Sohn, Qin, Anderson, & Carter, 2004)

関係文理解での賦活パターン Picture 条件 Equation 条件